[568] 自由席 100915 (「指定席」の後にお読み下さい)
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- 日時: 2010/09/15 12:16
- 名前: のの
- 「焼き鳥というのも、いいねえ」
窓に寄りかかって夕方の空を見上げると、炭火色に似た夕焼けの空に鳥の群れのシルエットが見えて、僕はそう呟いた。
自由席(17時10分発)
nono
「あんなに単純に見える料理なのに、ああも奥が深いのも実に興味深い」
そう言って振り返ると亜麻色の髪を冠した僕のパートナーが頬杖を付きながら眠たそうに相槌を打つ。
確かに、気温が下がり涼しい風吹き始めるこの時間帯、眠気を誘うには十分だ。
暑い夏も過ぎて、肌の上を滑る風も心地よく涼しい。
でもビールはまだまだ美味しい季節、その事実は動かしようがない。
「あるいは魚、という選択も面白そうだ」
空色を海に重ねながら僕は、そんな彼女の状態には特に気を留めない振りをして言葉を続ける。
空に生きるものと来れば、次は海の生き物だろう。日本は島国なのだし、海に関する様々な文化がある。鯨を食べたり、海豚を食べたり。
あの日の僕たちと彼らの選択で、この季節にはきちんとサンマが泳ぐようになった。焼きたてのサンマに醤油をたらした時の音を思い浮かべて僕は続ける。
「陸よりも広大なあの海を、優雅に泳ぎ回れるのに、かわいそうに、彼らは自分たちがどれだけ美味しいのか気づくことはない」
再び、空から彼女のほうへと視線を向ける。
うつ伏せに寝そべった彼女の表情は読み取れないが、お腹が空いてきてイライラしているのはわかる。
返事がさっきよりぞんざいになったのも、きっとお腹が空いてきたからに違いない。
「近所の犬を見ていると、それもアリかななんて思うね。結構美味しいんだ」
アスカのボルテージが上がっていくのを感じながら、縄の上を渡る僕は更に繋げていく。
今度は空を見たりしない。
ただ彼女の姿だけを見つめる。
「家の番をしたり食べられたり、あんなに色んな人生を送れるのも珍しいよね」
あんたねえ! いいないいなってバカじゃないの! 何かが切れた音がしたと思ったのと同時に、彼女が声を荒げて顔をあげた。
そんなにアタシとの昼寝が嫌なら、焼き鳥でも寿司屋でも犬鍋屋でも行けばいいじゃない!
そんな彼女に僕は笑顔を返す。
そうやって声をあげてくれるのは僕の空腹を気遣ってくれている証だから。
だから僕は紡ぐことにする、心の奥底でいつも抱いている想いを、いつも伝えていたいことを。
「でも、自らの食事をすべて選ぶことはできない」
彼女がキョトンとして言葉を止めた。
僕の雰囲気を感じ取ったのか無意識のうちか、耳を向けてくれる。
それを見とめてから、僕は続けた。
「鳥も魚も狗も、それぞれに美味しく、それぞれの値がつき、でもどの存在に対しても自らの意志で選ぶことは出来ない。
それはそのはじめの存在、財布の中身がゼロだからだ。
単勝で賭けたお馬さんで、すべてのレースで単式に縛られていたわけではないけれど、自らが馬で負けたという部分では僕も騎手もウインズに居合わせた皆も変わりはしない。小銭はすべてホッピーにつぎ込み、そのホッピーも胃袋に注ぎ込んでしまったしね。そういうわけで素寒貧さ。
だから食べないことは選べても、好きに食べることを選べはしないんだ。」
一つ息を区切る。酒臭い息でアスカを不快にさせないように。
そして一つ閉じた瞼の裏に、刹那、あの日あの時の光景を映した。一度だけ当てた、170万の三連単。
「ただ唯一、あの馬単で勝った時を除いて」
彼女が目を見開いて僕の目を見る。
羽織っていたブランケットを滑り落として上半身を起こした。
その喉笛からは問いの音が漏れる。
僕は窓際から立ち上がって彼女のすぐ傍に腰を下ろした。
彼女の綺麗な亜麻色の髪に指を差し入れる。
「馬連を買うことは逃げることだ。
自らの意思で買うことを選べた僕は、馬単を買うことを選べたんだ。
totoもロトも選べたところを。
君が教えてくれたから、僕はここにいる。
君のおかげだ」
彼女が頬を染め、青い眸を揺らして僕の名を呼んでくれる。
その震えた声を聞くと、その真っ青に燃えた眸を見ると、その握った拳に軽い財布を差し出すと、この場所、彼女の傍らにいることの大切さと恐ろしさが込み上げる。
「でもその意味では、僕こそ犬、負け犬みたいなものと言えるかもしれないね」
僕が冗談混じりに言うと、彼女は小銭の入った膨んだ靴下を握りながら、馬鹿、そう呟いた。
僕は笑顔を零しながら、ブランケットを彼女に掛け直しその隣に横になる。
「いや、やっぱり負け犬なんていうのは嫌だな。
やはり君の傍がいい、心が密着するほどの距離が。
せっかく手に入れたこの位置を手離せはしない。
だから、今日もいざ! と思うだけだ」
亜麻色の髪を梳きながら、その頬へと滑り下ろす。
そして重ねる間際に、彼女の耳元で囁いた。そろそろ酔いも醒め、手の震えも収まってきた。
彼女の凶器がすべてを静穏に落とし込む前に。
「だからあと二千円、貸してくれないか」
aba-m.a-kkvさんへ。ていうかマジでもうほんとごめんなさい。また一年よろしくお願いします。

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