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[628] You really got a hold on me
日時: 2012/01/15 22:40
名前: タン塩

イライラする。

イライラするのは好きじゃない。好きな奴はいないか。
あたしだって、できれば毎日穏やかに過ごしたい。パリで見た鈴蘭祭のように、
派手ではないけれどなんとなく華やかな、そんな気分でいられたらどんなに素敵
だろう。なのに、あたしはイライラしてる。
窓の外は、まるで五月のパリみたいな爽やかな天気。なのにここはパリじゃない。
第二新東京市の高校の窓からは、マロニエの並木道もシテ島の橋も、鈴蘭の花売
り娘も見えない。

「あ、あの、アスカ」
「何?」
「ぼ、僕らの班の課題だけどさ、一応まとめておいたから目を通してくれない?」
何をおどおどしてるのよバカシンジ。いえ、わかってる。今のあたしはイライラ
オーラを全身から発散してるにちがいない。
「碇、くん」
シンジの後ろからあの女が顔を出す。ポーカーフェースのようでいて、どことな
く柔らかい空気を漂わせて。ああイライラする。
「はいはい、見とけばいいんでしょ」
シンジの差し出すUSBメモリを引ったくり、あたしは尋ねた。
「…あいつはどこに行ったの」
「あいつって?」
「やっぱりいい」
「あ、カ、カヲル君!?カヲル君なら昼休みに帰っちゃったよ、鞄持って」
やっぱり。あたしのイライラはもう頂点。
「碇くん」
「あ、ゴ、ゴメン綾波」
「あんたら、これからデート?」
「デ、デートなんてそんな。ただ一緒に本屋に寄って、それからお茶…」
「帰る」

なんてザマだろう。この眩しい陽射し、爽やかな風に吹かれながら、あたしは一
人トボトボと下校中。こんな気持ちのいい日に、こんな気分でいなきゃいけない
なんてバカみたい。バカシンジとあの女はますます人をイライラさせるし。

違う。あたしは嫉妬していたんだ。あの女に。あの柔らかい雰囲気に。あれは、
好きな人がそばにいる安心感。


「やあ」
いた。人の部屋に上がり込んで、勝手にシャワーを浴びたのか、上半身裸でタオ
ルを首に掛けて、しかも人のジンジャーエールを勝手に飲んで。
「上がらないの?」
「……何してんのよ」
「午後の授業は気が乗らないから、ここで少し昼寝してシャワーを浴びたのさ」
見れば、朝きっちりメイクしたベッドが寝乱れてグチャグチャ。
「…せいっ!」
「おっと、危ないなぁ。君の左ハイキックは凶器だよ」
「姿が見えないと思ったら人の部屋に上がり込んで勝手放題、キックぐらい当然よ!」
「僕の部屋よりここの方が学校から近いしね」
「だからって、ちょっとは遠慮とかないの!?」
「鍵をくれたのは君じゃないか」
「ぐっ」
「それに、自分の部屋よりアスカの部屋の方が落ち着くのさ。アスカの匂いが染
み付いているからかな」
「え」
「自分の部屋は好きじゃない。だって自分しかいないからね。この部屋にはアス
カがいる。ベッドもソファーもアスカの匂いがする。君は香水なんかつけなくて
も、とてもいい匂いがするからね」
「な、何言ってるのよ」
「ほら、こんなに」
そう言って人を勝手に抱きしめる。裸の胸に頬が埋まる。
「いい匂いで、軽くて、柔らかくて。君は本当に魅力的だ」
「……なら」
「え?」
「なら一人ぼっちにしないでよ!いつも一緒にいてよ!」
「…アスカ」
「あんたはいつもそう!フラッとどこかに行ったまま帰って来ないで。残されて
一人でいるのは嫌なのよ!」
「ごめん」
抱きしめる腕に力がこもる。裸の胸に顔が埋まる。
「そうだったね。僕は君の心を見るのを忘れていたよ。そんなに寂しかったなん
て気付かなかった。ごめん」
「……」
「僕はもうリリンになったんだ。それは自分で選んだことなのに、未だにリリン
の生き方に慣れない。君にそんな思いをさせるつもりじゃなかったんだ」
そうだ。初めて会った時、こいつは虫が好かなかった。多分、嫉妬していたんだ。
あたしはずっと束縛されていた。ママが死んでから、最後の戦いまで。飛び級で
大学を卒業して、訓練を受けて、エヴァに乗って。最大の目標だったエヴァへの
搭乗。それさえもが多分、どこかのずるい大人に誘導されたものだった。全てが
終わった時、あたしはそれを悟った。
そこにこいつが現れた。達観したような醒めた目つきで飄々と。あたしはほとん
ど生理的な嫌悪感すら感じた。面と向かって『あんた、いけ好かないのよ!』っ
て言ってやったっけ。それなのにこいつと来たらキョトンとして、それから嬉し
そうな顔をして『それが怒りという感情かい?初めて見た』なんて言うからます
ますムカついて、ひっぱたいてやった。今思えば、こいつが漂わせてた『自由の
匂い』に反発してたのかも知れない。
だけど、こいつを知るにつれて、そういう感情は薄れていった。こいつには演技
も芝居もない。根っからそういう変な奴なんだとわかってバカバカしくなった。

