桜花姫 ( No.34 ) |
- 日時: 2021/08/17 09:47
- 名前: 月影桜花姫
- 最終話
因縁
大黒島での戦闘から一週間後の早朝…。僧侶の三蔵郎は室内を清掃するのだが摩訶不思議の刀剣を発見したのである。 「えっ?ひょっとして刀剣でしょうか?」 三蔵郎は恐る恐る刀剣に接触する。 「なっ!?名刀の『霊斬刀』では!?」 霊斬刀とは国宝級の名刀であり戦乱時代の英雄…。夜桜崇徳丸が所持した牢固石の刀剣である。戦乱時代では単なる刀剣として扱われるも崇徳丸の死後…。神出鬼没の悪霊を征伐する名刀霊斬刀と命名されたのである。当時怨敵であった南国と北国からは今現在でも不吉の妖刀と皮肉られる。 「如何してこんな国宝級の代物が…私の寺院に?」 不思議がる三蔵郎であるがフッと想起するなり…。 「一昨年に知人に贈呈された代物でしたね♪」 一昨年に知人から霊斬刀を頂戴した内容を忘却したのである。 「清掃中に霊斬刀を発見したのは何かしらの運命なのかも知れませんね♪」 (折角なので…記念品として私の自室にでも装飾しますかね♪) 三蔵郎はルンルンした気分で自室の屏風に霊斬刀を装飾する。 「ですが霊斬刀が千年前の代物なんて…私には想像も出来ませんね…」 三蔵郎は霊斬刀に魅了される。 (こんな刀剣で大勢の悪者達を撃退出来れば…本物の武士みたいに大勢の村人達に敬愛されるのですがね…) 三蔵郎は妄想したのである。 「明日の早朝…暇潰しに西国の国境で素振りするのも悪くないですね♪」 翌日の早朝…。三蔵郎は霊斬刀を所持するなり東国と西国の国境に位置する山道へと移動したのである。恐る恐る周囲の人通りを警戒する。 「早朝であれば国境の山道でも人通りは少数ですし大丈夫でしょうね…」 時間帯は早朝で人通りも皆無であり三蔵郎は力一杯素振りしたのである。 「常日頃の気苦労も解消出来ますし…最高ですね♪」 (私も歴史人物の夜桜崇徳丸様みたいに大勢の悪者達を撃退して…誰かを守護したいですな♪) 三蔵郎にとって戦乱時代に活躍した崇徳丸は憧憬の対象であり三蔵郎は彼を意識する。無我夢中に何度も何度も素振りを反復し続けたのである。 (悪霊でも出現しませんかね?) 「霊斬刀で悪霊を仕留められるのであれば是非とも霊斬刀で悪霊を仕留めたいですな♪」 すると直後…。突如として極度の胸騒ぎを感じたのである。 「なっ!?」 (胸騒ぎでしょうか…) 突如として極度の死臭と強烈なる殺気が此方に接近するのを感じる。 (極度の死臭と殺気…一体何が?) 正体不明の不吉の気配は刻一刻と山道へと急接近する。数秒後…。全身が血塗れで規格外に巨体の野犬が国境の山道に出現したのである。 「えっ…野犬!?」 (巨体だな…) 左側の前頭部が白骨化した状態であり巨体の野犬は正真正銘悪霊であると認識出来る。 (此奴は…野犬の悪霊なのか!?) 口先には咀嚼された肉片らしき物体を確認…。何かを捕食したのであると推測する。 「悪霊は遭遇した野獣を食い殺したのでしょうか?」 三蔵郎は極度の恐怖心により恐る恐る後退りする。 (人間の私でも感じられる強烈なる殺気…非常に厄介かも知れませんね…) 殺されるかも知れないと危惧するのだが…。野犬の悪霊と対峙すると不自然にも霊斬刀がカタカタッと震え始める。 