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[832] 眠り猫
日時: 2021/09/22 18:26
名前: 史燕

書くべき物語を見失い
迷って惑って丸二日
そして心の中に浮かんだのが、この情景でした。(作者)


眠り猫
Written by 史燕


日がすっかり沈み、三日月がマンションの上に存在感を主張しだした頃、僕は部屋のドアを開けた。

すっかり暗くなった室内では、真ん中のテーブルに突っ伏した彼女の姿があった。

「待たなくていい、って言ったのに」

腕枕に顔を埋めてかわいらしい寝息を立てる様は、まさしく眠り猫。

風邪を引かないようにとブランケットをその肩に降ろし、僕は背広をハンガーに掛けた。

夕食の準備は味噌汁が仕込んであり、炊飯器の点滅が炊き上がり間近であることを示していた。

トントン、トントン、まな板の上で包丁が音を立てる。
料理なんてお安いご用。独身時代はおろか、中学以来、炊事は専業のようなものだった。

「帰っていたの」

彼女が起きたらしい。

「ついさっきね」

振り向かずに切ったばかりの小ネギを鍋に包丁で散らす。

「起こしてくれればよかったのに」
「あんまりにも気持ちよさそうだったからね」

頃よく起きた猫の前に料理を並べる。
ご飯とお味噌汁、そして茶碗蒸しとアジの開き。

「同じ蒸すなら、プリンがよかった」
「そんなかわいくないことを言っちゃう悪い子には、銀杏、自分で食べてもらうよ」

彼女のふくれた頬を人差し指でつつきながら、苦笑して言う。
この分なら、冷蔵庫に放り込んだ2つのプリンの話はしばらくしないでおこう。

二人で手を合わせて箸をつける。
彼女の作った味噌汁は、僕が作るより少しだけ甘い。
だからこそ、切ったばかりの小ネギの香りが口の中で引き立つのだから不思議なものだ。

「碇君」
「はいはい」

彼女の呼びかけに目を向ければ、いつものように匙の上に黄色い実がのせられていた。
早く食べてくれとばかりにずいずいと押しつけられる匙に、「仕方が無いなあ」とひと言言ってパクリと口に含む。
うん、おいしい。

「どうして平気なの?」
「いや、おいしいじゃないか」
「苦いの、嫌い」

今日は欠片も口にしていないにもかかわらず、銀杏を食べる僕の数倍以上に眉間にしわの寄った渋面を作って見せた彼女は、なんだかおかしかった。

「はい、あーん」

代わりというわけではないけど、僕もシイタケを彼女の口に押しつける。
嫌いだというわけではないのだけど、彼女の中では僕は茶碗蒸しのシイタケは食べないということになっている。
そうしないと、僕が彼女に匙を向ける理由がなくなってしまうからだ。
奥にもう一つシイタケが眠っていて、それを隠れて食べるつもりな事は秘密だ。

洗い物を、二人並んで片付ける。
僕がスポンジで、彼女が濯ぐ。もう違和感もなにも無いいつもの作業だ。

「お風呂、先に入る?」
「いや」
「じゃあ、僕が先に入ろうか」
「それもいや」

じゃあどうしろと、という話なのだが、どうやら今晩も湯船で足は伸ばせそうにない。

「一緒が、いい」

つまりはそういうことなのだろう。
メンテ

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Re: 眠り猫 ( No.2 )
日時: 2021/10/02 22:37
名前: tamb

眉間にシワを寄せる彼女、というのが微妙にツボったのだった。が、使えなかった。
こういう特に何もない日常の話は好きです。感想は書きにくいけどね。
メンテ

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