このスレッドはロックされています。記事の閲覧のみとなります。
トップページ > 記事閲覧
サイト開設十周年カウントダウン企画・九月
日時: 2010/09/02 05:15
名前: tamb

月々のお題に沿って適当に書いて投下して頂こうという安易な企画です。作品に対するものは
もちろん、企画全体に対する質問や感想等もこのスレにどうぞ。詳細はこちらをご覧下さい。
http://ayasachi.sweet-tone.net/kikaku/10y_anv_cd/10y_anv_cd.htm

今月のお題は

・ごはんがおいしすぎて
・空の高さは
・Higher

です。
八月の企画、1111111ヒット記念企画も鋭意継続中、十月中には、インフォシークiswebライト
のサービス終了に伴う雑談掲示板「新・「綾波レイの幸せ」掲示板 二人目」移転記念企画も
ありますので(あるのか?)そちらもよろしくお願いします。

では、どうぞ。
メンテ

Page: 1 | 2 | 3 | 4 |

Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.13 )
日時: 2010/09/29 19:16
名前: JUN

■ののさん
めちゃくちゃ今更ですが、感想どうもです
文章が上手くなったと仰っていただけるのは、やはりとても嬉しいです。ありがとうございます。
higherの教訓は活かしたいです。少し儚げな印象の話を書くと…が多くなりがちですね。気をつけます。

ののさんの書くカヲルとマナが好きです。カヲルは貞と庵で性格かなり違うので使い分けが楽しい。これは庵な気がします。なんとなくですが。
マナは最近鋼鉄をやったので、そろそろ登場してもらおうかなー
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.14 )
日時: 2010/09/29 20:28
名前: クロミツ

One Step Higher



「シンジ、おかわりっ!」
 朝っぱらから快調にご飯を平らげていたアスカの手が、ぶっきらぼうにお茶碗を突き出した。
 僕がご飯をよそうのももどかしく、素早くお茶碗をもぎ取ると「ありがとう」もいわずに箸を動かす。かきこんでる
わけでもないのに、そのスピードは見てて感心するくらいだ。
「ごちそうさま」
 こちらは少食の綾波が、自分の食器を片付けて席を立った。彼女がお茶碗一杯分を食べ終える間に、早くもアスカは
三杯目を平らげた。
「アスカ、そろそろ学校にいかないと遅刻するわ」
「え〜っ!もうそんな時間?…しかたないわね、今朝はこれだけで我慢するわ」
 我慢する…だって?
「ひょっとして…まだ食べるつもりだったんだ?」
「悪い?」
 ジロリと僕を睨みながら、コップになみなみ注いだ牛乳を一気に飲み干し、ぷはぁっと息を吐いた。
「悪くはないけどさ、ちょっと朝から食べ過ぎじゃない?」
「普通よ、こんくらい。てか、あんたやレイが食べなさ過ぎなのっ!」
「そうかなぁ。これでも中学の時よりずいぶん食べるようになったけど」
 今朝だって二杯食べたし…と云いかけた言葉を断ち切るように、アスカは乱暴にコップを置いた。
「アンタとチンタラ話してたら遅刻しちゃうわっ!あ〜やだやだ、食の細い男って」
 まるで僕の責任みたいな台詞だけど、遅れそうなのは誰かさんがなかなか起きないからだろと反論したくなる。
しかし時計をみると、あと一本リニアを逃したらアウトな時間。確かに言い争ってる余裕はない。
「いいシンジ、洗い物は30秒以内に終わらせなさいよ!」
 無理…せめて3分。
「碇くん、こっちは全部終わったから、アスカの食器を取って」
 流しに立っていた綾波が振り向いた。いつの間にか、後片付けを済ませてくれたようだ。
「あ、ありがとう。じゃあ僕は、弁当の準備をしておくから」
 といっても盛り付けは既に終わっているので、弁当箱の蓋を閉めて文字どおり包むだけ。
 家を出る前に、まだ寝ているであろうミサトさんの部屋に向かって『行ってきます』と一声だけ掛けた。

 使徒との戦いから三年が経ち、僕たちは揃って同じ高校に進学した。学校は第三新都心の隣町にあり、中学の時よ
りも通学に時間が掛かる。おかげで、朝7時台のリニアの時刻表はすっかり暗記してしまった。
 駅を降りてから、学校まで歩いて10分ほど。でも時間ギリギリなので改札を抜けてすぐ、三人ともダッシュをかけ
た。高校生になってグンと背が伸びたアスカのコンパスは長い。そして速い。僕も彼女と同じくらいに伸びたけど、
体力と運動神経が決定的に違う。おまけに綾波はどんどん後ろへと差が広がるから、諦めてアスカだけ先に行かせた。
 立ち止まって息を整えている間に、綾波が追いついてきた。
「大丈夫?」
「…ええ、ごめんなさい」
 綾波は数回、深呼吸をしてから答えた。肩で息をするほどじゃないけど、けっこう呼吸が乱れている。
「綾波があやまることないよ。学校まであと少しだから、歩いても間に合うさ」
「私はもう大丈夫だけど…でも、そうね、歩きましょう」
 僕を見上げて、綾波が柔らかく微笑む。ふわりと香気が漂うような笑顔に、つい見惚れた。
 ちょっと、ゆっくり歩き過ぎたかもしれない。二人で校門をくぐるのと同時に、始業のチャイムが鳴った。慌て
て玄関に入ると、下駄箱の前で腰に手を当てたアスカが仁王立ちしていた。
「あんたたち、のんびりし過ぎ」

