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[672] piece to Peace
日時: 2013/09/08 00:06
名前: calu

         ■□■□ piece to Peace  ■□■□


 目覚めたわたしに光は届かない。
 わたしを待っているものは頭のなかの疼痛。
 疲弊し切った胡乱な意識の底に打ち込まれた余韻のような鈍い痛み。
 その根本を弄って、わたしはかすかな記憶の糸をたぐる。
 色んな思考が交わっていたような気がする。
 わたしは何かを見つけ、それを掴もうとして。…掴もうとして。
 でもその瞬間、何かに追い立てられるように、覚醒が訪れる。
 そして、いつものプロセスをただなぞっている自分にいつしか気付いている。
 目覚めはわたしから全てを剥ぎ取り、手順に沿ってわたしを構成する。
 そして残されるものは、空虚。遡及すべき記憶は残滓さえ見当たらない。
 一切を切り取られた虚ろな思考だけが、わたしを支配している。
 それが、わたしと言われるモノ。

 簡易ベッドを澱みない動作で抜けだしたわたしは、いつもの手順でいつもの衣装を身に着ける。 
 小さなシンクで洗面を済ませると、ふたたび簡易ベッドに腰を下ろした。
 いつもと変わらない午前7時の朝。
 あとは所定の場所に行き、そこで発せられるであろう命令を待つだけだ。
 時計の秒針の音だけが浮遊する空間に、遠くで響くピアノといわれる楽器の音が色をつけ始めた。
 それに気付いたのは最近のこと。
 ふたたび腰を上げたわたしは、おもむろにサインペンを手に取った。
 壁に掛ったカレンダーの今日の日付を×印で塗りつぶすために。


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Re: piece to Peace ( No.35 )
日時: 2013/12/28 14:37
名前: calu

                  ▲▽▲▽   ▲▽▲▽




「…あ、碇くん」
「あ、綾波。…だ大丈夫、怖くないからね」
「……碇くん…イヤ」
「だ、大丈夫だからさ…もう少し力を抜いて…」
「………あ、ダメ」
「…で、でも」
「………」
「……」
「…」



「お前さんたち…何やってんだい?」

 殆ど意味不明な奇声をあげ、シンジは大きく跳んだ。背後から唐突にかけられた声に条件反射的
に振り返った先に、途轍もなく恐ろしい顔が晒された生首が如く闇夜に浮かび上がっていたからだ。

「で、出たー!」
「なんでえなんでえ、出たは無えだろう。お化けじゃあるめえし」
「…え、た高雄さん?」
「おうよ。俺だよ。何をそんなに驚いてんだよ?」
「その、あまりにも顔が怖か―いや、突然声をかけられたから」
「なんかモチベーション下がるよなー。わざわざお前さんたちの後を追って届けに来たのによぉ」

 え? と顔をあげたシンジの鼻先に、ホラよと差し出されたのは一本のポン酢。実のところ、先
ほどから其処彼処を探しまくっていたのだが、どうしても見つからず本格的に焦りはじめていたと
ころだ。ポン酢抜きの水炊きなど考えられないのだ。

「そうだったんだ…持って帰るのを忘れちゃったんだ」
「だろうな。レジんところにポツンと残されていたからな…でもな、コレが無きゃ水炊きなんて出
来っこねえだろ? ほんでもってレイちゃんとこにはシューターなんて気の利いたもん通ってねえ
しよぉ、店のシャッター慌てて閉めて持ってきたのによぉ。虎の子みたく旭ポン酢抱えて来た俺に
開口一番、出たー、なんだもんなぁ…」
「ごゴメンナサイ…少し立て込んでて…高雄さんが来たのに、その、全然気付かなくて」 
「なんだぁ? 立て込んでたぁ?」 
「…いえ、綾波がお豆腐を取ろうとしたんだけど…お箸で上手く掬えなかったんで…僕はただ、そ
の…手伝おうと」
「ほお、それでそんなにレイちゃんに密着して、手取り足取り腰取り胸――」

 ちち違うんですっ、これには訳が、と言い繕おうとするシンジはシドロモドロだ。一体どんな訳
があるというのだ。
 そんなシンジを一笑に付したスキンヘッドは、まあそんなこたぁどうでもいいけどよ、そんな時
はコレだ、と陶器製の大きなスプーンのようなものをシンジに差し出した。

「こ、これは?」
「まあ、湯豆腐用のレンゲ、みたいなモンかな? 多少ご都合主義的ではあるがな、まあ使ってみな」

 高雄から受け取ったレンゲをチェックしてみると、大ぶりの皿の部分に幾つかの穴が開いている。
これなら豆腐だけを上手く掬えそうだ。早速、シンジはレイが所在無げに宙に漂わせている箸とレ
ンゲを交換してやった。レイは、その白いレンゲと暫くの間にらめっこした後、徐にそれを豆腐に
近付ける。

「…掬えたわ」

 ヨシッ、と開閉していた左手を握りしめたシンジは、レイとのスキンシップ―もといレイの食事
のお手伝いに意識を囚われ青葱を刻むのを忘れていた事実に天を仰いだ。それでも、こいつはオマ
ケだ、と精妙なタイミングで高雄から差し出された七味に大いに救済されることとなる。
 次から次へとマジシャンのように色々なものを出してくる魁偉の男。シンジはネルフ購買部にあ
ってコンシェルジュと呼ばれる男の真髄を垣間見た気がした。

「それじゃ俺は帰るぜ、邪魔したな」
「…あ、あの」

 

 
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