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親父補完委員会((笑))【ゲンドウ
日時: 2011/10/25 23:53
名前: 何処

【ゲンドウ・心の向こう側−残渣−】


夢を見た。


懐かしい夢だった。


夢と言うより思い出か。

…否、夢物語の様な思い出だから夢かも知れない。

あれは何度目の事だったか、私が妻と映画館へ行った時の夢だ。

夢の中私は妻と映画を見ている。
妻と二人、ポップコーン片手に益躰も無い…いや、他愛ないストーリーを眺める。

隣には空虚な在り来たりの子供騙しを楽しむ妻。幸せに満ち日々の暮らしに充足した日常に育った女…

私は何故ここに…この女の隣に居るのだろう。

…自ら望んだ筈の存在になり居場所を得ながら、苛立ちを抑えられずに居心地の悪い椅子の上に身動ぎして一人背を伸ばす。

ふと掌を眺める。

何時でもこの掌が私を現実へ…過去へと引き戻す。
…あの地獄こそが私の現実だったから。

治療の甲斐無く倒れ行く飢えた難民、痩せ衰えこの手の内で息絶える子供、意味無く撃たれる市民、僅かな水と食糧の為身を売り盗み奪い殺し合う民衆、それを助長する狂信者共…

只一欠片の食糧が、只一錠の薬品が、只一本の注射が無いだけで目の前の死を避けられぬ人々を一体何人看取ったのだろう。

僅かな食糧の為子を売る親、援助物資を横流しする役人、薬品の注文書を書き換える上司、援助額を水増しする政府、支援の成果を吹聴する団体、これを機会に領土を狙う隣国、子供達を兵士に徴収する軍隊、利権に群がる企業…人間不信にもなろう。

…だが、私は彼等を笑えまい。自らの幸せこそが一番だと知った今となれば。

この手に残る死の感触を、私は忘れる事無く生きて来た…ユイの手を取るまで。
…良いのだろうか、このまま流されて…
今の私は…


気が付けば既に映画は終わっていた。
立ち去る人々を見送りながら私は座り心地の悪い椅子に沈んだまま。
その時、妻が私の耳許に囁いた。

妻は告げた…彼女が母になる事を。

その瞬間、私の掌は過去を取り落とした。

気が付けば、周囲の目も忘れ私の手は今を…妻ともう一人…二人かもしれないが…抱き上げていた。


▲▽▲



「夢か…」

仮眠室のベッドに靴も脱がず倒れこんだ姿のまま、一人呟く。
私を眠りから引き戻した原因…枕元の携帯端末機が呼んでいる…

身を起こし眼鏡を掛け携帯端末を開く

「…私だ。」

『お早うございます司令、現在06:07です、申し訳ございません指定時間より二分遅くなりました。』

「…構わん。誤差範囲内だ。本日のスケジュールは予定通りだな?」

「は。メインの零号機起動試験は1045予定変わらず。レイの体調も万全です。」

「…ご苦労…1015にはそちらに向かう、準備を頼む。」

「は。」


…一瞬、ユイと赤木君がだぶって見えた。

端末を切り、頭を振りながらシャワーを浴びる為浴室へ向かう。

「…男ならシンジ、女ならレイ…か…」

無意識に私は呟いていた。
…つい力が入った様だ。浴室の扉が音を立てた


△▼△


「レイ!?」

気が付いた時にはもう射出されたエントリープラグへ走り出していた。

非常口開閉ハンドルに手を伸ばす…余りの熱さに手を放しかけ、再びハンドルを握る。

掌が、焼ける。

苦痛が、襲う。


やっと開けたプラグの中…レイは生きていた。

一瞬、掌の痛みを、思い出を忘れた。



…眼鏡を無くした事に気付いたのは暫く後だった。



初音ミク 【VOiCE】

http://www.youtube.com/watch?v=yvTZnxm7u-I&sns=em

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Re: 親父補完委員会((笑))【ゲン ( No.8 )
日時: 2012/04/15 18:52
名前: 何処

