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[660] 「婚約・結婚・新婚」企画
日時: 2012/09/19 21:11
名前: tamb

 ののさんご結婚おめでとうございます!

 というわけで便乗企画の発動でございます。以下は企画概要。

・婚約、結婚、新婚あたりをテーマとした作品であること
・レイ絡みなら相手はシンジ限定。他は自由
・18禁は禁止。性愛表現そのものは可。つまりいたずらに劣情を刺激するものでなければOK
・今回は連載も可!
・サイズ、投稿本数に限定なし
・締め切り未定
・ののさんの新婚生活を妄想して小説化する必要はございません
・しても構いません
・感想もこのスレで。冷やかし、のろけもこのスレで。

 こんなとこかな。ま、いつも通りでございますね。
 いずれにせよ良識の範囲内でお願いします。めでたい話なんでね。

 ではどうぞ。
メンテ

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Re: 「婚約・結婚・新婚」企画 ( No.1 )
日時: 2012/10/21 21:50
名前: tamb


*****きっとそれを乗り越えて*****

 赤木レイ、という女の子がアルバイトに来ていた。仕事は素早く正確で、頭も切れるし飲み
込みもいいし、貴重な戦力だったが、どことなく取っつきにくい感じがしておれは敬遠してい
た。ルックスは、異常なほどの美人、とまでは言わないが十二分に可愛かったのだが。整った
顔立ちがかえって冷たさを感じさせるのかもしれなかった。
 だが、転勤になる同僚の送別会――正確に言えば同僚の転勤を口実にした飲み会――で話を
してから印象ががらりと変わった。基本的には静かでやたらと喋る方ではないが、実はアニオ
タだったのだ。もちろんおれと彼女は親子ほども歳が離れているわけで、アニメ的な共通項は
さほどなかったが、二人で知識を突き合わせるとアニメの進化の歴史がわかるような気がした。
 セカンドインパクトと使徒戦争で失われた人材と技術の回復にはまだまだ時間がかかる、で
もその萌芽はすでに見えていると彼女は言った。いくつか作品名を上げてもらい、おれは脳内
にそのタイトルを焼き付けた。

「わたし、ああいうお母さんになりたいんです」

 彼女はある作品の名を上げながら唐突にそう言った。それは話題の作品で、おれも実に久し
ぶりに劇場に行ったアニメだった。

「ああいう生き方は、実際問題としてはとても難しいし、リアリティがないのもわかります。
でも、なんていうか……」
「人はみな孤独だけれど、だからこそ絆を求めて――」
「そうです!」

 彼女はおれの言葉を遮り、瞳を輝かせて言った。

「それが言いたかったんです」

 おれは苦笑して言った。

「ああいう生き方は難しいかもしれないけど、赤木さん、可愛くて素敵な奥さんになれると思
うよ」
「それ、わたしの彼氏に言ってくれませんか」
「いくらでも言うよ。連絡先教えてよ」

 彼氏がいるのか、とおれは思う。そりゃいるだろう。彼女くらい可愛ければ。おれも男だし
確かに一発やりたいくらいは思わないでもないが、どちらかと言えば娘を見ているような気持
ちの方が強く、それほど嫉妬心は浮かんでこなかった。

「わたし、お料理が上手じゃないんですよね」
「料理なんか練習すれば大丈夫だよ」
「ずっと練習してるんですけど。っていうか、彼がすっごく上手なんです」
「そうか。そりゃ困ったな」
「困らないで下さい」
「じゃあ困らない」

 彼女は笑ってくれた。



 程なくおれも転属になり――フロアが変わっただけだが――彼女とも疎遠になった。慣れな
い仕事でストレスは溜まる一方だったが、廊下で彼女とすれ違って手を振ってくれたりすると、
それだけで気持ちを切り替えることができた。おれが彼女のために何かできるわけでもないし、
おれが何かしたから彼女がどうということもないのだが。