いつからだろう。こいつを束縛してやりたいと思うようになったのは。小鳥のよ
うに気ままに飛び回るこいつを、あたしの傍に縛り付けてやりたいと思うように
なったのは。こいつを束縛できる、世界で唯一の存在になりたいと思ったのは。
だけど、結局は逆。こいつは相変わらず自由で、あたしはこいつに身も心も搦め
捕られて身動き取れない。悔しい。悔しい。
「…えい!」
「痛っ!足を踏むなんてひどいよアスカ」
「さっさとシャツを着なさいよ!風邪引くわよ」
「大丈夫さ。アスカはあったかいから」
「……一つ聞いていい?カヲルはいつ、あたしを好きになったの?」
「さあね。強いて言うなら、初対面で君に叩かれた時かな」
「…あんたマゾ!?」
「初めてだったんだ。叩かれたのも、他人に怒りを向けられたのも。そして、激
しい感情を見せた君に興味を持った。もっと君を知りたいと思った。
結果は予想以上だったね。君の表情はクルクル変わる。笑い、泣き、怒る。豊か
で激しい感情。それこそ僕の欲しかったものだった。それを持った君はとてつも
なく魅力的で、独り占めにしたいと感じた。だから、そうした。それだけさ」
「…ふーん」
「それに、今日もまた一つ、アスカの新しい面を知った。意外とかわいいものが
好きってことさ」
「かわいいものって、なんかあんたに見せたっけ?」
「スカートでハイキックはやめた方がいいね。でないと、かわいいクマちゃんの
パンツが見えてしまうよ」
「……ていっ!」
「ぐはぁっ!裏拳は…反…則……」

【終わり】
メンテ

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Re: You really got a hold on me ( No.1 )
日時: 2012/01/21 16:19
名前: calu

タン塩さん

LAK推進活動記念、一作目、読了しました。有難うございました。
タン塩さんの作品を久しぶりに読ませて頂いたのですが、リズム感があって読みやすく、やはり
カヲル君は変な奴で(爆)、もとい、宇宙的に大らかな自由人で、そんなカヲル君にイライラ
しているアスカ様がカワイイ。

>「なら一人ぼっちにしないでよ!いつも一緒にいてよ!」
心情と言動のディスクレがアスカ様のデフォとのイメージが強かっただけに、こういうストレートなアウト
プットは良いですね!

>「スカートでハイキックはやめた方がいいね。でないと、かわいいクマちゃんのパンツが見えて
> しまうよ」
楓さん、是非絵にしていただけないでしょうか(願)?


また次作もお待ち申し上げます。
メンテ
Re: You really got a hold on m ( No.2 )
日時: 2012/01/22 10:46
名前: タン塩 ID:tRUwU5prE2g

caluさんありがとうございます。カヲル君はもっと変な奴だと思うんですが書け
ない(笑)これじゃ単なるサボり野郎だ。

タイトルは例によって苦し紛れの後付け。しかし改めて歌詞を聞くと“I don't
like you but I love you”とか、なんかそれっぽいな。
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.3 )
日時: 2012/01/22 20:16
名前: calu

タン塩さん

ふと思ったんですが、アスカってどんな匂いなんでしょう? 
レイはtamb閣下のimprintingで脳内にイメージが出来上がってるんですが。
>ベッドもソファーもアスカの匂いがする。君は香水なんかつけなくて
も、とてもいい匂いがするからね」

それにしてもエンディングテーマ、グッドチョイスです。
これ以上ぴったりの曲は無いですね(笑)。
スペイン語の訳がより直接的でいいですー。

ps.ここらあたりで、LAK総帥(aba-m.a-kkvさん)に登場いただけないですかねー。
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.4 )
日時: 2012/01/30 02:24
名前: tamb

 いいと思う。私の中のカヲルのイメージもこんな感じに近い。要するに、すさまじい偏見に
基づいたイタリア人というか(笑)。照れくさいことをすんなり言わせるとカヲルっぽくなる。
そしてあんまり常識がない(笑)。ネタとして、さっさと下校しようとするアスカにカヲルが駆
け寄ってきて

「ねえアスカ」
「なによ」
「女の子にも性欲ってあるの?」
 アスカは無言で全体重を乗せた手刀を叩き込む。

 ってのがあるんだけど、話が展開しないw

 逆に言うと、そういう部分じゃない所での「変」さが書けるとカヲルが掴めるんだとは思う。
本編登場あたり、あるいはののさんのGrowing Comedianの葬送とかのカヲル。もちろん私にも
書けないわけだがw

> 楓さん、是非絵にしていただけないでしょうか(願)?

 14歳微乳美少女処女に対して何というセクハラ発言を!(爆)
 待てよ。14歳微乳美少女処女が14歳微乳美少女処女に大してこのような発言を行った場合で
もセクハラになるのだろうか? わからんからならないことにしよう(笑)。
 というわけで、せっかくだから楓さん、最近姿の見えないtama姉さん、ねもさん、そして絵
が描けると発覚したくろねこさんその他、隠れを含め絵師全員でハイキックアスカの競作だ!
無謀だ!(爆)
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.5 )
日時: 2012/08/24 00:50
名前: タン塩

「何を怒ってるんだい?」
「怒ってない」
「怒ってるじゃないか」
「怒ってない」
「やれやれ」

そう、怒ってるわけじゃない。ただ、自分にいらついてるだけ。弱い自分に。


 【A Taste of Honey】 by タン塩


「あれだけいっぱいキスしたのに、まだ許してくれないのかい?」
「関係ない」

許すも許さないもない。カヲルに腹を立ててるわけじゃない。

「困ったな、わからないんだ。意地悪しないで教えてくれないか」
「だから怒ってない」
「怒ってる」
「怒ってない」

困り顔のカヲル。こいつにこんな顔をさせられるのは多分あたしだけ。そう思う
とちょっと優越感もあるけれど、わざと彼氏を困らせる趣味はあたしにはない。
クラスの女の子の中にはそんな話を自慢げにする子もいるけれど、バカだなと思
う。人の心を弄ぶやつは必ず報いを受ける。

