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[672] piece to Peace
日時: 2013/09/08 00:06
名前: calu

         ■□■□ piece to Peace  ■□■□


 目覚めたわたしに光は届かない。
 わたしを待っているものは頭のなかの疼痛。
 疲弊し切った胡乱な意識の底に打ち込まれた余韻のような鈍い痛み。
 その根本を弄って、わたしはかすかな記憶の糸をたぐる。
 色んな思考が交わっていたような気がする。
 わたしは何かを見つけ、それを掴もうとして。…掴もうとして。
 でもその瞬間、何かに追い立てられるように、覚醒が訪れる。
 そして、いつものプロセスをただなぞっている自分にいつしか気付いている。
 目覚めはわたしから全てを剥ぎ取り、手順に沿ってわたしを構成する。
 そして残されるものは、空虚。遡及すべき記憶は残滓さえ見当たらない。
 一切を切り取られた虚ろな思考だけが、わたしを支配している。
 それが、わたしと言われるモノ。

 簡易ベッドを澱みない動作で抜けだしたわたしは、いつもの手順でいつもの衣装を身に着ける。 
 小さなシンクで洗面を済ませると、ふたたび簡易ベッドに腰を下ろした。
 いつもと変わらない午前7時の朝。
 あとは所定の場所に行き、そこで発せられるであろう命令を待つだけだ。
 時計の秒針の音だけが浮遊する空間に、遠くで響くピアノといわれる楽器の音が色をつけ始めた。
 それに気付いたのは最近のこと。
 ふたたび腰を上げたわたしは、おもむろにサインペンを手に取った。
 壁に掛ったカレンダーの今日の日付を×印で塗りつぶすために。


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Re: piece to Peace ( No.39 )
日時: 2013/12/31 01:11
名前: calu

          
                   ■□■□ ■□■□



「敵!?」

 回廊を振り返ったレイがその先を見据えたのは僅かに数秒間のこと。携帯端末に応答するまでも無か
った。端末の電源を切った後にペン型の発信機を作動させたレイは、加賀と衣笠が警備フォーメーション
につく正面ロビーへと駆けだした。陽光に白濁する回廊を激しく打つレイのブーツの音に断続的に唸り
をあげる機銃掃射の発射音が重なる。無数ともいえる鈍い着弾音に悲鳴にも似た硝子の粉砕音が続
くと、長く尾を曳く跳弾音が不吉に大気を裂いた。

「!」

 白亜の回廊からロビーへと身を躍らせたレイは、目にも留まらぬ俊敏な動作で身を柱の陰に寄せ、
スタンディングポジションを展開する。SCAR-Hのコッキングレバーを作動させるとロビー全体に視線
を走らせ、そしてその変貌に瞠目した。
 
「加賀一尉! 衣笠一尉!」

 レイの声に呼応するように半ば粉砕された正面ロビーのガラスが瓦解すると、その向こう側でぎり
ぎりまで低くしたニーリングポジションでアサルトライフルを構える衣笠の背が姿を現した。その左腕
の上腕部から滲む血が暗い隊員服の表面をてらてらと艶めかしく光らせている。

「衣笠一尉!」
「リーダー」

 先ほどまでとは異なる地底から湧いてきたような低い声の主は初老の総務局員だった。レイが身を
隠す柱の数メートル前方の柱の陰でアサルトライフルを構えている。

「加賀一尉!」 
「衣笠一尉が狙撃されました。初弾は正面玄関前を警護していた衣笠一尉の左上腕部に着弾。有視
界圏内である丘陵地までのほぼ500m以内には敵の姿は確認出来ませんでしたので、7.62mmNATO弾
を使った遠距離狙撃だと考えます。もっとも次弾で私を撃ち損じて以降、セミオートで派手に撃ちこまれて
ロビー内はこの有様ですが」
「衣笠一尉、の怪我の状態は?」
「フルメタルジャケット弾でした。抜けているので大丈夫です。腕を持っていかれたわけではありません。
まだやれます」

 レイに状況を細かく説明しながらも、険しくなった加賀の目は正面玄関から小路が伸びる丘陵地や
その周辺を抜け目なく確認している。さらに断続的に撃ちこまれた銃弾が、加賀が身を寄せる柱に
火花を散らし、レイのすぐ傍にある外来用ソファーに着弾した。ロビー前の植栽ブロックに身を潜め
る衣笠がアサルトライフルで応射する。

「衣笠一尉の手当てが必要だわ」
「リーダー、今動けば危険です。じきに連中が姿を見せます。それまでは――」

 加賀が言葉を詰まらせたのは、丘の上に姿を現した敵を見たからに他ならない。今、風に吹かれ
て緑鮮やかな彩色を揺れ動かす芝の上に悠然とその姿を晒しているのは装輪装甲車ストライカー
だった。次いで近接戦闘要員らしき歩兵が蜘蛛の子のように散開した。

「SBCT機械化歩兵部隊!? 連中、本当にヴィレなのか? …第3の少年の奪取が目的じゃあ」
「加賀一尉、わたしが衣笠一尉を」

 いいえ、と頭を振った加賀はふいにその表情を緩めた。

「リーダーは、警護対象者の病室に、お願いします」
「え?」
「ここは衣笠と私とで何とか持ちこたえますので」
「それはダメ。二人で戦える相手では」
「リーダー、側面から接近した敵が病室に続く回廊を破って侵入してくることも十分考えられます」
「その通りだと思う…でも」
「リーダー、あなたの役割は、初号機パイロットを守る。違いますか?」
「……」
「なあに、簡単にはやられませんよ。警護対象者は勿論、リーダー、そしてこの状況の中で人を生
かす為に闘っている千代田婦長の為にも、です」
「解ったわ……警護対象者の病室に向かいます。でも…」
「はい?」
「…ふたりとも死なないで。お願い、だから」
「心配には及びません。じきに渚カヲルの部隊も到着します。さあ、今です、リーダー。我々が援護
するので、お行きください! 初号機パイロットのもとに!」

 レイが前方に顔を向けると、植栽のブロックに背を預けていた衣笠がやや姿勢を正して敬礼して
いた。返礼したレイは、緋色の眸にその若者の眩げな笑顔を刹那映した後、やおら回廊へと駆け
出した。 

 より激しくなった敵からの機銃掃射による銃弾が降りしだく中、加賀と眼で合図を交わした衣笠は
傍にあるリュックを手繰り寄せると、中から弾倉帯にも似たベルトを取り出し素早く腰部に装着した。

「衣笠、傷はどうだ、痛むか?」
「大丈夫です。かすり傷です、こんなの」
「そうか、撃たれた上に悪いが装甲車を頼む。あとは俺が引き受けた。渚君が到着するまでは、
何とか持ちこたえる」
「解ってますよ…これまで息を潜めてきた我々の出番がやっと来たんです。…いやあ、それにしても
考えてたよりハードだ。香取さんもオリジナルのガードは大変だって言ってたけど…」
「何だぁ、何か言ったか?」
「いいえ、何でもありません」

 ひとつ息を吐くと、衣笠は慇懃な所作で帽子をかぶり直した。

「…リーダー、短い間でしたが」

 そして、シンジの病室につづく回廊に向けて今いちど敬礼した。

「元、諜報二課ガード作業チーム長門班 衣笠徹、行きます!」

 60キロものC-4が装着された弾倉ベルトをものともせず、豹のような身のこなしで植栽ブロック
を飛び越した衣笠は、飛び交う銃弾の下を人間業とは思えない俊敏さで駆け抜け、SUVの陰に
停められたオフロードバイクに飛びついた。


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