【−追憶の悪徳−】


「碇…これがそうか?」

「ああ、新組織計画書だ。」

「新規設立特務機関…名称・マルドゥク…設立目的・適格者選定保護及び適性能力認定育成…ふ、名目だけの機関か。」

「…」

「…しかし予算獲得の為のダミーか。戦艦大和方式とは又古い手を。」

「組織の設立は必要だ、候補者選定保護もせねばならん。現にこうして委員会から設置認可が出た…必要性を認められた組織である事に変わりは無い。」

「セカンドインパクト時胎児又は零歳児だった子供は全て可能性はあるだろうが。旧東京湾岸部封印実行地区周辺だけに絞れば数百人という所か、その程度ならばわざわざ新組織なぞ作らんでも少し調べれば判る話だろう?」

「適格者及び適性の認められる者達を選択保護育成する…その為のマルドゥクだ。名目は立つ。」

「だが碇…孤児救済育成法案は直に国会を通過するぞ?態々今我々がマルドゥク機関なぞ作っても遅くはないか?」

「孤児救済育成法案は言うならば戦略自衛隊の少年兵育成プログラムだ、徴兵制度の代替に提案されたと言っても良い。どさくさに紛れて恐らく法案は決定され成立するだろう。」

「成る程、それがわざわざ新組織などと仰々しく作らざるを得ぬ理由か。」

「言い方を変えよう。適格者が無数にいる、その事を公にせぬ為の新組織だ。」

「適格者…即ちサードインパクトの信管と成り得る存在か。もしこの事実が公となれば…確かに新組織は必要だな、下手を打てば世界を中世暗黒時代に引き戻し魔女狩りの再来を招きかねん。」

「異物排除と称しての黒羊探しは弊害が多過ぎる。が、人心を集約し掌握する為には一番手軽な手法だ。生贄の存在は権力基盤の弱い彼等にはさぞ魅力的に見えるだろう。しかしヘデロ王の如く断種の為に子供殺しなぞ企まれては困る。」

「正義の名の元にか…しかし該当地区居住者数十万人の内の生き残り…その選ばれし者全てが僅かそれだけとは…」

「…孤児救済育成法成立前にこの機関は活動を始める。該当地区に偏らぬ様広範囲に捜索し、より多数の身柄を確保したい。」

「とすれば手始めに無償孤児院の設立と要塞都市建設に伴う緊急雇用対策として該当地区旧住民の優先雇用だな、育児支援機構設立と労働者居住区建設に無償託児所の設置、新学校設立に医療機関開設、後は検診と言う名目のマルドゥク機関の活動存在証明と言った所か…又仕事が増えるな。」

「予算の運用は任せる。好きにやれ。」

「やれやれ…大仕事だなこれは。」

「ふ…期待していますよ、冬月先生。」

「この悪党めが…」



《正義粉砕》歌・GUMI(ボーカロイド)
http://www.youtube.com/watch?v=m35qX0YXwyw&sns=em

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Re: 親父補完委員会((笑))【ゲン ( No.9 )
日時: 2012/04/23 23:09
名前: 何処

※全ては科学の為に(笑)※ジークリツコ(爆)※

【唇に紅、華は影】

碇司令の息子がサードチルドレンとして登録され、ここに来る日程が決まった翌日、使徒の活動が確認された。

間の悪さに頭を抱える。レイの負傷が癒えないこんな刻に…せめて予備パイロットの彼には基礎訓練だけでも受けさせたかったがどうやらその時間も無い様だ。

正直に言おう、現状はある意味絶望的だ。これから起こる筈の対使徒戦に不安は尽きない。

対使徒用決戦兵器たる人造人間エヴァンゲリオン自体のポテンシャルは使徒以上…の筈だ。
情報操作によりセカンドインパクトの混乱に乗じた核テロと公表されてはいるが、現に旧東京に出現した使徒は自動制御のエヴァにより封印されたらしいのだから…数百万人を道連れに。
(最も、その話すら確証も無い。私自身確定していない未確認情報…しかし様々な情報の痕跡からしても事実なのだろう)

…だからと言って今回も確実に使徒に勝てる確証は無い。
恐らく旧東京の惨劇を防ぐ為エヴァの制御は有人形式へと変更され、本体も拘束具と去勢によりデチューン、その能力は恐らく本来のスペックの一割以下。
それに加え、肝心のパイロット…ファーストチルドレンはエヴァとのシンクロに失敗した挙げ句重傷を負い、急遽召集する予備パイロット…サードチルドレンは機体に触れた事すら無い素人。
ダミーシステムが未だ開発途上の現在、パイロット無しでの運用はおろか機体制御のアシストすら覚束無い現状では正直お手上げだ。後はもう運を天に任せぶっつけ本番で行くしか無い。