◇◆◇◆

 放課後、僕と綾波が帰り支度をしていると、教室の入り口にアスカが姿を見せた。二年になって彼女だけ隣のクラス
になったのである。長身、美貌、美脚の三拍子揃った彼女が金髪を靡かせて入ってくる姿はモデルのようで、自然とク
ラス中の注目を集める。アスカが僕たちの前までくると、その視線は僕に突き刺さる。主に男子生徒の羨望の眼差しが。
「ねえレイ、ガレット食べに行かない?ほら、ちょっと前にオープンした店があるでしょ、あのメニューのサーモンと
しめじを載せたやつ、気になってたのよねぇ」 
 と、まず綾波を誘ってから、いかにもついでみたいにこちらを一瞥する。
「シンジ、あんたも来るのよ。ちょっと持ち合わせが心もとないから」
 …財布替わりか、僕は。
 綾波とアスカは、初めてあった頃からは考えられないくらい仲が良い。にしても、僕に対する態度とずいぶん違う。
「でも私、夕食が入らなくなっちゃうから…」
「デザートのガレットだけでいいじゃない。クレープみたいなもんだし」
「あの〜、ひょっとしてアスカ、お昼足りてなかった?」
 彼女の弁当だけ少なくしたつもりはない。むしろ逆。二学期の前に買い換えた弁当箱は、僕のより大きいくらいだ。
「最近、ごはんが美味しいのよねぇ。ほら、食欲の秋っていうじゃない」
「いくら美味しいからってさぁ…。」
 今は九月、暦のうえでは秋でも、年じゅう夏みたいな暑さだから、食欲とはあんまり関係ない気がする。『天高く馬
肥ゆる秋』って諺も昔の話。春夏秋冬、一年通して空の高さは変わらない。
 夏休みの終わり頃から、急激にアスカは食べるようになった。本人が言うようにご飯が美味し過ぎてとか、成長期と
いう理由ならいいけど、過食症ぎみじゃないかとちょっと心配になる。
「ぐちぐちうるさいわねぇ。こんなに沢山食べてあげてんのが不満なの?料理人なら喜ぶべきでしょ」
「沢山にもほどがあるってこと。だいたい、僕は料理人じゃ無い」
「あら、召使いだっけ?それとも小間使いに昇格してあげようかしら?」
「どこが昇格だよっ」
「アスカ、食べ過ぎも身体に良くないのよ。程々にしたら?」
 睨み合いになりそうな雰囲気をとりなすように、綾波がやんわりと口を挟んだ。
「レイまでそんなこと…。あんたこそ、もっと食べればいいのに」
「体重だって、この間お風呂で計ってた目盛を見たら…」
「こっ、こらぁーっ!気軽にばらしてんじゃないわよっ!」
 アスカが慌てて綾波の口をふさいだので、トップシークレットの流出は免れた。まあ、まったく興味ないといったら
嘘になるけど、命を引き換えにしてまで知りたい情報じゃない。
「まっ、中学の時からぜーんぜん体形が変わらないレイより重いのは当たりでしょ。特に胸の重量が…」
「……胸のことは云わないで」
 綾波が拗ねたような上目遣いでアスカを睨む。…え、ひょっとして、密かに気にしてたとか?
「なに?碇くん」
 アスカを見上げていた視線がそのまま僕の方にスライドした。何で分かるんだろうと冷や汗掻きつつ、とりあえず
笑ってごまかす。
「その点、シンジはいーわよね。ボサーッと生きてても図体だけはでかくなれたんだから」
「身長は関係ないだろ」
「アスカ、今のは云い過ぎ」
 綾波がたしなめると、はいはいと両手を開いて肩をすくめた。
「まあ、そんな話はどーでもいいのよ。行く?行かない?」
「悪いけど、この後、定期健診だから…」
「あ、そーだっけ?」
 使徒と戦っていた三年前と違い、今は訓練も緊急の呼び出しもない。先月、チルドレンの体調管理で健康診断を受
けたけど、ネルフに行くこと自体久しぶりだった。ただ、綾波だけは月一回、リツコさんの検診を受けている。
「しかたないけど、あたし一人で行くか。…あ、やっぱシンジは来なくていいわ、あんたと二人なんてツマンないし」
 ずいぶんな云われ様だ。アスカの高飛車な口調は昔からだけど、ここ最近やけにキツい気がする。
「7時には帰るから、晩ごはんちゃんと用意しときなさい。あと、牛乳切らさないでよ」
「…はいはい」
 云いたいことだけ云うと、アスカは来たときと同じように、颯爽と出て行った。
「ふぅ…じゃあ綾波、駅まで送ってくよ」
「ええ」
 その返事が心なしか嬉しそうに聴こえたのは、そうであって欲しいと思う僕の願望だろうか。
 もうアスカはいないのに、なぜか二人で教室を出るまで、男子生徒の視線はずうっと僕に刺さったままだった。
 