「あんた、帰らなくていいの?終電なくなるわよ」
「終電よりアスカが大事だからね」
「ゴマをすっても泊めないわよ」

こいつはすぐに泊めろと言い出す。そうそういつも甘やかしてはいられない。

「さっき二回もしたじゃない」
「僕がアスカを求める心はそんなものではおさまらないよ。抱きしめるほどにな
お、求める気持ちは高まるのさ」
「だめ」
「心の赴くままに求めるのがリリンというものじゃないのかい?」
「欲望に溺れる者は身を滅ぼすのが人間よ。節度を持たなきゃいけないわ」

自分で言っておいて驚いた。これじゃまるでヒカリだ。あの子のお堅い倫理感に
知らず知らず影響を受けてるのかな。いいえ、多分カヲルのせい。こいつがあま
りにもフリーダムだから、自然にあたしにブレーキ役が回ってくる。
ヒカリも、彼氏がジャージだと苦労してそうだな。あんなやつのどこがいいんだ
ろ。いや、お互い様か。ヒカリとおしゃべりしててカヲルが絡んできた時とか、
さすがに口には出さないけれど、ヒカリの声なき声が聞こえる。『アスカ、そん
な変わった人のどこがいいの?』って。ほっといてよ、ヒカリ。

「いや、冗談だよ。アスカを怒らせたまま帰るわけにはいかないからね」
「だから、怒ってない」
「なら、どうして笑ってくれないんだい?」
「……」
「一日の最後に見る君の顔は笑顔でなきゃ納得いかないね。不機嫌な顔の残像を
残したまま帰って一人ぼっちで眠るなんて嫌だ」
「別に、そんな…」
「笑ってくれるまで帰らないよ」

突然の抱擁。口づけ。甘い甘い、口づけ。

『キスは蜜の味』なんて誰が言ったんだろう。そんなわけないでしょ、と思って
た。だけど、間違いだった。この感覚は説明できないけれど、蜜の味というのは
うまい表現だと思う。脳の芯で何かが溶けていくような、自分がいなくなってし
まうような、この感覚。すべての悩み事や迷いが溶けて流れていく、この感覚。

ああ、そうだ。なんでイライラしていたか思い出した。どんな怒りや不満も、こ
いつのキスひとつでごまかされてしまう安上がりな自分にいらついてたんだ。
自分はそんなに安い女じゃないはずだと思っていらついてたんだ。ならこのあと、
またイライラするんだろうか。わからない。今はわからない。溶けてしまいそう
だから、わからない。



「おはよう」
「……泊まっちゃダメって言ったじゃない」
「もう朝だよ。朝ご飯、僕が作ろうか」
「あんたは変なものしか作らないからだめ」
「ひどいなあ」
「…あんた、朝から機嫌がいいわね」
「夕べ、アスカが笑ってくれたからね」
「……覚えてない」
「とても素敵な笑顔だったよ」チュッ
「あ、だ、だめよ。学校に行けなくなるでしょ」
「大丈夫さ。僕がアスカを学校まで背負っていくから」
「バカ言ってないで離して!」
「嫌だ」
「せいっ!」バキャッ
「グハァッ!顔面に頭突きは…ひどいよ……」

【ヘッドバット終】
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.6 )
日時: 2012/08/26 20:34
名前: tamb

ゲロ甘である(笑)。

唐突に話を変えるけど、いちいち「ゲロ尼」と変換され、「甘」は「あま」からだとなかなか
候補に出てこないので単語登録した。さて「ゲロ甘」というのは品詞はなんであろうか?

話を戻す。
冒頭の会話で恐らくゲロ甘だろうと予想し、だが雰囲気が甘くなる前に

> 「さっき二回もしたじゃない」

二回もしたのかよ! と思わず突っ込んでしまうのである(笑)。

> 「……泊まっちゃダメって言ったじゃない」

朝起きて、彼がいなかったらいなかったで不機嫌になると思われる(笑)。こういう女の子って
可愛いけど、まあ正直に言えば手に負えませんな。私が手に負う必要はないんだけど。

なんというか、久々に「あーもー」とか言いながらゴロゴロ転がりたくなる感覚を味わってし
まいましたw
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.7 )
日時: 2012/08/27 07:42
名前: タン塩 ID:aklA-iwKkHE

■tambさん
ありがとうございます。タイトル曲は予想通りのこれ。前作と違って、先にタイ
トルが浮かんで作品が後。お題は『ビートルズのカバーソング』でした。タイト
ルがタイトルゆえ、ゲロ甘は自然の成り行きかと。『Twist and Shout』では無
理でした(爆)

http://www.youtube.com/watch?v=aklA-iwKkHE
メンテ
Empty Rooms ( No.8 )
日時: 2014/04/16 06:27
名前: タン塩

