Re: piece to Peace ( No.44 ) |
- 日時: 2014/02/02 20:28
- 名前: calu
-
■□■□ ■□■□
ICUに隣接するシンジの病室まで一気に走ると、レイはドアを背にSCAR-Hを構えた。回廊に広く取 られた窓から外には今のところ敵兵の影は見られない。ますます激しくなる正面玄関周辺での銃撃戦 の音。それでもレイの背後にある病室内からの気配を感じないのは、いまだ碇シンジが目覚めの時を 迎えていないからと考えるべきだろう。
(…目覚めていない方がいい。いま病室から出るのは危険)
多大な犠牲を払ってまで絶対防衛線を掻い潜り、ここジオフロントに投入された部隊の内容そして その規模から確信を持つに至ったヴィレの意思。それは、第3の少年の抹殺に他ならない。
(…そんなこと、絶対にさせない) (…何があっても、わたしはここを…碇くんを守る――)
「!」
鈍い着弾音が空気を震わせ、レイの眼前の窓ガラスに幾つものスパイダーネットにも似た模様が 拡散した。側面から中央病院に侵入した敵からレイを狙った銃撃であることは明白。だが、ポリカー ボネイトとの積層構造を持つUL752規格の防弾ガラスはFMJ7.62mm弾の貫通を許さない。 反射的に身を低くしたレイは次の瞬間、はじかれたように玄関とは反対の裏口の方向へと駆けだ した。
(…敵の展開が思ったよりも早い。背後から挟み撃ちにされるわけにはいかない)
回廊の突き当りを曲がると、窓の消えた通路は一転し漆黒の通路と化した。それでも夜目の利く レイは怯むこと無く、一層強くリノリウムの床を激しく蹴り速度を上げる。そして、その深紅の炯眼は 暗澹とした回廊の先で何かがチカリと瞬くのを見逃さなかった。
「レーザーサイト!」
赤い光を認識したときには、初弾の衝撃波がレイの頬を掠めていた。漆黒の中、咄嗟の動作で 横っ飛びに身をかわしたレイ。幾何学的に散った幾つものレーザーポイントを受けた床や壁が無残 に砕け散るや、濛々と吹きあがる粉塵の中から、発光したとおぼしき回廊の奥へと照準を合わせて 引き金を絞る。フルオートで弾幕を張ると、レイは素早く踵を返し回廊の突き当りの角へと駆け出した。
(人数が違いすぎる。正対は出来ない――)
曲がり角まで、数メートルのところで怒り狂ったように降りそそいだ銃弾がレイの直ぐ後方の床や 壁のあらゆる部分を粉砕し、跳弾の衝撃波がレイの身体を無慈悲に刺した。元の回廊まであと1メ ートルというところで、すぐ頭上に着弾した衝撃によりバランスを崩し床に倒れこみそうになったレイ は、唐突に何処からか伸びてきた手に二の腕を掴まれ、恐ろしい程の力で曲がり角の向こう側、元 の回廊へと引き込まれた。右腕を吊られるように掴まれながらも、俊敏にハンドガンを取り出したレイ だったが、直ぐに銃身を降ろした。
「…加賀一尉?」
レイの問いかけには応えず、加賀は敵からの銃撃の間隙を縫っては曲がり角から身体をせり出し ては、見事なシューティングポジションを作り応射している。
「…リーダー、お怪我はありませんでしたか?」 「…わたしは大丈夫、でも何故?」 「こちらで激しい銃撃音が聞こえましたので、慌てて来ました…作戦変更ってヤツです」 「………」 「SBCTの方は衣笠が要撃作戦に入りましたのでご安心を。側面からの侵入もちょっとしたトラップ を張ってきました。これで暫くは時間を稼げるでしょう」 「…あなた達、ただの総務局員では無い……誰?」 「…現所属は総務局に相違ありません。ですが…」 「………」 「我々は、かつて諜報二課では、影、と呼ばれていました」
銃撃でずたずたになったレンジローバーの陰から、散開した敵歩兵の内、左側面の歩兵を正確な 狙撃で無力化した衣笠は、キックペダルを踏み込みSUZUKIハスラーの心臓に火を入れた。数回ス ロットルを煽ると目を覚ました空冷2ストロークエンジンがオイルを焼き、緑の中に白煙を撒き散らす。 更に煽ったアクセルと絶妙のクラッチワークで衣笠はハスラーをロケットのように発進させた。 直後、前方で突如として浮かび上がった発光体が矢のように一直線にローバーへと吸い込まれた。 爆裂し、炎上しながら空に身を躍らせるレンジローバー。間一髪で直撃を逃れた衣笠は、ごうごうと 炎上するレンジローバーをバックにハスラーの前輪を大きく上げ、決死の表情でSCAR-Hをフルオー トで其処彼処に散開する敵歩兵を掃射する。
(…RPG-29まで持ち込んでやがる…こいつら一体!?)