◇◆◇◆

 下校しながら、今晩の夕飯のメニューを考える。食材は冷蔵庫にあるものでほぼ足りるけど、牛乳だけは買ってお
かなくちゃいけない。牛乳目当てだけでスーパーに行くのもあれなので、ついでに買っておくべきものを頭の中でリ
ストアップする。それにしても、掃除、洗濯、御飯の支度…。綾波が手伝ってくれるとはいえ、なんで学業以外で
毎日こんなに働かなくちゃいけないんだろ?
「…本当にアスカ、僕のこと小間使い程度にしか思ってんじゃないかなぁ」
 ため息まじりに愚痴をこぼすと、隣で綾波が小首を傾げた。
「そうかも」
 あっさり肯定されると、ちょっと傷つく。
「……ひどいや、綾波まで」
「ごめんなさい」
 言葉とは裏腹に、楽しそうに口許を押さえる。大口を開けたりしないけど、綾波は本当によく笑うようになった。
「…あのね、内緒だけど…」
 秘密の小箱を見せるような一拍の間をとって、綾波が言葉を続ける。
「アスカったら、碇くんに身長を抜かれたのが悔しいみたい」
「……え?」
 あまりに唐突な話だったので、つい立ち止まってしまった。
 確かに春までは、僕よりもアスカの方が若干背が高かった。でも、先月のネルフの健康診断でアスカの身長が176cm、
僕が176.6cmと僅差で逆転した。綾波の話では、結果を知ったアスカはけっこう憤慨してたらしい。
「彼女、負けず嫌いだから。あんまり悪く思わないであげて」
 静かな紅い瞳が僕を見上げる。人を落ち着かせる赤というのがあるなら、この色だろう。
「でも、何で綾波が知ってるの?アスカが話したから?」
「違うわ。だけど、見ていたら何となく分かるもの」
 見ててもさっぱり気付かなかった。綾波が鋭いのか、単に僕が鈍いのか。
 しかし、知ってしまえば他愛もない理由。他愛無さすぎて、怒る気にもなれない。
「だから、内緒の話。本人には云わないでね」
 念を押すように、人差し指を唇に当てて微笑む。綾波にしてはやや芝居がかった仕種は、本気で僕が話すとは思っ
てない証拠だ。
「それに、碇くんのこと考えてない訳じゃないの。一人で行くって云い出したのも、私を送って行き易いようにって、
気を使ってくれたんだわ」
「そうかなぁ…ちょっと良いほうに捉え過ぎじゃない?」
「いいえ。だって、今朝もちゃんと待ってくれてたでしょ、玄関で」
「……あ!」
「アスカのクラスは私たちとは別だから、先に行けばよかったのに。本当は、寝坊して悪かったって思ってるのよ」
 云われてみれば、確かに。普段の態度が態度だから、客観的に指摘されるまで思い当たらなかった。
 それにしても、綾波は鋭い。そういえば出会ってまだ間もない頃、僕が父さんとの関係で悩んでいたときにアドバ
イスしてくれたことがあった。超然としているように見えて、他人の気持ちには昔から敏感だったのかもしれない。
 ただ以前の綾波は、透明で、硬質で、繊細な硝子細工のように触れることを躊躇わせる空気を纏っていた。平たく
いえば、とっつき辛かった。でも今は、落ち着いついた雰囲気はそのままに、とても柔らかく接してくれる。考えて
みれば当たり前で、成長したなんてえらそうに云えないけど、三年も経ってれば変化はあるはずだ。
「…アスカも、もうちょっと分かりやすく気を廻してくれればいいのに…」
「彼女はああいう性格だから。でも、まだ高校生だし、きっと歳をとれば、自然に円くなるわよ」
「歳をとって大人しいアスカって、なんだか想像つかないな」
「そうね」
 ふたり顔を見合わせて笑った。もちろん本気じゃない。
「歩きましょう」
 綾波に促され、並んで歩く。以前感じてた彼女との距離は、肩が触れ合うくらいまで縮まった。
 このままずっと、一緒に居れたらいいと、切に願う。

 …ずっと。


「どうしたの?」
 ターミナルの階段前で脚を止めた僕に、綾波が不思議そうに声を掛けた。
「…綾波、いま、身長いくつだっけ?」
「アスカが云ったでしょ、中学の頃から変わってないって。数字が知りたい?」
「いや、別に……そ、そうだったよね……」
 中学生で成長が止まる人なんてざらにいる。女の子なら特に。
 だから、馬鹿なことを気にするのは、それ以上に馬鹿げている。でも…
「…碇くん?」
 なんで、綾波だけ毎月、検診が必要なんだろう?
 以前、同じ疑問を持ったとき、リツコさんに尋ねたことがあった。
「形式的なものだから心配いらないわ。一応、義務付けられてるのよ。あの子の身体、普通とはちょっと違うから…」
 自嘲混じりに苦笑したリツコさんにそれ以上は訊くことが出来ず、心配いらないという言葉で納得した。
 その時は。

「どうかした?」
 何でもないよと、笑えばよかったのに。僕の口をついたのは、別の言葉だった。
「……あの、前に検診を受けた後、リツコさん、何か云ってなかった?」
「いいえ、特には。平常通りだって」
「だったら…うん、別に、良いんだけど…」
 本当だろうか?本当だと信じたい。だけど、『普通とは違う身体』その意味を、僕は知っている。
「……いつまで、続くのかな……」
 不用意に洩らした僕の言葉を、彼女は聴き逃さなかった。
「それは、検診のこと?……それとも、私の身体のこと?」
 本当に、綾波は鋭い。迂闊な自分が嫌になるほどに。
 慌てて打ち消そうとする言葉が頭の中で空転するだけで、何も云い出せず、ただ押し黙るしか出来なかった。
「赤城博士が私に嘘を云う理由がないわ。そういった話は、ちゃんと伝える人だし」
「べ、別に疑っている訳じゃないけど…なんていうか、初めてこの街に来た頃は色々あって、あり過ぎたくらいで、
でも使徒との戦いが終わって、エヴァに乗って出撃することも無くなって、ずっと順調に来れたから…
…その、順調過ぎて、ちょっとばかり、不安になったというか……」
 悪い方向ばかりに考えてひとりで落ち込む僕を、綾波は静かな瞳で見つめた。
「…確かに、ちょっと順調過ぎるかも」  
 そう言葉を切って俯いた視線に、青色の前髪が被さった。
「三年なんて、昔は、途方もなく長く感じた。私は、私の役割を果たすことが総て…他には、なにも無かったから」
「……………」
「でもね、過ぎてみると、あっという間だった。色々あったのは最初だけ。後はずっと、楽しかった」
 綾波の身体が、僕に預けるように傾く。彼女の額が、肩に触れた。
「私がこんなに笑えるようになったのも、碇くんのおかげ…
…だから、碇くんが居てくれれば、五十年でも百年でも、生きていける」
 一瞬のぬくもりの余韻を残して、彼女の身体が離れた。
 綾波の背中が、トントントンッと階段を軽やかに上がってゆく。
「それに、百年も経てば、これくらい成長しているかも」  
 僕が見上げるほどの高さまで昇ると、くるりと振り向いた。
「…でも、碇くんを見下ろすのって、何か落ち着かないから…」
 タンッと、猫のような身軽さで跳び降りる。淡い青色の髪が跳ね、目前に舞い降りた。
「私は、この高さが好き」
 彼女の身長に、階段一歩分プラスした高さ。それでもまだ、僕の方が高い。
 わずかに視線を下げると、悪戯っぽい真紅の瞳とぶつかった。
「ね、このくらいなら、来年には伸びそうじゃない?」
 彼女にしては芝居がかった動作は、きっと、僕を気遣ってのこと。心遣いが嬉しくもあり、男として若干情けない。
でも、それで本当に元気が湧いてきたのだから、呆れるぐらい単純だ。これじゃあアスカに、ぼんやり生きてきたと
云われても仕方ない。中身は、まるで成長していないのだから。
「…じゃあ僕はこれ以上、成長しないほうがいいのかな?アスカを怒らせないためにも」
「もっと大きくなっても構わないわ。アスカには、私から謝っておく」
 こんな冗談しか云えなくても、ちゃんと返してくれる。綾波は僕なんかより、ずっと大きい。
 一人で溜め込んでいた空気を思い切り吐き出して、脚を踏みしめて一段、昇った。右隣に立った僕を、彼女は笑顔
で迎えてくれる。本当の意味で同じ高さに立てるには、まだ、時間が掛かるけど。
「ご免、変な事で立ち止まったりして。早く行かないと、リツコさん待っているよね」
 ことさら元気な声を出すと、綾波は笑顔のまま、頭を振った。
「時間はまだ、あるから…ゆっくり歩きましょう」
 華奢な右腕が僕の左腕に寄り添い、背中を押すように歩き出した。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 こんな長文、何年ぶりだろう…
 錆び付いた指先を動かすのに苦労しました。
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.15 )
日時: 2010/10/02 08:15
名前: Seven Sisters

