桜花姫 ( No.35 ) |
- 日時: 2021/08/17 09:48
- 名前: 月影桜花姫
- 第三部
第一話
桜花
天地暦三千九百九十二年四月四日の真夜中…。東国武士団の夜番警備隊であった月影夜叉丸は東国の国境より出現した悪霊を征伐しに出掛ける。 「東国に悪霊が出現したか…」 近頃は悪霊の出現頻度が頻繁であり常日頃から多忙である夜叉丸は非常に苛立ったのである。東国武士団は悪霊征伐に対応出来る夜番警備隊を結成させるのだが…。安穏時代は長年の平和の弊害からか凄腕の剣豪は一握りだったのである。唯一剣豪と畏怖される武家一族の月影一族名手…。月影夜叉丸が悪霊征伐専門の夜番警備隊に抜擢されたのである。夜叉丸は安穏時代の太平神国では一番の剣豪であり彼に対抗出来る剣豪は今現在皆無とも断言出来る。性格は非常に生真面目で人一倍厳格であり一人での活動が大半であり仲間達からは一匹狼とも揶揄される。一時間後…。夜叉丸は東国の国境に到達する。 「悪霊が出現するって…噂話の場所だな…」 夜叉丸は周囲を警戒するのだが…。周囲は暗闇の自然林ばかりで何も確認出来ない。 「悪霊が出現しそうな雰囲気であるが…」 数秒後…。突発的にゾッとしたのか極度の胸騒ぎを感じる。 (突然胸騒ぎが…) 「一体何が出現する?」 すると背後の地中より数体の食人餓鬼が出現したのである。 「此奴は食人餓鬼か…」 夜叉丸は即座に護身用の刀剣を抜刀するなり…。 「悪霊よ…即刻征伐する…」 護身用の刀剣を抜刀した夜叉丸は神速の身動きで食人餓鬼に接近すると斬撃したのである。頭首を斬撃された食人餓鬼は身動きしなくなる。一体の食人餓鬼を仕留めるのだが…。 「恐怖を感じられないのか?」 食人餓鬼は恐怖心が皆無であり彼等の大群は只管に夜叉丸へと殺到する。 「死滅せよ!」 夜叉丸は神速の身動きにより自身に殺到し続ける食人餓鬼を全滅させる。 「貴様達程度で私を食い殺そうなんて片腹痛いわ…」 自宅へと戻ろうかと思いきや…。背後より無数の殺気を感じる。 「ん?今度は…」 夜叉丸は警戒した様子で恐る恐る背後を確認したのである。 「此奴は…」 背後には無数の食人餓鬼が融合化した肉団子の怪物がノソノソと夜叉丸に近寄る。 「此奴は悪霊の集合体…百鬼食人餓鬼か…」 夜叉丸の背後に出現したのは無数の食人餓鬼が一体化した肉塊の悪霊…。百鬼食人餓鬼である。 「悪霊の親玉が出現するとは…」 百鬼食人餓鬼の体表に確認出来る無数の食人餓鬼の頭部が夜叉丸を凝視するなり…。口先から猛毒の瘴気を放射したのである。百鬼食人餓鬼の瘴気は黒煙であり黒煙に接触した地面…。周囲の植物が枯死したのである。 (此奴は瘴気か…) 純血の人間である夜叉丸にとって百鬼食人餓鬼の瘴気は致命傷であり僅少でも体内に吸収すれば毒死は回避出来ない。夜叉丸は呼吸を我慢した状態で百鬼食人餓鬼に接近したのである。 (成仏せよ!) 百鬼食人餓鬼の胴体を一刀両断…。両断された百鬼食人餓鬼は肉片がバラバラに散乱すると無数の食人餓鬼へと変化する。同時に瘴気は自然と浄化されたのである。 (瘴気は浄化されたが…) 「百鬼食人餓鬼の肉片から無数の食人餓鬼に変化するとは…」 無数の食人餓鬼が夜叉丸に殺到する。 「覚悟しろ!悪霊!」 数秒間で出現した無数の食人餓鬼を仕留めたのである。 「片付けたか…」 すると国境の殺気も感じられなくなる。 「如何やら無事に終了したか…」 無事に事件は解決…。夜叉丸は西国の自宅へと戻ったのである。 「夜叉丸様…お帰りなさい…」 「美海姫か…」 美海姫は真珠の耳装飾と群青色の着物が特徴的であり頭髪は黒毛の長髪…。