忽ちの内に底をつく弾倉。ベルトにつけた予備弾倉を取りだそうと衣笠がスロットルから手を離した 時、すぐ傍で銃撃音が響いた。それは、極限まで研ぎ澄まされた精神状態にある今の衣笠の絶対 防衛圏たる間合いの中に知らず侵入されたと思わせるくらいに近距離からの銃撃だった。着弾の 衝撃で飛びそうになる意識と身体を鋼鉄の意思で衣笠は踏み留める。反射的にハンドガンを抜くと、 既にシューティングマシンの一部と化している衣笠は瞬時にトリガー絞り切ろうとする。が、汀でその アルゴイズムを辛うじて止めた。 鈍く光る銀色の銃身の先にいる敵は、まだあどけなさの残る少年兵だった。衣笠に向けた小銃の 銃身は小刻みに震え、眼前に突きつけられたデザートイーグルにより、その眼は死の恐怖で満た されている。 「くっ!」
馬鹿、伏せてろ! と少年兵を一喝するや、衣笠は少年兵越しに衣笠に狙いをつける二名の歩 兵を撃ち、再びハスラーのスロットルを絞る。矢のように疾走するバイクに向けて銃弾の雨を降ら せるSBCT歩兵部隊。衣笠はRPG-29でハスラーの鼻先を狙う歩兵に向けてグレネードランチャー を発射させると弾切れのSCAR-Hをブーメランのように敵兵に投げつける。持ち替えたハンドガン で前方を塞ぐようにアサルトライフルを掃射する歩兵達に応射する。恐ろしい程の運動量のオフロ ードバイクを自在に操る衣笠に敵歩兵は翻弄されるが、それ以上に鬼神の表情で立ち塞がる敵を 殲滅していく衣笠の姿に、歩兵部隊員は逆鱗にも似た本能的な怖れを感じた。それでも、衣笠の 身体の至る所に着弾した銃創にその隊員服は血で濡れそぼり、疾走するバイクの上でハンドガン を握る手は意思から解放されたように垂れ下がり、いつしか一切の動きを停止しているようにも見 えた。前衛部隊を突破したところで、ストライカーまでの距離、およそ200メートル。ストライカーのプ ロテクターM151システムが作動した。ブローニング社製M2重機関銃の長銃身が前方から急接近 するオフロードバイクに向けその照準を合わせようとした時、それに応えるようにハスラーTS125が 白煙を吐きながら、跳ね馬のように前輪を大きく上げた。耳を劈く排気音が緑豊かな丘陵地に木霊 し、傷だらけのグリーンカラーが陽光に映えた。最期の帳を降ろすように静かに停止するM151の光 学照準器。衣笠の顔に薄い笑みにも似た表情が浮かんだ気がした。そして、その次の瞬間、秒速 3,000フィートで撃ち込まれた12.7mm弾がハスラーごと衣笠の身体を引き裂いた。 それでも時速百キロを超える猛スピードでストライカーに急接近していたバイクの勢いは止まらず、 原形を留めぬ残骸になりながらも、一直線にストライカーへと突入していった。バイクのフレームに しっかりと弾倉ベルトで繋がれていた衣笠徹であったモノを巻き込みながら。一直線に、彼の終着点 でありゴールだった場所に向かって。その彼のゴールで、弾倉ベルトに装着されたC-4の近接信管 が作動した。
|
|