う〜む、相変わらずの清涼飲料水のごとき爽やかな文体。
そしてゴタゴタしすぎない綺麗な地文。
クロミツさんは、やはりお世辞抜きにうまいです。
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.16 )
日時: 2010/10/02 20:07
名前: calu

■クロミツさん - One Step Higher -

優しさがリズム良く流れるストーリーを楽しませて頂きました。有難うございました。
とくに階段のシーンが良かったです。

>「私は、この高さが好き」

瑞々しく描かれたレイに、過ぎ去った三年にあったであろう物語に想像が膨らみます。
正直申しまして、続きを読ませていただきたいですー(^^;)。
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.17 )
日時: 2010/10/03 21:44
名前: tamb

( No.6 )
■Day Tripper!! 出張版第3話 「Higher!!」/のの

 平和だ(笑)。しかしこれのお題がHigherであるということの意味がw
 いいか? 「お題に沿って」書くんだぜ?(笑)


( No.7 )
■Day Tripper!! 出張版第4話 「おいしいご飯、その秘訣」/のの

>  ヤバヤバです。賭けても良いです。
>  じゃばじゃばとお酢、かけてもいいです?

 お酢はかけちゃダメだしダジャレもダメ。ちなみに「かけちゃだめだし」といれて変換
したら「かけちゃダメ出し」と出た。

 Day Tripper!!のまた別の一面。これもまたよし。誰だってセンチになる事はあるし誰
かを気遣う事もある。
 中学生が酒を飲むのは避けた方がいい。普通課である必要はないと思うけど、高校もで
きるなら行った方がいいな。


( No.9 )
■命の選択を/ななし

 私はその頃の事情は知らないけれど、旧劇場版の後のFFっていうのはこういうのだった
のかもしれないと思う。方向性として圧倒的に正しいFF。
 こういう話を読むと、私は最終的には救いがないのではないか、と想像する癖がある。
例えば足の指が結晶化(で正しいかどうかはともかく)を始めているのにアスカもミサト
も気づいている、とか。物語としてどちらがどうとか言う気はないけれど、そんなことが
なくて良かったと思う。
 そしてお題の方向性は間違っていないです。


( No.10 )
■ごはんがおいしすぎてvol.2/JUN 

 Day Tripper!!かとおもたw

 ミサトも第二東京大学を(たぶん)卒業。本編がどう設定されているのかにもよるけど、
ミサトの学歴も最高位に近い。家庭教師はミサトでもいい。というか、そうすべきだw

 面白かったけどそれ以上ではない、とあえて書く理由はJUNさんにはわかるはず。
 期待してる。頑張れ。

> 葛城さんの鶴の一声に

 一応指摘しとくと、こういうのは「鶴の一声」とはいわない。辞書引くべし。

 関係のない話。
 家庭教師、というと岡村靖幸を思い出す。彼の音楽は大好きということはなかったけれ
ど、音楽性そのものは好きだったし衝撃的な楽曲も数多くあった。余りある才能が彼自身
を押し潰してしまったのだろう。復活して欲しいと願う。でも、家庭教師というのがどん
な楽曲だったのかは思い出せない。


( No.14 )
■One Step Higher/クロミツ

 とてつもなく上手い。上手いという表現はよろしくないかもしれないが、それは技術的
な意味ではもちろんないということは斟酌していただきたい。要するに素晴らしい。わか
ってはいた事だけど、甘く見てたかもしれん。というかだな、長く書いてなかった人にい
きなりこんなの書かれると困るんだよ(笑)。「淡い青色の髪が跳ね、目前に舞い降りた。」
なんて、普通書けるか?

 アスカでかい(笑)。さすがドイツの血を引く少女。

 そう、「変な事で立ち止まっ」てる暇はない。50年100年なんてあっという間だから。
ゆっくりでいいから歩き続けないとね。
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.18 )
日時: 2010/10/04 01:36
名前: ななし

>>17
□ tambさん

お読み頂きありがとうございます。そして感想ありがとうございます。お忙しい中お疲れ様です。
お題の方向性が間違ってなくてよかったとほっとしました。
救いがあるようにも見えますが、実際まだ不安要素がある。先の幸せは……そうですね、今後妄想力次第。無理だったら読者のイメージに委ねます、はい。基本幸せです。

>方向性としては圧倒的に正しいFF

元々原作準拠な思考があるのでその為にまっすぐなのかなと。FFは書き始めて1年しか経ってないので自分の文体の特徴が分からない部分があります。把握できてる良い部分を伸ばし学習し自分を磨き長くFFを書きたいものです。



メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダ ( No.19 )
日時: 2010/10/17 08:48
名前: 何処

「イインチョおかわり!」

鈴原は空になった丼を私に最高の笑顔で差し出した。



【もっと高く…】



「鈴原君、もうあたし委員長じゃないんだから…」

苦笑しながら丼を受け取り、艶々に輝く御飯をよそう。

「あ!いやスマンスマン、でもな、どーも碇みたいに“洞木さん”って呼ぶのも何や他所〃しいし、惣流風に“ヒカリ”って呼ぶのは何や抵抗あるねん。」

…心臓が止まるかと思った。

鈴原に“洞木”なんて呼ばれたら綾波さんみたいに顔を赤く染めて“何?鈴原君”なんて…
ましてや“ヒカリ”なんて呼ばれたら…

駄目!絶対駄目!“トウジ”なんて言えないし“トウジさん”なんて無理!絶対恥ずかしくて呼べっこ無い!