両目は半透明の血紅色である。自宅へと戻った夜叉丸に女房の美海姫は恐る恐る…。 「今夜も無事に戻られましたね…」 美海姫は夜叉丸に緑茶を手渡したのである。夜叉丸は肥大化した美海姫の下腹を恐る恐る凝視するなり…。 「以前よりも満月みたいだな…」 「えっ…満月ですか?」 夜叉丸の発言に美海姫は赤面する。 「数日後に私達の赤ちゃんが誕生しますよ♪」 「数日後には…俺も父親なのか…」 普段は厳格の夜叉丸であるが…。今日の夜叉丸は普段の彼とは別人みたいに穏和だったのである。 (夜叉丸様♪) 夜叉丸の様子に美海姫はニコッと微笑む。すると夜叉丸は恐る恐る…。 「美海姫…明日は久方振りに近辺の川辺で散歩しないか?」 「えっ?」 夜叉丸の発言に美海姫は一瞬驚愕する。夜叉丸は基本的に一人で行動するのが大半であり自宅でも食事以外は単独行動が日常茶飯事だったのである。 「駄目か?」 「駄目なんて…一緒に散歩しましょう♪」 (夜叉丸様と散歩なんて♪) 美海姫は内心大喜びする。翌日の真昼…。夜叉丸と美海姫は近辺の川辺を散歩したのである。周囲は川音と風音の音色が村里全体に響き渡り…。満開に開花した桜花の樹木が川辺に確認出来る。夜叉丸は満開に開花した桜花の樹木を直視したのである。 「桜花の樹木が満開だな…」 「魅了されますね♪」 桜花の樹木に二人は感動する。すると桜花の樹木に魅了された夜叉丸は恐る恐る…。 「美海姫?」 「如何されましたか?夜叉丸様?」 夜叉丸は一瞬沈黙するのだがボソッと発言する。 「子供の名前だが…女の子だったら…桜花姫なんて如何かな?」 「えっ…桜花姫ですか?」 美海姫は一瞬沈黙するが…。ニコッと微笑んだのである。 「桜花姫♪春季の天女みたいで可愛らしい名前ですね♪」 「えっ!?桜花姫で大丈夫なのか?」 ハッとした表情の夜叉丸に美海姫は笑顔で即答する。 「勿論…私は大賛成ですよ♪」 「大賛成か…」 夜叉丸はホッとした表情であり内心大喜びしたのである。 「私自身は純血の妖女だから…多分子供は女の子でしょうね…」 基本的に妖女は同種の妖女しか出産出来ない。すると夜叉丸は恐る恐る問い掛ける。 「美海姫よ…」 「如何されましたか?」 「美海姫は俺と一緒で幸福だったか?」 「えっ?突然如何されたのでしょうか!?」 突然の夜叉丸の問い掛けに美海姫は吃驚したのである。 「俺は…人一倍一匹狼の性格だからな…正直気難しいかなって…」 (夜叉丸様…自分の性格が気になるのかしら?) すると美海姫は笑顔で返答する。 「私は今現在でも幸福ですよ♪私が夜叉丸様に見惚れたのですから♪三年前に夜叉丸様と対面しなければ私は今頃悪霊に食い殺されたでしょう…」 美海姫は三年前の真夜中の散歩中に悪霊と遭遇…。食い殺される寸前に夜番警備隊の夜叉丸に守護され夜叉丸に見惚れたのである。 「美海姫は単純だな…」 美海姫は赤面する。 「ですが三年前の悪霊事件に遭遇しなければ…私は夜叉丸様とは婚姻出来なかったのですからね♪」 「殺されたかも知れないからな…」 二人は自宅へと戻ったのである。翌日の早朝…。薬屋の蛇骨鬼が月影家の武家屋敷へと訪問する。 「邪魔するよ♪」 「蛇骨鬼婆様♪久し振りですね♪」 美海姫は蛇骨鬼との久方振りの再会に大喜びしたのである。 「美海姫ちゃんよ♪あんたが元気そうで安心したよ♪」 美海姫の元気そうな様子に蛇骨鬼は一安心する。 「ん?あんたの亭主は?」 「夜叉丸様なら東国の鎮守府に出掛けましたよ…」 「好都合だね…」 蛇骨鬼はホッとしたのである。 「本日は如何されたのでしょうか?」 問い掛けられた蛇骨鬼は即答する。 