「コンビニに寄っていってもいいかい」
「あんたがコンビニって珍しいじゃない」
「電池が欲しいのさ」
最近のコンビニは油断がならない。スイーツの新作が並んでいたりするからだ。
うっ、やっぱりあった。イチゴの赤が、生クリームの白があたしを誘惑する。ダ
メよアスカ、ここで負けてはダメ…
「買えばいいじゃないか」
「ばっ、な、何のことよ!?」
「鬼みたいな顔をしてお菓子を睨みつけてるじゃないか」
「ふ、不覚!」
「我慢は身体に悪いよ」
「ほ、ほっといてよ!」
「金を出せ!」
店内に響く声。レジを見ると男の背中。手にサバイバルナイフのようなもの。
「コンビニ強盗!?」
まさか強盗に出くわすなんて。こうしちゃいられない。そんなふざけた奴は…
顔を上げると、男の隣に見慣れた銀髪。
「いけないなぁ。やめた方がいいよ、そういうことは」
「なっ、何だてめえは!?」
ナイフを突き出す男。その先にはもう誰もいない。
「やれやれ、聞き分けのない子は嫌いだよ」
スニーカーの爪先が男の顎にめり込む。一件落着。

「……あんたって、つくづくいけ好かないやつよね」
「いきなりそれかい」
「なんであんなことするのよ!? 危ないじゃない!」
「だって、僕が行かなきゃ君が行ってたろう?」
「……」
「姫君はそんな手の汚れる仕事はしちゃいけないよ」
「…ホンっトにいけ好かないわ」
警察が駆け付けて、事情聴取だなんだと手間取り買い物しそびれたので、別のコ
ンビニでカヲルは電池を、あたしは『新発売!フルーツどっさりプリンアラモー
ド』を買った。結局、負けてしまった。
「寄って行くんでしょ?」
「もちろんさ。電池も買ったしね」
「電池って?」
「君の部屋のテレビのリモコンの電池が切れかかってたろう?」
「わざわざ、そのために…?」
「僕の部屋にはテレビなんかないからね」
そうだ。こいつの部屋は殺風景で、ほとんど何もない。ベッドがポツンとあるだ
けで、あたしが選んだ私服も部屋の片隅の段ボール箱に突っ込んでいたので、一
発蹴りを入れてから、クローゼットに掛けてやったっけ。

「電池、換えたよ」
「ありがとう。紅茶にする?コーヒー?」
「日本茶がいいね」
「…あんた、自分の部屋、もう少し何とかしなさいよ」
「なんとかって?」
「家具を買うとか、インテリアを考えるとか…」
「興味ないよ。一人でいるのは嫌いなんだ」
「嫌いって」
「分かってるだろう。僕は、空っぽなんだ。僕の中には何もない」
「空っぽって!」
「使徒タブリスだった僕の中には、アダムに帰ること以外何もなかった。使徒で
なくなってしまった今、もう何もない。空っぽなんだよ」
「そんなこと!」
「いや、そんなに悪い気分ではないよ、空っぽなのは。これから、いろんなもの
で自分を満たしていけるからね」
「……」
「とりあえず、今はアスカで満たしたいな」
「ど、どこ触ってるのよ」
「触れたいのさ、アスカに」
ああ、まただ。また甘い誘惑に負けてしまう。悔しい。悔しい。身も心も蕩ける
誘惑に、負けてしまう。


「アスカが甘いものが好きな理由が分かったよ」
「な、何よ」
「だって、アスカ自身がこんなに甘いからね」
「ちょ、舐めないでよ、そんなとこ」
「泊まっていっていいかい?」
「帰れって言っても帰らないくせに」
「一緒にいたいんだよ」
「し、仕方ないわね」
「アスカはやっぱり優しいね。だから好きなのさ」
「ば、馬鹿言ってるんじゃないわよ!」
「僕の居場所はここだよ。アスカが僕の居場所なんだ」
「……」
「特にここだな。この中にずっといたい」
「指を入れるなーっ!」バキッ
「グハァッ!」

  【終】
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.9 )
日時: 2014/04/16 09:06
名前: 史燕

ゲロ甘LAKですね。
しかもカヲルがかなりかっこいいという……。

>「いや、そんなに悪い気分ではないよ、空っぽなのは。これから、いろんなもの
で自分を満たしていけるからね」
>「とりあえず、今はアスカで満たしたいな」
>「だって、アスカ自身がこんなに甘いからね」
……甘い。
俗っぽく言うなら、「砂糖吐きそう」なくらい甘い。

でも、カヲルにとってはアスカというパートナーはそれこそ失うことが想像できないほど大切な相手なんだな。ということが、読んでいて伝わってきました。
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.10 )
日時: 2014/04/17 06:28
名前: タン塩

史燕さんありがとうございます。反応早っ!まあゲロ甘はいつもの
ことで。カヲル君には誘惑者がよく似合う。メフィストフェレスの
面影を感じますな。

タイトルミュージックを貼ろうと思ったけど、きっとCaluさんが
貼ってくれる!(丸投げ)
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.11 )
日時: 2014/04/20 04:05
名前: tamb ID:GDs-uPpYoBs

> 「ありがとう。紅茶にする?コーヒー?」
> 「日本茶がいいね」

ポイントはここなんですよ。きっと。つまり、紅茶やコーヒーには砂糖を入れる(可能性がある)けれど、日本茶には入れない。アスカを引き立てることができるってわけですね。

舐めてるのはたぶんうなじでいいと思う。指を入れてるのは耳、と思ったけど、それじゃやっぱり筋が通らないので以下省略ということにw

タイトルミュージック。「身も心も」を貼ろうと思ったけど一応回避w
やっぱこれか。

http://www.youtube.com/watch?v=GDs-uPpYoBs
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.12 )
日時: 2014/05/05 23:39
名前:

時々、本当に時々であれLAKが出てくるので、日々監視しておかないと……
と、思ってしまいました。

私好みの甘さのお話の数々です。
今さらですがご馳走様でした…!
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.13 )
日時: 2014/05/06 09:37
名前: タン塩

■tambさん
最初は昆布茶にしようと思ったのは秘密だ!

