[782] 7度目は突然に
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- 日時: 2021/06/09 22:00
- 名前: アールグレイ
- 既にpixivにあげた作品ですが、初めてここに投下してみます。
漫画版準拠のお話です。ついでに言うと私が人生で初めて書いた小説です。
一面真っ白な空模様、そんな日に私は狭い空間にたゆたっていた。 ここはまるで鮨詰めのように見渡す限り人で埋め尽くされており、誰もが窮屈そうな顔をしている。 ガタン、 ゴトン……と時折金属が軋る様な音がするが、今は規則的なその音に耳を傾ける余裕はない。
「……狭い」
東京の朝の電車は混むと聞いてはいたけれど、ここまで混むとは知らなかった。 車両の中は学生も多く見かけた。この人たちは多分、私と同じ目的でこの列車に乗っているのだろう。 早く目的地に着いて欲しいと望みながら、私はこの息苦しい空間を揺られ続けた。
七度目は突然に
Written by アールグレイ
人類が補完されてしまったあの日、私はLCLの海の中で碇くんと別れて白い世界へ彼を見送った。 そのままもう目覚めることはないと思っていたのだが、気が付いたら私は知らないベッドの中にいた。
「ここは……?」
周りを見渡すと、誰かの部屋のようだった。 白い壁紙に本棚や机などがあり、シンプルな感じでまとまっているが、ところどころに幾つか小物が置いてある。
「レイ、早く起きなさい」
誰かの声がして、私は視線をそちらに移すと、面識の無い人が立っていた。 蒼くて長い髪に赤い眼をした色白の女性…少し私に似ている印象を受ける。
「……あなた、誰?」
「まだ寝ぼけてるの?あまり母さんを困らせないでちょうだい」
「…………かあさん?」
お母さん──母親、つまり女親の別称。一般的に血の繋がっている子供を産んだり育てたりする人に使われる言葉、たまに血が繋がっていない人が育て親になる場合もあるらしい。 以前の世界で碇司令に母親とはどんな人か聞いてみたら、子供や父親に対してとても愛情を持って優しく接する、まるで光みたいな人だと教わった。 では彼女の子供や夫に当たる人物は一体誰なのか?この場所には私と目の前の人の二人しか居なくて、彼女はどうやら私に対して言っているようだ。
────つまり、この人は私の母親?
どういうことなのか、何が起こっているのか全く分からない。まさか碇くんがこれを望んだとでもいうの……?
「もう、いつまでそうしてるの?早く顔を洗ってらっしゃい」
ずっとベッドの上で考え込んでしまった私に対して彼女はそう言った。 とりあえず起き上がり、顔を洗って服を着替える……とここでも驚いた。制服だけでなく、色々な服が並んでいたのだ。 私にはその手の知識が無いのでさっぱり分からないが、水色やピンクや白色など様々な色の服がかけられている。 その中で前の世界で着ていたのと同じ制服があったので、とりあえずそれに着替えてリビングに向かった。
そのまま朝食を取った時に自分の事を母親だと名乗る女性と話したが、状況を理解するのにかなり時間がかかった。 とりあえずこの世界の私は彼女の娘……という事らしい。 他にも今日の日付は1月7日だということ、現在の私は前と変わらず中学二年生…という事などが分かった。 そんな事を色々聞いていたらそろそろ学校に間に合わなくなるんじゃない? と窘められてしまった。 時計をみると7時45分だ、確かに学校に行くならのんびり出来ないだろう。 別に行かなくてもいいのではと思ったが、何かこの世界について分かるかもしれないと考え直し、そっちを優先させる事にして私はカバンを持って玄関の扉を開けた。
マンションから出てその建物の名前を確認したところ、コンフォート17と書いてあった。 たしか葛城三佐が住んでいたところだ…かつて碇くんが住んでいたところでもある。 ここから第壱中学校までの道のりなら分かっている、そう遠くはないはずだ。
「レイ、おはよっ!」 「おはよう、レイさん」
不意に二人の人から声がかけられたので振り返ると、かつてのクラスメイトが立っていた。
「惣流さんと……洞木さん?」 「なーに他人行儀な呼び方してんの! アスカでいいっていつも言ってるじゃない!」
と笑いながら彼女がポンと肩に手を当ててきた。 ……この時ばかりは普段表情が崩れない私も頭がガンと殴られるような衝撃を受けた。 この人は私の事を避けていたはずだが、その彼女がこんなに親しく話してくるとは…… 私が呆気に取られて口を開けたまま二の句が継げずにいると、彼女は怪訝な表情を浮かべた。
「どうしたのよ、変な顔して……もしかして、今日あの日?」 「ちょっとアスカ……」 「ジョーダンよ、冗談」
何故か洞木さんが恥ずかしそうに顔を赤らめている。急にどうしたのだろうか?
「とにかくレイ、早くしないと置いてくわよ?」
そう言ってさっさと行ってしまう彼女を私は洞木さんと一緒に急いで追いかけた。
学校は以前通っていた頃となんら変わりはなさそうだった。 下駄箱も以前の位置と変わらない。 さっそく開けて靴を入れようとしたら…たくさんの手紙が中から出てきた。
「これは……?」 「今日もいっぱい来てるわねー、こっちは相手にもしてないってのに」
どうやら彼女のところにも来てるらしい……丁度いい、彼女に聞いてみよう。
「惣──アスカ、これは何?」 「はぁ? ラブレターでしょ、いつも貰ってるじゃない」
私もあんたも全部見ずに処分してるけど、と彼女はそう言いながら落ちた手紙を足で踏み潰した。 ラブレター、好きな人に送る手紙の事。 そういえば前の世界でも学校に登校し始めた時に同じように貰った事がある気がする。最もあの時は自分には関係ないものだと気にしなかったが。
「何で私に手紙がこんなに来てるの?」 「……アンタ本気で言ってんの? もしあたしが男だったら、レイみたいな可愛い子が身近にいたらほっとかないわよ」
実際前の世界では殆どもらってなかったのだが……あの頃と状況が違うのだろうか?