スペックダウンした機体、未完成な支援体制、おまけにパイロットは重傷患者か素人の二択、どう考えても状況は楽観出来ない…否、率直に言えば絶望的だ。

凡そ最悪なこの状況下、皆半ばパニックに落ちてもやむを得ない程のこの深刻な事態に在っても何故かここネルフ本部には焦りも不安も感じられず、普段通り何の変化も無い。
理由は…言うまでも無い、あの二人だ。

此程の深刻な緊急かつ非常事態だと言うのに何故か司令も副司令も泰然…どころかまるで普段通りだ。
その何ら不安も無い様な余りに平素通りな素振りに焦燥に駆られている私などは肩透かしを喰らった気分だ。
特に司令など、パイロット…レイの負傷にあれ程反応した人間の態度とは思えぬ落ち着き様だ。その冷静を通り越し冷徹な様子が逆に私を不安にさせた。

この状況を果たしてどう考えているのかつい聞きたくなり、ゲージで初号機の前にいた司令達に質問してみれば…

「動きさえすれば良い。後は君が考える必要は無い。」

…これが司令の言だ。あまりの物言いに二の句すら継げず絶句した。

「何れにせよ負けた時点で全ては終わる、ならば我々は最善を尽すのみだよ赤木博士。エヴァンゲリオンを信じてな。」

…笑顔で後を続ける副司令の台詞に茫然と立ち尽くした私を残し、司令達は立ち去って行った…


◇◆◇


その夜、私は司令の家に来ていた。あの発言の真意を確かめたかった…否、只独りが怖かっただけなのかも知れない。
仕事に逃避しようにもそのせいで見たくも無い現実と向かい合わざるを得ないが故に、冷静を装いながらも私は追い詰められていたのだろう。