■楓さん
ありがとうございます。カヲアスを書くとゲロ甘にしかなりません。
それは多分、アスカさんの癒しの過程だからでしょう。愛されず、
愛なんかいらないわよと突っ張って生きてきたアスカさんに、カヲル
君の溢れる愛を与えてメロメロにしてみたい、と。胸いっぱいの愛を。
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.14 )
日時: 2014/05/07 19:39
名前:

私も、他人に甘えることのできる、誰かに寄りかかることのできるアスカを妄想しているので、
その辺りの考えが似ていて嬉しいです。

あと、カヲルも、アスカを愛し癒しているつもりで、反対に癒されていたらいいです…。

また、LAKが読めることを期待しています。
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.15 )
日時: 2014/05/19 00:19
名前: calu ID:YQZMNVo2ixE

三話目にしてイライラしてないアスカ様がいた。

シュークリームじゃあなくて、『フルーツどっさりプリンアラモード』
を甘言に負けてチョイスした彼女の満ち足りた感は、推して知るべし、でしょう。

そんな彼女に変えた、カヲル君の奇跡の愛。
浮かんだタイトルミュージックはこの曲でした。

メンテ
Re: You really got a hold on m ( No.16 )
日時: 2014/05/19 17:00
名前: タン塩

■楓さん
癒されるカヲル君…難しい!

■caluさん
ありがとうございます。って動画削除早っ!
加筆:さだまさし!初期の「帰去来」は好きだったなあ。
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.17 )
日時: 2014/05/31 13:25
名前:

アスカを好きでいることで、カヲルも満ち足りていたらいいな、ということです……アスカを癒すことがカヲルにとっての幸せの形のひとつであればいいな、と…。


と、LRSサイトさまでシンジと綾波のことに触れずLAKを語ることにやや申し訳ないです…(苦笑)
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.18 )
日時: 2015/03/31 19:26
名前: タン塩

 最近、ヤワになったと思う。日本の冬を寒いと感じるようになっ
た。北ドイツの、あの薄暗くて長い冬を知っているのに。たった三
年で、あたしは日本に馴染んでしまった。
 寒さだけじゃない、食べ物もそう。一度里帰りした時、自分がか
つてこれほど脂っこいものを食べていたのかと愕然とした。好きだ
ったアイントプフ(ソーセージとジャガ芋のごった煮スープ)もダ
メだった。味は嫌いではないのだけれど、ギラギラと浮いた脂がダ
メ。昔は脂が少ないと文句を言ったものなのに。
 実際、日本に来てからお肌の調子がいい。ニキビや吹き出物に悩
まされる事がなくなった。自分にあれほどの脂肪分は不必要だった
んだろう。
 本当のところ、もう日本にいる必要はないし、帰ろうと思えばい
つでもドイツに帰れるのだけれど、なぜかあたしはここにいる。自
分の居場所はここだ、とさえ思う。


 【A house is not a home】
       by タン塩

 ママが死んでから、ドイツには居場所がなかった。パパと、その
再婚相手の家庭は、あたしの家ではなかった。冷たくされたわけじ
ゃない。再婚相手は、いい人だと思う。でも、あたしのママじゃな
い。ママじゃない人相手に娘を演じるのは疲れるし、誠実じゃない。
もう、やりたくなかった。

 日本なら、お芝居をしなくていい。友達もできた。いちおう、彼
氏みたいな奴もいる。そういえば、あいつはヨーロッパに帰りたい
と思ったりしないのかな。いや、どう考えても望郷の念に駆られる
カヲルなんてイメージできない。「アスカのいる場所が僕の家さ」
とか甘ったるいことを言いそうで寒気がする。

「カヲル?」
「は、話し掛けないでくれ!今、、うわぁぁぁぁぁ」
「またマインクラフト?」
「ち、ちょうどゾンビスポーンブロックに出くわした時に声をかけ
 るから…あー、マグマダイブしちゃったよ」
「ホントのマグマダイブがどんなもんか教えてあげましょうか」
「目が怖いよアスカ」
「そんなに面白いの?」
「見てくれ、僕の建てた家。力作だよ」
「…何この現代アート。江戸東京博物館よりひどいセンスね」
「そ、それはあんまりだよ」
「…ねえ」
「なんだい」
「ヨーロッパに帰りたいと思った事、ある?」
「…………」
「何よ」
「いや、どう答えていいかわからなかったんだ。考えた事すらない
 ね、そんな事」
「そうなの?」
「ヨーロッパは僕の故郷でもなんでもないよ。僕に故郷はない」
「…そう」
「アスカは帰りたいの?ドイツに」
「別に」
「なら、なぜ帰りたいかなんて聞くの?」
「…カヲルの居場所はどこかな、と思って」
「ここさ。アスカのいる場所が、僕の故郷だよ」
「それ、言うと思った」
「ひどいな。なら、アスカの居場所はどこ?」
「…わからない。ただ、ドイツには帰りたくない。パパとあの女の
 家は、あたしの家じゃない」
「なら、自分で作ればいい」
「自分でって…」
「自分の居場所は自分で作るものさ。鳥が巣を作るみたいにね」
「鳥…」
「まず素手で木を切って道具を作ろう。そしたら本格的に伐採して
 木材を揃える。できれば丸石も初日に手に入れたいね。次に作業
 台でドアを製作して…」
「真面目に聞いて損した」
「ま、待ってくれよ。試しにアスカも作ってみたらいい」
「あたしがそんなゲームしなきゃいけないわけ?」
「アスカはどんな家が好みか、興味があるんだ」
「どんな、家…」
「クリエイティブモードでやるといい。敵も出ないし材料も揃ってる」
「…これ、どこに建てればいいの?」
「どこでもさ。場所選びも自由なんだ」
 最初に現れた場所は砂漠だ。でも遠くに木々が見える。あっちに
行ってみよう。
 森だ。オークの木の森。傍らに小高い丘。ここだ。ここがいい。
「ここにする」
「じゃあまず床を作って柱を立てて、壁を貼っていく。レゴみたい
 なものさ。」

