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[769] Growing Comedian
日時: 2021/03/31 19:49
名前: のの

あれにも似てる。

これにも似てた。

それもいい、それもいいのか、もうわからない。


Growing Comedian
EPisode 17.5
The Time Between 17 to 18




 本物の空は、基本的にはつまらない。
 その代わり、飽きることもないと思った。動きのない空も雲がぐんぐんと動きをつける空も等しく見飽きるということがない。青い海も赤い海も、見ているうちにちょっと飽きてくる、というより、どうしたらいいかわからなくなってくる。どうにかしなきゃ、という気にさせられる。
 屋上で寝っ転がっているうちに眠気がやってくるのは自然の摂理だ。でも毎日規則正しく10時に寝てればそんなこともないだろう。ただしそれは理想論。机上の空論だ。健全な男子たるシンジがスマホの指を操る手と煩悩はそれを許さなかった。たったそれだけのことで、目に折りたたんだタオルをあてて今こうして寝ている。タオルの隙間から見える空を見る限り、今日の空は動きが乏しかった。
 第3新東京市は常に喧騒と静寂を繰り返している。街の規模と設備からすれば人口は少ない過剰投資された街だった。この街は政府が指定する実験都市で、世界的な食糧不足と深刻なエネルギー不足、気候変動を解決するためのテストケースとなっている。自給自足率100%、再生可能エネルギー利用率85%が目標設定値だ。そのため、住人の多くは無駄なエネルギー消費を許されていないし、市による大規模な田畑と果樹の管理、畜産業への手厚い補助などが出ている。農業を副業にする家庭への補助や時短勤務なども取り入れられている。その評判は賛否両論ある。それは当然だが、その比率で言えばやや優勢、といったところだ。欺瞞と税金の無駄遣いとも言われているし、未来のための投資こそ、減りすぎた人口を取り戻すために必要なことだと支持されてもいる。風が吹いて、タオルがめくれて薄目で見ていた空が広がった。空とは違う、評判の悪いジャンパースカートの裾が見えた。
「碇君?」
 同じクラスの君塚だった。クラス委員の洞木と仲が良い人だという認識だが、話した記憶はほとんどない。強いていうなら、顔が好みじゃないということくらいの追加情報しかない。
「なに」
 眠気を払う気力の涌かない相手に邪魔をされるのは腹立たしかったので、態度に出てしまっているかもしれない。それがどうだったとしても、自分の知ったことではないにしろ。立ち居振る舞いってものを気にするべき相手かどうか、吟味するほどの気力もない。
「珍しいね、寝っ転がってるなんて」
「そう、珍しいの、あなたにとって」
 ならば起きよう、あなたの関心を引く態度を取るつもりもないからと思った。いやあ、起きろって言ってるんじゃないよ、ただ珍しいなってだけで、と彼女は面倒くさそうに言うと、ラミネートフィルムに入れたチョコレートを渡してきた。
「今日バレンタインだから、渡しておきたくて」
「どうして」
 見上げた彼女の表情が逆光で曇って見える。シンジは訊ねながら立ち上がって受け取った。ありがとう、受け取ってくれて。そう言う彼女の方が下がったのが見えた。
「そっちがお礼を言うの」
「受け取ってもらえるってあんまり思わなかった」
「そう」
 そうだよ、と言う彼女が立ち去らないので、見上げると、彼女はじゃあね、と言って校内へ戻っていった。
 シンジはもう一度座って、袋を開けた。チョコレートがコーティングされたクッキーと思しきそれの匂いを嗅げば、業務用のチョコレートの渋い匂いが鼻腔を刺激する。それでもそれは彼女が昨晩だか土曜日だかにチョコレートを溶かしてクッキーに浸し固める作業を行ったことを示唆している。もしかしたら家族の誰かが代わりにやったのかもしれないし、クラスメートの誰か、それこそ洞木委員長と一緒に作ったのかもしれない。自分の手で作ったかどうかの確認なんてしようもない。もう一度寝そべって、受け取った菓子は匂いを感じない程度の側に置いて、今度はタオルを二つ折りにして目を覆った。それから目を閉じると、夜とは言えない程度の暗闇の中に入ることができた。



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Growing Comedian
Episode 17.5

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メンテ

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Re: Growing Comedian ( No.5 )
日時: 2021/05/28 16:35
名前: のの

 掃除の時間が終わるころには教室に戻ってくることができた。クラスメートからは校内放送で呼び出されたころをからかわれたが、それに応えていると気持ちは少しラクになった。こってり絞られたわ、めっちゃ怒られたわ、こないだ学校サボってゲーセン行ったんがばれてしもうたんやー、と騒いでいるうちに授業が始まってくれた。
 放課後には、シンジの訓練がないから、今日はどっか遊びに行こうぜ、というケンスケの誘いを断った。今日は日直やってん、そのあとすぐ病院行かなあかんし。申し訳なさそうなシンジの顔を殴りたい衝動を抑えて笑顔で手を振る。渚カヲルが顔をのぞかせ、その飄々とした顔を蹴飛ばしてしまいたくなっても我慢した。
「全員帰ってから片付けするけえ、みんな早う帰ってや」
 シッシと追い出す仕草で、女子からブーイングされる。何だよ鈴原のくせに、とかなんとか。その急先鋒であるべきはずの少女がさっさと帰ってしまっているのを見つけ、トウジは気持ちの中で手を合わせた。
 全員帰って欲しかったのに、委員長の洞木ヒカリだけは、委員長の仕事で3年生への進級時に、下級生への引継ぎ事項と上級生からの引継ぎ事項を確認する作業がある、と言い、教室に残っていた。だから気にしないで、と言われたので仕方なく机の整理整頓やら、黒板けしの掃除をし始める。放っておくと動きがのろまになってしまいそうなので、いつも以上の気合いが必要だった。黒板消しをきれいにしながら思う。こんなことやっとる場合やないのにな。
 スチール製のゴミ箱を抱えて学校裏の集積所へまとめて捨てて戻ってくる。洞木ヒカリはその間に帰ってしまったらしく、教室にはもう誰も残っていなかった。
 感じたものにそっと蓋をする。それには慣れているはずだった。母が死んだ時もそうだった。祖母が死んだ時も。こういう時にはそうしてきた。目の前にいる自分よりか弱い存在が、くよくよした気持ちを忘れさせてくれもした。自分の荷物をまとめる。ポケットの中の名刺は鞄の内ポケットに放り込んだ。電話番号が書かれたメモの先客。そこに入れて立ち上がり、教室を出て扉を閉めた。空っぽの教室が夕日に染まりつつあった。世界は今日も太陽を中心に動き、夜の帳が下りつつある。それは肉体の活動的な世界の終わりであった。第三新東京市は夜になれば省電力モードになり、一部を除いた施設は早めに閉店してしまう。だから皆早々に家路につくので、この時間のスーパーや道は混みがちだ。今日は病院に行く時間があるだろうか、と玄関の扉の上にかかっている時計を眺めると、まだ4時半、モノレールを使えば5時すぎには着く。
 下駄箱まで来ると、先に帰ったはずの少女が立っていた。彼女は自分を見るなり、目をそらした。
「なんや委員長、どないしてん」
「どうかした?校長先生」
「おお、ぎょうさん怒られた」
「そうなの?」
「そや、怒られるようなことする方が悪いんやけどな」
 はっはと笑った。笑い飛ばしてみせた。
メンテ

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