「あんたが月影夜叉丸って人間の武士と婚姻してから元気なのか如何なのか確認したかったのさ♪」 「私は毎日元気ですよ♪蛇骨鬼婆様は心配性ですね♪」 美海姫は笑顔で返答したのである。 「私でも心配するよ!あんたは天女の村里では一番の気弱で病弱だったからね…」 天女の村里とは南国に存在する小村落地帯であり両親を亡くした孤児達は勿論…。迫害された妖女の子供達が生活する安住の居住地である。幼少期では美海姫も蛇骨鬼に世話され…。南国の天女の村里で生活したのである。弱肉強食の戦乱時代では各地の戦乱やら疫病によって両親を亡くした大勢の孤児達を蛇骨鬼が養護…。子供達を世話したのである。 「人一倍気弱で病弱だったあんたが…数日後には一児の母親とはね♪」 美海姫は赤面した表情で…。 「私にも子供が出来ますからね♪」 すると蛇骨鬼はボソッと発言する。 「私も初孫と対面したいね♪」 「えっ?初孫ですって?」 蛇骨鬼の初孫の一言に反応したのである。 「初孫は初孫だよ!私にとってあんたは愛娘だからね♪当然としてあんたの愛娘は私にとって初孫だよ♪」 「蛇骨鬼婆様…」 美海姫は苦笑いする。 「何よりもあんたが元気そうで安心したよ♪私は退散するね♪」 蛇骨鬼は南国へと戻ったのである。 「蛇骨鬼婆様も元気そうで何よりだわ…」 翌日の真夜中…。夜叉丸は不吉の気配を察知したのである。 (殺気か!?) 警戒した様子で刀剣を所持…。外出したのである。美海姫は熟睡中であったがゴソゴソッと物音に気付いたのか目覚める。 「えっ?夜叉丸様は?」 屏風の刀剣と甲冑が無かったのである。 「ひょっとして夜叉丸様…」 外出したのであると察知する。同時刻…。夜叉丸は近辺に位置する廃神社にて無数の殺気を察知したのである。 「廃神社か…」 (ひょっとして悪霊の大群か!?) 暗闇の廃神社へと到達するのだが…。廃神社には無数の食人餓鬼の血肉が散乱する。廃神社の中心部には藍色の着物姿…。木刀を所持した小柄の花魁が確認出来る。 (彼女は花魁なのか?) こんなにも真夜中に女性が一人で出歩くのを不自然に感じる。夜叉丸は恐る恐る…。 「悪霊が…貴様が退治したのか?」 問い掛けられた女性は背後の夜叉丸を直視する。 「貴様は…人間の武士だな…」 女性は両目が半透明の群青色であり姿形は人間であるが…。雰囲気から人間とは別物であると察知する。 (此奴…) 「女人…貴様は人間でも悪霊でも無さそうだな…一体何者だ?」 すると花魁は名前を名乗る。 「私は【冥王鬼】…神族の一員だ…」 「なっ!?貴様…神族だと!?」 自身を神族の一員と名乗る冥王鬼に夜叉丸は驚愕したのである。何故なら旧世界を支配した神族であるが戦乱時代以前の太古の大昔に人間達との大戦で敗北…。過半数以上の神族が人間達により殺され今現在生存を確認出来る神族は実質太平神国出身者の蛇骨鬼のみである。 「伝承では蛇骨鬼以外の神族は全員殺されたと…」 「如何やら今現在は間違った認識が出回ったみたいだな…人間達との大戦で瀕死だった私は同胞達と一緒に異国の土地で肉体を回復させたのだ…」 冥王鬼は数万年前…。人間達との大戦で瀕死の状態であり同胞と一緒に異国の土地へと逃亡したのである。 「瀕死から復活した私は以前よりも肉体が強化されたのだ…手始めに神聖なる土地に蔓延する虫けらを蹴散らしたが…こんな奴等では強化された私の実力を発揮するには力不足である…」 冥王鬼は夜叉丸を直視するなり…。 「人間であるが相当の実力者である貴様であれば…地面の薄汚い害虫よりは私の実力を発揮出来そうだな…」 冥王鬼の雰囲気に圧倒されたのか夜叉丸は恐る恐る後退りする。 (此奴は悪霊よりも厄介そうだ…人間の私では対処出来ない…) 夜叉丸は恐る恐る刀剣を抜刀したのである。 「相手が神族でも…」 (私が此奴を阻止しなければ…西国は勿論…何よりも美海姫と…桜花姫が…) 相手が自身よりも強大であっても阻止しなければ西国は勿論…。女房の美海姫と愛娘の桜花姫が殺害されるのは明白である。夜叉丸は冥王鬼に睥睨するなり…。 (姿形は女人でも…) 「冥王鬼とやら!覚悟しろ!」 神速の身動きによって冥王鬼に急接近すると即座に斬撃したのである。すると冥王鬼は自身の木刀で間一髪ガードする。 「貴様…人間としては非常に強力だな…」 直後…。 「なっ!?」 (此奴…木刀で…) 摩訶不思議の超常現象により夜叉丸の鋼鉄の刀剣がパリッと屈折したのである。 (妖術か!?) 「私の刀剣が一瞬で…」 突然の超常現象に夜叉丸はハッとしたのか全身が膠着する。 「貴様が不思議がるのも当然であるな…私の木刀は世界樹の霊魂巨神木の小枝で形作られた神剣だ…」 「霊魂巨神木だと?」 冥王鬼の所持する木刀は世界樹の霊魂巨神木から形作られた代物であり鋼鉄をも上回る硬質さである。 「私の木刀は鋼鉄をも上回る…死滅しろ!」 夜叉丸はザクッと腹部を斬撃され…。 「ぐっ!」 (木刀で…) 地面に横たわったのである。 「所詮貴様は脆弱なる人間だ…神族の一員である私には勝利出来ない…死滅せよ…無力の人間…」 直後…。冥王鬼は身動きしなくなる。 「今更瀕死の貴様を殺しても無意味だ…失血死するのだな…」 すると夜叉丸は恐る恐る問い掛ける。 「貴様は…一体…何が目的だ?」 「私の目的だと?」 冥王鬼は即答する。 「太古の大昔に存在した…神族の神世界を再興させるだけだ…数万年前の大戦で私達神族は貴様達人間によって駆逐されたのだ…」 古代時代当時の神族は多種多様の超能力を所持した最強の少数民族であったが…。大勢の人間達を相手するには多勢に無勢であり大勢の神族が迫害され惨殺されたのである。 「今現在の強大化した私であれば…一国程度なら一日で破滅させられる…」 「私達…人間に…復讐するのか?あんたは…」 夜叉丸が問い掛けると冥王鬼は即答する。 「即刻全滅させたいが…幸運にも太平神国には無数の悪霊が蔓延中であるからな…彼等によって貴様達人間が駆逐されるのも時間の問題だ…私が手出しせずとも太平神国は無数の悪霊によって死滅させられるであろう…」 すると冥王鬼の姿形がパッと消失…。冥王鬼は退散したのである。 (畜生…迂闊だった…) 夜叉丸は血塗れの状態であるが…。 「ぐっ…」 (美海姫…) 夜叉丸は瀕死の状態で自宅へと戻ったのである。地面には傷口の鮮血がポトポトッと出血し続ける。 「ぐっ!」 (視界が…) 出血多量により視界が黒化…。 (今夜が俺の命日とは…畜生…) 全身がフラフラしたのである。夜叉丸は自宅の玄関へと到達するのだが…。バタッと力尽きる。 (美海姫…桜花姫…) 夜叉丸は衰弱化したのである。 (畜生が…明日は桜花姫の出産日かも知れないのに…桜花姫を抱けないのは…心残りだな…) 直後…。夜叉丸は息絶えたのである。玄関口の物音に気付いた美海姫は即座に玄関へと移動するなり…。 「えっ?夜叉丸様…夜叉丸様!?」 美海姫は夜叉丸に接触すると失血死したのだと察知する。 (えっ…如何して…夜叉丸様が…) 「夜叉丸様…如何して…」 涙腺より涙が零れ落ちる。夜叉丸が死去したのは桜花姫の誕生日の前日だったのである。夜叉丸が死去した翌朝…。愛娘の桜花姫が誕生したのである。
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