 カヲルに教わりながら家を作る。結構楽しい。柱は黒い木材にし
よう。壁は白く、二階建てにして…。

「さすが、アスカは飲み込みが早いね」
「三角屋根にしたいんだけど、どうすればいいの?」
「ああ、階段を使うのさ。ほら、こう斜めに並べれば…」
「あ、なるほどね」
「平等院鳳凰堂とか、ケルン大聖堂を作った人もいるよ」
「えー、そんなの無理無理」

 夢中になった。後で時計を見たら、三時間も経ってた。

「完成よ!」
「へえ、カントリーハウスだね」

 オークの柱に白壁。ドイツの田舎家が、森の傍の小高い丘に。バ
ルコニーには花を飾って。この家は…。

「ど、どうしたんだいアスカ」
「なんでもない」
「泣いてるじゃないか」

 なんて情けないんだろう。こんな事でメソメソするなんて子供み
たい。でも涙が止まらない。
 この家は、ママの家だ。ママがおじいちゃんから受け継いだ古い
家。都会も、騒がしいのも嫌いだったママが愛した田舎家。あたし
が育った家。ママの死後、パパが手放した家。なんでこんなことを
覚えていたんだろう。忘れたいと思ってた過去を、あたしはまた思
い出してしまった。

「…大丈夫だよ、アスカ」
「カヲル?」

そっと抱きすくめられる。広い胸に包まれる。

「僕だけはずっとそばにいるよ。どこにも行かないから」
「…うん」

 カヲルは本当に小憎らしい。人の心をすぐ読み取ってしまう。だ
からこいつに絡め捕られて、逃げられない。

「将来、二人で建てよう。カントリーハウスをさ」
「…それって、プロポーズ?」
「そうなのかな?どっちでもいいよ。僕は一生アスカと一緒にいる
 って決めてるから」
「やだって言ったら?」
「う、嘘だろう?」
「そんな顔しないでよ。そうね、このまま一晩中抱きしめていてく
 れたら考えてもいいわ」
「わ、わかったよ。一晩でも二晩でも」

 カヲルの肩越しに月が見える。ずいぶん夜遅くなってしまったみ
たい。思えば、一生一緒にいてくれると言う奴に、こうして抱きし
められながら月を眺めるのって、ものすごい贅沢かもしれない。こ
れが一生続くのって、悪くない。

 ママ、貴女の娘はどうにかやって行けそうです。だから、主のみ
もとで安らかに。
「…アーメン」


  【終わり】
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.19 )
日時: 2015/04/03 21:54
名前: 史燕

アスカとカヲルは綺麗な共依存なんですね。

>「自分の居場所は自分で作るものさ。鳥が巣を作るみたいにね」

こう言いつつカヲルはアスカを決して一人にしない、むしろできないというかなんというか……。

>思えば、一生一緒にいてくれると言う奴に、こうして抱きしめられながら月を眺めるのって、ものすごい贅沢かもしれない。これが一生続くのって、悪くない。

最終的にこの関係に行きつくわけで、二人で一緒だからこそ立っていられるのかな、と思いました。

落ち着いた雰囲気にじわじわと心の中に沁み渡っていくような作品ですね。
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.20 )
日時: 2015/04/04 18:17
名前: タン塩 ID:m-pBMJZ2qY8

ありがとうございます。もたれ合い、とか言いますが、誰にも依存
せずに生きていけるなら、結婚なんてする必要はないだろうと。


なぜか、聞くとFFが書きたくなるビル・エヴァンス。
http://www.youtube.com/watch?v=m-pBMJZ2qY8
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.21 )
日時: 2015/04/07 19:49
名前:

カヲルにはアスカの側に一生いて、アスカにべたべたくっついて、そして甘やかしてほしいと思ってしまいました…。(笑)

久しぶりに、LAKが読めてとても嬉しいです。
ありがとうございました。
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.22 )
日時: 2015/04/08 17:48
名前: タン塩

■楓さん
カヲル「趣味?アスカを甘やかすことさ」
いいかもしれない(笑)
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.23 )
日時: 2015/04/12 01:45
名前: tamb

本音とジョークがシームレスなのがカヲルらしいというか。カヲルらしさってよく分からないけど、こんなイメージはあるな。
アスカもそれらしい。何この現代アート、とか。意味不明なら前衛って言っとけば、的なアバウトさが良いですよね(笑)。そしてこんなことで泣いちゃうのもそれらしいんですよ。実に不思議だけれど。

この二人、年取ってからでもいいからドイツに行って欲しいな。できれば一ヶ月くらい。きっと素敵な発見があるでしょう。

> > そして甘やかしてほしいと思ってしまいました…。(笑)
> カヲル「趣味?アスカを甘やかすことさ」
> いいかもしれない(笑)

アスカはあんまり甘え上手な感じじゃないですよね。だからひたすら甘やかすってのはいいかもしんない(笑)。

レイを甘やかす話しか浮かばないって書いてたの、JUNさんだっけか。
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.24 )
日時: 2015/04/13 17:52
名前: タン塩

カヲル「僕の写真集が出たんだよ。もちろん買ったよね?」
アスカ「はあ?見てほしいならタダで寄越しなさいよ」
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.25 )
日時: 2015/04/16 15:24
名前:

カヲルの趣味は、音楽鑑賞とアスカを甘やかす。それでいいような気がしてきました。(笑)
そのネタ、共有させてもらっていいですか?

