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サイト開設十周年カウントダウン企画・八月―カウントゼロ―
日時: 2011/07/30 05:40
名前: tamb

月々のお題に沿って適当に書いて投下して頂こうという安易な企画です。作品に対するものは
もちろん、企画全体に対する質問や感想等もこのスレにどうぞ。詳細はこちらをご覧下さい。
http://ayasachi.sweet-tone.net/kikaku/10y_anv_cd/10y_anv_cd.htm

今月のお題は

・綾波レイの幸せ
・Over The Rainbow

です。

1111111ヒット記念企画に始まり、物議を呼んだゲロ甘ベタベタLRS企画を挟み、いよいよこの
企画も終了間近。ま、少なくとも私が全お題を書き切るまでは企画そのものは終わらないわけ
だが(笑)。

しかし企画が終わるってことはこのサイトが10周年を迎えるってことで、もちろんそれにはそ
れなりの感慨はあったりするわけだけれども、それはそれとしていつも通りぬるい感じでやっ
ていきましょう。ちなみに10周年の隠し球は、少なくとも今のところは無いっす。
メンテ

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Re: サイト開設十周年カウントダ ( No.1 )
日時: 2011/08/05 04:35
名前: 何処

この虹を越えれば…

私の幸せは、この虹の向こう側。

私は、躊躇せずに真っ直ぐ虹の向こうへ飛び込んだ。


【彼女の幸せ・僕の幸せ】
初音ミク《Yellow》
http://www.youtube.com/watch?v=L7Jh9Jhaf2s&sns=em



「うわっ!?」

ホースで水を掛けながら車を洗っていたら、向こう側でその様子を見ていた彼女が跳ねる水飛沫を割って飛び込んで来た。

思わず洗車ブラシとホースを放り出して彼女を受け止める。

傍らのラジオからはカントリーが流れ

放り出したホースは暴れながら水を振り撒き

太陽は燦々…いや、ギラギラ輝き

僕の腕の中には
僕の幸せが形となって熱と感触を以てその存在を主張している。

蒸し暑い昼下がり、僕は彼女の何時もの突拍子の無い行動に言葉を無くし、裾を濡らしながら只手の内の幸せを抱き締めていた。


※※※


私は、今一人の人間として生きている。
全てが終わり、無へ消える筈の私は何故か存在を保っていて
途方に暮れたまま只存在する私をこの人は肯定して背中を押してくれた。

そう、あの瞬間から私の新たな命が始まったの。


***


「綾波…レイです。」

僕が彼女に出逢ったのは大学の新歓コンパだった。
碇の彼女と聞いていたが、まぁ、美人なのには驚いた。
最も、そのすっ飛んだキャラクターにもっと驚かせられる事になろうとはその時は思いもしなかったが。

暫くして、碇は彼女と喧嘩別れをした。

…正直、やっぱりなと思ったよ。
碇は彼女を気遣ってはいたけど、それは相手を対等の相手として見た気遣いじゃ無かったから。

多分、大切にされた事の無い男が自分なりに考え抜いた末の行動立ったんだろうが、それは違うんだよ。

とは言え、ピントの擦れた二人のやり取りは下手な漫才より面白かったが…

結局、碇は自分が間違っている事を認められず
彼女も碇の何が間違っていたのか解らず

…ま、良く有る話だったよ、そこまでは。


何やかんやで仲裁に入る羽目になった僕は、二人から衝撃的な…否、そんな言葉では済まない程の事実を知らされた。

詳しくは彼女と共に生きる事になってから発生した守秘義務に係わるから言えないが、二人の問題はサードインパクトやネルフなんて物に関係する事柄だったんだよ。

…皮肉な事に。


◇◇◇


「…ほら、彼氏が来るぞ、妙な誤解されたらどうする。」

「大丈夫…お父さんとスキンシップしてるだけ…」

「あのなぁ…」

「…聞きました…娘さんの事。」

「!?」

「…亡くなった娘さんの分まで、私がお義父さんを幸せにする。だから…」

「…僕は幸せだよ。亡くなった娘の分とは別に。君を娘に出来た、それこそが幸せだ。」

「…お父さん…」

「さ、もう直彼氏が来るよ、着替えておいで。そぉんな濡れて透けた服で彼氏と会うなぞ父さんは許さんぞぉ。」

「クスクス…はい、じゃ着替えて来ます。」

「ん。宜しい。」


***


…僕の娘はネルフ職員だった。

使徒戦の最中、娘はこの世界から消えた…

エヴァンゲリオンの自爆に巻き込まれたらしいと後に人伝に聞いた。

無人運用する兵装ビル、回線故障により動かないそれを作動させる為に一人非常用操作室の有る装甲ビルに残ったそうだ…

消えた街、消えた娘、消えたエヴァンゲリオン、消えたチルドレン…

因果は廻り、僕は彼女と巡り合った。

世界は奇跡で出来ている。

本来この世界に帰る筈の無かった少女。
非科学的だが、彼女を僕は帰る事の無い娘の生まれ変わりと確信した。

これ以上を語るのは蛇足だろう。

僕は、足元で暴れるホースを踏み抑え、再び洗車を始めた。

放物線を描き車を叩く水流はその欠片を撒き散らし小さな虹を作る。


虹の向こう側に見える通りの端、そこから現れた見慣れた自転車に乗って走る碇の姿が水滴のカーテン越しにゆっくりと近付いて来る。

空は快晴、風は穏やか、実に良い日。


何時の間にかラジオからはクラプトンが流れていた。

2013・3・23一部改定


L7Jh9Jhaf2s
メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダ ( No.2 )
日時: 2011/08/08 03:14
名前: 何処