「えっ!?霊斬刀が…」 (ひょっとして私に野犬の悪霊を仕留めろと…) 逃亡出来るのであれば一目散に逃亡したい三蔵郎であるが…。 (現在地は東国と西国との国境…私が逃亡すれば東国にも西国にも悪影響が…) 戦闘を放棄して逃亡すれば命拾いは出来るものの戦闘を放棄すれば確実に大勢の村人達が悪霊によって惨殺されるのは明白である。 (私が逃亡すれば東国は勿論…西国にも被害が及びましょう…何よりも西国は桜花姫様が安住される桃源郷…) 「全身全霊私が死守しなくては!」 三蔵郎は決意する。三蔵郎の表情が変化すると野犬の悪霊がピクッと反応したのである。野犬の悪霊はギロッと三蔵郎を睥睨するなり…。 「なっ!」 野犬の悪霊は猛スピードで突進したのである。三蔵郎は咄嗟に野犬の悪霊の突進を間一髪回避…。野犬の悪霊は一直線に突進するなり三蔵郎の背後の岩壁へと突っ込んだのである。 (危機一髪…こんなのに突進されたら全身が粉砕されますね…) 野犬の悪霊の突進によって頑強なる岩壁が抉れる。三蔵郎は神速により野犬の悪霊の背後へと移動するなり背後から霊斬刀で斬撃する。 (悪霊を仕留めたか!?) 手応えは感じるものの…。野犬の悪霊の姿形がパッと消滅する。 (ひょっとして先程の姿形は残像なのか!?) 野犬の悪霊は神速によって三蔵郎の斬撃を回避したのである。 「残像だったか…」 野犬の悪霊は一瞬で三蔵郎の背後へと移動する。野犬の悪霊がギロッと睥睨した直後…。 「えっ?」 霊斬刀がピカッと蛍光色に発光したのである。 (霊斬刀が発光した…) すると全身に重苦しい殺気を感じる。天空一面が黒雲により覆い包まれる。 (天空が…) 直後…。ピカッと落雷が三蔵郎の頭上より落下したのである。 「落雷!?」 三蔵郎は咄嗟の判断により落雷の回避に成功する。 「危機一髪だった…」 (ひょっとして霊斬刀は私に生命の危機を予知したのか…) すると突然…。 「貴様は僧侶の身分であるが…彼奴に酷似する…」 突然人間の口言葉で発語した野犬の悪霊に驚愕したのである。 「なっ!悪霊は人語で喋れるのか!?」 「貴様も彼奴と同様の反応であるな…」 「彼奴とは…誰なのでしょうか?」 野犬の悪霊は即答する。 「夜桜崇徳丸と名乗る…愚劣なる人間の若武者である…」 (夜桜崇徳丸だって!?) 夜桜崇徳丸の名前を傾聴した直後…。三蔵郎は何が何やら困惑したのである。 「ひょっとすると僧侶の貴様は…戦乱時代の夜桜崇徳丸と名乗る武士の再来であるな…」 野犬の悪霊の発言に三蔵郎は絶句する。 (私が…崇徳丸様の再来ですと!?) 「雰囲気もだが…醜悪なる人間としては非常に清心であるからな…貴様は崇徳丸に共通する…」 (ですが私の前世が夜桜崇徳丸様ですか♪) 崇徳丸の再来である事実に三蔵郎は内心大喜びしたのである。三蔵郎は恐る恐る…。 「貴方様は一体何者でしょうか?」 問い掛けられた野犬の悪霊は即答する。 「私は死霊餓狼…千年前に醜悪なる人間によって惨殺された野犬の亡霊とでも…」 「死霊餓狼…」 死霊餓狼とは極悪非道の人間に惨殺された野犬の亡霊と認識される反面…。汚染された自然界から誕生した悪霊の集合体とも呼称される。共通する伝承では死霊餓狼は人間達に憎悪…。