カヲルの写真集、知った時は本当にびっくりしました…。
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.26 )
日時: 2015/04/16 18:25
名前: タン塩

■楓さん
どうぞどうぞ。
しかし、これみよがしに甘やかされると、それはそれでヘソ曲げそ
うなアスカ様。うーん難しい。

ネタ元、マインクラフトのカントリーハウスです。
他人がアップした画像を貼るとまずいかな?
期間限定で削除します。
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.27 )
日時: 2015/09/07 22:38
名前: HIROKI
参照: http://hiroki.dotera.net/suki/board/rsxak-c.html

途中、14歳の僕には分からないネタ(二回?)が出てきて焦っちゃいましたが、カヲル&アスカ、いいですね(*^_^*)

アスカならではの甘え方、カヲルならではの甘やかし方。それが、LAKの真髄ってところでしょう! つっぱることでしか甘えられないのがアスカだと思ってたんですが、ポロッと出る、甘えた台詞がいいですね。

というわけで、衝動的に書きたくなったので、台詞を少しいただきつつ・・・
---

「…それって、プロポーズ?」
「そうなのかな?……アスカは、そう思うのかい?」

「アンタバカぁ? 仮にアンタが、そのつもりだとしたって、アタシがそんなに簡単に受ける訳ないじゃない」
「そうなのかい?」
「あったり前じゃない」


「………で、どっちだったの?」
「え?なにがだい?」

「プロポーズだったのか、そうじゃなかったのか? よ」
「そうだね。僕は、もう、一生アスカと一緒にいるって決めてるから、改めてプロポーズするつもりはなかったんだけどね」
「……そうなの」


「アスカ、僕と結婚してくれるかい?」

「バカ」
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.28 )
日時: 2016/03/21 12:07
名前: タン塩

「アスカっていいよね。素敵な彼氏がいてさ」
「はあ?素敵?あいつが?」
「ほら、そういうところがうらやましいのよ」
「どういうところよ」
「アスカって、彼氏を顔で選ぶタイプじゃないよね」
「当たり前じゃない。顔で選ぶとか、一番バカバカしい選択よ」
「分かるのよ、顔で渚君を選んだんじゃないって。だって、遠慮なくひっぱたく
 もんね、渚君を」
「それは、あいつがバカなことばっかり言うから」
「マゾじゃないかって噂が立ってるのよ、渚君」
「何よそれ!?」
「だって、アスカにひっぱたかれるのを承知でイジリに来てるもんね、渚君」
「それは、あいつが…」
「で、ひっぱたかれても全然懲りずにまたちょっかいを出すの。マゾよね」
「そんなんじゃないわよ!」
「知ってた?アスカが渚君と付き合い始めた時、陰でやっかみが凄かったのよ」
「知らないわよ!やっかむとかバカじゃないの」
「だって渚君は人気あったし、アスカとは、美男美女の組み合わせだし」
「それは…!」
「でも、もうそういうのは無くなったわ。だって、あまりにもお似合いのカップ
 ルなんだもん」
「…!」
「アスカは遠慮なくひっぱたくし、渚君は懲りないし、いいコンビよね」
「コンビって、漫才師じゃないんだから!」
「夫婦漫才ね。ドツキ漫才かしら」


【How my heart sings】BYタン塩


 マユミにはかなわない。かわいい顔して言いたいことをズケズケ言う奴で、し
かも全部本当のことだから困る。面と向かってお似合いとか言われると、どう反
応していいかわからない。
 それにしても、あたしとあいつがお似合い?なんというか、とてつもない違和
感を覚える。もちろん、嫌いなら付き合わないのだけれど、お似合いと言われる
と、ヒジョーに居心地が悪い。
「何してるんだい、アスカ?」
「キャッ!」
 ああビックリした。考えていた本人が突然現れた。
「き、急に出てこないでよ!ビックリするじゃない」
「それよりアスカ、ちょっといいかい」
 ふわり、と宙に浮いた。
「ああ、ちょうどいい重さだ。これなら大丈夫」
 心地よい浮遊感と安心感。あたし、何されてるの?
目に入るのはマユミのきょとんとした顔。
「あらあら、まあまあ…素敵」
 前を向くとカヲルの顔。近い。これは、まさか…。
「何やってんのよ!」バチーン
 人をいきなりお姫様だっこなんて、無体にも程がある。
「いや、突然心配になったのさ。結婚式の時に、アスカを抱き上げなきゃいけな
 いからね。失敗したら恥ずかしいから練習しておこうと思ってさ」
 頬を赤く腫らしながらケロッとして言うカヲル。
「ふざけんなあ!」


「犯罪よね」
「な、何が犯罪よ!?」
「犯罪レベルのノロケだわ。結婚式の予行演習だなんて」
「よ、予行演習って何よ!」
「人前でヌケヌケと見せびらかしておいて、お似合いじゃないとかよく言うわ」
「見せびらかしてないから!!!」
「学校中に言いふらしておくから。アスカと渚君が婚約したって」
「やめろぉぉぉぉぉ」