【続・メランコリック少年シンジの憂鬱 ーVer・LRSー】
《ゆっくりしていってね!!!》歌・初音ミク
http://www.youtube.com/watch?v=7R1fs3PnX9M&sns=em


「…はぁ、又綾波から呼び出しか…まぁたろくでもない事だよ絶対…」

てくてくてくてく

「て言うか判ってるのに何で行くんだろ僕…ってもなぁ…行かないと後がなぁ…」

てくてくてく

「…今回こそ逃げちゃおうかな…逃げたい…逃げちゃ…無駄かな…無駄だよね…はぁぁぁぁ…」

てくてく…

「…逃げちゃ駄目…逃げたって無駄…あ!に、逃げるから駄目なんだ!こ、ここは一つピンチをチャンスにするべく行動するんだ!」

ピタリ

「そうだ、この機会に綾波にちゃんと常識を教えるんだ!ビシッと…と…と…」

…てくてく…

「無理だょぉ…ぜぇ〜ったいアスカか霧島さんか真希波さんが絡んでるもん…逃げなきゃ駄目かな逃げなきゃ駄目だよね何事も挑戦だってミサトさんも言ってるし諦めが早すぎだってアスカに怒られてるし…」

ピタッ

「逃げても良いよね逃げても良いんだ寧ろ逃げなきゃいけない逃げ…逃げなきゃ、そうだ逃げなきゃ…そう、逃げなきゃ駄目だ!よし逃げよう!これは明日への脱出だ!逃避だけど前向きだから逃げて良いんだ逃げて良いんだ逃げて良いんだあ!逃げます!僕は逃げます!」

クルッ
ドン!

「あ痛ぁ〜、す、すいませ…え?」
「…シンジか…」
「!と、父さん?な、何で学校に!?」
「…レイに呼ばれた。」
「と、父さんまで!?」
「…行くぞ…」
「え?あ、ち、ちょっと…はぁ…行かなきゃ駄目か…とほほ…」

トボトボトボ…

◇◆◇

「はぁ…いつもながらここの扉は重圧だ…」

「何をしている、早く開けろシンジ。」「あ、うん」

「…司令?碇君?」

「うわっ!?」「…レイか…」
「…どうしたの?」
「あ…綾波…どうしたのって…」
「私達はレイ、お前に呼ばれた筈だが。」
「?私は碇君が呼んでいると聞いて来たのですが…」
「「「?」」」

「…行けば解るな。」「と、父さん!?」「…」

ガラッ!

「「「…良く来た…」」」
「うわわわわっ!?」「何者だ!?」「…この声は…」

“な…何あの格好?”“…止める?”“…無駄じゃないかな…”

「声?…!?アアアスカァ!?ききき霧島さぁん!?真希波さんまでぇ!?」「何?」「?一体…何?」

「違うわ!私は綾波補完委員会委員1号!」「同じく2号!」「そしてあたしが3号っ!ニャハハッ!」

『『『ビシッ!』』』

「「「乙女の安全と希望を守る為、勝手に只今推参よっ!」」」

「あわわわわ…」「黒の三角頭巾…まるで秘密結社だな…」「司令、黒魔術と言った方が」

ガタガタッ

「いたたたぁ…可愛い顔して結構物言いきっついぢゃん…」
「レイちっがーう!それちっがーう!」
「綾波さんその台詞無ーし!」

「…無しなの?」「ぼ、僕に聞かれても…」「…何の要件か聞こう。」

「あ、司令ちょい待ってにゃ」
「未だ全員揃って無いんで」
「さ、皆揃ったわよ4号!5号も出て来なさい!」

「やっぱり出なきゃ駄目?」「こ…この格好、は、恥ずかしい…」
「あーもーしょーが無いわねぇ!2号!3号!やぁっておしまい!」

「「あらほらさっさー」」
ガシッ
「「ひえぇ〜!?」」
ズルズル…

「…KKKか?」
「…どうしたの皆?」
「…な、何で山岸さ…洞木さんまで!?一体何をしてるのさ全く…」

「「それが…その…」」

「「隊長!全員集結完了!」」
「了解!さてと…碇司令、本日は急なお誘いにも関わらずわざわざ御足労願いまして有難うございます。ほら!あんた逹も挨拶なさい!」
「碇司令…わざわざ有り難うございます…」
「ちゃーっす司令!お元気かに」スパパーン!「痛ぁい…」
「真〜希〜波〜」「いい加減にしなさい!」「はぁ…」「あ…う…」

