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親父補完委員会((笑))【ゲンドウ
日時: 2011/10/25 23:53
名前: 何処

【ゲンドウ・心の向こう側−残渣−】


夢を見た。


懐かしい夢だった。


夢と言うより思い出か。

…否、夢物語の様な思い出だから夢かも知れない。

あれは何度目の事だったか、私が妻と映画館へ行った時の夢だ。

夢の中私は妻と映画を見ている。
妻と二人、ポップコーン片手に益躰も無い…いや、他愛ないストーリーを眺める。

隣には空虚な在り来たりの子供騙しを楽しむ妻。幸せに満ち日々の暮らしに充足した日常に育った女…

私は何故ここに…この女の隣に居るのだろう。

…自ら望んだ筈の存在になり居場所を得ながら、苛立ちを抑えられずに居心地の悪い椅子の上に身動ぎして一人背を伸ばす。

ふと掌を眺める。

何時でもこの掌が私を現実へ…過去へと引き戻す。
…あの地獄こそが私の現実だったから。

治療の甲斐無く倒れ行く飢えた難民、痩せ衰えこの手の内で息絶える子供、意味無く撃たれる市民、僅かな水と食糧の為身を売り盗み奪い殺し合う民衆、それを助長する狂信者共…

只一欠片の食糧が、只一錠の薬品が、只一本の注射が無いだけで目の前の死を避けられぬ人々を一体何人看取ったのだろう。

僅かな食糧の為子を売る親、援助物資を横流しする役人、薬品の注文書を書き換える上司、援助額を水増しする政府、支援の成果を吹聴する団体、これを機会に領土を狙う隣国、子供達を兵士に徴収する軍隊、利権に群がる企業…人間不信にもなろう。

…だが、私は彼等を笑えまい。自らの幸せこそが一番だと知った今となれば。

この手に残る死の感触を、私は忘れる事無く生きて来た…ユイの手を取るまで。
…良いのだろうか、このまま流されて…
今の私は…


気が付けば既に映画は終わっていた。
立ち去る人々を見送りながら私は座り心地の悪い椅子に沈んだまま。
その時、妻が私の耳許に囁いた。

妻は告げた…彼女が母になる事を。

その瞬間、私の掌は過去を取り落とした。

気が付けば、周囲の目も忘れ私の手は今を…妻ともう一人…二人かもしれないが…抱き上げていた。


▲▽▲



「夢か…」

仮眠室のベッドに靴も脱がず倒れこんだ姿のまま、一人呟く。
私を眠りから引き戻した原因…枕元の携帯端末機が呼んでいる…

身を起こし眼鏡を掛け携帯端末を開く

「…私だ。」

『お早うございます司令、現在06:07です、申し訳ございません指定時間より二分遅くなりました。』

「…構わん。誤差範囲内だ。本日のスケジュールは予定通りだな?」

「は。メインの零号機起動試験は1045予定変わらず。レイの体調も万全です。」

「…ご苦労…1015にはそちらに向かう、準備を頼む。」

「は。」


…一瞬、ユイと赤木君がだぶって見えた。

端末を切り、頭を振りながらシャワーを浴びる為浴室へ向かう。

「…男ならシンジ、女ならレイ…か…」

無意識に私は呟いていた。
…つい力が入った様だ。浴室の扉が音を立てた


△▼△


「レイ!?」

気が付いた時にはもう射出されたエントリープラグへ走り出していた。

非常口開閉ハンドルに手を伸ばす…余りの熱さに手を放しかけ、再びハンドルを握る。

掌が、焼ける。

苦痛が、襲う。


やっと開けたプラグの中…レイは生きていた。

一瞬、掌の痛みを、思い出を忘れた。



…眼鏡を無くした事に気付いたのは暫く後だった。



初音ミク 【VOiCE】

http://www.youtube.com/watch?v=yvTZnxm7u-I&sns=em

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Re: 親父補完委員会((笑))【ゲンドウ ( No.58 )
日時: 2014/08/09 01:35
名前: tamb

時田さんかわいそう。
と思う間もなくマユミとかマナとかオールスター状態だ(笑)。マナはともかくマユミはさっぱりわからんからなー。
パンジャドラム、調べてみた。こういうトンデモ的な発想があるからこそ、技術的な進歩ってのはあるんだよな、実際。軍事部門に限らずね。
メンテ
Re: 親父補完委員会((笑))【ゲンドウ ( No.59 )
日時: 2014/08/17 21:26
名前: 何処


【−都合と思惑W−】


『パンジャドラム?』

「ああ、元戦自のお前なら戦史には詳しいだろう?」

『懐かしい奴が急に電話掛けて来るから何かと思えば…ああ、知ってるとも。有名な兵器だからな。』

「そうなのか?」

『ああ、失敗作の代名詞だな。』

「失敗作?」

『パンジャンドラム、又はパンジャドラム。前大戦において連合国が開発した兵器の一つだ。
外観はタイヤ外した馬鹿でかい自転車のリムを幅拡げてみたって感じだな。』

「あ?何だって?」

『あ、やっぱ判らないか…うーん、丁度良い喩えが出て来ないな…旧車のスポークホイールとか…幅広い車輪…
!あぁ、鼠の乗る滑車だ!うん、あれが一番形は似てる。』

「…成る程、一応形は理解した。」

『で、その滑車を100倍にスケールアップした代物を想像してくれ。
 こいつに大量の爆薬積んでこれまた馬鹿でかいロケット花火を中の鼠代わりにスポークへ沢山くくりつけて完成だ。』

「一寸待て。車輪に…ロケット?



…今、想像したが…

…それ、小学生が悪戯用に工作した玩具か?只の縦置きした鼠花火じゃ…」

『ああ、巨大鼠花火がこいつの正体さ。
回転推進するこいつは標的目掛け一直線、ぶち当たった標的ごとドカン!
…って予定だったんだが…』

「失敗した…と。」

『ものの見事に。』

「…当然だろうな、そもそも直進するのかすら怪しいだろそれ…
しかし…そんな物を本当に態々作ったのか?馬鹿か?」

『ま、普通はそう考えるよな。』

「普通ってお前…!?おい、まさか…失敗見越しておきながら作ったって事か?
判らん…又何だって高い金掛けてそんな突っ込み所満載の阿呆な兵器を開発したんだ?
…何処からかの圧力か?」

『圧力と言えば圧力だな。
 開発経緯から説明するか、こいつは大陸反攻開始時の上陸作戦用にって個人提案から生まれた兵器さ。
“上陸の障害になる海岸防壁やトーチカ、堤防や堰堤等を破壊出来る上陸用舟艇から発射可能な簡易且つ安価な大威力破壊兵器”って発想だ。』

「…ま、まあ発想は兎も角…
それで出来たのが何で巨大鼠花火なんだ?
 大体実物の形を聞いただけでももう判る位に失敗確定な代物じゃないか…」

『そうさ、成功する筈が無い。
現に最初の試作品は基本設計の欠陥と低予算が祟って案の定大失敗。
あれこれ直してそれでも一応は完成させたんだがな、試験場となった海水浴場で発射したら暴走して大騒ぎ、漸く開発中止さ。』

「ふーん…

(しかし昔の人は馬鹿馬鹿しい物に金を掛けたもんだなあ、まあそこまで追い詰められてたって事だろうけど…)

 いや有難う、参考にな…

(ん?待てよ…JAとこれがどう…?てより何処で実験したって言った?)

