[567] 指定席 100913
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- 日時: 2010/09/13 01:03
- 名前: aba-m.a-kkv
「鳥になるのも、いいねえ」
窓に寄りかかって空を見上げると、青空の向こうに鳥の群れのシルエットが見えて僕はそう呟いた。
指定席 100913 aba-m.a-kkv
「あれだけ広い空を、ああも自由に飛び回れるんだからね」
そう言って振り返ると亜麻色の髪を冠した僕のパートナーが頬杖を付きながら眠たそうに相槌を打つ。
確かに、この昼下がりの陽気は眠気を誘うには十分だ。
暑い夏も過ぎて、肌の上を滑る風も心地よく涼しい。
「あるいは魚というのも面白そうだ」
空色を海に重ねながら僕は、そんな彼女の状態には特に気を留めない振りをして言葉を続ける。
空に生きるものと来れば、次は海の生き物だろう。
あの日の僕たちと彼らの選択で、赤い海もいまでは本来の色を取り戻している。
「陸よりも広大なあの海を、しかもあの水の中をああも優雅に泳ぎ回れるんだからね」
再び、空から彼女のほうへと視線を向ける。
うつ伏せに寝そべった彼女の表情は読み取れないが、せっかくの昼寝を止められてイライラしているのはわかる。
返す返事もさっきよりぞんざいになった。
「近所の猫を見ていると、それもいいかなと思うね」
アスカのボルテージが上がっていくのを掌の上に転がしながら、僕は更に繋げていく。
今度は空を見たりしない。
ただ彼女の姿だけを見つめる。
「あんな風に気ままに自分勝手に生きれるなら」
あんたねえ! いいないいなってバカじゃないの! 何かが切れた音がしたと思ったのと同時に、彼女が声を荒げて顔をあげた。
そんなにアタシとの昼寝が嫌なら、鳥でも魚でも猫にでもなったらいいじゃない!
そんな彼女に僕は笑顔を返す。
そうやって声をあげてくれるのは僕を想ってくれている証だから。
だから僕は紡ぐことにする、心の奥底でいつも抱いている想いを、いつも伝えていたいことを。
「でも、すべての存在は自らの生まれを選ぶことはできない」
彼女がキョトンとして言葉を止めた。
僕の雰囲気を感じ取ったのか無意識のうちか、耳を向けてくれる。
それを見とめてから、僕は続けた。
「鳥も魚も猫も人も、それぞれに良く、それぞれに悲しく、でもどの存在もその生まれを選ぶことはできない。
それはそのはじめの存在がどれもゼロだからだ。
単体である使徒は、群体の誕生連鎖に縛られるものではないけれど、自らが生まれたという部分では人も動物も使徒も変わりはしない。
死は選べても生を選べはしないんだ」
一つ息を区切る。
そして一つ閉じた瞼の裏に、刹那、あの日あの時の光景を映した。
「ただ唯一、僕の存在だったものを除いて」
彼女が目を見開いて僕の目を見る。
羽織っていたブランケットを滑り落として上半身を起こした。
その喉笛からは問いの音が漏れる。
僕は窓際から立ち上がって彼女のすぐ傍に腰を下ろした。
彼女の綺麗な亜麻色の髪に指を差し入れる。
「生まれることは生きることだ。
自らの意思で生きることを選べた僕は、ヒトとして生まれることを選べたんだ。
人も使徒も選べなかったものを。
君が赦してくれたから、僕はここにいる。
君のおかげだ」
彼女が頬を染め、青い眸を揺らして僕の名を呼んでくれる。
その声を聞くと、その眸を見ると、その欠けた心に欠けた心を重ねると、この場所、彼女の傍らにいることの大切さと愛しさが込み上げる。
「でもその意味では、アスカの子供みたいなものと言えるかもしれないね」
僕が冗談混じりに言うと、彼女は頬を膨らませて、バカ、そう呟いた。
僕は笑顔を零しながら、ブランケットを彼女に掛け直しその隣に横になる。
「いや、やっぱり子供なんていうのは嫌だな。
やはり君の傍がいい、心が密着するほどの距離が。
せっかく手に入れたこの位置を手離せはしない。
だから、いいなと思うだけだ」
亜麻色の髪を梳きながら、その頬へと滑り下ろす。
そして重ねる間際に彼女の耳元で囁いた。
すべてを静穏に落とし込む前に。
「君の傍ほどのものはないよ」
カヲル君へ、今年一年お世話になりました。この一年もよろしく。

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