「…はい、特盛にしておいたわ。」

うっかり御飯を盛りすぎたのをごまかして鈴原に丼を渡す。

「うはぁ!?イインチョオオキに!…ってイインチョ、自分食べとらんやん?」
「あ、いいの鈴原、あたしそんなに…」


…何でこのタイミングで私のお腹が鳴るの?


全身が熱い。耳まで熱い。今の私は正しく茹でダコ状態。碇君にお弁当渡された綾波さん並みに。


「あ…イインチョ、どうもワシ食いきれそうにないんで半分喰ってくれんか?」
「え?で、でも…」
「ええからホレ。」

鈴原が私の手ごとお茶碗を引き寄せ、丼から御飯を移す。その手が熱くて力強くて…

「…あー、お兄ちゃん、ヒカリお姉さん?私も御飯食べてんねんけど…」

「え?」「あ、な、何や居たんかい!?」

ゴン!

「ガクぅッ。そらないでお兄ちゃん…」

「な、何言ってるのよ鈴原!さ、最初からヤヨイちゃん居たじゃない!も、もうやだな鈴原ったら!」
「え、あ!そ、そうやそうや、な、何ワシ惚けとるねん。はははは…」
「ば、馬鹿ね鈴原ったら、あはは…」
「そ、そやな、ま、全く馬鹿やな、あはは…」

「「あははははは。」」

…ごめんなさい。私もすっかり忘れてました…

「…で、お兄ちゃん。いつまでヒカリお姉さんの手握っとるの?」

「「?」」

私と鈴原は弾かれたみたいに離れ、自分の座布団の上に腰を据え直した。

「ほ、ほらこのお味噌汁はヤヨイちゃんお手製よ!?」「ん?あ、そ、そうやな、こら出汁が効いて少しからいのがええな、御飯がようけ進みよる。」

必死になって話題を振る私。返す鈴原。

…碇君と綾波さんの事言えないわ…

「…何や新婚家庭にお邪魔した小姑の気分や…」

「ウグッ!」
「や、ヤヨイちゃんな、何言い出してるの!?」

慌てる私ににっこり微笑み、“御飯冷めちゃうで”と彼女は言い、食事を再開した。

…その通り。早く食べちゃおう。

少女に促された私はむせる鈴原にお茶を渡し、自分の食事を再開した。

鈴原の家に晩御飯を作りに来たのはもう何回目だろう?
私が進学した疎開先の女子高から再び第三新東京の共学校へ編入したのが初夏。
綾波さんや碇君との再会は驚きだった。
遺伝子治療のせいで綾波さんは髪が根元から栗色に変わりつつあり、碇君はクラスで二番目に背が高くなっていた。

少し遅れて越して来た鈴原との再会。

疎開先を離れた時はもう会えないと思っていた。
私は笑顔で鈴原と別れ…
電車が第三新東京に着くまで泣いた。そして数ヶ月後…

目の前に現れた鈴原に、私は只泣き続けた…嬉しくて。

もうあの再会から2ヶ月、私は毎週週末に鈴原の家に通い夕飯を作る様になっていた。

「さあてご馳走様でした。ヒカリお姉さん、後片付けはウチらがやるさかい。ほれお兄ちゃん、いつまでも咳き込んどらんと食器カタさんかい!」
「ゲホゲホ…お、おう判っゲホ!」
「あ、私が」「ええからええから、ヒカリお姉さんは座っててえな。」

慌てる私を押し留め二人は空の食器を手に台所へ。

「チーン!あ、鼻から米粒。」
「うわ嫌やわ!何やっとんねんお兄ちゃんは!きったないなあもう!ほれとっととんなもんほかってんか!」

仲睦まじい兄妹がお皿を洗いながら漫才のような会話を交す。
姉妹しか知らない私に二人の会話はいつも新鮮に聞こえる。
少し乱暴で遠慮の無い、それでいて愛情溢れたやり取りを聞いていると、いつも私はあの中学時代を思い出す。

昔の碇君とアスカの子供じみたやり取り…今思うとあれは兄妹の会話だったのかも知れない。
そんな事を思って私は台所のやり取りやテレビから流れて来るお笑い芸人の甲高い声を聞いていた。