 …なぁ、暴走は兎も角…実験場所が何処だって?」

『海水浴場だよ。』

「はぁ、海水浴場ね…海水…海水浴場!?海水浴場で?それ本当か!?」

『ああ、それも夏の海水浴場でな。
衆人環視の中でやらかしたからニュースにもなったそうだ。』

「…戦時中じゃなかったか?海水浴なんて良く許可されてたな…」

『戦時中だからこそ庶民の不満を逸らす為にもリクレーションって息抜きは大切だったのさ。
 それに連合国側は制海権を取り海上を抑えてたからな、潜水艦被害による物資不足や心理的不安は兎も角、爆撃機の到達範囲だった大都市を除けば民衆は旧日本ほど戦争の影響を受けてはいなかった。
 つまり安全地帯に住む庶民にとっては戦場は遥か遠くの出来事だったって事だ。』

「成る程、同じ国でも当事者以外は所詮他人事って事か。」

『最も制空権を取り返し国内は小康状態だったとは言え依然戦争継続中、戦線は膠着状態。
そんな中で幾ら安全地帯とは言え態々海水浴場で失敗するかも知れない実験をする意味は無い。』

「…どう言う事だ?」

『つまり、この実験自体が開発状況を故意にリークさせる為に行われたって事だ。』

「故意に?故意に失敗状況を見せ付けたって事か?」

『ああ、情報戦における一種の罠…つまり囮にされたって事だ。』

「囮だって?」

『ああ、上陸時期と上陸地点を誤魔化す為のな。』

「?ちょい待て、何でこれが囮なんだ?どうしてこいつの失敗が上陸地点や時期と繋がる?」

『あ〜…そこから説明しないと駄目か…口頭だと説明が少し長くなるぞ、時間は大丈夫か?』

「ああ、大丈夫だ。」

『よし、んじゃま説明するか。元を糺せば…』


―――


『…と言う訳だ、わざわざ戦自寄りの秘書官に失敗兵器の話を振る辺り、官邸はそっちの動きを掴んでいると思って間違い無い。』

『…警告だろうな。
大丈夫だ、この件について戦自自体は介入してはいない。
何しろ国防省制服組の大半は端から傍観を決め込んでいる、寧ろ失敗した方が良い位に思っている筈だ。』

『…て事は…例の大臣様か…』

『ああ、例の大臣様だ。
あれは丁度大臣なりたてで張り切ってあちこち騒がせた挙げ句、若手極右派に担ぎ上げられて調子に乗りだした頃だよ。
昔の埃被ってた没企画案をお気に入りから聞き齧ってな、
“これでネルフに一泡吹かせられる”
と浮かれて録に検討もせず飛び付いた訳だ。
 最も所詮没企画の焼き直し、開発会社を只儲けさせるだけで中身はスカスカの“張りぼて企画“ってのがJA計画の実態だよ。
まぁ、まともな幹部連中には散々反対されたんだかな…
例に依って例の如しさ。』

『だろうな…まああの性格だし幾ら反対意見出たって素直に聞きはしないな、逆に意地になって開発強行したって所か。
あ!ひょっとして例の時期外れの人事は…』

『ご明察の通り。反対してた連中は軒並み異動や出向さ。後釜に入り込んだのは言わずもがな…だな。
まぁどうせあのボンボン陸将補殿率いる頭でっかち参謀本部エリート組連中の差し金だろう。』

『…だから素人の世間知らず三世議員を空いたポストに適当に突っ込むのは勘弁して欲しいんだよ…
コネ持ち出入り業者や取り巻き茶坊主にとっては有難くも都合の良い道具じゃないか…』

『全くだ、今の大臣はJAと同じロボットと言う道具だからな。』

『まあ操られる本人は仕方無いにしても操る側がもっと質が悪いな。
あの自称天才だろ?』

『全くだ、機械なら良いも悪いも操縦次第、機体の性能を生かすも殺すもパイロットだがな…今回ばかりは…』

『敵なら兎も角一応味方な上に機体役もパイロット役も三流だからなぁ…』

『本当その通りだよ、はぁ〜勘弁してくれよ全く…。』

『しかし或る意味凄いな。

 片や資産も権力も家柄も申し分無いがオツムの出来がいま一つな世襲政治家。
 片や自分達を特別だと言い切るトップエリート気取りの若手集団代表、極右傾れな世間知らず坊っちゃん。』

『…最悪だ…』

『やる気のある無能大臣とお山の大将な凡人参謀の組み合わせか…最強だな。否、大凶か。』

『誰が上手い事言えと。
しかし…』

『お互いがお互いを利用する事しか頭に無い組み合わせだからな。』

『最も本人達は気が合うらしいからな、ボンボン同士で仲良いんだろうよ。』

『成る程、ボンクラ坊やの成れの果てにエリート自任の凡才坊主がいらん事吹き込んで操縦してる訳か。』

『だから誰が上手い事言えと言った。
まあその通りだが。』

『…しかし厄介だな、これで大臣の首のすげ替えでは済まない話になって来たぞ。』

『ああ、今や参謀本部の極右派分子が省内深くまで食い込んでる状況だ。
今大臣が替わっても一度内部に入り込んだ不穏分子は中々入れ替えられんからな、これで連中の目的は達成されたと言える。』

『ふむ、連中にとってJAは端から当て馬で事は既に成り、もはや大臣は用済み…って事か。
待てよ、って事は…』

『ああ、どんな関与したかは知らんが右の連中がJAの失敗を見越してるのは間違い無い。』

『やれやれ…ここ(ネルフ)が悪鬼悪霊蔓延る魔神の巣窟地底迷宮ならそっちは魑魅魍魎の跋跨する悪夢の巨大伏魔殿だな。』

『おまけに連中ときたら内輪揉めや権力闘争ごっこに明け暮れるしか能が無いしな。
考えてみろよ、敵と味方の区別もつかん様なそいつらが味方だぞ?そいつらに背中預けるんだぞ?本当やれやれだよ。
…なあ、俺今からそっちに転職出来るかな?』

『あのな、幹部候補の現役教導隊員引き抜きなんてどんな裏技駆使したって出来ねーよ。
 それにそもそも俺は首になるよりマシだから異動人事に同意しただけの話だ、そんなに飛べないウイングマークが羨ましいか?』

『そこはほれ、お前のコネで何とか…
それともあれか?やっぱ撃墜命令無視してアレスチングフックで引っ掛けた機体強制着陸させるなんて荒業出来ないと駄目なのか?』

『言うなよ…あれは上手く行く訳が無かったんだ。
一歩…否、半歩間違えていれば相手も俺も機体ごと消し飛んでた。
後先考え無しに無茶したらたまたま奇跡の女神の悪戯で成功しただけだ。』