「“碇君…山岸さん退いてる退いてる”」「“…このノリは流石に山岸さんには厳しいよね…”」「…」

「う…い、碇司令、い、いらっしゃいませ…」
「あ!い、ぃらっしゃいませぇ…」

「では…シンジ…あんたに一寸聞きたい事があるのよ…さ、座りなさい…」

「ひっ!?こ、怖っ!」「?」「…」

「あ、司令はこちらに」「レイちんはここにゃ」「…それでは第一回綾波補完委員会特別招集会議を開催するわ…」

「はぁ?」「綾…何?」「…」

「碇君…私達は貴方に質問があるわ…」
「…その為の招集よ…」
「じゃ、正直に答えなさいワンコ君。」
「黙秘は肯定と見なすからそのつもりで。」

(…何か嫌な予感…)

「シンジ…あんたレイの胸揉んだ事有るそうじゃない…」

「げっ!?」「「…」」

ガラッ!ダガダカダカダカダカダカッッ!

「うわわわわっ!?」

「ち、一寸今のマジ!?」「い、碇君最低!」「お、女の敵が碇君だったなんて…」「う〜、碇君酷いぃ〜」「…キュー…」「あ、板ちーの下でマイマイ潰れてる」「あ…ごみん…」

「…どうしたの皆?」「…な、何で他の皆まで…」「…」

「…Pi”あー、チルドレンSPの皆さ〜ん、部外者排除お願い”pi」
ガラッ、ドカドカドカドカ…

◇◆◇

「…排除完了…」「では続きを」「“…ね、ねえ今の黒服の人達って…”」「“…アスカ達の護衛だって…”」「…何て言うか…公私混同じゃ…」

「さてと。で、一体シンジは何故レイの胸に手を出したの?」
「え゙っ!?だ、だからそ、そんな事…」「あるわ。」「あ、綾波ぃ!?」
「ヒュウヒュウ♪やるにゃ〜ワンコ君、君も男だねー(笑)」
スパパーン!
「ナ…ナイス突っ込み…」「いやいやそう言う問題じゃ無くて…」
「見なさい、4号も5号も呆れてるわ!」

「「…“呆れぢゃ無くてドン引きデス”…」」

「さて、では綾波レイさん…証言を。」

「はい…碇君は二年前、私の家にプリントを届けに来て私の胸を」「あ、綾波!!あ、あれは事故じゃないか!」

「…認めましたね…」「碇君…不潔…」「い…碇君そんな人だったなんて…」「最っ低!」「さっすがワンコ!盛りがつくと止まらない訳だにゃ(笑)」
スパパパパーン!!!!
「…うにゅう…」

「ぼ、僕は無実だあっ!何この魔女裁判!?異議有りまくりだよ!?」
「…シンジ。」
「信じて父さん!ぼ、僕は無実…」「…良くやった。」
「「「「「「は?」」」」」」「…?」

「シンジ…お前が我欲に目覚め大人の男に一歩近づいたとは…父は嬉しい。」

「へ?」

「だがお前は既成事実を利用する事すら無く只目の前のチャンスを逃している…そこをだな」
「そ、それは…確かにミサトさん所で綾波やアスカと半同居なんて恵まれてるとは思うよ、思うけどさぁ…僕だってプライベートは欲しいし女性に対する夢とか希望を持ちたいんだよ…」
「はぁ!?何が夢を持ちたいよ!ま、まるで私と暮らして夢が潰えてるみたいじゃない!」「碇君…私もなの?」
「え?あ!い、否否否べべべ別に特に妙に誰が何とは…」

「あっちゃー…」「馬鹿ねー。」「…ああ、自爆…」「やれやれ流石ワンコ君」「碇君…日本語おかしい…」

「誰が何ですってえ!」
「碇君、その台詞は無いわ」「同感」
「ワンコ君。正直は罪だにょ、事実は時に人を傷付けるからにゃー。」
「「あんたが言うな!」」
「ぼ、僕は無実だ!」

「無実ねぇ」「皆そう言うのよね」「正直に言いなさい」「碇君…不潔」

「え、冤罪だ!」

「返答次第によっては…」「「女の敵と認定」」「「殲滅ね…」」

「ってべべべ別になな何も…だ、大体揉んでなんか無いよ!?」

「そう、碇君は掴んだだけ…こんな風に」

むんずっ

「「「!」」」「ウキャァー――ッッ!?な、何いきなりあたしの胸掴んでるのよー―っ!」「ヒュウ♪」
「…凄い、アスカの胸、掌から溢れる…」
「どりどり私にもその感触を…《ムニッ》ヲヲッ!こ、こりは又しっとりタプタプでもコシが有って」モミモミ
「!ウキャー―!!や、止めぇ!」
「…巨乳…か…」「洞木さんだってDカップあるじゃないですか…」
「あ、次あちし次あちし」
「ヒエエっっ!?な、何あんたまで混じってるのよお!!と、止めなさ!?うひゃあ!?」モミモミ
「うむ、中々な感度と揉み心地。ほりワンコ君も司令も一揉み如何、一回千円」
「止めーい!人の胸で商売するなー!」
「ど、どうする父さん?と、止め」「問題無い。」