見慣れたドアの前、躊躇しながらも恐る恐るチャイムを鳴らすと司令が現れた…珍しく背広姿だ。

「あの、どちらかへお出掛けされるのですか?お邪魔でしたら…」

「否…今帰って来た所だ。今日の用事は済んでいる、立ち話も何だ、入れ。」

「…では失礼します。」

室内は予想通り、相変わらず殺風景な雑然さと埃にまみれ、吸殻と書類と空缶が山となって私を歓迎してくれた。

「しかし…何時もながら殺風景ですわね。それに又酷い事になってて…いい加減、ハウスキーパーを雇われたら如何です?」

自分の事を棚に上げ(…一応自覚はしている…)部屋の惨状に溜め息を吐きながら手早く片付けを始める。

「構わん。どうせ週に一・二度の睡眠場所だ。」

何時もと変わらぬ司令に思わず溜め息が出そうになる。

「そうは行きませんでしょ?これから…」

不意に言葉に詰まる。
思い出してしまったある事実が重くのしかかる。
なんとか続けた言葉、声が低く小さくなる。

「…一緒にお暮らしになるんですから…息子さんと…」

そう…司令の息子さんが来るのだ…エヴァンゲリオンパイロット、サードチルドレンとして…

司令の息子が適格者だった事も遠縁に預けていた事も私は知らなかった。
しかし一旦人に預けた息子を態々呼び付けたからには、父子共に暮らす様になるだろう。

…もう早々簡単に此所を訪ねる訳にもいかないか…

そんな事を考えながら手元の書類を片付けていた私の耳に、司令の低い声が聞こえた。

「…施設に入れる。」

無感情に答えるその一言に衝撃を受け、思わず振り返った。

「!?はぁっ?な、何を言い出すんですかゲンドウさん!あ、貴方のむ、息子ですのよ!親がいて何故施設に入れる必要があるんです!」

しまった…素が出た…久し振りに…ネルフ主席研究員たる私が何て無様な…
だがもう私の口は止まらない。

「パイロットとして必要だから呼んだ、それだけだ。」「しかし!」

そんな理由納得出来ない。あの母だっていくら仕事が忙しくとも高校までは私と共に暮らしていたのだから…ほぼコンビニ頼りの暮らしだったが。

「…私はネルフ総司令だ。個人の都合は」「子供の父親に代わりはありません!引き取るべきです!」

頭を抱えたくなる。幾ら公私に厳しいとは言え、この真面目さは犯罪だ。
目を逸らしたい衝動を堪えサングラス奥の瞳を見詰める。

「…アレの意志はどうなる?」「アレ?」

アレと言うモノが何を示すのか理解するのに数秒掛かった

「!?息子さんをアレとは何です!それに意志なんか判ります!嫌なら呼ばれてノコノコと来るものですか!」

喚き散らす女に閉口したのだろう、司令は妥協案を提示して来た。

「判った…息子が一緒に暮らしたいのならそれは仕方あるまい。逆に息子が嫌がるなら強要は出来ん。」

「当然です!先ずは掃除からですわ!」

私は感情的に詰め寄った気恥ずかしさを誤魔化す為猛烈な勢いで掃除を始めた。圧された様に司令も部屋を片付け始めた…

…普段からそうして下さればいいのに…


◆◇◆


私をベッドに残し、彼は一人外へ出た。何時もと同じく。

暫くして、裸のままシーツから身を抜き出し、傍らの書棚へ。
飾りの様に置いてある一本の蒼い瓶を抜き、無造作に傍らのグラスを取る。
振り向く先、テーブルの上にはコーヒーセットと片付け忘れた檸檬の香りが付いた冷えていない炭酸水が一本起立中…

グラスに砂糖をスプーン一杯、蒼い瓶から中身をグラスへ1/4に注ぎ、36,5回転撹拌、ソーダ水をゆっくりと注ぐ。

グラスを傾け、一口。

炭酸の泡が弾け唇を湿し、檸檬に混じる松脂に似た薫りが鼻腔を踊る。舌を洗う炭酸とアルコールに砂糖の粒子がアクセントを付け、渇いた喉に落ちる。

ふと感じる男の余韻。

傍らの書棚に視線を移せば一匹の雌がグラスを傾けている。

その硝子戸に映る女の唇は艶かしく、美しい曲線を描くその首筋には幾つかの赤い跡。豊かに張った胸の頂点は起立し、その括れた腰と臍の下に繁る黒い森は交合の残滓に光って

「…いやらしい女…」

声に出た自嘲。否応も無く自分が雌だと言う事実を示す姿、その不埒な獣を見遣り、私は悪戯に舌先でグラスを舐める。

この顔が、あの人だけが知っている表情…その愉悦は背徳に似た快感。

あの人の表情を思い、つと唇をなぞる指先が疼く。

カーテンを開き窓を開け放ち、グラス片手に夜景を見る。
私の全身を愛撫する夜風に只身を任せ、眺めた彼方には瞬く街灯り。

グラスの中で炭酸が微かに音を立て踊る。
口を付け舌を転がる液体を咽下する。
弾ける炭酸、ほろ苦い甘さと微かな檸檬の香り。

今頃あの人は何をしているのだろう。やはり独りで酒を飲んでいるのだろうか?
ふと想像する。
あの人は独りカウンターできつめのカクテルを嘗めていて。
紫煙が漂うカウンターは誰しもが無言で。

ふ…想像では無く妄想ね…もう寝よう…

1/3程残るグラスの中身を干す。

窓とカーテンを閉め、全裸のままシャワーも浴びず再びベッドへ転がり、シーツに潜り込み瞼を落とす。

男の体温と体臭の残滓に包まれ、私はゆっくりと意識を手離していった…


◇◆◇


「…レイは、この部屋に来た事があるのですか?」

掌を庇いながらテーブルを布巾で拭っている司令に流し台の食器を洗いながら精一杯然り気無さを装い問う。

「無い。必要も無い。レイはエヴァンゲリオンパイロットだ、その為にレイは存在している。」

「…レイに感情は不要だと?」

「レイはパイロットとして必要だ、もしそれが闘いに勝つ為に必要ならば与え、不要なら与えない。それだけだ。」

「!レイは只の道具ですか!」ガチャン!

