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[587] サイト開設十周年カウントダウン企画・十二月
日時: 2010/12/01 18:31
名前: tamb

月々のお題に沿って適当に書いて投下して頂こうという安易な企画です。作品に対するものは
もちろん、企画全体に対する質問や感想等もこのスレにどうぞ。詳細はこちらをご覧下さい。
http://ayasachi.sweet-tone.net/kikaku/10y_anv_cd/10y_anv_cd.htm

今月のお題は

・悪女になるなら
・うさぎさんとくまさんが恋をしました
・胸いっぱいの愛を

です。
八月〜十一月の企画及び1111111ヒット記念企画も鋭意継続中です。

お題の困難さに拍車がかかってますが、頑張ってください。私も頑張ります。
では、どうぞ。

以上、例によってほぼコピペ(笑)。だって書くことないもん。
メンテ

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Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十二月 ( No.3 )
日時: 2010/12/16 20:10
名前: JUN

胸いっぱいの愛を/Written By JUN


 ミサトの鋭い眼光が、一人の男を射抜いていた。男の蒼白になった顔からは、恐怖だけが浮かんで
いた。シンジの保護者代理、という肩書きは今となっては意味を成さず、幾度となく死線をくぐりぬ
けた作戦部長として、ひいては一人の女として、ミサトはそこに立っていた。
 その部屋の隅には、一人の少女が細かく震えながら、簡素なパイプ椅子に腰掛けていた。普段は冷
淡なリツコが、温かいミルクを差し出す。リツコは幾度か退室を勧めたが、少女は頑なに断り、一人
の想い人がやって来るのを、ただひたすら待っていた。
 諦めたリツコが、携帯電話を取り出し、誰かと小声で話す。そう、分かった、などのやり取りが交
わされた後、少女の方に向き直った。
「……来たわよ、彼」
 その声に、少女はぱっと顔を上げて、立ち上がる。それと同時に、部屋の扉ががん、と大きな音を
立てて開いた。
「綾波!」
 現れた彼に、少女は力の限り飛びつき、激しく嗚咽を漏らした。決して涙を流すことが無かった少
女の異常事態に、少年の眸は怒りに燃えた。
「……あんたか」
 その声は、長く付き合ったミサトでもたじろぐほどの迫力を孕んでいた。












 その日は、珍しく一人で電車に乗った日だった。シンジにお弁当を作ろうと思い立ち、弁当箱を買
うために二駅隣のデパートへと足を伸ばしていた、その帰り道のことだった。
 混んでいるな、と思う。買い物の時間帯をもう少し早くすべきだったかもしれない。人ごみは今で
もあまり好きでない。暖房の効きすぎで暑いのも不快感を誘発した。
 早く着け、と念じてみる。気を紛らわすために、先ほど購入したばかりの弁当箱を考えた。シンジ
が自分に渡してくれる弁当箱は水色なので、お揃いがいいかもしれない。しかしどっちがどっちか分
からなくなるのは困るので、別の色にしようか。シンプルなデザインが好きそうだから、柄はなくて
いいかもしれない。でも水色もやっぱり――悩んだ末、結局水色になった。お揃いの魅力に抗えなか
ったといえばそれまでだが、男の子の弁当箱なので少し大きめにした分、間違えることは無いと思う。
受け取ったシンジはどんな顔をするだろう。喜んでくれて、あの朗らかな笑顔が見られるなら、多少
の絆創膏も貼り甲斐があるというものだ。
 彼と付き合うことは、レイにとっては新たな感情の発見の連続であると同時に、この上ない喜びだ
った。いつも優しく、いつもレイを気遣ってくれる彼に、少しでも恩返しをしたい、と思い立ったの
は、料理を作ることだった。
 お弁当の交換、と考えるだけで胸が弾んだ。技量という点では今の自分は彼に到底及ばない。しか
し彼の恋人として――そして未来のお嫁さんとして――料理を作れるようになりたい。彼が自分に注
いでくれる愛の内少しでも、彼に返せるような、そんな人間になりたい。弁当箱を入れた鞄を、レイ
はそっと抱き締めた。
 そんなことを考えていると、多少気分も晴れる。しかし自分にとって当面の問題は、彼に食べさせ
られる代物が作れるかどうかだ。簡単な料理ならできるはず、と希望を託してみるがやはり不安だ。
彼はどんなものでも食べてくれるだろうが、やはり美味しいものを食べて欲しい。


