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[658] 復活記念
日時: 2012/08/19 01:50
名前: JUN

「一週間ぶりか……」
 そう考えると、大した時間ではなかったのかもしれないが、今の碇シンジには、途方もなく長い時
間であった。久々に押すインターホンを前に、軽く深呼吸をする。
「ただいま」
「お帰りなさい!」
 扉を開くと、ぱたぱたと羽のようなスリッパの音をさせて、エプロンをつけた少女が飛び出してき
た。否、女性と呼ぶべきであろう。もうその身体には、幼なさを残していない。成熟した一人の女性
だった。それでもシンジがそう感じてしまうのは、きっと彼女がいつまでも持つ、その初々しさゆえ
だろう。
「ただいま、綾波」
玄関まで出迎えたレイを、シンジはぎゅっと抱きしめる。一週間ぶりの彼女の匂いに、シンジは瞬
間、陶然となる。レイはその細腕をシンジの首に回して、胸元に鼻先をうずめた。
「寂しかった」
「僕もだよ、綾波」
「松代、どうだった?」
「やることは一緒だよ。テスト受けて、偉い人に挨拶するだけ。これも仕事よって、ミサトさんは言
ってたけどね。でも、今日からは少し休めそうなんだ。しばらくはここにいるよ」
「嬉しい……」

 そこまで言って、ようやくレイは腕をほどいた。名残惜しさをこらえるように、レイはシンジの目
をじっと見つめる。黒曜石のような綺麗な眸は、レイの心を射止めて離さない。そんなレイを見つめ
るうち、半ば衝動的に、シンジはレイの額に優しく口づける。その甘い感覚に、レイは猫のように目
を細めた。
「ご飯、出来てる?」
「うん」

 大学生になり、二人は一緒に住むようになった。いろいろ苦労もあったが、とりあえず落ち着くこ
とができ、シンジとしてはよかったと思っている。時折今でもNERVからテストの呼び出しがあるの
は若干煩わしいが、住居を斡旋してももらえたし、安くない手当が出る。この位は当然、というのは、
今はドイツへ帰ったアスカの弁だ。
 レイの処遇については問題にもなったが、戸籍をでっちあげて、表面上は一般人と変わらない。パ
イロットが同じ場所に住むというのは危険でもあったが、セキュリティのしっかりした場所に住むな
ら、ということで許可も下りた。

「今日はコロッケにしたの。ひき肉、安かったから」
「美味しそうだね。家事が板についてきたよ、綾波」
「このくらいは……出来ないと。いずれ――」
「僕のお嫁さんになるんだもんね」
「っ……もう」
 頬を赤らめるレイを、シンジは心底愛しいと思う。中学時代はミステリアスで鳴らした彼女である
が、今となってはちょっとしたことに赤くなる、可愛らしい女の子だ。
「美味しい?」
「うん、すごく。この衣、生のパン粉を使ってるね」
「碇くんなら分かると思った」
「主夫歴が長いからね」
 皮肉っぽく言うシンジに、レイはくすくすと笑う。家事能力皆無の同居人を持つと、苦労も多かっ
たのだ。もっとも、そのおかげで大体のことはできる。料理の腕は、小さな店位なら開けるかもしれ
ないほどだ。

「ご馳走様。お風呂に入ろうかな」
「もう沸かしてあるわ」
「そっか。それじゃ――」
 脱衣所に行きかけたシンジの腕を、レイがそっと引っ張った。うつむき加減の頭から除く耳朶が、
ほんのりと紅く染まっている。
「どうしたの?」
「私も……まだ入ってないから」
「……そっか、分かった」



「やっぱり綺麗だ、綾波は」
「何を言うのよ……」
 レイを後ろから抱きしめつつ、シンジは笑った。そのままうなじに口づけ、レイの身体がぴくんと
跳ねる。
「あっ……」
「敏感なところも、可愛い」
「だめ、碇くん……」
「ここまで来て、おあずけはなしだよ。一週間、綾波のことばっかり考えてたんだから」
 言いつつシンジがレイの胸を柔らかく揉みしだくと、耐えかねたようにレイは身体をくねらせた。
「あぁ……」
「もっと聞かせて、綾波……」
「あ、いかりく、んっ」
「綾波好きだ、愛してる……」
「あ、あ……私も、いかりくん、すき……」
 蕩けた表情を浮かべたレイを少し強引に振り向かせ、お腹を石鹸のついた手で撫でまわしながら、
シンジはその桜色の唇に深いキスを――――