「…は?」

「揉むなら払え、払わんなら帰れ」
「何言ってるのさ父さん!?」
「シンジ…お前はもう一人で歩ける筈だ。自分の道は自分で探せ。私自身そうしてきた。」
「何か格好良い台詞だけど何で千円札出してるのさ父さん!?!何かもう色々台無しだよ!」
「ちょ、や!い、いつまで人の胸揉んでるのよぉ!」
「と、止めなきゃ」
「シンジ…お前には失望した…」
「と、父さん!?そこで何で僕に失望するの!?」
「人とは欲…」
「そんないかさま賭博で荒稼ぎする高利貸しな地下帝国の帝…帝…帝帝王王王オウオ…ま…まさか…」

ニヤリ

「それはともかくシンジ、揉まないのか?女の胸は嫌いか?」
「え!?そ、そりゃあ揉みたいとは思うよ、思うけど…」
「ならばレイの胸ならば良いのか?」
「い、否父さんその発言は色々不味いよ!?」

「碇君…私の胸じゃ…駄目?」

「あ、いや、駄目どころじゃ無くて…只さ、常識以前の問題が…」
「…駄目?」
「あ、いやそのあのだからつまり…」
「そう…駄目なの…」
「あ、あうあう…」
「…あんた男殺しねぇ…で、碇シンジ君。こーゆー時の返事は?」
「え?ええと、あの…その…」
「ほり、具体的に言えば良いにゃ。“揉みます、僕が揉みます”とか“揉まなきゃ駄目だ”とか“揉ませてよ僕に揉ませてよ”とか」
スパパパパーン!
「「「「言えるかーっ!」」」」
「キュー…」

「そう…駄目なのね…やっぱり私の胸大きさが足りないのかしら…」
「いえ十分に足りています!寧ろ大歓迎です!」

ざわ…ざわ…

「…え?」

「シ、シンジ、あ、あんたも男だったのね…」「ガッカリだわ」「でも何か安心した様な…」「正直女性に興味無いんじゃないかと…」

「ぼ、僕だって正常な壱男子だ!興味有るさ!」

「嫌…何を言うの…碇君のえっち…」

ガタガタガタガタッッ!

「え…えっちって…」「?何か違ってる?」「な…何かって…」「?違うの?」「うう…頭痛の種が又…」「そう…違うのね…」

「むう…予想と違う…」

「な、何を予想してたんだよ!?」
「いや、坂本ちゃんの予想じゃあんた渚の変態と実はホモホモなん」「な訳あるかー――っっっ!」

「ふ、不潔よーっ!」
ガタタタン!

「…ヒカリ、マユミ両名撃沈しました…」
「あー、免疫無かったか…」

「…碇君、ホモなの?」

「真顔で聞かないでよ綾波…」

「やれやれ…」「ガッカリだわ」「全くこれだから…」
「な、何皆その“期待外れ”的雰囲気!?な、何で僕が駄目出しされなきゃならないの!?」
「だって」「ねぇ」「怪しいし」「ホモ臭いって言うか」「やっぱここは一つカミングアウト」

「な訳有るかぁ!僕だって男だあ!綾波が色っぽいとかアスカは胸まで生意気だとか霧島さんスカートが短か過ぎだとか洞木さんも意外と胸大きめだとか真希波さんの胸元谷間が強調されすぎだとか山岸さんの清楚さが逆に新鮮だったりなんて思って何が悪いんだよ!」

ガタガタガタッッ!

「…へ?」

「シンジ…最低…」「シンジ君…不潔…」「「「…碇君の変態…」」」
「!な、?何でさ!?」
「?碇君、変態なの?」
「僕は無実だぁーっ!!」「…シンジ、もう私を見るな…一緒にされたく無い。」
「な事言う前にその手の千円札仕舞ってよ父さん!」

◇◆◇

てくてく…

「レイ…」
「…はい」
「…皆がお前を愛し、お前を気に掛けてくれている。」
「…はい」
「…良かったな…」
「…はい。私、幸せです…」

◇◆◇

「はぁ〜、平穏な日常が欲しい…」

トボトボトボトボ…

「幸せって何だろう…」

♪リーンゴーン♪リーンゴーン♪


《**ぽ》歌・初音ミク
http://www.youtube.com/watch?v=AxjoYDABFBg&sns=em
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メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月―カウントゼロ― ( No.3 )
日時: 2011/08/13 17:33
名前: かぽて

お題 ・Over The Rainbow


切れかけた蛍光灯がたてるチカチカという音が遠く聞こえていた。
仰向けに横たわり目をつむると、鼓動が耳の奥から響いてくる。
二つの音は寄り添い、けして離れることなく、揺れながら重なっていた。