「じゃ、あたしこれで…」
「あ?なんやもう行くんか?」

…そう、もう帰らないといけない。これ以上居たら私帰れない。帰りたくない気持ちに負けてしまう。

「あのなお兄ちゃん、あまり遅うなってヒカリお姉さんの親御さんに心配掛けたらアカンやん。」

…うちのコダマお姉ちゃんと印象がだぶるのよね…
ノゾミと同い年でこれだけしっかりしてるなんて…はぁ。

「おお、そない時間かいな。気い付けて帰れや!」

「うん。じゃヤヨイちゃん又ね。」

鈴原に返事をして席を立とうとすると、ヤヨイちゃんに肩を掴まれた。

「お兄ちゃん何惚けとるねん!折角ヒカリお姉さんがうちらの為に晩御飯作りにわざわざ来てくれてるんや、感謝込めてお見送りぐらいせんかい!」

「ん〜、そやな〜」

「あ、いいのよヤヨイちゃん、そんな気を使わなくても…」

「あかんあかん!何言うとるねんヒカリお姉さん。いっつも美味しい御飯作ってもろうて只返す訳いかへん!」

「え…でも…」

「大丈夫や、ここの無駄にでっかいのに送らせるさかいに。ほれお兄ちゃん、ちゃーんとヒカリ姉おさんエスコートするんやで!義足だからちゅうて怠けるんやない!」

「ちょ、一寸ヤヨイちゃん!?」

…私の顔が青くなる。
だが二人は平気な顔だ。

「あ、ええからええから。これがうちらのコミュニケーションやけん。大体うちより早く走れて義足もへったくれも無いわ!」

「あぁ、お兄ちゃんは悲しいわぁ。なんでこない家の妹は口ばかり達者になりよったんか…」

大袈裟に嘆くフリをする鈴原に思わず私は吹き出した。

「アホいうとらんと早う送り行かんかい!」

ヤヨイちゃんの声が響いた。

「おー、ちょい着替えてくるわ。」

鈴原が二階へ着替えに上り、私は鞄を手に立ち上がる。するとヤヨイちゃんが私に話しかけてきた。

「しっかし妹から見てもヒカリお姉さん、正直趣味悪いわ〜。ほんまあんなんでかまへんの?」

「え?ええ?えええ!?ななな何言ってるのヤヨイちゃん!?」

…碇君か私は。

「照れんでええ照れんでええ、ま、どーか一つ長ーい目で見たってえな。あんなんでもうちのお兄ちゃんやさかい。」

「あ…あんなんってヤヨイちゃん…」

「あんなんやから仕方無いわ。あ〜あ、うちも綾波お姉さんみたいに碇お兄さんみたいな彼氏欲しいわほんま…うちの中学ろくなのおらへんねん。相田の兄ちゃんは海外やし。」

相田君は海外の専門学校で撮影や放送の技術を学んでいる。

「ああ、うちもヒカリお姉さんみたいな家庭的なええ女とか嫁に欲しいわホンマに。」

「ヤヤヤヤヨイちゃん!?」

「ま、冗談はさておき、ええ女にならんと男も寄らんしな…綾波お姉さんみたいに謎めいた美人やアスカお姉さんみたいなげーのー人ぽい雰囲気の美人ならなんぼでも男寄って来るやろうし、なら選り取り見取りやな〜、一丁そこらへんのトコ狙うて…」

アスカは一度ドイツに帰り、今は第二新東京大学の院生だ。週に二日講義とゼミに第三新東京からリニアで通っている。

「アホ、おまいが綾波みたいになれる訳あるかい。ましてや惣流みたいなじゃじゃ馬になったらわしゃ死んだ母ちゃんに顔向けできんわ。」

「げ!お兄ちゃん居たんか!?でもま、確かにあの二人は目指すだけ無駄やし、やっぱヒカリお姉さんみたく家庭的なトコをアピールせんとあかんなぁ…はよ彼氏作りたいわぁ。」

「何い!?彼氏ぃ!あかんあかん!んな奴兄ちゃんがパチキ咬ましておっぱらったる!」

「あ、あかん。先にこのお兄ちゃんどーにかせんと。なんとかしてーなヒカリお姉さん。」

私は返事に困って笑顔で固まっていた。


「お邪魔しました〜」
「ヒカリお姉さん又ね!ほれお兄ちゃんさっさと行かんかい!」
「お、おう。じゃ行こか。」
「う、うん…」

二人夜道を無言で歩く。
ふと空を見上げ私は思わず感嘆した。

「うわぁ…凄い星空…」
「…そやな…」

星空を見上げ、蒼く輝く星に私はアスカの瞳を思う。

アスカとの再会…
碇君と綾波さんに連れられて彼女と再会した私は目を疑った。
アスカは変わった。大人になった。
以前の子供が背伸びしている印象は無くなり、何と言うか…同性の私にまで“女”を意識させる程に魅力的になっていた。
私が思うにアスカは“少女”を卒業したのだろう。

紫色になった瞳の左目とケロイドの残る右腕を「私の勲章だから」と隠す事無くジーンズに半袖で歩く彼女は格好良かった。

綾波さんの隣で堂々としていた碇君も大人だった…相変わらず素直だけど。

綾波さんは…

何と言うか、人間らしくなった。美しい人形が魂を得た神話を思い出す。

あの神話の星座ってあったかしら…

そんな事を思い星を眺めていると、鈴原が肩にジャンパーを掛けてくれた。

「…ありがと…」

「なあイインチョ、わしな、この義足になってホンマ良かった思うねん。」

「え?」

「…わしな、馬鹿やから自分の目でしか物事計って見れんねん。やからこう、足無うなって初めて色んな物の見方知った気がするんや。」

「鈴原…」

「それにわしゃ恵まれとる。今付けとる義足、タダで貰うた上に世界初なんや。良う解らんのやが自律成長型義足ゆうて人間の成長に合わせて長さとか自動的に調整してくれるんやが、わしらの歳ならホンマは年に何回かは義足を成長に合わせて交換せなあかんねん。」

鈴原は義足を叩く。

「おまけにエヴァンゲリオンの技術流用したゆうて特別な訓練せんとも使えおる。普通の足如く感覚も有るし関節もこう動かせる。」

片足立ちで義足を動かす鈴原。
確かに歩いている姿は健常者と変わらないし、半ズボンを穿いてもよく見ないと義足とは判らない。

「わしな、役に立っとるらしいわ。わしの使うとるこの義足の使用記録の情報で開発が順調に進んどるらしゅうてな、じきにこの義足市販されるちゅう話やねん。」

誇らしげな鈴原の横顔。

「それに足だけやのうて腕や指にも応用できる技術やさかい、義手や義指も体の成長に合わせて買い換える必要が少のうなるし、性能も触る感触やらまで解るようになりおる。ワシの足が色んな人の手やら足やらになるんや。どや?凄い思わんか?」

その視線は遥か先、高みを追っている。

「…でな、イインチョ。」
「え?あ!は、はい!な、何鈴原?」

「その…もうちょい自分、しっかりせんとあかんなぁ思うねん。で…自分、もう少し自信もったら…イインチョの事ヒカリ呼んでええか?」

…意識が遠くなりそう…

「は…はい…トウ…ジ…さん…」

「え?あ…その…いや…あ…うん…」


「…」「…」



「「…」」



***



その夜、帰り道で私は空に輝く沢山のお星様にお願いしてた。
今夜の事、夢じゃありませんようにって…

目標も出来た。
“ヒカリ”って呼ばれる日に“トウジさん”って咬まないで返事出来るようになる事。

志が低いけど、手の届く場所から先ずは一歩。
頑張るわよヒカリ!

