[722] イースターおめでとう(綾波レイ誕生日)
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- 日時: 2016/03/29 21:16
- 名前: tamb
***** イースターおめでとう *****
今年もまたレイの誕生日が近づいてきて、シンジは苦悩する。本来、誕生日というのは一年間無事にやってこれたということを祝う日であり、苦悩とは無縁のはずだ。それでもシンジが毎年苦悩の日々を繰り返すのは、レイの喜ぶ顔が見たいという欲望があるからだ。
欲望。
その二文字が彼の脳裏をよぎる。
とてつもなく濃厚な一夜を過ごすというのはどうだろうか。 いや、二人が過ごす一夜は、回数こそさほどでもないが常に濃厚だ。全てが終わったあと、レイはいつもシンジの腕の中で失神に近い眠りに落ちる。その、全てをシンジにゆだねきったような、安心しきった寝顔を見つめるのは彼にとっても至福の時である。それはもちろんレイにとっても至福の時なのだが、ある意味では日常であり、誕生日プレゼントとしてはやや弱い。
ではいつもより長時間というのはどうだろうか。良く言われるたとえだが、彼女があたかもぼろ雑巾のようにどろどろになるまで、例えば12時間に渡って溶かし続け、ただれた一日をすごすのだ。 いいかもしれない、と思った次の瞬間、シンジは我に返った。これはレイが喜ぶというより、いや歓ぶかもしれないが、明らかに己の欲望に重点が置かれ過ぎだ。これでプレゼントと言えるのか。性欲を高ぶらせ過ぎている。レイに告げれば「ばか」とか「変態?」と言われるであろう。少し頬を染めながら。……それもいいな。どきどきする。いやそれも己の欲望ではないか。しかしそれを言うならレイの喜ぶ顔が見たいというのも己の欲望ではある。 堂々めぐりだ。出口なし。 シンジはひたすら苦悩するしかなかった。
誕生日を翌日に控え、まだシンジは苦悩していた。むしろ苦悩の色は深まるばかりだった。洗い物をするレイの横顔を見るともなく見ながら、シンジはほとんど崩壊寸前だった。だが表情は穏やかなままだ。いつまでも14歳ではいられない。 やがて洗い物を終えたレイがコーヒーを持ってやって来た。シンジの隣に座る。以前は紅茶一辺倒だったが、リツコの助手としてバイトをしているためか、最近はコーヒーと紅茶で半々くらいになっている。
「ねえ、碇くん」
レイはミルクと砂糖を入れたコーヒーをかき混ぜながら、ため息まじりに言う。
「わたし、神さまなの」 「うん」
シンジにとっては周知の事実だった。正確には神になることを運命づけられた存在、とでも言えばいいのだろうか。 彼女はシンジの願いによって世界を再創造した後、シンジをヒトとして再生し、自らもヒトとして生きる決断をした。これもシンジがそう願ったからだ。肉体が滅びたあと、天に昇った彼女は全能なる神の右に座すことになるだろう。だが全能の神は怒れる神である。赦す神がいなければこの世はままならない。
というわけで、レイは人間として生活しつつ神としての仕事もこなさなければならないのだった。下らぬ紛争は絶え間なく、伝統に従った燔祭の羊はこんがり丸焼けで、レイとしてはどうしようもない。怒るわけにもいかない。 なので、際限なくシンジに愚痴をこぼし続けることになる。神様業の辛さを愚痴れる相手などヨハネあるいは精霊的な立場のシンジしかいない。みんなお願いばっかりで言うこと聞かないし困った時の神頼みだし羊さんは丸焼けだしサラダがいいのって言っても困った顔するだけで聞いてくれないしこんなにたいへんなのにノーギャラだしぶつぶつぶつぶつ。 シンジは黙って聞くのが常だが、その時はさすがに思わず聞き返した。 サラダがいいって、言ったの? レイはさも当然という顔でうなずいた。 うん。 それは困った顔もするだろうな、とシンジは思う。燔祭を供えたらいきなり鈴を鳴らしたような女の子の声で、サラダがいいんですけど、と言われたら戸惑うしかないだろう。というより自分の正気を疑う。
だから、また何か困ったことがあったのかな、とシンジは思った。 レイは言葉を続ける。
「なんだか、ちょっと疲れちゃって」 「大変だよね」 「碇くん、明日のわたしの誕生日プレゼント、きっと困ってると思うんだけど」 「あ、う、うん……」
完全に読まれてる。
「わたし、明日は一日なんにもしないで、完全にお休みにして、その……」
レイはためらうように言葉を切った。そして少し頬を染め、小さな声で言った。
「朝から晩まで、一日中、その、碇くんにくっついて――」
彼女は再び言葉を途切れさせ、意味深に微笑みながら立ち上がったシンジを見上げる。
「あ、あの、別にえっちな意味じゃ……きゃっ」
やにわにお姫様だっこされ、レイは可愛いらしい悲鳴をあげた。
「嫌なの?」 「……嫌じゃないけど」 「前倒ししよう。今から明後日の朝まで、綾波はずっと何もしなくていいよ。ずっとぼくにくっついているんだ。安息日っていう言葉もあるし、いいと思うよ」 「もしかして……ずっとするつもりなの?」 「嫌なの?」
シンジは同じ言葉を繰り返した。 レイも、同じ言葉を繰り返す。
「……嫌じゃないけど」 「じゃあ決まりだね」 「でも、無理だわ。36時間よ?」 「それはやってみないとわからないよ」 「目がくるくるになっちゃう」 「くるくるしててもなんとかなるよ」 「死んじゃうかも」 「危ないと思ったら中断するよ」 「でも碇くん、わたしが死んじゃうって言ってもやめてくれないわ」 「それとこれとは話が別だよ」 「碇くん」 「はいはい」 「会話がえっち過ぎると思うの」 「たまにはいいんじゃないかな。誕生日なんだし」 「……ねえ、重くないの?」
レイは軽く足をばたつかせながら言った。シンジはずっとレイを抱きかかえたままだった。
「大したことはないけど、そろそろ下ろそうかな。先は長いしね」 「……ばか」
そっとベッドに横たえられたレイは、ほんの数瞬シンジを見つめ、そして静かに眼を閉じた。

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