 新たに乗客が乗り込み、背中を押される。やっぱり人ごみは嫌い、などと思ったのも束の間だった。
不意に、鞄のように硬質な感触が腰の辺りに走った。混んでいるのだ、仕方が無い。
 しかし、その感触の位置が次第に下がってきた時、レイの呼吸が止まった。鞄じゃない――手だ。
無骨な男の。

 クラスメートが話しているのを聞いたことはあったし、その存在も知っていた。まさか自分が、と
いうのは使い古された言葉だが、使い古された言葉には使い古されるだけの理由がある。レイが潜在
的に自分の容姿に自信が無かった、というのも影響していた、といえる。
 恐怖で声が出なくなるなど、迷信だと思っていた。痴漢くらい大声を出せばそれで済む話だと、た
かを括っていた。声が出なくなるのは、恐怖のためばかりではない。今更ながらに身についた羞恥心。
それもまた声帯を締め付けていた。
 次第に手の位置が下がってくる。長くて煩わしいと思っていた制服のスカートに、初めて感謝した。
「や……」
 決心して大声を出そうとしても、意に反して喉からはかすれた声しか出ず、情けなくなる。足が震
え、力が出ない中せめて鞄だけでも守ろうと、いっそう強くそれを抱き締めるが、それも覚束ない。
無遠慮にまさぐる手が怖かった。シンジだけに許したい。そう思っていた領域だった。触ってよいの
はシンジだけ、そう心に誓っていたのに。気持ち悪くて、怖くて、腹が立って――


 ――碇くん、助けて……

「やめろ!」

 見知らぬ男性の叫び声は、レイにとって天の助けだった。




 普通なら警察に送られる所を、被害者がNERV関係者ということでそちらに回された。勤め先は名
の知れた大企業だった。

「クズね」

 開口一番、ミサトはそう斬って捨てた。男の肩がびくりと震える。美人な彼女がそう刺すとやはり
相応に効くのか、男は白い顔をますます白くした。

 来たばかりのシンジは、侮蔑の眼差しで男を睨んでいた。男はそちらと目も合わせようとしなかっ
た。
「なんなら、ここで撃ち殺してあげてもいいんだけど」
 ミサトが懐から拳銃を取り出すと、男は、狼狽した様子で初めて声を上げた。
「そ、そんなこと――」
 精一杯の虚勢を張ったつもりかもしれないが、それを相手にする彼女ではない。
「出来ない組織だと思うのかしら?」
 あまりに強いミサトの目線に、男はかえって視線を逸らすことができなくなった。眉間に銃口を突
きつけ「もちろん実弾だから、忘れないでね」と釘を刺した、
「あんた、NERVの逆鱗に触れたのよ。警察じゃなくてここに渡された意味を、一度じっくり考えて
みることね。きっちり覚えておきなさい。あんたを闇に葬り去ることが、いかに簡単かということを。
そして――」
 一瞬だけレイとシンジの方へ目をやって、
「彼らを守るためなら、NERVはどんな法を犯すことも辞さないということを」
 その脅しに、男はわなわなと身を震わせた。それでもレイに謝罪をしないのは、自分の経歴に対す
る自尊心からか。