家に帰り二つのお弁当箱を洗いながらそんな事を考えていて、私はふと嫌な事まで思い出してしまった…


今日も予定以上に食べちゃった…
…来週のお弁当…カロリー押さえないといけないわよね…


体重計が怖い洞木ヒカリ17才でありました。


ED【bpm】歌・初音ミク
http://www.youtube.com/watch?v=iWjKFmO-5es&sns=em
YouTube 動画ポップアップ再生
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.20 )
日時: 2010/10/25 21:31
名前: tamb

■ななしさん
 本来FFは原作準拠であるべきなので、姿勢としては正しいかと思います。もちろんバリエー
ションが多岐に渡るのも悪いことではないですが。
 文体の特徴なんてのは、自分ではわからないものです。たぶん。
 私の場合は最初に書いたときにとある作家に似てると気づいたという部分があって、それは
ほとんど数センテンス書いた時点で意識しました。恐らく他人が読んでも似てるとは思わない
だろうという意識もあって基本的にそこから脱却しようとしておらず、文体そのものに迷いは
ないです。それがいいことなのかどうかは難しいですが、そんなことに悩む暇に書いたほうが
いいというのが私の現状です(^^;)。


■もっと高く…/何処
( No.19 )

 トウジの妹が関西弁というのは当然そうあってしかるべきで、なんで気づかなかったのかと
思う。女の子の関西弁って結構かわいかったりするんだよな。ヤヨイちゃんはちょっとじゃり
ン子チエっぽいけど(笑)。

 ヒカリと呼ばれることを夢見る少女に萌える。でも、どう呼ばれようと彼女は彼女なんだと
も思う。
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・九月 ( No.21 )
日時: 2010/10/31 02:06
名前: ななし

□tambさん

そういえば文の特徴は誰かに似ていると言われた事がない事に気づいたので気にしない事にします(笑)
描写うんぬん似ていても作者が紡ぐ物語は意識して書かない限り似る事はないし、結末は一致することはないと自分は思ってます。人の数だけ可能性の物語がある。


自分の中の物語を形にし、キャラクターを「生かし」たいなら絵や文字を綴る。それしか他者に語る方法がない。


物語を「か」くに必要なのは紙とペン、そして想像力を形にする勇気なのかもしれない

「悩む前に書く」

悩むのは後からでも出来る(笑)

メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダ ( No.22 )
日時: 2010/10/31 23:10
名前: 何処

父さん

僕はやはり父さんの息子だった。
あの赤い海が消えてもう五年が過ぎた。
僕は貴方と同じ道を歩もうとしている…

『何故だ!父さんは成功したんだ!なのに何故僕に出来ない!』

LCL水槽に拳を打ち付ける。

『諦めない…諦めるもんか…』

傍らに立つ金髪の少女は僕の白衣の裾を握りその蒼い眼で僕を見上げていた。



【彼方へ】



僕が彼女と再会するにはそれから八年を要した

『碇博士…ついに…』

『ああ…』

LCLに浮かぶ彼女はあの時そのままの姿…涙に霞む視界、懸命に眼を凝らし僕は彼女を見る。

『おめでとうございます、碇博士!』

隣に立つ助手も涙声だ。見ればその蒼い瞳も涙に濡れている。

『馬鹿、泣くのは俺だろうが!なんでお前が泣くんだよ!』

ショートカットの金髪を僕はくしゃくしゃに撫でる。
『だ、だって…。』

あの傍らにいた少女は今や僕の欠かせぬ研究のパートナーだ。涙を拭き彼女は改めた口調で私に告げた。

『では碇博士…彼女を目覚めさせて下さい。記憶転写は既に』

Beeep!Beeep!Beeep!Beeep!

『何!?一体何が起きたの!?』

『どう言う事だ!』

『碇博士!あ、あれを!?』

『そんな…』

僕の目の前で少女はLCLと化して行く。あの日の母の様に。

イカリクン・・・イカリクン・・・イカリクン・・・

『嘘…』

『綾波!?綾波ー!』

綾波は…消えてしまった。僕は…やはり人を愛するべきでは無いのか?

…こうして綾波レイの肉体再構成は失敗した。再度の実験でも人工合成した遺伝子から製作した肉体はLCLから出ると肉片と化した。
ATフィールドが脆弱なのか…やはりオリジナルの細胞から遺伝子を…だが何処に?

◇◇◇

あの赤い世界、僕は護られる事から抜け出し、追い求めた存在に拒絶され、それでも生きて…世界は甦ってしまった。

未だに僕の悪夢に現れるLCLの中に無数に浮かんだ綾波、エヴァを…僕を求めたあの巨大な存在を。
僕は怯えた。あの時綾波は恐怖の存在だった。あの赤い世界で僕を見詰める水平線彼方の綾波も、僕と一つになった綾波も、僕は恐れていた。

だから、僕は一つになる事を拒絶したのかも知れない。

そして甦った世界、その中へ帰還した僕は孤独だった。
そして漸く気付いたんだ…綾波への恐れは、愛情の裏返しだったって事に。

アスカ…君の言う通りだったよ。僕は君に逃げていたんだ。

…もう…逃げない…

そして、僕は狂気に身を委ねた…父親と同じ様に。

だが結果はこれだ。漸く僕はレイを手に入れ…又失った。


◇◇◇


あの日からもう十年…


『…アスカ、弐号機の残骸から君の母親の記憶のサルベージは終わった。クローニング体も完全な状態だ。目覚めた時には君が求めたママが待っている…君への贖罪だ、受け取ってくれ。』