『ツキも実力の内だぜ?』

『ツキはそれで使い果たしたよ、お陰でパイロット資格剥奪の上三階級降格だからな。』

『まぁ次期参謀総長予定者の鼻へし折っちまったからな。
最も簡単に撃墜命令出すあんな馬鹿が参謀総長なんぞにならなくて良かったよ。』

『そっちは良くともこっちはそのせいで上に目をつけられ厄介者扱いさ、お前も知ってるだろ?
って事で後はお馴染み各部署たらい回し、果ては行く先行く先圧力掛けられ難癖つけられ挙げ句に内調へ出向。
終いにはここ(ネルフ)以外行き場が無くなったって事さ。』

『そう言うなよ、内調での活躍は聞いたぜ?
そのお陰で積年の悪事がバレた元参謀総長候補殿は元空将補殿となり檻の中だしな。
あ!そう言えば覚えてるか、あの腰巾着爺!あいつも今じゃ場末の管理棟で資料整理の毎日だそうだ、しかも定年まで一等空尉止まり確定だとさ。
無能が現場から消えて皆お前にゃ感謝してるぜ。』

『感謝は要らないよ、好きでやった事だ。
…いっそ馘になっても本物の鼻もぶん殴ってへし折ってやれば良かったな、檻の中じゃ手出し出来ないし。』

『言うねえ。しかし良く知らせてくれた、良い情報だったよ、助かる。』

『恩に着ろよ、その内返して貰うからな。』

『ラジャー…こりゃ高くつきそうだ、じゃあ又な。』

『ラジャー。』


―――


「…て事です、葛城さん。」

「成る程…急に司令の代理で式典出席しろだなんて言われたから裏取って貰って正解だったわ。
今回の話、裏はそう言う事なのねー。
そもそもJAなんて代物聞いた事無かったから一体何かと思えば…
…で、マギによる通話内容の分析結果は?」

「済んでます。声紋に加工は無し、登録通りです。
背景音、ノイズも異常は無し。通話回線も同じく盗聴ありません。
声域、声調共に正常な範囲ですね、嘘はついて無い様です。」

「お待たせしましたー、生大二つとお新香に冷奴、こちらが鳥串盛合せでーす。」

「あ、有り難う。そこ置いといて。あ、空のこれも下げちゃって。」

「はーい。」

「さて、それじゃ改めてか」ゴックゴックゴックゴック…「って葛城さん!?もう飲んでるし!?」

ゴキュッゴキュッゴキュッゴキュッゴキュッ…

「…うわすげ…」

「…ッッぷっはぁー――っ!!くあぁぁー――っっ!!んんんー―っ、生ビールやぁっぱ最強ーーっ!お姉さーん生おかわりー!」

「はーい只今ー。」

「…俺も飲もう…」






《Marble Bright》
http://www.youtube.com/watch?v=fEhtIScf7LQ&sns=em


注※この話の世界においてグー●ルとアマ●ン、スマートフォンは存在しておりませんのでご了承下さい※


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Re: 親父補完委員会((笑))【ゲンドウ ( No.60 )
日時: 2014/08/21 19:22
名前: 史燕

投稿お疲れ様です。
登場キャラが増えてて、ちょっと整理に時間が……

>『やれやれ…ここ(ネルフ)が悪鬼悪霊蔓延る魔神の巣窟地底迷宮ならそっちは魑魅魍魎の跋跨する悪夢の巨大伏魔殿だな。』
ごもっとも。
大人の世界は複雑怪奇。いや、ちゃんとわかるように描写されてても、理解に時間が……。
政治・謀略パートは難しいですね。
メンテ
Re: 親父補完委員会((笑))【ゲンドウ ( No.61 )
日時: 2014/08/23 02:49
名前: tamb

三階級降格。不幸だ。やはり給料も下がったのだろうか(笑)。いや、笑えん。
メンテ
Re: 親父補完委員会((笑))【ゲン ( No.62 )
日時: 2014/08/31 11:10
名前: 何処

【−都合と思惑− 外伝 】

私の名は山本ケンゾウ、故有って今は首相直属秘書官の1人として働いている。

首相秘書官になれた理由はずばり縁故だ。
私の祖父は政治家…それも与党の重鎮として君臨した大物だった…らしい。

“らしい”と言うのは私自身が祖父との血縁関係を知らなかったからに他ならない。

名も顔も知らぬ“自称”親戚達から祖父や父の事を知らされたのは両親の葬儀の時。
そしてその時知った事だが、父は祖父と絶縁していた。

父が何故自ら祖父と絶縁したのか詳しくは判らないが、当時の大まかな状況や背景は口些俄無い親類縁者と言う他人達が(恐らくかなりの)脚色と(これまた相当の)誇張混じりに説明してくれた。
 聞いてもいないのに。

孤児となった孫の顔を見る事無く既に祖父は他界しており、何の気兼ねも遠慮も必要無くなったからだろう。
 親戚を名乗る彼(彼女)等は今更ながらにと言いながら(どう控え目に見ても)嬉々として祖父と父の過去を語ってくれた。

 非難めいた口調で祖父の元を出奔した父を批判する人も、祖父と父との確執を控え目に父を擁護しつつ(恐らくは)かなり大げさに語る人もいた。

最も、今の今まで普通のサラリーマン家庭だと思っていた私にはそんな事はまるで実感の無い…寧ろどうでも良い話だった。
 と言うより事故で両親を亡くしたばかりで只途方に暮れていた私には、そんな突拍子の無い話より先ずは目先の事が重要だった。

 今更死んだ両親が甦る訳も無い、残された物は少しの蓄えにローンの残る我が家。
学費の支払いに葬儀の費用、両親の墓は、税金は、保険は、今後の身の振りは…考えなければならない事は山積みだ。

だが、そんな私の心情などお構い無しに次々と現れる自称縁者の方々と弔問客の皆様方が口々に述べる上辺きりの弔辞と同情の裏に見え隠れする邪推と好奇心には正直辟易した。

 既に祖父の顔色を伺う必要も無くなり、口唆俄無い連中が此幸いと明け透けな程に父と祖父の確執を図々しくも厚かましく好き勝手に(想像で補強して)咎起てるのだから辟易するのも当然だろう。

だが、肝心の私の今後については皆口を濁し、お互いを伺うだけで一向に今後の私の身の振りに関する話が出て来る様子が無い。

 まあ、そうだろう。

わざわざ財産も殆ど無い遠縁の、加えて成人も間近い人間をわざわざ進んで引き取る酔狂な人間は中々居ない。
 最も、祖父の遺産は既に父の相続権放棄により他の親戚達に分けられていて、遺産を巡るいざこざを避けられたのは救いだったかも知れない。

“普通の”家系ならそれで終わっただろう。

だが、私の祖父は俗に言う処の“大物政治家”だった。

 つまり親類縁者の大半が政界に片足を突っ込んでいる訳だ。
 加えて祖父の後継者となった父の弟…叔父は夭逝し、父の妹…叔母が婿を貰いその選挙地盤を守っていた。
そこへ不意に直系の男子が現れたのだ、皆にとってみれば私の存在自体が不発弾だっただろう。

幾ら絶縁したとは言え直系の血筋となれば未だこの国では重要だ。
 私を担ぎ出せば選挙にどれ程影響が出るか…当時の私にも簡単に理解出来る話だ。
 加えて父の妹に男子が恵まれなかった事も事態を更に複雑にした。