死霊餓狼と遭遇した人間は確実に食い殺されるのが通説である。死霊餓狼の肉体を死滅させたとしても死霊餓狼の呪力は本体を死滅させた人間に憑霊…。憑霊された人間に大勢の人間達を呪力で殺させる。大勢の人間達を殺害すると最終的には死霊餓狼の呪力に憑霊された人間の肉体は腐敗…。腐敗した肉体は確実に崩れ落ちる。 (悪霊は悪霊でも最初に遭遇した悪霊が死霊餓狼なんて…私は人一倍不運ですね…) 「ですが如何して今更死霊餓狼が出現したのですか?」 死霊餓狼は一瞬沈黙するなり…。 「今迄に愚劣なる人間の亡者達を利用したが…結局貴様達愚劣なる人間達を呪殺出来なかったからな…私自身が直接的に愚劣なる人間達を全滅しに顕現したのだ…」 死霊餓狼の発言に三蔵郎はピクッと反応する。 「ひょっとして今迄出現した悪霊は死霊餓狼が…」 死霊餓狼は即答したのである。 「勿論…半年前に世界樹である霊魂巨神木に憑霊して…大勢の亡者達を利用したのも私自身であるからな…」 「貴様が黒幕だったのか…」 霊魂巨神木は本来純粋無垢で無害の樹木であるが死霊餓狼の怨念が無害の霊魂巨神木に憑霊…。戦乱時代で死去した大勢の亡者達を復活させ各地の村人達を襲撃させたのである。 「結局…崇徳丸の花嫁の再来によって阻止されたが…」 「崇徳丸様の花嫁の再来とは…」 (ひょっとすると…桜花姫様でしょうか?) 三蔵郎は桜花姫を連想する。 「如何やら今回は幸運にも崇徳丸の花嫁の再来は不在であるからな…非常に好都合である!」 「ですが今回は私が全身全霊で貴方様の野望を阻止しますよ!今度も各地の村里を襲撃するみたいですからね!」 三蔵郎は強気で返答したのである。 「随分強気であるな…手始めに貴様を呪殺して…愚劣なる人間達を殲滅するか…」 (僧侶を呪殺して僧侶の肉体に憑霊すれば…花嫁の再来とて迂闊には手出し出来なくなるからな…) 死霊餓狼は口先より高熱の火球を発射したのである。 「死滅せよ!崇徳丸の再来!」 (火球!?) 三蔵郎は高熱の火球を一刀両断…。高熱の火球を斬撃したのである。両断された火球は三蔵郎の背後にて爆散…。背後の地面にはクレーターが形作られる。 (こんなのが直撃すれば即死でしょうね…) 火球の灼熱によって霊斬刀の白刃が赤化する。 「牢固石の白刃が高熱で赤化するなんて…」 (普通の刀剣なら確実に屈折するでしょうね…) 「今度こそ死滅しろ!崇徳丸の再来!」 死霊餓狼は再度口先から高熱の火球を発射したのである。 「なっ!?」 三蔵郎は咄嗟に火球を回避する。 (畜生…間一髪回避したか…) 「愚劣なる人間の分際で私の攻撃を回避するとは…貴様が崇徳丸の再来なのは決定的であるな…」 死霊餓狼は力一杯睥睨するなり…。 「崇徳丸の再来!」 (今度こそ死滅しろ!) 死霊餓狼は全身全霊で突進する。相手は猛スピードであり三蔵郎は回避出来ない。 (止むを得ないな…) 三蔵郎は咄嗟の斬撃で死霊餓狼の右側の前脚を斬撃したのである。 「ぎゃっ!」 間一髪死霊餓狼の右側の前脚を斬撃…。死霊餓狼の突進攻撃を無力化したのである。 (一歩間違えれば殺されたのは私だったでしょうね…) 死霊餓狼はバタッと地面に横たわる。三蔵郎は恐る恐る衰弱化した死霊餓狼へと近寄る。 (死霊餓狼を仕留めれば…東国も西国も無事に守護出来る…) 「戦乱時代の悪霊…成仏せよ…」 斬撃する寸前…。 「えっ!?」 三蔵郎は斬撃したいが死霊餓狼の悲哀の表情を直視すると殺せなくなる。 (私には殺せないな…死霊餓狼を仕留めなければ東国と西国の大勢の村人達が殺害されるかも知れないのに…) 相手が悪霊であっても衰弱化した表情を直視すると心苦しくなる。 「悪霊を相手に躊躇いとは…所詮貴様の慈悲は崇徳丸と同様であるな…貴様の躊躇いが愚劣なる人間達の殺戮に直結するのに…」 「なっ!?」 三蔵郎はゾッとしたのか極度の胸騒ぎを感じる。 (強烈なる殺意…死霊餓狼は一体何を?) 三蔵郎は警戒するなり恐る恐る後退りする。 「崇徳丸の再来よ…貴様の身動きを封殺する…」 「身動きを封殺ですと!?」 すると突然…。 「ぐっ!」 (一体何が!?) 突如として三蔵郎は身動き出来なくなる。 (ひょっとして金縛りか?身動き出来なくなるなんて…) 「金縛りで貴様の身動きを封殺した…最早身動きは出来まい…」 死霊餓狼は一息するなり…。 「貴様の肉体に憑霊する…最早野犬の肉体も不必要だ!」 すると死霊餓狼の肉体から黒煙が発生するなり三蔵郎の肉体へと憑霊する。 (なっ!?) 死霊餓狼の肉体から発生した黒煙こそが死霊餓狼の本体であり三蔵郎の肉体へと憑霊したのである。 「ぐっ!」 (視界が…) 三蔵郎は意識が喪失する。数秒後…。野犬の肉体が崩れ落ちる。 「人間の肉体に憑霊したな♪」 (人間は人間でも私が憎悪する崇徳丸の再来であるからな♪) 死霊餓狼は大喜びする。 「即刻愚劣なる人間達を呪殺したいが…」 (手始めに崇徳丸の花嫁の…再来から呪殺するか…) 死霊餓狼の霊体は三蔵郎の肉体に憑霊した状態で西国の村里へと直行したのである。同時刻…。 「えっ?何かしら?」 (霊力?) 桜花姫は自宅で昼寝したものの極悪非道の霊力を察知するなり起床する。 「無数の霊力を感じるわ…」 (東国との国境に悪霊が出現したのかしら?) 直後…。 「えっ!?」 霊力が突然パッと消失するなり感じられなくなる。 (如何して突然霊力が消失したのかしら?) 桜花姫は警戒したのかソワソワする。直後である。 「きゃっ!」 突然の板戸のノックに驚愕する。 (吃驚するじゃない…) 桜花姫は玄関の板戸へと移動するなり…。 (一体誰かしら?) 「何よ?」 彼女は恐る恐る玄関の板戸を開放すると玄関口には刀剣を所持した三蔵郎が佇立する。 「えっ!?三蔵郎様?」 突然の三蔵郎の訪問に桜花姫は驚愕したのである。 「三蔵郎様が私の家屋敷に訪問するなんて…」 何よりも気になるのは血塗れの刀剣であり僧侶である三蔵郎が如何してこんな代物を所持するのか非常に気になる。 (物騒だわ…如何して三蔵郎様は血塗れの刀剣を?) 三蔵郎の表情を直視すると無表情であり桜花姫は警戒した様子で恐る恐る後退りする。 (相手は三蔵郎様なのに…不吉だわ…) 人一倍温柔敦厚の三蔵郎が別人みたいに感じられる。 (普段の三蔵郎様とは別人みたいだわ…ひょっとして三蔵郎は前回みたいに何者かによって憑依されちゃったのかしら?) 桜花姫は三蔵郎を睥睨するなり…。 「あんたは一体何者よ?姿形は三蔵郎様本人でも…中身は別物よね?」 すると三蔵郎らしき人物が発言し始める。 