「どうする?シンジ君。好きにしていいわ」
「殺してくださって構いません」
 一片の躊躇いも無く、そして恐ろしく低い声で、シンジは言った。ミサトも驚いたが、誰より驚い
たのはレイだった。一人の人間の命を永遠に奪うことの苦しみを、彼は誰よりも知っていたからだ。
激しく震える男を見据えて、言う。
「綾波を傷つけた人を、許す気なんてない」
「だめ……」
 その時になって、レイが初めて声を上げた。シンジが気遣わしげに彼女を見る。
「綾波」
「あんな、あんな人のために、碇くんが傷つく必要なんてない……」
「でも、あの男のせいで、綾波は――」
「シンジ君」
 二人の会話を遮って、ミサトが声をかけた。
「レイの意志を尊重するわ。……リツコ」
 リツコは頷いて、薄い手帳を取り出した。
「三十四歳。実名、社名も公表可能ね。せいぜいその名前と薄汚い顔を世間に晒してくるといいわ。
ニュース番組から安い週刊誌まで食いつくわよ。NERVの情報だと、あなたの会社には政界への癒着
もあるみたいだし、そっちもまとめて吊るし上げって所かしら」
 がた、と席を揺らした男に、
「終わったのよ、アンタ」
 ミサトの一言に、男は今度こそ立ち直りようもなく机の上に突っ伏した。







 帰路についたレイを、シンジは送って行く。いつもより二人の間にある距離が遠いのは、シンジの
迷いだった。下手に触れれば、彼女は電車内での行為を思い出してしまうかもしれないと思ったから
だ。
 レイも、それ以上近づこうとはしない。当然といえば当然だが、二人の間にはかつて無いほど冷た
い空気が流れていた。
 レイを護れなかった。シンジはその後悔を噛み締めていた。ずっと側にいて護ると誓ったのに、そ
れすら果たせなかったことは、シンジを大きく傷つけた。しかし、自分に傷つく権利は無い。誰より
傷ついているのは――

「……消して」

 かすれた声で、搾り出すようにレイは言った。

「綾波……?」
「あんな男に触られたなんて、考えたくない。だから……」
 遠慮がちに、レイはシンジに抱きついた。
「碇くんで、上書き、して…………」
 普段、道の真ん中でレイを抱き締めるような暴挙は犯さない。だが、シンジはレイを、いつもする
それとは比べ物にならないほど強く、抱き締めた。
 シンジの耳元で苦しげな喘ぎが漏れる。しかし、シンジは力を緩めることをしなかった。自分に抱
き締められているという実感を出来るだけ多く、レイに残したかったからだ。――胸の中で溢れんば
かりの愛を、少なくとも彼女が不安にならないだけの愛を、彼女に注ぎたい、そう思ったからだ。

「ごめん、綾波。護ってあげられなくて、ごめん……」
 背中に回された腕が激しく震える。レイはふるふるとかぶりを振った。
「碇くんの、せいじゃない……」
 レイはそのまま、シンジの頬に口付ける。レイの唇は涙のせいか、いつもより濡れていた。
 シンジは不安だった。自分がそれに応えてよいのか。男性に対する恐怖を、呼び覚ましてしまうの
ではないかと――。
「碇くんも、キス、して……」
「怖く、ない?」
「初めから、私、碇くんに全部あげたいって、思ってたから。だから……私の頭の中も、心も、全部
碇くんで、塗りつぶして……」
 その声に、シンジは貪るように、レイの唇を奪った。レイは目を閉じ、精一杯それに応えた。

 帰りたくない、そうシンジは思った。出来ることなら、彼女の家で、一晩を共にしたい。正真正銘、
彼女を自分だけのものにしたい。
 今彼女を抱くことを、自分は望んでいる。或いは、彼女も望んでいるのかもしれない。しかし、そ
れは彼女の心に出来た傷に付け込んでいるだけではないのか、そう思うと、シンジは最後の一歩を踏
み出せなかった。
 名残を残しながら、シンジはレイの唇を離した。涙に潤んだ紅い眸を見ると、たまらなく愛しい気
持ちになる。もう一度だけ強く抱き締め、シンジはレイの背中に回した腕を緩めた。
「……次から、買い物は一緒に行こう。二度と、怖い思いはさせないから」
「でも……」
「ん?」
 レイは、提げていた鞄を開き、その中から小さな紙袋を取り出した。その中身を認め、シンジはも
う一度、レイを抱き寄せる。
「大好きだ、綾波……」
「ん……」
 彼女の深い想いは、どこまでもシンジの胸を打った。どこかで彼女を子ども扱いしていたシンジは、
まず自分を恥じた。彼女を支えているという自負もあった。しかし、今考えてみれば、むしろ彼女に
支えられているのだった。シンジを拒まず抱き返してくれる腕は、いつでも温かい。