「痛っ…え?」

有無を言わさず私の手首を掴み、蛇口を開け傷口を洗う男。その掌は爛れていて
…傷の中に硝子片が無い事を確認する男の横顔から、私は視線を外せず

…傍らの引き出しから抗生物質軟膏と絆創膏を取り出し、傷口に薬を塗り、絆創膏を貼る手際はまるで専門医。

「あ…あの…」

「…大丈夫だ。この程度なら直ぐ治る。」

手を離し、背を向け布巾を指に挟み再びテーブルを拭こうとする男に私は…

…思わず、彼の裾を掴んでいた。

自らの行動に驚き戸惑い、言葉を探して唇を動かしながら見上げた先には、振り返った男の顔が


その眼鏡越しの瞳が

私を硬直させ

その唇が

私を呼ぶ様に


そして私は


吸い寄せられる様に


ゆっくり と






◆◆◆


夢現の意識をドアの開く音が呼び覚ました。

直ぐに閉まるドア、常夜灯の微かな黄色に浮かぶ時計に目を遣ればそのデジタル表示は23:55
シングルベッドを占拠する私は再びそっと目を瞑る。

独り 男の残り香に 包まれ 


夜は 



未だ 



長い 







初号機にシンジ君…呼び出された少年の母親が居ると知ったのは、レイの負傷が癒え第四の使徒を殲滅した後の事だった…

《貴方は振り返らない》歌・GUMI
http://www.youtube.com/watch?v=lEfZdQw5EcE&sns=em


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Re: 親父補完委員会((笑))【ゲンドウ ( No.10 )
日時: 2012/06/04 06:37
名前: tamb

■追憶の悪徳
 サードインパクトの信管、というフレーズは結構すごい。なるほど、こうして第3新東京市
に子供たちが集められたわけだ。該当する子供の親を雇用するというのはいいアイディアなの
かもしれん。

・正義粉砕
 泣ける話を作りたいという前提が仮にあるとして、優しいヒロインを死なせちゃえばいい、
というのはある種の事実かもしれないし、死ねば泣く。悲しいからね。でもそれに対しての
「夢が無い」という意見に、それは偽善である、という感覚が全くわからない。
 今あるこの世界を壊して新しい正義を実現させよう、なんてのは偽善だ、この世界だって
100億からの人間が住んでるんだ愛していかないとしょうがないじゃないか、という解釈をす
ればリディマーセナスになるんだが(ガンダムUCです)。うーむ。何かを読み落としているのだ
ろうか。


■唇に紅、華は影
 セカンドインパクトの後、旧東京に新型爆弾が投下されたっていう設定がどうにも気になっ
てたんだけど、旧東京に出現した使徒は自動制御のエヴァにより封印されたってのは話として
整合性が取れてていいな。
 ロボット(とひとくくりにするけど)のパイロットっていうのはたいてい素人だわな。エヴァ
しかり、歴代ガンダム、マジンガーZ。アムロなんてコックピットでマニュアルひっくり返し
てたじゃないか。熟練し選抜されたパイロットが乗る、なんていう話もあるんだろうけど。ま
あシャアがそうだわな。
 しかしパイロットが直接乗らないといかんというのは鉄人28号から比べて明らかな退歩なの
はどうしたものか。ガンダムはミノフスキー粒子があるからしょうがないんだけど。

 今回の話は【愚者と道化】の裏。なのでこれといったコメントはなし。だけど、というか、
色々あって約一ヶ月にエヴァFFを読んだんだけど、やっぱり面白い。それを再認識。

 例えば作曲家がアイドル歌手の作曲を依頼された時、そのアイドルの声をどう生かすかを考
えるのは良くある話というか当たり前なんだけど(極端な話、そのアイドルが出せないような
ハイトーンを生かした曲を作ってもしょうがない)、ボカロのこの音源に適したメロというの
はあり得るな、という当たり前のことを「貴方は振り返らない」を聞いて思った。
 ピアノあたりのサンプリング音源は数音ごと、どうかすると全鍵盤に対してやってるらしい
けど(そうじゃないと不自然に聞こえる。サンプリングの変わったところがはっきりわかった
り)、人間の声の場合はどうなんだろう。ただミクとか明らかな不自然さが味になってたりす
るので、その辺も微妙な話ではあるけれど。

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Re: 親父補完委員会((笑))【ゲンドウ ( No.11 )
日時: 2012/08/19 22:28
名前: calu