「最上級の妖女である貴様には通用しまいか…一瞬で見破られるとは…」 桜花姫は警戒した様子で恐る恐る後退りするなり…。 「はっ?あんたは一体何者なのよ?」 三蔵郎らしき人物は即答する。 「私が誰かって?私は死霊餓狼…半年前に貴様によって成仏させられた悪霊の片鱗とでも…」 「悪霊の片鱗?死霊餓狼ですって?」 桜花姫は何が何やら理解出来なかったのか珍紛漢紛だったのである。 「私は半年前に世界樹の霊魂巨神木に憑霊した悪霊…所謂悪霊の集合体だよ…」 「霊魂巨神木!?」 桜花姫は霊魂巨神木の一言にピクッと反応する。 「あんたが霊魂巨神木に憑霊した悪霊の正体だったのね…」 「無論であるが…貴様の神通力で霊体の九分九厘が浄化されたのは非常に無念であるぞ…」 「今現在のあんたは悪霊の集合体の…残滓なのね…」 死霊餓狼は余裕の態度であり表情が変化しない。 「如何やら今現在の貴様は半年前みたいに莫大なる神通力を使用出来ないみたいだな…最強の妖女である貴様さえ呪殺出来れば愚劣なる人間達の殲滅は片手間である…」 (今現在の僧侶の肉体が死滅したとしても…再度別の人間に憑霊するだけだからな♪誰であっても私は仕留められない…相手が崇徳丸の花嫁でも♪) 本来死霊餓狼の本体は不定形の霊体であり多種多様の生命体は勿論…。多種多様の器物にも憑霊出来る。 「自身を最上級の妖女と豪語する貴様でも…私が憑霊した僧侶には手出し出来ないであろう♪」 桜花姫はピクッと反応する。 (私でも三蔵郎様には妖術なんて使用出来ないわ…一体如何すれば…) 困惑した桜花姫に死霊餓狼は失笑したのである。 「如何やら貴様は本当に手出し出来ないみたいだな♪」 (崇徳丸の再来に憑霊したのは正解であったな♪憑霊したのが別人であれば猛反撃されただろうが…) 死霊餓狼は霊斬刀で桜花姫の右手首を斬撃…。 「きゃっ!」 掠り傷であったが桜花姫はバタッと横たわったのである。 「最上級の妖女である貴様にとって…こんな人間の僧侶は妖術を駆使すれば簡単に仕留められるのに勿体無いな♪所詮貴様は妖術が使用出来なければ何も出来ない小娘同然なのだ♪」 (三蔵郎様…) 極度の悲痛により桜花姫は精神的に参ったのか落涙する。 「崇徳丸の花嫁の再来よ…本日が貴様にとって命日である!貴様が家族と豪語する人間の僧侶によって貴様は惨殺されるのだ!」 (勿論貴様の家族である僧侶も呪殺するから無間地獄で再会出来るが♪) 霊斬刀で斬撃される寸前…。 「ぐっ!」 突如として両手が氷結したのである。 「なっ!?氷結だと!?」 死霊餓狼の両手が突然の氷結により両手が使用出来なくなる。 「えっ!?氷結?」 「危機一髪だったわね…桜花姫♪」 死霊餓狼の背後には水色の着物姿の花魁が佇立する。 (えっ?花魁?) 「誰なの?ひょっとしてあんたも妖女かしら?」 花魁は笑顔で…。 「私よ…私♪粉雪妖女の氷麗姫よ♪」 「えっ!?あんたは…粉雪妖女の氷麗姫だったの!?」 粉雪妖女の氷麗姫は口寄せの妖術で復活してからは花魁として活動中だったのである。雰囲気が以前とは別人であり桜花姫は驚愕する。 (花魁の正体が氷麗姫だったなんて…一瞬別人かと…) 「氷麗姫…如何してあんたが?」 