彼等の慇懃な態度と表向きの同情、その下に潜む打算と欲と妬みと蔑みを私は肌で感じていた。
 私を取り巻く確執、剥き出しの欲望や蠢く野望。
 私を如何に取り込むか、或いは排除するか。
 私の存在は私自身が預かり知らぬ所で将棋の駒の様に政界の盤上を彼方の手、此方の指先と転がり、果てには…皆が投げ出した。

結局、私を引き取ったのは私の叔母であり、彼女は父の腹違いの姉…つまり祖父の妾腹の娘だったそうだ。

御義理程度の僅かな祖父の遺産で慎ましく暮らしていた叔母には家族がいなかった。
 セカンドインパクトで亡くなった叔母の家族、その仏壇に祀られた位牌の隣には、優しげな男と確かに私との血縁を感じさせる面影の子供が写真立ての中で笑っていた。

叔母との生活が始まり、口嗟俄無い親類縁者も数年経たぬ内に皆足を遠ざけ、二人の静かでささやかな暮らしは大学卒業後も続いた。
 地方の小さな出版社に就職して数年、叔母との穏やかな生活は突然終わりを告げる。
難病に倒れた叔母、その見舞いに来たのは次期首相と目される人物で。
私は叔母の治療費に頭を悩ませる必要が無くなった…有り体に言えば、私は政界に拾われたのだ。

サラリーマンから政治家秘書に転身して1年後、叔母は治療の甲斐無く呆気ない程簡単に亡くなった。

叔母の葬儀から数年、未だ政界には慣れない。
 この世界独自の常識に疎い私は未だ諸先輩方に顎で使わ…鍛えられている。

だが、今回は参った。

私は不意に首相(そう、次期首相候補は見事首相となり、今や二期目なのだ。)から出された“宿題”に直面したのだ。
 さて困った。これは体の良い“選別”だ、ここで点数を稼がねばいい加減秘書官を馘になりかねない。
だが教科書通りの回答では“その程度”に見られる、迂闊には答えられぬ。

そもそもこの“宿題”の意図するものは一体…

散々悩んだ末、私はある男に電話を掛けた。

彼とは高校からの友人だったが、両親の件以来一時疎遠になっていた。
しかし人の運命とは判らないものだ。
 そう、あれは私が秘書官に採用されたばかりの頃の事。
 風の噂に防大に進み念願のパイロットになったと聞いていた彼と久々に再会した場所は何故か官邸で、その時彼の身分は内閣府公安調査官、そこで私と彼は政界を揺るがしかねない大事件に…

…まあその時の騒動は又別の機会に語るとしよう。

その騒動以来、私と彼は不定期に連絡を取り合う程度に友人付き合いを再開していた。

“そうだ、今はネルフに出向している彼ならば…”

善は急げ、私は彼に連絡を取るべく卓上の電話に手を伸ばした。


―――


「?ちょい待て、何でこれが囮なんだ?どうしてこいつの失敗が上陸地点や時期と繋がる?」


私の疑問に受話器の向こう側から嘆息が答えた。


『あ〜…そこから説明しないと駄目か…口頭だと説明が少し長くなるぞ、時間は大丈夫か?』

「ああ、大丈夫だ。」

『よし、んじゃま説明するか。

元を糺せば連合軍が緒戦で敗北し大陸に反攻の足掛かりを無くした事が原因だ。
 連合軍は大陸からの退却時、苦労の末殆どの人員を無事脱出させたが装備の大半は放棄せざるを得なかった。
 その影響は甚大でな、一時は深刻な兵器不足から骨董品級の旧式兵器を引っ張り出して第一線に配備しなければならない程だったんだ。』

「成る程、読めた。
その流れで手当たり次第物になりそうな兵器計画に飛び付いた結果が…」

『そう、その一つが“パンジャンドラム”さ。』

「そこまでは解った。だが…」

『これから説明するよ。連合軍が大陸から撤退した先は複数の国から成り立つ王国だったってのは判るな?』

「ああ、それは知ってる。」

『IRAの独立運動も知ってるよな?』

「IRA?IRA、IRA…ああ、思い出した。そう言えば最近は下火らしいが一部は未だ活動していたな。」

『報道されないだけで合法活動は活発だよ。
で、その連中は大戦前から独立を目指し活動していた。
 彼等にとって王室は敵だ。そして敵対存在の敵とは言わば仲間。つまり…』

「ちょ、一寸待て。じゃあ何か?撤退した先にも潜在的に敵の仲間が居たって事か?」

『そうだ。現に戦況が悪化していた時その地域では諜報員を乗せた敵潜水艦の寄港を黙認し補給までしていた…連合国が負けた時の保険だったんだろう。
戦況が連合国側有利になると潜敵水艦を追い払っているからな。』

「…成る程…」

『て訳で、常に身内を気にしなければならなかった王国はその身内を利用しようとしたんだ。』

「利用?」

『スパイに偽の情報を掴ませようとしたのさ。幾つか例を挙げてみるか?

 偽の情報を国内に発信し、さも重要な機密だったかの様にその情報を慌てて打ち消す真似をしたり、

 偽物の作戦計画書を死体に持たせてわざと中立国の海岸へ漂着させたり、

 相手の暗号を解読している事を気付かせないため町一つ見殺しにしたり。』

「酷いな…戦争中とは言え、そこまで…」

『勘違いしているようだから教えておくぞ、戦争中“だから”その程度なんだ。平時ならもっと凄い。
 諜報の世界に平時も戦時も敵味方も無い、寧ろ戦時国際法と言う厳格なルールに縛られない平時こそが諜報活動の本番だからな。
 何か騒動が起きれば奴等はたちまち現れあちこち嗅ぎ廻り、跡も残さずこっそり悪戯をして廻る。
 事故に大規模災害、反戦運動に極右活動、音楽活動や演劇、それが凡そ無関係な事案でも一切関係無く調査対象さ。
 どれもこれも大衆煽動や組織中核への潜入工作…諜報活動には最適だからな。』

「そ、想像以上だなおい。」

『工作対象は数え上げれば切りが無い、マスコミ、組合、環境保護や教育、宗教等の各種団体、法人や一般企業と多岐に渡る。
個人も対象さ、軍人官僚政治家科学者技術者、役立つとなれば芸能人から一般人まで老若男女例外は無い。』

「…解った、もう例は良いよ。しかしまぁ…知られぬから諜報活動なんだよな、一般人が知る訳がない…」

『その通り…と言いたいが場合によってはわざと大っぴらな諜報活動を行う時もあるぞ?
 連中の工作活動には際限無いからな、場合によっては騒動の火種に油をくれたり火種そのものをでっち上げたり…っと、話が逸れたな、元に戻そう。』

「ああ、宜しく頼む。」

『何処まで話したか…そう、偽の情報だ。
 つまり、秘密兵器パンジャンドラムは開発に失敗したが、その失敗を利用された訳だ。
そして故意にリークされたこの開発計画は幾つもの役割を果たしていた。