冷凍睡眠装置のカプセルに僕は語りかける。

『…そして、僕は僕を求めた、在りの儘の僕を必要としてくれた彼女を呼び戻す…』

傍らのLCL水槽を見上げ、僕の頭上を漂う無数の少女達を眺める。

『…エントリープラグの中にまさか君がいたなんてね…例え脳の一部だって、君には違い無い。』

ふと微笑み、僕は又カプセルを見る。

『ねえアスカ…君は今度こそ幸せになるんだ…そして僕も彼女を取り戻す…今度こそ。』

霜の降りたカプセルに僕は語り続ける。

『アスカ…僕は今漸く君が解る。君の強さ、弱さ、そして狡さと嫉妬深さの訳が。』

特殊樹脂の透明カバーを擦り霜を落とす。そこに眠る少女の肌は純白。
手袋を外し、そっと指先をその肌に這わせる様にカバーをなぞる。

『君は僕の鏡像だった…だから惹かれ、反発し、憎んだんだ。』

張り付くのも構わず僕は掌を押し付ける。

『ごめん…ごめんよアスカ、僕は君にこんな…』
『こんな事、娘は望んで無いわ。』

背後から掛けられた声は…

『…キヨコさん、貴女は呼んでいませ』『黙って』

彼女の手には銀色の45口径、僕は黙った。

『…』

『…碇博士、私は、私の肉体は確かにキョウコ・惣流・ツェッペリンのクローニング体です。でも私は、私の心はキヨコ・六分儀です!』

『ああ、知っている。だから君はこうしてここにいる。アスカの母親となるのは君の予備のクローニング体だ。キョウコ博士の記憶を』

『違います!私が言いたいのはそんな事じゃありません!』

彼女は…泣いていた。

『判りませんか…貴方はもう五十を過ぎているんですよ?もう綾波さんと結ばれはしない!貴方は、貴方はもう…』

彼女から視線を逸らし、LCL水槽を仰ぎ見て僕は語る。

『…この年になって俺はやっと父親の…父さんの願いが解る。』

『…え?』

『「有り難う」…只その一言を伝えたかったんだ…』
『そんな…』

『その銃を仕舞ってくれ。彼女が怖がる。』

僕はプラントに浮かぶ少女から視線を外さす告げた。。

『…条件があります…』

『…何だい?』

『条件は二つ…キョウコの復活はこの娘の、アスカの意識が回復した後、本人の意思で決めさせて下さい。』

『…もう一つは?』

『お願いを聞いて下さるんですか?どちらか一つだけでは私は許しません。二つとも聞いて頂けなければプラントごと爆破しますよ。』

『爆破?まさか…いや、君なら簡単か。判った。言う通りにしよう。』

『もう一つは…この娘達には家族が必要です。貴方が父親になって下さい。』

『ああ、それは当然そのつも』『母親も要りますわ。私みたいな母親が。』



鳩が豆鉄砲喰らった表情とは今の僕の顔を言うのだろう。

『…何?』

ギリギリ軋みながら振り返り、何とか絞り出した声は我ながら間抜けで

『ち、一寸まてキヨコ君、ききき君はぼぼぼぼ僕の娘みたいな物でただだ大体歳の差を』
『相変わらず興奮なさると“ボク”なんですね、碇博士。』

…成る程、アスカの母親だ…

『あ、いや、しかしだな、君はこんな僕みたいな過去の遺物と言うか昔の思い出に生きるような』

『シャラーップ!』

『は、はい…』

『碇博士…』

俯いた彼女は低い声で僕に告げる。拳銃の安全装置を解除しながら…勘弁してくれ…

『…私が何故貴方の研究に手を貸したか判ってます?只の探究心だとでも?判りますか?私もあの娘もファザコンなんですよ?』

『あ…う…』

『それにこのままじゃ私ウエディングドレスを三十路過ぎて着なくちゃいけないんです!誰かの過保護な愛情のお蔭で。』

顔を上げ、キッとぼくを睨むアスカ似の表情は固い。

『し、しかしだな…』

『責任、取って、下さい。私の命と、私の恋心と、私の人生の。』

『い、いや、だがな、』
『駄目?“おにいちゃん”』

『ぐっ!』

『パパって呼ばせないで“おにいちゃん”なんて、まるで私ブラコンじゃないですか。この責任も、どうして下さるんです?』

『い、いやだから…』

『だから?』

『あ、あのな、つまり…』

◇◇◇


『し ん じ。』

『い か り 君。』

『碇博士、起きれます?。』


…枕元の眼鏡を手探りで取り上げ、横になったまま僕は視界を確保し、声を掛けた女性陣に挨拶する。

『ああ、おはようアスカ君、レイ君、キョウコ君。』
『あのね…おはようって』
『もうお昼よ、碇君』
『アスカちゃんもレイちゃんも、碇博士は今朝までお仕事だったんですからね、もう少し寝かせて…』

『駄目よママ!キヨコお母さんが帰って来るまでにこのバカ』
『アスカ。』

…キヨコもそうだかキョウコ君も怒ると怖いな…

『…言い直しなさい。』

『…はい。つ、つまりキヨコお母さんが入院先から帰って来るまでにきちんとした生活習慣を碇シンジさんに身につけて頂きたいと』

『グート!』

苦笑しながらやり取りを聞く僕に綾波は耳打ちした。

『碇君、私をこの世界に呼び戻してくれて有り難う。』

僕もお返しに耳打ちする。

『幸せかい?』

『あーっ!?何こそこそ話してんのよあんたは!』

『…内緒。』

『ムキー!ムカつくわねこの女!』『こらっ!アスカ何ですその言葉使いは!』『キャー―ッッ!?マ、ママごめんなさ〜い!』

追い掛けっこする二人を綾波と僕は微笑んで眺める。又綾波が僕に耳打ちした。

『さっきの答え、幸せよ、とっても。もうじき家族も増えるし。ね?碇おとうさん。』

『綾波…有り難う。』

《よくやったな…シンジ》

『『『え?』』』

キョウコさん以外の動きが止まる。

『父さん!?』『『碇司令!?』』

僕らは顔を合わせた。

『今…』『碇司令の声…』『聞こえたわ…』

『…?三人共どうしたの?』

ふと込み上げる何かが、僕の目を焼いた。

有り難う…父さん、それに有り難うみんな、有り難う…

未だだよ、父さん、これからなんだ。

もっと高く…僕は君達をもっと高く連れて行きたい。
今よりも、もっと幸せの彼方へ。

僕の濡れた頬を僅かに空いた窓から来た風が優しく撫でた。


●曜サスペンス劇場風ED
【RIP=RELEASE】歌・巡音ルカ
http://www.youtube.com/watch?v=4SyGgU9qKQc&sns=em
YouTube 動画ポップアップ再生
メンテ

Page: 1 | 2 | 3 | 4 |