「西国の村里から薄気味悪い霊力を察知したのよ…場所があんたの家屋敷だったのは正直意外だったけどね♪」 「半年前は敵対者だったあんたが私に助太刀するなんて…」 桜花姫は氷麗姫の行動に意外であると感じる。死霊餓狼は恐る恐る背後を凝視するなり氷麗姫を睥睨したのである。 「如何やら貴様も…妖女の小娘みたいだな…」 「あんたは人間の僧侶みたいだね…桜花姫に手出しするなら私は手加減しないわよ!」 「氷麗姫!三蔵郎様には手出ししないで!」 氷麗姫は強気の様子であったが桜花姫は氷麗姫に切願する。 「えっ!?僧侶はあんたを殺そうと…」 「三蔵郎様は悪霊に憑霊されただけなの!彼を殺さないで…」 氷麗姫は瞑目するなり…。 (彼自身は普通の人間なのに僧侶の肉体から亡者達の霊力が感じられるわね…) 「僧侶は極悪非道の悪霊に憑霊されちゃったのね…」 彼女は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。 「桜花姫?悪霊を除霊するとか…変化の妖術で僧侶を食い殺してから口寄せの妖術で再度僧侶を元通りに復活させるとか出来ないの?」 氷麗姫に問い掛けられた桜花姫であるが彼女は困惑した表情で…。 「生憎除霊の妖術は出来ないの…変化の妖術で三蔵郎様を桜餅に変化させて食べちゃえば簡単だけど…人一倍食いしん坊の私でも三蔵郎様を食い殺すなんて出来ないわ…」 (桜花姫にとって悪霊に憑霊された僧侶は余程大切なのね…) 氷麗姫は一瞬意外であると感じる。 (僧侶の身動きは封殺出来ても…私には除霊なんて出来ないし一体如何すれば?) 氷麗姫は困惑した直後…。 「如何やら間に合ったね♪」 「悪者は私が征伐するよ!」 「あんた達は蛇神の蛇骨鬼婆ちゃんと山猫妖女の小猫姫!?如何してあんた達が…」 「西国の村里から極悪非道の霊力を察知したからね♪」 蛇神の蛇骨鬼と山猫妖女の小猫姫も死霊餓狼の霊力を目印に桜花姫の家屋敷へと参上したのである。 「えっ?悪者は?」 小猫姫は家屋敷を警戒するものの…。 「小猫姫…悪者は…」 蛇骨鬼は苦笑いした表情で氷結により身動き出来なくなった三蔵郎を指差したのである。 「えっ?三蔵郎様でしょう?如何して刀剣を?」 蛇骨鬼は三蔵郎の肉体に憑霊した死霊餓狼を睥睨するなり…。 「死霊餓狼も執念深いね…最早戦乱時代は終焉したのに…」 (老婆の分際で…) 蛇骨鬼の発言に死霊餓狼は即答したのである。 「私を浄化したとしても愚劣なる人間達は未来永劫戦乱時代を頻発させる…愚劣なる人間達を全滅させなければ今後も自然界は汚染されるだけだぞ…」 (最早悪意の集合体である死霊餓狼に説得は無意味だね…) 死霊餓狼は亡者達の悪意の集合体であり説得は不可能であると判断する。 「覚悟しな…死霊餓狼…」 蛇骨鬼は左手が白蛇へと変化させるなり…。蛇骨鬼の白蛇が三蔵郎の肉体に接触したのである。直後…。 「ぐっ!」 (蛇神の蛇骨鬼…愚劣なる人間達によって迫害された純血の神族が人間達に加勢するとは…) 三蔵郎の肉体から不定形の黒雲が発生したのである。 「黒雲だわ…ひょっとして死霊餓狼の本体かしら?」 すると三蔵郎は意識が消失するなりバタッと横たわる。 「三蔵郎様が…」 「心配しなくても大丈夫だよ…死霊餓狼の霊体を除霊したから三蔵郎は一時的に気絶しただけだよ…」 すると小猫姫と氷麗姫がポカンとする。 