もう一人のレイがやすむ寝台の横に置かれたガラスの花瓶。
そこに生けられた花をレイは見つめていた。
空調の風が葉を微かにゆすっている。
ふるふると震え、どうしてだか、色素が抜けるように緑が薄く目に映った。

「花も寝るんだって知ってた?」

いつの間にかレイを見つめていた、もう一人のレイが言った。

「いいえ」
「夜はとても静か」
「そう」

花から目を離し、もう一人のレイの様子に目をやった。
病身を横たえた彼女は宙に人差し指を浮かべ、
振り子が行き来するかのような軌道で、その指先をゆっくりと動かしていた。

「花瓶の水をかえてくれる?」
「ええ」


病室に置かれた洗面台は小さすぎるようだった。
水を移しかえようと、コップをつかって、花瓶に新しい水をはっていく。
脇に置かれた花の茎から雫が滴る音が部屋に響いていた。

「水の音って何かに似てる」
「そう」
「なんだろう……」

独り言をつぶやくように、もう一人のレイが言った。

レイは首をかしげた。
もう一人のレイが言うことは、よく分からないことが多かった。




「ここにあるものを使ってね」

物置小屋の軋む扉を押し開いて、教師がレイに言った。
午後の強い日差しが物置の中に差し込む。
ジョウロやスコップ、他にいくつか見慣れない園芸用具が整然と並んでいるのが分かった。

去っていく教師と入れ替わりに、物置の扉に手をかけ、中へと入った。
堆肥と埃のむっとした匂いが辺りに立ちこめている。
レイは手近な棚に置かれたジョウロを一つ手に取ると、花壇脇の水道へと向かった。

ジョウロには結構な量の水が入るのだと分かった。
手にもったまま水道から注ぐのは諦めて、水が流れ出る位置に合わせ、足元にジョウロを置いてから、下へ向けた蛇口をひねった。
ごぷごぷという奔流のくぐもった音が辺りに流れる。
ほんの少しだけ、ふちに当たった水流が、はじけて飛んでいった


一週間ほどの入院生活を終え、登校してみると、レイは園芸係になっていた。

担任に係について尋ねると、一学期の間、各学年各クラスの担当者が、放課後に校内の植物の世話をしてまわるのだという。
曜日で持ち回り。
火曜と木曜に、校舎脇の小さな花壇に水をやることが、掃除当番の代わりにレイの仕事になった。


西校舎の裏手、あまり人が寄り付かないような場所に、煉瓦で小さく囲われたスペースがあった。
ジョウロ一杯の水で間に合ってしまう、こじんまりとした花壇。
『土が湿る程度に』
先ほどの教師が言った通りにはなっているだろう。
はじめての水やりを終え、レイは辺りを眺めていた。

連日の暑さにもめげず、そこここに青々とした芽や草花が顔をのぞかせていた。
時折ながれていく風が産毛につつまれた葉の間を抜け、その拍子に、撒いた水がぽたぽたと雫となって落ちていった。


水場でジョウロの水気をきって、手を洗ってから、物置に戻った。
他の園芸係も水をまきに出ていったのだろうか、小屋の道具棚にいくつか空きがある。
扉は閉めずに、物置を後にした。
むっと暑気がこもった午後、そこだけ少しひんやりとした手の甲の心地良さを感じながら、レイは下校した。




もう一人のレイが、病衣の肩をはだけ、うつぶせに臥せっていた。

レイはその肩をゆっくりと撫でるようにさすっていた。
あまり強く触れると痛むようなので、微かに。

「あたたかい」
「そう」

寝たきりのもう一人のレイは、たまにこうしてどこかを痛めたり、筋を違えたり、時には床ずれをおこすこともあった。


「痛いのは嫌い?」

首だけは横に向け、寝台の横に置かれた花瓶の花を見ながら、もう一人のレイが言った。

「……よくわからない」

レイはこれまで自分の身に降りかかってきた苦痛について考えた。
しかしそこにあるものは、そこにあるものとして、ただ受け入れてきた自分を思い出すだけだった。

「痛みの音は大きすぎるの」
「そう」
「じっと耳をすませないと、他に何も聴こえてこなくなって、でも」
「でも?」
「最近は、なんだかすべての音が遠くなっていっているような気がする」

なんといっていいか分からず、レイはただ彼女の肩をさすっていた。

「ねえ、また水をかえてくれる?」
「ええ」
「水の音が聞きたい」


もう何度目になるだろうか、いつものようにコップに注いだ水を、ゆっくりと花瓶にそそいでいった。

脇に置かれた花は、もはや枯れかかってきていた。
跳ねこぼれた幾筋かの水が、しぼみ出した葉の上を虚しく滑り落ちていった。

二人は息をとめるようにして、ただその音に意識を向けていた。




その本を手にとったのは偶然と気まぐれからだった。
書棚を眺めながら次に読む本をみつくろっていた時に、視界の端に園芸という文字が入ってきたので、ごく軽い気持で借りていくことにした。