「まあ万年仏頂面のアンタに好きな人が出来るなんて思えないけど」 「好きな人……」
そう言われて私はつい碇くんの顔を思い出してしまった。顔が耳まで熱くなっていくのを感じる。 ……その反応がいけなかった。
「あの、綾波さん……?」 「えっ、アンタにそんな人いたの!?全く水臭いわね……早く教えなさいよ!」
急に二人が目の色を変えて私を見てくる。だが碇くんの事を言う訳にはいかない。
「…………何でもないわ」
何とか落ち着きを取り戻してそう言ったのだが、全く信じて貰えなかった。
「……ただいま」
学校が終わって家に帰った私はそう言ったが、まだこの家の主は帰ってきていないようだ。 結局あの後1日中ずっと彼女達の追求を受ける事になり、疲れてしまった。 まさかこんなことになるなんて……碇くん、あなたは私に何か試練を与えることでも望んだというの……? ……だけどまあ、こういう生活も案外悪くないのかもしれない。
部屋に戻って荷物を置いた私は、朝はバタバタしてろくに見れなかった部屋を見渡した。 リビング、キッチン、風呂場とトイレに個室が2部屋に物置が1つ……二人暮らしには申し分ない広さだ。 ふとリビングの隅の方を見てみると、小さい仏壇が置いてあった。中央には穏やかな雰囲気の男性が写っている。 これはもしかすると────
「ただいまー」
「……おかえりなさい」
夜になるとあの人が帰ってきた。 彼女は帰ってきてすぐに晩御飯の支度に取りかかった。母性というものなのだろうか?台所に立つ彼女からは優しい雰囲気がしていた。 暫く待っていると、刺激的なスパイスの匂いが辺りを包み込んだ……どうやらカレーを作っているらしい。 それから少しして、私は彼女の作った野菜カレーを食べながら疑問に思っていた事を尋ねた。
「……亡くなった私の父親は、どんな人でしたか?」
恐らくさっきの遺影の人が私の父に当たる人なのだろう……そう思いカマをかけてみた。
「急にどうしたの?」 「お父さんがどんな人か知りたくて……」 「……そうよね、小さい頃に亡くなったから覚えてないわよね」
そう言うと、彼女はその人について語り始めた。 誰よりも人一倍優しかった事、いざと言う時には自分から行動してくれて頼りになった事、元気な妻に振り回されても嫌な顔を一切せずに笑っていた事、いつも妻と娘を愛していた事……
「病気で亡くなる直前でも君と出会えて本当に良かったとか僕の分までレイを頼むとか言ってきて……ほんと、あの人はいつも自分より私やあなたの事ばかり……」
彼女は少し嗚咽が混じった声でそう言った。 その人は彼女の大切な人だったのだろう……私にとっての碇くんのように。
「……そんな大切な人を失ってしまって、寂しくないのですか?」 「そうね、確かに結構寂しい気持ちもあるけれど……今はあなたがいるから1人じゃないわ。それに、私が笑っていないと、天国のお父さんも悲しむでしょう?」
そう言って少し泣き顔になっていた彼女が微笑む。私は彼女の事をとても強い人だと思った。
亡くなった妻をいつまでも求めていた碇司令とは大違いだ。碇ユイを失った司令が碇くんを育てる事を放棄して親戚に預けたから、彼は辛い思いをしてしまった……そう考えると、私はあの男の身勝手さに腹が立ってきた。 あんな人間に世界を委ねるなんて事はしたくない。やはり、あの時裏切って正解だったと思う。
「……再婚とかする気は?」 「全くないわ。この私、綾波リナが愛した男性は彼だけだもの」
彼女は強い意志を持った声でそう言った。
「……ご馳走様、とても美味しかったです」
私はそう言って食器を台所の流し台の所に持っていった。
綾波リナ──お母さんと話した後、部屋に戻った私は持っている情報を元に考え事をしていた。 そもそもなぜリリスだった私が普通の人間の姿で生きているのか…その答えは最初から分かっていた。 碇くんが私にも人として生きてほしかったのだろう。私もそれを望んではいたが、まさか叶うとは思いもしなかった。 しかも存在しなかった親までいるとは…つくづく予想外な事だらけだ。 そして今、私が一番悩んでいたこと…それは碇くんに会いに行くかどうかだ。 今の彼の居場所は叔父と叔母の家のはずだ、この眼で見届けたので間違いない。 以前の世界で住所は把握していたので、会おうと思えば会いには行ける。
……だが、私はそれをしない事にした。 恐らくこの世界の彼は私のことを覚えていない。 仮に彼に会った時に全くの初対面として赤の他人のように扱われたら私はそれに耐えられるだろうか? それにもし万が一彼が私と会って全てを思い出してしまってはまずいだろう。 前の世界の辛い記憶を思い出すことになってしまう。 だから碇くんの幸せを本当に願うのなら、私は彼ともう会わない方がいいだろう。 頭ではそれを分かっているはずなのに……
「碇くん……」
彼に会いたい、ずっと一緒にいたい……どうしてもそれを望んでしまう。 そう思うと涙は絶え間なく溢れ出し、いつまで経っても止まらなかった……

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