「死霊餓狼の本体って?」 「私にも何が何やら…」 (小猫姫と氷麗姫には死霊餓狼の本体が認識出来ないのね…) 死霊餓狼の霊体を認識出来るのは特定の人物のみであり普通の人間は勿論…。凡庸の妖女でも死霊餓狼の霊体は認識出来ない。 「死霊餓狼の憑霊から無事に三蔵郎を解放したからかね…今度こそ桜花姫ちゃんの出番だよ♪」 桜花姫は蛇骨鬼の効力に驚愕する。 (物理的に三蔵郎様の肉体から死霊餓狼を除霊させちゃうなんて…) 驚愕した桜花姫であるが即座に変化の妖術を発動…。 「死霊餓狼!桜餅に変化しちゃえ!」 すると不定形の霊体である死霊餓狼がポンッと小皿と桜餅に変化したのである。小猫姫と氷麗姫は桜餅として実体化した死霊餓狼を直視するなり…。 「えっ!?突然桜餅が!?」 「霊体さえも桜餅に変化させちゃうなんて…桜花姫は天道の化身かしら?」 小猫姫と氷麗姫は苦笑いする。桜花姫はパクっと実体化した桜餅を頬張る。 「悪霊でも桜餅に変化させると美味だわ♪」 「本日で戦乱時代の因縁を完全に浄化させたね…桜花姫ちゃん♪」 小猫姫は蛇骨鬼に問い掛ける。 「蛇骨鬼婆ちゃん?結局死霊餓狼って何者だったの?」 「死霊餓狼は戦乱時代に人間に殺された野犬の悪霊だよ…自然界から誕生した悪霊で多種多様の怨念を吸収するから多種多様の悪霊を実体化させられるのさ♪所謂亡者達の悪意の集合体だね…」 「今迄に出現した悪霊は死霊餓狼が復活させたの?」 「勿論♪半年前に霊魂巨神木に憑霊して大量の悪霊を復活させたのも死霊餓狼の霊体だからね…半年前は桜花姫ちゃんと小猫姫の力戦で霊体の九分九厘を成仏させられたけど…今回は霊体の片鱗が三蔵郎に憑霊したみたいだね…」 すると蛇骨鬼は小声でボソッと発言したのである。 「千年前の元祖妖女…桃子姫が健康体なら死霊餓狼は完全に浄化されたのだけれどね…彼女は病弱だったから死霊餓狼を浄化し切れなかった…」 「桃子姫って誰なのよ?」 一同は桃子姫の名前に反応する。 「桃子姫は…所謂桜花姫ちゃんの前世だよ…」 桜花姫の前世の一言に一同は驚愕したのである。 「えっ!?桃子姫って妖女が桜花姫姉ちゃんの前世なの!?」 「桜花姫の前世が…元祖妖女ですって!?」 「桃子姫って妖女が…私の…前世?」 「桃子姫はね…」 蛇骨鬼は千年前の伝承である桃子姫の伝説を一部始終力説する。桃子姫の伝説を傾聴した一同は絶句したのである。 「想像以上に壮絶だったのね…戦乱時代って…」 (別に沈黙しなくても…) 沈黙した一同に蛇骨鬼は苦笑いする。 「何よりも今回で死霊餓狼は完全に浄化されたからね♪金輪際太平神国では悪霊は出現しなくなるだろうよ♪」 「えっ…」 「悪霊は金輪際出現しないのね♪」 「一安心だね♪」 小猫姫と氷麗姫は大喜びするものの…。桜花姫はパッとしなかったのか寂然の表情だったのである。こんな彼女に蛇骨鬼は恐る恐る問い掛ける。 「桜花姫ちゃん?大丈夫かい?」 「大丈夫だけれど…正直…悪霊征伐が出来なくなるから…今後は退屈だなって…」 桜花姫の発言に氷麗姫は呆れ果てる。 (退屈って…) 「あんたはお馬鹿さんね…悪霊なんて四六時中出現されたら傍迷惑でしょう!私は懲り懲りだわ!」 蛇骨鬼がボソッと発言したのである。 