定位置である待機室のベンチに腰をかけて、レイは借りたばかりの園芸書を取り出した。
園芸書というよりは、草花の写真集といってもいいかもしれない。
各種植物を世話する様子が、緑の鮮やかさはそのままに、見やすい構図で写されている。
活字が詰まった本を手に取ることが多かった彼女は、読み方にぎこちなさを覚えながらも、ぺらぺらとページをめくっていった。


ドアの開閉音に目を上げると、シンジが部屋に入ってくるところだった。

「今日、宿題おおいね」

一声かけ、机の上に鞄を置くと、彼は椅子に腰かけた。

「ええ」

シンジが鞄から教科書とノートを取り出し、宿題をはじめたところで、レイは視線を園芸書に戻した。
丁度、ダリアの切り戻しについての説明を読んでいたところだった。
作業工程を追って、黄と赤と緑に彩られたダリアの様子を数枚の写真が切り取っている。

――この花を見たことがある。

素焼きの鉢に寄せ植えされたダリアの写真を指でなぞりながら、レイは思った。

「大丈夫?」
「……え?」
「いや、なんだか呆然としてたから、どうしたのかなって」
「そう」

薄い赤と黄が混じり合って、透けるようなオレンジになった花弁。
細い茎に支えられ、夏の日差しの下、咲ききる前の花が初々しく色づいている。
かつて見た花とは、まるで印象が違ったが、どちらも同じダリアだった。

「この花、ダリアっていうのね」

部屋の中、蛍光灯の灯りをあびて、静かに咲いていた姿を、レイは思い出していた。




もうあまり動かなくなってしまったもう一人のレイの手を、レイは握っていた。
寝ているように、ゆるやかに上下する胸。
時折、もう一人のレイの指先が何かを伝えるように動くと、それに応えるようにして、レイは彼女の手の甲をさすった。

「蛍光灯の……」

ささやくような声で、もう一人のレイが言った。

「ええ」
「音がしなくなったの」
「そう」
「うん。もう聞こえない」

もう一人のレイの気持をどこか別の方向に向けるための話題を、レイは持っていなかった。
二人の間に沈黙と影ばかりが積もっていく。
ほっそりとした彼女の手に触れながら、レイは花瓶の花を見ていた。

しぼんだ茎は、頭をたれた花を、もう支えていられないようだった。
全体が腰を下ろすようにして、立っていることを諦め、花瓶の縁に寄りかかっている。
萎れた葉が時折たてる乾いた音を聞きながら、レイは自分の体温をなぜだか生々しいものとして感じていた。

「水を」

レイにはその一言で十分だった。


いつもするように、収納棚の上に花瓶から抜いた花を横たえた。
重さというほどのものは殆ど感じられない。
その軽さはレイにとって憧れともいえるものだった。
けれど何故だか羨む心持ちにはなれず、代わりに見知らぬ感情が彼女を訪れてきた。

もう一人のレイは、目を閉じて、何を言わずに、ただ横たわっていた。
二人はあまりに静かで、水音だけがただ部屋に流れていった。

花瓶が水で満ちていくにつれ、よくわからない感情が自分の胸にも満ち満ちていくのを、レイは感じていた。
その勢いに身がすくむ。
どうか溢れ出してしまわないように。
彼女は無言の内に願っていた。




火曜日の放課後、レイはジョウロを満たして、校舎脇の花壇にむかった。
ここのところ、日に日に暑さがつのってきている。
一日分の日差しをたっぷりとあびた道は乾いて、ただ熱をじりじりと放っていた。

花壇につくと早速、レイは水やりをはじめた。
ほんの数分でジョウロの水は空になったが、いつものようには土が湿らず、ところどころ乾いた土肌がのぞいている。
もう一度、水道で水を汲んでくるべきか、レイは思案した。

「綾波、おつかれさま」

やはり水場に行ってこようと思ったところで、かけられた声に振り返ると、そこにはゴミ箱を両手にさげたシンジが立っていた。

「園芸係の仕事、おわった?」

ゴミ捨てにいっていたのだろうか、空っぽのゴミ箱をもって、シンジが花壇まで歩み寄ってきて言った。

「いえ。まだ土が乾いてるみたいだから」
「そっか」
「ええ」

ちらりと一度だけ視線をジョウロにやって、シンジは花壇の向かい側に屈みこんだ。
草花を眺めはじめた彼はそのままに、レイは水場へと戻った。


ジョウロを半分ほど水で満たしてから戻ると、

「結構いろいろ育ててるんだね」

しゃがみこんだままのシンジが声をかけてきた。

「これ、ダリアだね」

花壇の隅、青い葉と蕾をつけた株を指して、彼が言った。

「え?」
「こないだの本、この花について調べてたのかなと思ったんだけど」

シンジの隣で腰をかがめ、彼が指さす辺りを、レイはあらためて見つめてみた。
半ば土に埋もれた名札には、飛び散った泥に隠れてはいたが、確かに『ダリア』という文字が書かれている。
辺りには、青々とした葉と芽をつけた株が、いくつもの同じような顔をのぞかせていた。