 ぱしゃっ






「……え?」




綾波補完計画
Written By JUN

「補完したぁ!?」
 今やすっかり平和になったNERV司令部に、ミサトの素っ頓狂な叫びがこだました。
「はい……」
「すぐ本部へ来て。リツコも呼ぶから。いいわね?」
「はい……」


 突如LCLへとその姿を変えてしまったレイに、シンジは途方に暮れた。なんかもう半泣きである。
そこへ追い打ちをかけるように、
「とにかく、レイがどういう状況で形象崩壊したのか、出来るだけ詳しく話してちょうだい」
「え……ここで、ですか?」
「そうよ、でなきゃ対策も練れないわ」
「えと、あの……」
NERV職員が聞き耳を立てる中、シンジは真っ赤になりながら状況を説明する。ミサトはにやにや
と笑い、マヤは茹でダコのように真っ赤になっていく。なんともいたたまれない空気の中、口を開い
たのはミサトだった。
「要は、風呂場で二人乳繰り合ってたらレイがLCLになった。そういうことね?」
「はい……」
 うなだれるシンジに、それまで黙って聞いていたリツコが、口を開いた。
「シンジ君、レイはね、あなたに対して異常にA.T.フィールドが薄いの。今までの検査からも明らか
だったんだけど、取り立てて問題はないと思っていたのね。けど、今回のことはそれが原因。あなた
がレイの心の壁を完全に取り払ってしまった。これはこれで研究の価値ありだけど、今はそれどころ
じゃない。分かるわね?」
「はい」
「レイだったLCLはもう水道水と混ざってどうしようもないはずだけど、LCLは生命の素。ここに
あるもので代用可能よ。安心なさい」
「あ、ありがとうございます」
「レイの魂は、おそらく今もあなたの側、もしくは最後にレイがいたその浴室にあるはず。だから元
に戻すための材料は既にあるといっていいわ。問題は……」
「な、なんでしょうか……」
「失われたA.T.フィールドを、どうやって再生するかよ。これは一筋縄じゃいかないわ。どんなに相
手を信頼して、大切に思っていたとしても、別個体である以上、どうしても疑いや嫉妬は生ずるし、
心だって全く同じ動きをするわけではない。だから、普通ならこんなことはあり得ないのよ。でもシ
ンジ君たちの場合、もともとレイのA.T.フィールドが薄かったせいもあって、こんなことになったの
ね。元に戻すには、心に壁を作らないと……」
「喧嘩しろとか、そういうことですか」
「というより、レイ自身に、自分の知らない、分からない、理解できないシンジ君がいることを知ら
せることね。そうすれば別個体であるという意識が生まれ、今一度、レイのあなたに対するA.T.フィ
ールドが生まれるわ」
「でも、綾波の知らない僕なんて……ないと思いますけど」
 シンジは困惑した表情のまま反論する。
「あら、あなたたち、隠し事が全くないの?」
「ええ、まぁ。そういうのはよそうって、二人で話したので」
 照れながら言うシンジに、指令室の職員から、小さく舌打ちが飛ぶ。リツコは苦笑しながら、シン
ジに言った。
「まあ、こうしてても埒があかないわ。まっさらなLCLをあなたの家まで運ばせます。それまでに手
段を考えておいて」
「そんなこと言っても……」
「シンちゃぁん?」
 それまで黙って話を聞いていたミサトが口の端を歪めながら声をかける。本能的に危険を察知した
シンジだが、ミサトは構わず続ける。
「おねーさんに、ちょっち考えがあるんだけど、乗ってみない?」
「え、いや――」
「いいからいいから!ね?」
「……はい」
 邪悪な笑みを浮かべたミサトの、なんともいえぬ迫力に押され、仕方なくうなずくシンジ。どちら
にせよ、自分には何も思い浮かばないのだから、仕方ない。