「今回で死霊餓狼が完全に浄化されたとしても…人間達が再度戦乱時代を頻発させた場合は第二…第三の死霊餓狼が出現するかも知れないからね…戦乱時代は絶対に阻止しないと…」 「勿論だよ!蛇骨鬼婆ちゃん!今後は私も桜花姫姉ちゃんと一緒に悪者を征伐するから安心してね!」 豪語する小猫姫に氷麗姫は苦笑いする。 (化け猫のお嬢ちゃんは…二代目の桜花姫だね…) 沈黙する桜花姫に蛇骨鬼が…。 「桜花姫ちゃんよ…あんたは金輪際匪賊征伐に専念しな♪」 桜花姫はボソッと返答する。 「勿論よ…蛇骨鬼婆ちゃん…」 すると直後…。気絶した三蔵郎が恐る恐る目覚める。 「三蔵郎様!?」 「如何やら彼が目覚めたみたいだね…」 「えっ?私は今迄一体何を?」 三蔵郎は警戒した様子でハッとするなり…。 「桜花姫様ですか!?悪霊は!?即刻悪霊を征伐しなくては!」 蛇骨鬼は笑顔でポンっと接触する。 「一安心しな…悪霊なら桜花姫ちゃんが成仏させたからあんたが心配しなくても大丈夫だよ♪」 「えっ!?桜花姫様が…悪霊を成仏させられたのですか…」 三蔵郎は一安心したのかホッとしたのである。 「桜花姫様の妖術で悪霊は無事に征伐されたのですね…一件落着ですな♪」 すると桜花姫は落涙するなり…。 「うわっ!桜花姫様!?」 桜花姫は力一杯三蔵郎の腹部に密着したのである。 「一体如何されましたか?」 「三蔵郎様!」 (桜花姫様…) 氷麗姫が恐る恐る三蔵郎に近寄る。 「あんたの名前は三蔵郎だったわね…」 「私は三蔵郎ですが…一体如何されましたか?」 氷麗姫は三蔵郎を睥睨するなり…。 「三蔵郎は悪霊に憑霊されちゃったみたいだけどあんたは桜花姫に手出しする寸前だったのよ…あんたは即刻桜花姫に謝罪しなさい!下手すれば桜花姫は殺されるかも知れなかったのよ…」 「えっ!?僧侶である私が…桜花姫様を殺そうと…」 三蔵郎は絶句したのである。 (私が…桜花姫様に…) 三蔵郎の涙腺から涙が零れ落ちる。 「今回は私にとって人生最大の過誤です…」 落涙する三蔵郎に桜花姫は笑顔で…。 「三蔵郎様…気にしないで♪」 「ですが桜花姫様…私は…」 「三蔵郎様は悪霊に憑霊されただけだから三蔵郎様は何も悪くないわよ♪三蔵郎様が無事で何よりだから♪」 「私は悪霊によって憑霊されたかも知れませんが桜花姫様に手出ししたのは事実みたいですし…私にとって今回の過誤は一生の不覚です…」 「気にしないの♪三蔵郎様♪」 「ですが私は桜花姫様に贖罪しなければ!」 彼自身今回の罪悪を贖罪しなければ一生後悔するのではと感じる。すると桜花姫は笑顔で発言するなり…。 「三蔵郎様が如何しても贖罪したいのであれば…和菓子屋で桜餅を頬張らせてよ♪」 「えっ!?桜餅って…」 「贖罪が桜餅なんて…」 (桜花姫ちゃんらしいね…) 桜花姫の発言に一同はポカンとした反応である。 「贖罪は贖罪でも桜花姫にとっての贖罪は非常に軽薄なのね…」 (桜花姫らしいけれども…) 一同は苦笑いする。 「三蔵郎様♪即刻東国の和菓子屋に直行しましょう♪」 「勿論ですとも♪桜花姫様♪」 桜花姫と三蔵郎は東国の和菓子屋へと直行したのである。 完結
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