何も言うことができなくなったレイは、ただ彼の傍でじっとジョウロを握りしめていた。




主のいなくなったベッドには、真新しいシーツがしかれていた。
何も置かれていないサイドテーブルの上に、花瓶の底で水跡がつくった埃汚れの輪がうっすらと残っている。
レイはその円を指でなぞった。
もう一人のレイの名残といえば、それが全てだった。

花と花瓶と彼女の不在を、部屋が持て余しているようだった。

なんとはなしにパイプ椅子に腰掛ける気にならず、レイはベッドに横になってみた。
がらんとした病室の真ん中、天井を見上げてみると、そこはまるで知らない場所のように感じられる。

レイは目を閉じた。

普段は意識することのない自分の呼吸音が微かに聴こえてきた。
どこか遠くから伝わってくる、低く唸るような機械音は、何がたてる音なのか。
身じろぎすると、衣擦れの音がやけに大きく響いた。

動きの乏しいこの部屋で、彼女の傍にあったもの。
レイは、枕元に生けられていた、あの花のことを思った。

それまで一度として思い出したことのなかった、あの花からのぼってきた微かな香りが、ふわりと記憶の海から浮き上がってきた。
そして、洗面台からコップから花瓶から、こぼれるように流れていった水のひんやりとした余韻。
その冷たさを、手も頬も、まだ覚えていた。
彼女の手の暖かさも。

なぜだろう。
すぐ隣にいた時、すぐ傍にあった時、するりと感情から抜け落ちていったはずのものたち。
でもそれは、ちゃんと私の中に在り続けていた、とレイは思った。

花も人も、あらわれては消えていく、いくつものいくつもの同じ物。
みんな淀みなく流れていくのだと、そうあるのだと、そうありたいと、
ずっと自分の中にあったはずの考えと、思うようには動いていかない感情に挟まれて、レイの胸は締め付けられた。

レイは透明なガラスのようでありたいと思った。
反響する感情に惑わされることなく、冷たい一個の意思として立っていたかった。

しかし、自分がわからなくなることのないように、体がほどけていかないように、
そう願えば願うほど、瞼の裏に浮かんだあの花の輪郭は、くっきりと鮮明なものになっていった。




連続した猛暑日の後で、なにもかもが熱をもってしまっていた。
物置小屋の扉も長く触れていられないほどで、中に置かれたジョウロでさえ体温より高かった。

水道にいき、生暖かい水をジョウロに注いだ。
足元に降りかかってくる飛沫が徐々に冷えていく。
レイはジョウロが満たされていくのを眺めながら、うだるような暑さの元で過ごしているだろう花壇の草花のことを思った。


どこまでも青くなった空と、もくもくと重なる白い雲の下で、
緑は濃く、花は色づき、花壇の中、夏の植物たちがその存在を香らせていた。

草いきれをうけ、その圧倒的な生の存在感の前で、レイは佇んでいた。
思い出したように水をまくと、土の匂いがたつ。
強い日差しをうけて、ジョウロから流れていく水が眩しく輝いていた。


半分ほど水をまいたところで、ふうと一息ついた。
額にかかった前髪が熱い。
陽の光をさえぎるように手をかざすと、花壇の向こう、校舎の方から、シンジがやってくるのが見えた。

「あついね」
「ええ」

そう返事をして隣に立った彼を見やったところで、立ちくらみがして、レイはよろけた。
手にしていたジョウロの重みに、バランスを崩して、足がとられたようになる。
慌てて半歩かけよったシンジに肩をささえられ、そのまま彼の胸に身をあずけた。

鼓動がした。
彼の胸板から、水音のように、どくどくと血が流れていく音がする。

「だ、大丈夫?」

ふらりと熱にくらみながら、レイは唐突に理解した。
自分の中に満ちているものが何なのかを。
そして疑問にも思った。
彼の傍にいると、どうしてこんなにも狂おしく温かいのか。

「……大丈夫」

彼のシャツを握る左手に、ぎゅっと力を込めた。
もっと深く聞いていたい。
重なりあった体と体の間で、二つの水音が一つの響きとなっていくのを、恍惚として感じ取りながらレイは思った。


レイは木陰で休んでいた。
片手にはシンジが持ってきてくれた濡れハンカチ。
ペットボトルの水を口にし、時折おでこを冷やしつつ、彼女は彼に言われたとおりに座り続けていた。

視線の先、午後の日差しが降り注ぐ中、シンジがジョウロを手に立っていた。
もう平気というレイを押しとどめて、代わりに花壇に水をまいている。
空の下で水しぶきを浴び燦々と輝くダリアと、白いシャツを着た彼。
影の中から見つめていると、あまりのコントラストに現実感が薄くなっていき、さっきまで自分があの場にいたのが嘘だったかのようにも思えた。
でも、彼の中にある水音を、たしかに聞いた。
花と土と彼の匂いに包まれながら。