 第一に敵と味方に膠着した戦線を突破する為の切り札の存在を匂わせ、敵の注意を引き付けなら味方の士気を高揚させた事。

 第二に公開試験で失敗した事で敵に開発の成功まで反攻作戦実施は無い…つまり間近な上陸作戦は無いと思わせた事。

 そして第三に、その秘密兵器を使用しなければならない程防備の固い場所へ更に敵の警戒心を引き付け、真の上陸地点付近を手薄にさせた事。

どうだ?こいつが上陸予定場所隠匿に使われたと言う意味が解ったか?』

「…はぁ…しかしこれは又…もう嘆息しか出ないよ…成る程、そうか…
いや、それにしても急な話にわざわざ答えてくれて有難う、助かった。この礼は近い内に。」

『期待してるよ。じゃあな。』


電話を切り、私は今の会話の内容を脳内で反芻する


「…囮…か…」


首相はJAを推してはいなかった
そしてJA計画への私の失言には触れずパンジャドラムの話を振った

彼はパンジャドラムを囮と言った
最初から囮の訳では無く、失敗作故に囮に使われたとも言った

…開発失敗した新兵器か…

その時思考を或る連想が過り、何気無くその連想を口に出した瞬間、私はその意味に驚愕し…恐怖した


「JAも…失敗作?」


一寸待て。先走るな落ち着け、発想が飛躍し過ぎだよく考えろ、成算があるから公か…

…その公開試験でパンジャドラムは失敗した…


「とすれば…JAは失敗が確定している?では何故、何の為に?」


脳裏を疑問が渦巻く

営利企業が何故失敗する事業へ投資するのか

失敗を知りながら何故国防省は計画を推進するのか

そして、何故首相はJAの失敗を予期しているのか


受話器に手を掛けたまま思案する私の前には一卓のスケジュールがびっしりと書き込まれたホワイトボード
 だがその水性マーカーで書かれた記号の羅列は眼に映らない

今、私の目前には社会の影、裏世界の暗部、そしてそれらすら呑み込む政界の闇が広がっていた



《パラジクロロベンゼン》
http://www.youtube.com/watch?v=BMXKjqVIeGs&sns=em


「♪」

「あら貴方、ゴルフですの?」

「ああ、来週だ。コースに出るのは久しぶりだな。」

「あら?先週…」

「練習場だよ練習場、君こそ…」


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メンテ
Re: 親父補完委員会((笑))【ゲンドウ ( No.63 )
日時: 2014/09/07 03:28
名前: tamb

話が深すぎる。がんばれ山本さん。
メンテ
Re: 親父補完委員会((笑))【ゲンドウ ( No.64 )
日時: 2015/06/13 18:47
名前: 何処

『こ、これで…よ、よおし、このまま…』

Beeeeeeep!Beeeeeeep!Beeeeeeep!Beeeeeeep!

『へ?あ、あれ、なんで?…くそっ、こうか?』

Beeeeeeep!Beeeeeeep!Beeeeeeep!Beeeeeeep!

『あ、あれ?ならこうで…え、ちょっとま…こ、こうかな?』

Beeeeeep!Beeeeeep!Beeeeep!Beeeep!Beeeep!Beeep!

『え?あ、あれ?な、なんで、え?ならこれで…あ、あ、あ、あ、あ…』

Beeep!Beeep!Beeep!Beep!Beep!Beep!Beep!Beep!Beep!

『ち、ちょっとま、う、う、う、うわわわわわわぁっ!』

Beep!Beep!Bee!Bee!Bee!Bee!Bee!piiiiiiiiiii……



『…やっぱり状況設定が悪すぎでしたね…』

『そうね、それに途中幾つかステップ飛ばしてたし。でも…まぁ、今回は仕方無いか。データも録れたわ、マヤ、今日はここまでにしましょう。“シンジ君、連続試験お疲れ様、上がっていいわよ。”』

「は、はい…後少しだったんだけどなぁ…」



【ヘッドフォンアクター】
http://www.youtube.com/watch?v=fMgazlIQWcg



【都合と思惑X】




「…しかし凄いわね、彼。」

「本当に…“エヴァの申し子”って所ですね。」

プシュン

「あー、つっかれたー。」

「あら、意外と早かったわね。」「あ、葛城さん。お疲れ様です、丁度今試験終わった所ですよ。」

「アチャ〜、やっぱ間に合わなかったかぁ。まぁったく広報も余計な仕事廻してくれたわ…」

「寧ろ良くあの相手によくこの時間で切り上げられたわね、感心するわ。」
「確か向こうのご指名でしたよね?」

「『以前対応して頂いた作戦部長に是非にとの事でね』って有り難ーい副司令殿の御言葉付きぢゃ断れないわ。
はぁ〜、にしても公開情報開示や議員対応なんて広報でしなさいよ、幾らあァァんの狸親父が名指しで指名したからってワッザワザ姑息な根回ししてまでこっちに話振らないで欲しいわー。」

「それにしても…何で葛城さんなんです?」「そうね、私も興味あるわ。」

「簡単よ、前回私がちょーっち甘い顔して対応したからどっちも舐めてんのよ。
前回は“使徒戦の後始末終わって今暇でしょ”って態度で来た広報が“笑って同席しているだけの簡単なお仕事です”って感じに調ー子良い事言って、いざちょ〜っち議員の機嫌悪そうな態度見た途端に
「実は今から所用が有りまして、では後は宜しく」
って私に丸投げしてとっとと逃げ出したからねー。」

「なんて言うか…広報って現場どう見てるんですかね?随分都合の良い解釈してるみたいですけど…」「確かに。」

「全くよね〜。で、とっとと逃げた広報の代わりに独り取り残された私はやむを得ず臨時接待業に転職。
キャバ嬢宜しく営業スマイル&谷間太もも強調アングルからの上目遣いに似非天然すっとぼけと嫌味スルースキル全開で対おバカ対応したげたの。」

「プッ!」「呆れた…」

「仕方無いでしょー、何しろ司令も副司令もお迎え来ないぞご立腹ー!で話通じない感じだったし。
けどまぁ、ネルフ席次三位の作戦部長直々の接待になんとかご機嫌直してご満足頂けたみたいよー。
で、味をしめたか今回も『ある程度の役職』相手に『箔の付く』対応されたかったみたいでねー。わっっざわざカメラマンまで引き連れて来たわよー資料請求にぃアハハハ…は…
…あーっムカつくムカつくムカつくうっっっ!えっっらそーに本っ当どぉぉぉぉっっでも良い事ばーっか質問して事前に何聞いてたのよ!
大体何でこっちが全部お膳立てしてやんなきゃなんないのよ!何か?私ゃあんたの秘書か!?
大体機密でも何でもない資料請求なんて担当者で充分だろってーのにいっちいち私呼びつけて内容説明求めるなっつーの!」

「うわぁ…最悪ですね…」
「案外本気でミサト目当てかもよ?態々ご指名なんて。」

「な訳無いわ〜、揚げ足捕りたかっただけよ。本っ当どーでもいー事薄笑いでネッチネッチと…
なぁにが『いゃあ、作戦部長とは勇ましい!』よ、陰で『女の作戦部長(笑)何の作戦練ってるんだ(笑)』とか言ってた癖にぃっ!」