「アスカ、とうとうカヲル君と婚約したんだって?おめでとう!」
「マユミぃぃぃ殺すぅぅぅ」
「え、でも」
「渚君、アスカと結婚ですって?おめでとう」
「ああ、ありがとう。アスカは僕の妻になる女性だからね」
「ほら本人が」
「貴様という奴はぁぁぁぁ」
「そんな顔をしたら美人が台無しだよ」
「いつまでもその手に乗るかあ!」


「まったく…」ゼェゼェ
「釈迦の手のひらの上の孫悟空ね」
「でも、仲いいよね」
「言いたくないけどお似合いね」
「何言ってるのよ!あたしとカヲルがお似合いとか、バカな事ばっかり…」
「まだ言うか」
「無駄な抵抗だよね」
「あーあ、あたしも渚君みたいな素敵な彼氏が欲しいなー」
 マユミもマナもカエデも友達がいのない奴らだ。人の気持ちも知らないで…。
「アスカ、気がついてないみたいよ」
「な、何のことよ!?」
「自分が幸せオーラ出しまくりなことー」
「う、嘘だぁぁぁぁ」


 学校中に、あたしとカヲルは婚約したと広まったらしい。どうしてこうなった。
「おめでとう」
 来た。もと人形女。こいつにはおふざけも冗談もないから、一層たちが悪い。
「な、何のこと?」
 わざと笑顔を作って答える。こいつはいつでもマジだから、ここはなんとか誤
魔化して逃げよう。
「フィフスと婚約したと聞いたわ」
「その呼び方、やめなさいよ!人を番号で呼ばないで!」
「ごめんなさい」
 だからこいつは苦手だ。素直すぎる。
「渚君と婚約したと聞いたの」
「だ、だから婚約したわけじゃなくて…」
「でも、いずれは渚君と結婚するんでしょう?」
 やっぱり苦手だ。答えにくい質問を平気でする。
「ま、まあ、将来的にはあり得なくもないかもね」
「なら同じ事だわ。おめでとう」
「なんで同じなのよ!」
「だって、貴女は渚君が好きでしょう?わかるの」
「す、すすす、好きって」
「伝わってくるの。貴女の気持ち。貴女が渚君に向ける気持ちは、私が碇くんに
 向ける気持ちと同じだわ」
「……」
「碇くんと一緒にいたいと思うの。一緒にいればいるほど、ずっと一緒にいたい
 と感じるの。だから碇くんと結婚したい。それだけ」
「ならあたしも言っとくわ、おめでとう」
「まだ婚約してないわ」
「同じ事、でしょ?」
「そうね、ありがとう」ニコッ
 やっぱり苦手だ。だってこいつには勝てないから。真っ直ぐな目で見つめられ
ると、こっちまで素直な気持ちにさせられてしまう。でも、このままじゃ腹の虫
が治まらない。見てなさいよ!


「碇君、レイと婚約したんですって?おめでとう!」
「えっ!な、なんで!?」
「だって、アスカが」
「シンジとレイ、とうとう婚約らしいわよ」
「やっぱり!」
「まあ、いまさら感があるよね。あれだけラブラブだし」
「もう幸せ話はお腹一杯!あたしも幸せになりたーい!」
「ア、ア、アスカぁぁぁぁ」
「何よ、ならあんた、レイと結婚しない気?」
「い、いや、それは…」
「碇君、ひどい」
「レイ、あんなにいい子なのに」
「あの子を泣かすなんて鬼よ鬼」
「それにほら、本人もその気だし」
「おめでとうレイ!」
「ありがとう。いい奥さんになるにはどうすればいいのか教えて」
「あ、綾波ぃぃぃ」
 いい気味よ。馬鹿シンジもせいぜい頑張りなさい。


「アスカ、帰ろうよ」
 カヲルが手を差し出す。周囲の視線があたしの背中に刺さるのを感じる。
「どうしたの?さあ」
 こんな時に限って極上の笑顔。やっぱりこいつはムカつく奴だ。
「し、仕方ないわね。カフェラテおごりなさい!トールよトール!」
「はいはいお姫様」


「お姫様だって」
「あんなイケメンにお姫様扱いされて、何が気に入らないのかしら」
「ほっときなさいよ、売約済みカップルなんか」
「あたしをお姫様だっこしてくれるイケメンはどこだー!」

【終わり】
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.29 )
日時: 2016/03/21 12:29
名前: タン塩

■HIROKIさん
ご挨拶遅れました。読んでいただいてありがとうございます。
自作SSまでいただきまして嬉しい限りです。
彼女なりに頑張ったアスカさんにご褒美をあげたくて書きました。
またお会いしましょう。
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.30 )
日時: 2016/03/24 23:41
名前: calu

How my heart sings! 有難うございました。
終局的なゲロ甘ですね!
全てを乗り越えた感を感じます。
日常のストレスで疲れた心に堪らない甘さであります。
復活されましたら、また続きを読ませて頂きたいです。

メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.31 )
日時: 2016/03/25 17:01
名前: タン塩 ID:pCWmRc3_Ggc

ありがとうございます。caluさんに言っていただけると身に染みます。
今後ともよろしくお願いします。

やっぱりこれかい!というテーマ曲。

http://www.youtube.com/watch?v=pCWmRc3_Ggc
メンテ
Re: You really got a hold on me ( No.32 )
日時: 2016/03/27 21:20
名前: tamb

 まさにゲロゲロ(笑)。
 しかしこれは画期的な作品だと思われます。なぜなら登場人物が自分(達)のあまりのゲロゲロさにここまで身悶えしている話には巡り逢ったことがない!

> どうしてこうなった。

 笑った。幸せオーラ、いや、ゲロ甘オーラ出しまくりだからかなー。
メンテ

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