レイは自分の胸に手をあてた。
鼓動を微かに感じ取れる。
あの日から、いいえ産まれた時から、ずっとこの胸に満ち満ちていたものが寂しさだったとして、
重なった鼓動の先で気づいた、このぽかぽかとした想いを、なんて呼んだらいいのだろう。

「碇君」
「なに?」
「水の音って、何に似てるか分かる?」

なんだろう、彼は小さく呟いてから、ジョウロを傾け、また水をやりはじめた。

彼の中にある水音を、たしかに聞いた。
いつか、私の中にもある水音を、彼に聞いてもらう日はくるのだろうか。
そうして、そして、一つになった響きの中へ溶け込んでいけたら……この震えるような想いの名を知ることができるだろうか。

ジョウロが描く虹を見つめながら、どうしたらもう一度、彼の胸にとびこめるのか、レイはそのことをただ考えていた。



メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月―カウントゼロ― ( No.4 )
日時: 2011/08/18 01:53
名前: tamb
参照: http://ayasachi.sweet-tone.net/eva_index.htm

■彼女の幸せ・僕の幸せ/何処
( No.1 )

 いくらなんでも難解というか説明が不足してるんじゃないかと思う。私が説明過剰なのを差
し引いたにしても。
 一人称代名詞は「僕」と「私」で、「私」はレイで確定でいいと思う。
 最初と最後に出てくる「僕」はネルフ職員だった娘がいて、レイを義理の娘にしている。
 問題は大学の新歓コンパでレイに出会った「僕」なんだが、後にレイを義理の娘にする「僕」
と同一人物だとすると、年齢的に同級生ということはないだろうから(ネルフ職員だった娘が
いたんだから)大学の先生かなんかということになる。
 もうひとつの可能性は大学の同級生(先輩でもいいんだけど)で、「ほら、彼氏が来るぞ」
の彼氏であるという線。ストレートな解釈ならこっちだと思うんだけど、そうだとすると義理
の娘にした経緯が不明すぎる。そうでないなら仲裁が成功して復縁したということを書いてお
かないとあまりにわかり難い。「彼女と共に生きる事になって」というのは親子とも恋人同士
とも解釈できるからヒントにならない。「この人は肯定して背中を押してくれた」以下の記述
がある以上、レイとシンジが喧嘩別れしてそれっきりというのも考え難いんだけど。
 いずれにしろ、最後の段の設定とかもっと生かせるような気がする。もったいないっす。


■続・メランコリック少年シンジの憂鬱 ーVer・LRSー/何処
( No.2 )

 綾波補完委員会って知ってる? ま、私も良くは知らないんだけどね。ののさんとかは知っ
てるのかな。
http://ayanamiten.web.fc2.com/salvage_site/mal/index.html

 この話の方の綾波補完委員会なんだけど、結局のところ目的はなんだったんだろう。やっぱ
「乙女の安全と希望を守る」をモットーにしてシンジをいじるのが目的かな(笑)。


■Over The Rainbow/かぽて
( No.3 )

 私の知る限り約10年ぶりのかぽてさんの新作。
 10年前、確かにこういう匂いのする話が良くあった。とても静かで、乾いていて、少し痛く
て、でもどこかにぬくもりを感じさせるような話。
 レイが二人出てくる話の難しさはレイ同士(というのか)の関係性と、そしてシンジとの関
係性をどう描いたらいいのかという部分にある。
 この話は、生命のメタファーとしての水を媒介として、だが感情を失ってしまったかのよう
な乾いた文体で淡々とそれを描く。
 あまり動かなくなり、蛍光灯の音すら聞こえなくなったもう一人のレイが水を求め、消えて
ゆく。ダリアも捨てられてしまっただろう。

 話をすっ飛ばすけれど、このもう一人のレイっていうのがレイの中の言わば内なるレイであ
るという解釈が頭から離れない。根拠は「一週間ほどの入院生活を終え」なんだけど、まあ他
にもある。ただそうすると、消えてしまったもう一人のレイっていうのはレイにとって何だっ
たのだろうかという解釈が難しくなる。ヒントは
> すぐ隣にいた時、すぐ傍にあった時、するりと感情から抜け落ちていったはずのものたち。
> でもそれは、ちゃんと私の中に在り続けていた、とレイは思った。
あたりにあると思うんだけど、うまく言葉にできない。
 無理があるとは思うけれど、でもそうでないと「一つになった響きの中へ溶け込んでいけた
ら……この震えるような想いの名を知ることができるだろうか。」が唐突すぎるように思える。
上に引用したヒントと絡めるときっちり解釈できそうなんだけど、ダリアが意味するものが何
かを含めて、言葉にするには重すぎる。

 解説と言っても「作品に書いてある」という以上のことには、特にこういう話の場合はなら
ないから解説は求めないけれど、それでもあえて作者を召還したい。「何を書いていいのか」
とか言わずに何か書いてくださいましよ。10年ぶりなんだしさ。

メンテ

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