「さて、理論上は、ここにレイの魂があるはず。シンジ君がかつて、エントリープラグ内を魂となって漂っていたようにね」
「はい」
「で、何か考えてきた?」
「え、いや――」
「リツコ、とりあえず任せてくれるかしら」
「あなたが?」
「そうよん。元保護者なりに、考えることは考えてるんだから。シンジ君、いいわよね」
「は、はい……」
「それじゃあシンちゃん。これ、覚えてるかしら?」
そう言って、ミサトは手にした紙袋の中から、何かを取り出した。
「え……あっ!?」
 ミサトが手にしているもの、それはシンジがかつてケンスケから譲り受けた、秘蔵のお宝本数冊で
あった。ミサトはニヤつきを顔に張り付けたまま続ける。
「シンちゃんが家から引っ越すとき出てきたのよねえ。シンちゃんもオトコノコ、ってことかしら?」
「ちっ、違うんです!それはケンスケが、その、僕はいらないって言ったのに、無理やり、だからっ、僕は……」
「このページなんか付箋なんて付けちゃって、お気に入りだったのかしら?すごーい、爆乳だわね。
レイじゃ物足りないんじゃない?」
「そ、そんなことはなくって、あの――」
「呆れた……方法ってそれ?」
 と、ため息を吐くリツコ。
「そうよ?レイはシンちゃんを神格化してる部分があるから、こういうちょっとアレなところを見せ
付ければ……」
「あのねぇ、そんなのでなんとかなるなら――」





  ぱしゃっ



「……え?」
「ほら、うまくいった」
「碇くん……」

 嫉妬に爛々とその真紅の双眸を煌めかせたレイが、そこに立っていた。シンジは思った。怖い、と。



 二人は帰ってしまった。シンジは今、レイと暮らし始めてから初の、修羅場に立たされている。正
座し、レイの言葉を待っている。二人の間には、ミサトの持ち込んだ代物が異様な存在感を放ちなが
ら、鎮座していた。
「どういうこと」
「こ、これは昔の話で、今は綾波一筋だから……こ、これだってミサトさんが勝手に、僕は処分する
気で、だから……」
「中学校の時点で、碇くんは私のこと好きだって言ってくれたわ。どうしてその時に処分しなかった
の?」
「わ、忘れてて……」
「この一冊、発行したのが私たちが付き合い始める前だわ。つまり碇くんは私と付き合い始めた後、
この本を入手したことになる」
「う……」
「どういうこと」
「え、えと……」
「ちゃんと答えてくれれば、怒らないわ」
 もう怒ってるじゃないか……と、口に出かけた言葉をぐっと飲み込み、シンジは必死に弁解の言葉
を探す。
「これは、あの……あの頃は、その、綾波と、こういう本に載ってるようなこと、出来なかったから……」
 ああ、僕は何を言ってるんだ、と、シンジは自らを罵倒する。まるっきり変態だ。口下手な自分を
悔いつつもレイの顔を盗み見る。するとレイは予想に反して、少し和らいだ表情をしていた。
「あ、あの、綾波。本当に悪かったと思ってる。ごめん。その、もう、こんなことはないから」
「…………」
 レイは何も言わないまま立ち上がり、正座したシンジの後ろを通り抜けていく。だめか――

「碇くん」
「はいっ!?」
 レイの声にぴんと背筋を伸ばし、次の言葉を待つ。
「……お風呂、沸かしておくから」
「……綾波」
 シンジの顔に、満面の笑みが広がった。







「いじわるだな、綾波は……」
「だって、碇くんが……あんっ」
「僕、すごく怖かったんだからね……?」
「あ、だめ、碇くん、そんなに――んっ」
「もっと鳴いて見せて、綾波」
「ああぁ……ぁん、いかりくん……」
「やっぱり綾波が世界一だ、可愛い……」
「なら、もう、あんな本見な――ゃんっ」
「もちろんだよ、こんなに可愛い女の子がいるんだから……」
「ぁ、ぁ、ぁ、いか、いかりくん……わたし、もう、我慢が……」
「もう?もうちょっと聞きたいな。綾波の声……」
「あぁ……焦らさないで……いか――んんっ」
「仕方ないな……」
 悩ましげに身体をひねるレイの動きを優しく封じ、切なく涙ぐんだまぶたにそっと口づけ、そのま
まレイを―――



  ぱしゃっ









「またぁ!?」
「任せてよリツコ。今度はとある病室でのアスカとシンちゃんのスキャンダルが――」
「もうやだあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」






―fin―

メンテ

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Re: 復活記念 ( No.1 )
日時: 2012/08/19 01:50
名前: JUN

本来なら読み返したりするんですが、その度胸が出ませんでした(汗)

お許しください
メンテ

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