「…議員なのにその程度ですか…」「案外いい年して社会的地位もそれなりなのに常識知らない輩は多いわよマヤ。」

「まぁったく嫌になるわ、質問からして突っ込み所満載だし、底が浅いから直ぐにネタギレ。後はもー酷い物よ。
暇になったからって仕事に託つけて時間潰しの雑談っきり、それもうんと下世話な馬鹿話とやっったら上から目線でえっっらそーな自慢話オンパレード。
そんなんばっか延々聞かされ続けて、も、いい加減切れそうだったわ。
挙げ句の果てに『君はモデルか女優になってた方が皆の為だった、ネルフに閉じ込めておくのは勿体無い。』って遠回しな嫌味止めろってぇの!」

「嫌味?まさか。そんな遠回しな嫌味言う程の頭は無いでしょ?寧ろ本音じゃない?」
「…それって先輩、まさか…誉めてる…つもりなんですか?」

「うげ…そのレベルのオツムか〜、最悪。にしても…あーっっ!思い返すだけで本っっ当腹が立つう!
広報も広報よ、幾ら厄介者相手だってそれ適当にあしらうのがあんたらの仕事だっつーのにイッッチイチ面倒事こっちに押し付けないで欲しいわぁ!お陰でシンジ君の試験立ち会えなかったじゃ…どったのリツコ?」

「…見て貰えば判るわ。マヤ、モニター準備して」

「はい、先輩。」



ーーー



「初めて頂戴。」

「では、CG画像流します」
「…これは?」

「今回の試験を再現した立体画像よ、これが試験予定計画…ミサトの提唱したエヴァによる空挺強襲作戦の概略から、エヴァの滑空降下部分。その様子をマギで再現してみたわ。」

「画面切り替えます。」

「…」「これはプランA,超高高度、22.000mからの自由降下、ATフィールドによる滑空制御及び衝撃波による着陸地点制圧を兼ねた超低高度減速、着地後の作戦行動移管までの合成画像ね。」

「次、切り替えます。」

「そして、この合成画像に今回の試験データから再現したCG画像を重ねると…」

「ヒュー♪これマジ?完璧ぢゃん!シンちゃんやるぅ♪」

「あくまでデータでのシミュレーション結果よ、天候設定、マギの支援、ほぼ完璧な条件だわ。それでも…正直この結果は予想外だったわね。」

「本当に…びっくりですよ。」

「へ?何で?一応シンジ君とエヴァの実戦データから実現可能な計画にしたつもりよ?
そりゃ最初から成功する訳無いけど、半日も試験訓練すればシンジ君なら…どったのリツコ?マヤちゃん?」

「それがね…マヤ、貴女から説明してあげて。」

「え?私ですか?」「?」

「私が言っても俄には信じられないでしょう?貴女の口から聞けばミサトも納得するわ。」

「じゃあ…葛城さん、このデータですけど、これ…実は…最初の試験結果なんです。」

「はい?」

「全く驚きよ。まさか最初の試験で成功するとは思いもしなかったわ。」

「それもここまで完璧だなんて…」

「…マジなのね…確かに空挺じゃ“新兵の初降下で怪我する奴はいない”ってジンクスはあるけど…にしてもシンジ君、凄い進歩だわ…」

「そうですよね、流石オーナインシステムを稼働出来るチルドレンだけの事はありますね。」

「…(…エヴァの…申し子…)“チルドレン”か…」

「この実験後に同一条件で何度か試験したけど…やっぱり彼、全て完璧にこなしてくれたわ。」

「でもそれじゃ試験にならないんで、それで、予定を変更して条件をプランDに切り替えてさっきまで試験してたんです。」

「プランD!?いきなり低高度精密降下なんてやらせたの!?」

「ええ、高度4.000mからのピンポイント降下、それもATフィールドによる滑空制御も着地減速も無し、制動シュートと減速ロケットモーターのみで目標地点より半径300m圏内への着陸。
彼、それも成功させたわ。流石に何度かは失敗したけど…」

「でも先輩、失敗って言っても着地自体は成功してましたよ、減速タイミングの関係で着陸地点がずれた程度ですし…」

「実戦じゃそのずれが問題なんだけどね…
まぁ、訓練で合格点でもいざって時やらかされる事も有るし、あらかじめずれを織り込んだ作戦立てる為のデータ取りって意味なら成功か。」

「そうね、今回はその意味でも良いデータになったわ。」

「そうですね、完全マニュアル降下なんてまずあり得ない事態のデータも取れましたし。」

「完全マニュアル降下〜〜〜!?」

「当然失敗したけどね。最も実験内容的には極限状態の反応が取れて大成功と言って良い成果だったわ。」

「でも…たった5分の稼働時間で空挺作戦って…役立つんですか?」

「立たなくていいのよ、今回はエヴァで空挺可能って証明が出来れば良いんだし。お題目上
“ネルフは対使徒戦において如何なる事態にも対応可能である”
って事になってる以上、シミュレーションのみでも実際に対応可能な所を証明しとかないとあっちこっち喧しいし。」

「D型装備やE型装備の要項見れば判るでしょ?要は実証実験名目の予算獲得の詭弁って事よ。
まぁ、最もそれは“現状においては”だけど。
次の使徒がどんなものか判らない以上、あらゆる事態に対応する必要がある事に変わりは無いし、稼働時間の問題だって将来S2機関が実用化されれば問題にならないわ。」

「つまりS2機関が実用化されれば…使徒戦以外にもエヴァを投入可能になる…何だか怖いですね…」

「使い道は無いけどね。
そもそもATフィールドなんて反則技使う使徒以外にエヴァを使うなんて非効率甚だしいわ。
単独目標相手にエヴァ使うなら衛星軌道からの荷電粒子砲で狙撃とかミサイルで飽和攻撃仕掛けた方が安上がりで確実、面制圧するならナパームや気化爆弾、それで足りなきゃN2でも核でも一発使えば良いんだし。」

「1機のエヴァを動かすのに必要な機材や運用スタッフだけで数千人、維持整備管理支援含め数万人規模のマンパワーと国家予算規模の出費。そもそも持つ事自体が並みの国家単独じゃ無理よ。」

「ま、仮にこれだけの予算と頭数使えるとして…
…そうね、あたしなら素直にS2機関積んだ潜水艦か空母3杯に充分な数揃えた最新鋭機の航空部隊と支援艦隊整備して機動部隊3つ編成するわ、その方が軍事力として有効だし。」

「成る程…費用対効果ですね。」

「旧世紀の水爆と一緒、確かに強力だけどそれ故に使い道が無いのよ。
それにいくら強力でも僅か数機の機体ではね。」

「そ。要は手が足りないのよ。
加えてエヴァンゲリオンはあくまで近接戦闘用の短期決戦兵器、充分な支援無しではろくに使えないわ。
仮にあたしがエヴァと戦うとしたら真っ先に支援部隊叩くわね、幾ら強力でも補給も整備も支援も無しじゃそもそも動けないもの。」

「成る程…でも…葛城さんみたいな専門家から見ればそうなんでしょうけれど、でも、普通の感覚だとやっぱり“凄く強い=無敵”って感じだと思いますよ。」

「そうねマヤ、だからこそ情報開示は必要なのよ。
度を過ぎた情報統制や不要な機密保護は疑念とデマを招くけど正確な知識の領布はデマを駆逐するわ、広報活動は大切って事ね。
!そうそう、その広報活動に貢献したミサトには感謝してるわよ?」