 昼休みも終わりかける頃、机の前でぼーっとしていたおれの所に彼女がやって来た。

「お、珍しいね。どうしたの」
「結婚することになりまして。そのご報告に」
「おおっ!」

 おれは思わず立ち上がった。彼女はおれの勢いに笑顔でのけぞった。

「例の料理が上手な彼氏?」

 黙ってうなずく。

「赤木さんは、ちょっとは上手になったの?」
「だめです」
「だめじゃん」
「だめなんです」

 おれたちは笑う。

「このままじゃ一生無理だから、環境を変えて一挙に事態の解決を図ろうかと思って」
「なんだよ、それ」
「妊娠したかもって、嘘ついたんです」
「嘘かよ」
「嘘です。でも、かも、だから厳密には嘘じゃないですけど」
「うむ」
「そしたら話が一気に進んじゃって。いまさら妊娠してなかったって言いにくくなって。どう
したらいいでしょう」
「生理来たって言えばいいんじゃない? 普通に」

 彼女は一瞬驚いたような顔になり、それから笑顔で答えた。

「あ、そうですね」
「なにはともあれ、おめでとう」
「ありがとうございます」
「仕事はどうするの」
「今月いっぱいで辞めようかと思ってます」
「そうかあ。寂しくなるな。でもしょうがない。とにかくおめでとう」
「ありがとうございます。なんか下さい」



 アドレスを交換し、送別会をやり、彼女は恥ずかしそうな笑顔と少しの涙を見せて会社を去
って行った。



 彼女――赤木レイが、あの綾波レイだとわかったのは数週間後のことだった。昼のニュース
で流れたのだ。チルドレン、碇シンジと綾波レイが結婚。記者会見の場面も流れた。

「おい!」

 課長が叫んだ。

「ありゃあ、赤木さんじゃねえか!」

 フロアは色めき立った。彼女は明るい栗色の髪で、瞳もきれいな黒だった。あの綾波レイと
は違う。だが画面の中の彼女はその姿だった。会社で仕事をしていた、赤木レイの。

「綾波さん、髪の色は」
「はい、あの、普通に生きて行くにはあんまり目立たない方がいいかなと思いまして」
「目はコンタクトを?」
「はい」
「碇さん、プロポーズの言葉は」
「はい、えっとその、結婚して下さいって土下座を、いてっ」

 一瞬、彼女が碇シンジを横目で見た。机の下で蹴ったのか。

「えっとあの、綾波がに、あつっ」

 今度は彼女もにこやかに正面を見たままだった。先が思いやられる。

 異常に恥ずかしそうな彼女と、心ここにあらずな碇シンジがおかしかった。

 そうか、とおれは思った。
 サードインパクトの真実にまつわる本はおれもずいぶん読んだし、その時代に生きていたと
いう意味ではおれも当事者の一人だ。すんでの所で阻止されたサードインパクトが何だったの
かはよくわからないままだった――わかっている人などいないのかもしれない――が、彼女た
ちの苦悩はわかるような気がしていた。本当のところは他人にはわからないものなのだろうが。
 それでも彼女たちは、それを乗り越えて幸福を掴もうとしている。自分を諦めずに。

 画面は友人たちのコメントに変わった。アスカがカメラをびしっと指さし「いいことバカシ
ンジ、ファーストを不幸にしたら許さないからね」などと言っている。

 フロアはまだ騒然としていた。サインもらっとけば良かった、などと言う奴がいる。なんで
チルドレンがうちの会社なんかでバイトを、と部長が言った。確かにそうだ。人事の連中は把
握していたのだろうか。

 おれは携帯を出し、迷った末にメールを打った。

『ニュース見たよ。びっくりした。とにかくおめでとう。お幸せに』

 返事は即座に来た。

『ありがとうございます。隠しててすいません』
『いいよ。問題ないです。頑張って料理上手になって、幸せを掴んで下さい』
『厳しいですけどなんとか頑張ります。ありがとうございます v』

 最後の顔文字が似合うような似合わないような、不思議な感じだった。

 おめでとう。君が幸せの入り口に立つことができて、本当によかったと思う。

 心から言うよ。本当におめでとう。どうかお幸せに。
メンテ

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