「碇くん、お願いが、あるの」
「ん?」
 甘えるようにシンジの胸に鼻をこすりつけ、レイは言った。
「明日まで、一緒にいて……」

 細い声だった。しかし、強い声だった。その中にあるのは、数少ないレイの確固たる自己主張だっ
た。彼女の身体の柔らかさに、理性のたがが外れそうになる。しかし、彼女が望んでいるのは、きっ
とそういうことじゃない、とシンジは結論付ける。本当に明日まで一緒にいて欲しいのだ。彼女の心
についた傷を癒してあげられるのは、自分しかいない。
 だが、自分にそれが出来るのか。彼女に襲い掛からない確証など無い。肌で感じるレイの柔らかさ
は、どこまでも魅力的だった。かつて一度だけ触れたことがあるその胸。その柔らかさを、自分は皮
肉にも知っているのだ。
 する時は、本当に心から満たされた状態でしたい。それはシンジの望みだった。彼女の傷につけこ
むような形にはしたくない。それが卑怯な逃げだと分かっていたからこそ、シンジはそれを曲げたく
なかった。

「でも、綾波。僕は……」
「だめ……?」
 途端にレイの声が寂しげなものになる。背中に回された腕が、少しだけ緩んだ。
「僕じゃ、明日まで、我慢できないかもしれないんだ。だから――」
「……なら」
 再び、レイは腕に力を込めた。
「……すればいい」
「でも」
「私は、いつでも構わない。碇くんの好きな時にすればいい。もし今じゃなくたって、私は、絶対碇
くんとって、決めてるから……」
 レイの言葉は、シンジにとって純粋に驚きだった。どうしてそこまで、という思いもあった。
「だから今日、すごく嫌だった。碇くんのためにあるのに、碇くんじゃなきゃだめなのに。触ってる
のが碇くんだったら、どんなによかっただろうって。知らない男に触られた身体なんて、碇くんにし
てもらう権利、ないかもしれないけど、でも――」
「どうして、そんなに僕のこと……」
「……碇くんは、いつでも温かいから。ヤシマ作戦の時に触れた感覚、今でもちゃんと覚えてる。碇
くんは、わたしをヒトにしてくれた。だから、碇くんの腕の中で、私の心も身体も、全部碇くんで満
たしてもらえるなら、それより欲しいものなんて、もう、何も無い……」
 レイの口から紡ぎだされる言葉は、一つ一つがシンジの心を揺さぶった。自分の躊躇いがいかに情
けないか、そしていかに自己中心的だったか、それを実感せずにいられない。
「それとも、やっぱり、嫌……?」
 不安に大きく揺れる声。しかしその声が、シンジに最後の決意を促した。

「……分かった、綾波。明日まで、ううん、それからもずっと、一緒にいよう」
 今度こそ迷いなく、シンジは言った。レイの眸が歓喜に溢れ、もう一度強く抱き締める。

「ごめんね、意気地なしで。女の子にここまで言わせるなんて、情けないよね」
「そんなことない」
 腕をほどいて、レイはシンジの目を見据えた。
「碇くんは、優しいから。そういうところも、好きだから」
「……ありがと、綾波」
 左手を差し出すと、レイはそれにそっと自分の手を重ねた。
「行こうか、綾波」
「……私の家は、あっち」
 いつもと違う方向に歩き出したシンジに、レイは正しい方向を指差す。
「晩御飯、食べないの?一緒に作ろう」
 微笑むシンジに、レイも笑みを返した。自然に笑うことが出来るようになったのも、思えばシンジ
のお陰だ。

「何がいい?」
 レイは考える。彼がくれた温もりを、少しでも返せるのは――
「お味噌汁、教えて……」



 Fin…
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