「いー事言うじゃないリツコ!そーよーどーんどん私に感謝してねー!じゃなきゃあたしの折角のサービス精神が無駄になっちゃうわー!」
「サービスって太股と谷間の露出度の事?」

「…不潔…」

「はー、それで時給上がるなら良いけどねー。」
「呆れた…でも確かに見せるだけで時給が上がるならある意味魅力かもね。」

「…不潔…」

「あの…マヤちゃん?」「どうしたの?冗談よ、冗・談。」

「二人とも…不潔…」

プシュン
「はぁー、すいません最後に失敗しちゃ…あ、ミサトさん、来てたん」「シンジ君!その穢れた2人に近寄っちゃ駄目!」「へ?」

「「…穢れって…」」

「穢れてます。シンジ君、こんな大人になっちゃ駄目よ。」

「え?あ、はい…又何かしたんですか?」

「「…ごめんなさい…」」

【Assault Mirage】
http://www.youtube.com/watch?v=6m416agB-vs



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メンテ
Re: 親父補完委員会((笑))【ゲンドウ ( No.65 )
日時: 2015/06/17 00:51
名前: 史燕

新作お疲れ様です。

NERVの広報担当ってどうなってるんだろう? とは以前から思ってましたが、良くも悪くも公務員……。
なんというか、大人たちの仕事っていうものを考えさせられる回でした。

>「穢れてます。シンジ君、こんな大人になっちゃ駄目よ。」

>「え?あ、はい…又何かしたんですか?」

>「「…ごめんなさい…」」

マヤさんも酷いですが何よりシンジ君の「又」というのが何より酷い。
まあ、そう言われるほど前科があるわけなんですが(笑)
メンテ
Re: 親父補完委員会((笑))【ゲンドウ ( No.66 )
日時: 2015/06/20 01:45
名前: tamb

いきなり時事ネタを書くけど、ホントなのかデマなのか、今回の安保法制通称戦争法案の説明に担当者が議員の所に説明に行ったところ、この法案で北朝鮮に自衛隊を送って拉致被害者を奪還できるのか、という質問が出て、それは無理ですと答えたらがっかりした顔をなさったとか。法案の理解度もさることながら、北朝鮮に自衛隊を送り込むという発想が凄まじい。議員なんてこの程度なのかもしれんけど、それを選んだ人がいるわけで。ま、この話自体がデマかもしれんけどね。というか、デマだと思いたいけどね。

というかだな。時給で働いてんのか!

メンテ
Re: 親父補完委員会((笑))【ゲンドウ ( No.67 )
日時: 2015/06/22 22:49
名前: 何処



何時もの天井


何時もの音


瞼を開いた時、私を迎える2つのモノ。それが今は少し違う。


天井も、音も、違う


ふと、当然の事を理解する


そう、ここは病院



今、私は入院していた。




【都合と思惑Y】
【FACE】
http://www.youtube.com/watch?v=aCnoiUlgc1c





私は火傷治療の為に入院している。

息を吸い込む
喉に感じる違和感、胸の奥、肺からの微かな痛み。

目を閉じてゆっくりと息を吐き、再び目を開ける。

日常とは違う、だけど見慣れた景色

ここは、病室。

普段と違うこの天井とこの音が、個室病床で横たわる私の把握出来る世界。
ふと、火傷した時の状況を思い返す。


あの時…

仮設したLCL冷却機能を遥かに超えてエントリープラグに流入した膨大な熱量は、プラグスーツの金属部分から自動体温保護調節機構を破壊しながら逆流。
その熱は逆流経路…プラグスーツ内の冷却配管や各種センサー、電気配線…沿いに私の肉体、主に気道粘膜や表皮細胞にダメージを与えた。


その代償に任務は果たし、作戦は無事遂行され成功した。
結果、私は生存し、回収された。

火傷自体は軽微だが、面積が広く且つ多位に渡り点在する為、治療促進と感染症防止の観点から私は入院する事となり、点滴による抗生物質と麻酔の投与が先週まで行われていた。


現状を確認し、瞼を閉じる。
それが私に求められている行動。
私は傷を治さなければならない。

その為の、最善の行動。

それが、睡眠と休息。

それは、大切な治療行為。

眠り、休息し、時間の経過を待つだけの治療行為。


治療…そう、治療


これは新陳代謝…体細胞の再生、自然置換による治癒を待つだけの療養と呼ばれる治療行為、『待つ』と呼ばれる行為。
『待つ』為に造られた私に相応しい行為なのだろう

私は待ち続けている
『生産』された『目的』を果たすまで
終わりの始まりまで
『無』に還る刻まで
私は待っている
私は待つ
私は…
そう…





…ふと感じる肉体の違和感に、再び目を開ける。


身動ぎ…動きにくい状態の肉体を、ゆっくりと僅かに動かし体位を変える。

動きにくい理由は2つ

鎮痛剤を処方されていても、慎重に動かないと火傷跡が刺激され疼痛が起きる事

感染症を防ぐ為に薬液に浸されたガーゼが複数箇所の火傷部分…体表を覆い、更にその上から厳重に包帯で包まれていて、それが関節の自由度を妨げている事


体位を変え終わる。

慎重に動いたつもりだが、やはり身動ぎしたせいか、包帯の下でガーゼと擦れたであろう部位が疼く。

包帯と油紙に抑えられた薬品を含んだガーゼ。薬液に保護されたその下に存在しているのは、熱に破壊された細胞壁が神経を刺激し続けている皮膚。


ふと左手を見る。
包帯に包まれたその下に存在していた筈の軽度熱傷、そこからの疼痛は

…無い。

常に痛みの電気信号を発信していた部位、赤く腫れ上がった皮膚は今存在していない。


何故なら碇司令の命令で左手の火傷は修復したから。この包帯の下には既に完治した皮膚が存在している。

つまり、私の左手にこの包帯は必要無い。

なのに何故私は包帯を付けたままにしているのだろう。

記憶保存作業時の定期肉体メンテナンスでもこの程度の負傷ならば修復に充分だろう。

もっと簡単な方法もある。この肉体を破棄し、新たな肉体へ記憶を移し変えればいい。

そう、私はレギオンの一部にしてレゴの一つ、多数の私の中の一体に過ぎない。私の名は綾波レイ、エヴァンゲリオン素体にしてリリス制御の試験体、そしてエヴァンゲリオンパイロットとして生産された交換可能な存在、それが私。
予備とも言える他の肉体はある、手間を掛けこの肉体を保持する必要はあまり感じない。

何故…

…今までそんな事を考えた事は無かった。

疼きが脈打つ

そう、完治しているのは左手だけ。他の部分はケロイドにはなっていないものの、軽度…部分的には中度の…熱傷を負ったまま。

しかし、私は司令の命令がなければ自己再生を行う事が出来ない。
そう、命ぜられている。

左手を眺めたまま、思いを馳せる

この程度の熱傷、回復…表皮から真皮までの再生…程度ならば、私自身の意思で代謝を加速させる事で容易く治癒出来る。代償はあるが。

私の肉体構成物質はエヴァと人間とリリスのハイブリッド、人の遺伝子を組み込んだエヴァンゲリオンの人造細胞製の肉体に遺伝子操作したリリス細胞を種痘し生産された。
使徒に等しいエヴァの再生能力を持ってすれば代謝を加速させこの肉体を補修するのは簡単だ、現在の熱傷を負った表皮や真皮を再生する程度の事は問題無く行える。

しかしその場合、補修箇所のリリス化は進行する。
ヒトの遺伝子に在るテロメア…自死因子のカウントも進むだろう。

怪我の修復や軽い火傷の回復程度ならばリリス化した部位の成長は今服用中の薬剤で充分抑えられる。
だが、欠損部位の完全再生となれば話は別だ。
遺伝子操作により劣化したとは言え、再生された部位のリリス化は進行し、それは他の肉体を侵食し始め、仮面を以てしても成長を止められないリリス本体の覚醒を呼ぶ。
リリスの目覚めは私に与えられたリリス細胞への去勢…人為的遺伝子操作など容易く無効化するだろう。
リリスの成長を完全に止めるロンギヌスの槍、それが今だ届かない現状で本来の力を取り戻したリリス細胞の侵食が進行すれば…
…考えずとも答えは簡単に出る、旧東京の使途汚染被害者の結末がそれだ。私は完全にインフィニティ化し無への帰還…リリスへの融合を求めるだけの存在になると予測できる。

そして…

『コンコン』

私の思考はノックの音に中断される。

『…』

ドアに視線と意識を向ける。

医師の定時検診や看護師の見廻りには未だ時間がある。赤木博士や葛城三佐ならばノック後に入室を伝える声が聞こえる。碇司令ならそもそもノックをしない。ならば誰が

再びノックの音

『…どうぞ…』

返答をしながら、ふと疑問が浮かぶ。
私は今までにノックに返答をした事があっただろうか?

ドアが開く

何故か少し遅れて声が聞こえた

『し…失礼します…』

この声を、私は知っている。

ゆっくりと何かを警戒するように入室してきたのは、黒髪の少年。
その姿を見て私は自分の記憶に間違いは無いと確信した。

碇司令の息子、私の同級生、私と同じチルドレン、3人目のエヴァンゲリオンパイロット。

『あ…ひ、久しぶり。寝てるのかとお…あ!ご、ごめん、ひょっとして起こしちゃったかな?それともお、起きてた?』

何故彼が来たのか理由が解らない。そう言えば以前彼は学校からのプリントを持って来てくれた事が有る、何か連絡事項があるのだろうかと思考しながら、発言内容に質問があったので返答する。

『…ええ。起きていたわ。』

『そ、そうなんだ、良かった、起こしちゃったかと…ってあ、いや、その、ご、ごめん、入院してるのに良かったは無いよね、あは…。』

?彼は何を言っているのだろう?

『…』

早口気味に喋る彼の発言の意味を考えていると、彼は何故か慌てた様子で頬を紅潮させながら又早口で話し出す。

『あ!いや、違うんだ、その、決して悪気があって笑った訳じゃ無くて、で、でもお、思ってたよりげ、元気そうで良かった。』

よく意味の解らない発言に困惑しながらも、意味を理解できた言葉に返答する。

『…そう?』

『う、うん。じ、実は何度か綾波のお見舞いに来てたんだけど面会禁止だって…あ、いや、面会謝絶だったから、その…。』

聞き慣れない単語に、思わず問いを返す。

『おみまい?』

おみまいって…何?

ふと、気付いた。

碇司令以外の人に疑問の答えを求め、問い掛ける。そんな事は今までに無い。
その事実に驚くが、そんな私の思考に関係無く彼は話し続ける。

『う、うん。心配で…』

『心配?何故?』

入院してはいるが、軽傷であり回復は順調。現状でも任務復帰可能な私に心配する意味が解らない。

『あ、いや、その…ぼ、僕の為に怪我したみたいなものだし、その…あ!こ、これお見舞い!』

?任務を果たしただけなのに何を言っているのだろう?それより差し出された紙に包まれたこの籠は一体…

『これが…お見舞い?』

『え?あ、ああ、こ、これはその、前の果物屋で買ったフルーツバスケットなんだけど、あ!ご、ごめんこんなので、気に入らなかったかな?その、じ、実はさ、まさか今日面会出来るなんて思わなくてシンクロテストの後ここに来たんだけど、今日面会出来るって知らなかったからさ、慌てて急いで適当に、あ!い、いや適当ってそう言う意味じゃなくって、ま、まああちこち探してお見舞い品買ってきたんだ、で、その、急にあれだったんでお小遣いもあれだったし、て言うか良く見ないで買っちゃったんで中身は良く見てなくてさ、ひょっとして気に入らないかもしれないけど一応気持ちなんであのそのええと…あ、こ、これがパイナップル、こっちが梨とオレンジに…キウイだね、傷まないうちに早目に食べちゃったた方がいいと思うから…あ!もしかして食べちゃ駄目なのかな?アレルギーだとか考えてなかったし、その…邪魔とか嫌いとか食べたくないもの有ったらそれ捨ててくれて良いからさ、あ!ここで捨てたら怒られないかな?これどうしよ…その…ごめん、つい勢いで何も考えてなくって…!そ、そう言えば綾波好き嫌いある?もし嫌いな物有ったら言って、それ僕が持ち帰ってミサトさんと片付けるから。綾波はキウイ好き?』

早口で捲し立てる台詞の幾つかが聞き取れない。

『…良く解らない…』

『え?綾波キウイ知らない?』

漸く意味の解る台詞が聞き取れた。

『知らない』

『あ…そ、そうなんだ…』

表現し難い難い表情を浮かべ何故か言葉に詰まった様子で彼は下を向き沈黙した。

『?』

『…』

『…』

『…あ!も、もし良かったら綾波今からキウイ食べてみない?知らないものを初めて食べる訳だから不安かも知れないけど、味見しないとどんな物か解らないだろ?
気に入らなかったら次から食べなければ良いし、美味しければ又買えば良いし、その…』

『…それ、皮剥く必要有る?』

『え?あ、うん。』

『この部屋に刃物は無いわ。』

『え?あ、そ、そうか…ええと…その…じ、じゃあ、その…あ!こ、こ、これ、こ、ここに置いておくからさ、あ、後でその、だ、誰かに剥いて貰って食べてみて。その…あ!今日食事当番僕だ!急がないとタイムセールに間に合わない!そ、それじ、じゃあぼ、僕これで…あ、そうだ!その、ク、クラスの皆も心配してたからさ、た、多分後で誰かがクラス代表してお見舞いに来るかも知れないよ、うん。そ、それからええと…あ!い、いつまでも長居しちゃ悪いよね、き、傷に障るといけないし、じ、じゃあ又!』

『じゃ…又…』

慌てた様子で立ち去る彼を横目で見送った後、病室で再び一人になった私は無意識に感想と言う思考を台詞として口に出していた。

『…変な人…』

…こんな時も、笑えばいいのだろうか…


今度碇君に聞いてみよう。

ゆっくりと慎重に体位をずらす。今度は上手くいった。目を閉じて眠りに入る。

…笑顔、練習した方が良いかしら…退院したら手鏡を買おう…

意識が黒に塗り潰されるまで、私はそんな事を考え続けていた。




http://www.youtube.com/watch?v=7ZXI7EqjrAw


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