 気が付くとショーウィンドの前に立っていた。
 幾筋もの水滴がしたたるガラスの向こうに飾られたティーメーカーを睨み据えてどれほどの時間が経つのか。
 そうだ、あの日もこの場所でレイとこのショーウィンドの向こうを眺めていたのだ。
 水滴が途切れ、ガラスに映しだされたのは、濡れそぼった幽鬼のような男の姿。
 何もかも失い、心を欠いた一人ぼっちの男の姿だった。
 何かに憑かれたように私は店内に足を踏み入れる。呼び鈴が絶望的な音を周囲に撒くと、店内の空気が変質した。
 硬い靴音が紅茶が陳列された嗜好品コーナーへと近づいていく。
 士官服の袖から滴る水滴が床を打ち、幾つもの小さな水の溜りをつくった。
 暫くの沈黙の後、目を細めていたゲンドウが手を伸ばしたのは、黒いリーフティーの缶だった。

 暗くなった空が店の中に影を落とす。一層強くなった雨の中、主を諦めたベントレーのボンネットは冷え切っていた。
 


           ■□  My Foolish Heart - calu  ■□
 


「それで、どうするのだ?」

 頭を上げると、冬月が怪訝な表情を貼り付けている。

「…すまんが、もう一度頼む」

 微かに溜め息を洩らした冬月は、リツコに視線を流す。

「レイの準備ですが」
「………」
「…最終プロセス……記憶のリカバリを残すのみとなりました。直近のバックアップは、先週末の定期検診時
のものですので、今週に入ってからの記憶、つまり第16使徒戦の記憶は存在してはいません」
「………」
「それでも、直近の状態にまでリカバリを実行すれば、少なくとも記憶の齟齬から発生するリスクを回避する
ことは出来るのでは無いかと」

 ゲンドウは微動だにしない。組んだ手の上に据えられたサングラス越しにその眼が向けられている先さえ判
然としない。

「…赤木博士、記憶の齟齬から出てくるリスクなど有るのかね? 『その日』は近い。学校に行くことも無け
れば、共有する記憶を試されることも無いのだ。レイの役目を考えると、逆に余計な過去の記憶など戻さない
方が良いのではと思うのだがな。なあ、碇よ」
「………」

 唐突に鳴り響いた甲高い電子音に顔をやや顰めた冬月が受話器を取り上げる。

「何だ?」語調が強くなる。

 リツコの視界の中、いつものポーズを崩さないゲンドウ。いつもの肌を刺し貫くような視線は影を潜め、
そこにあるのは或いは人形の虚ろさに似たものにも思える。一層濃くなったサングラスは一切の意思の交換を
拒絶しているようにも見える。音を立てて受話器が戻された。冬月にしては珍しい。

「何かあったのですか?」
「いや、たいした用事じゃあ無い。二課が面談を申し入れてきよったが、今は取り込み中だからな。引き取ら
せたよ」
「諜報二課? 若竹三佐ですか?」
「二課長だったら会わんわけにはいかん。ガード班だ――」  

 軋みを上げた椅子にゲンドウを見返る二人。ゲンドウは机についた両手で体を支えるように腰を上げている。

「…赤木博士」
「はい」
「レイに記憶のリカバリは不要だ」
「え?」
「今次のオペレーションでは最終プロセスはスキップする。明日0800までにレイの準備を終わらせ司令室
に出頭させるように頼む」
「し、しかし――」
「碇、賢明な判断だな。それともう一つ、これを機にレイのアパートも引き払ってはどうだ? セントラルド
グマに住まわせるのが得策だと思うがな」
「碇司令、私は賛成しかねます」

 何を言いだすのだと言わんばかりにリツコに向けた顔を歪ませた冬月。眉間の皺がその陰影を濃くした。

「シン…サードチルドレンへの影響が懸念されます。ここ直近、シンクロテストの結果も芳しくない状況下で、
更なるシンクロ率の低下は今後の使徒戦を考えると致命的なものとなりかねません」
「その点においては既に手は打っておるよ。ユーロからな、追加の予備が届く」
「二号機パイロット…アスカの代わりですか?」
「赤木博士」
「はい」
「今一度言う。レイにリカバリは不要だ。そして住居は現状のままで構わん。今般ガード班のタスクを大幅に
減らしたこともある。よって特別な監視なども必要は無い」
「……はい」

 分水嶺は既に越えていた。
 これでネルフ究極の計画は発動される。
 ただひとつ懸念されていた障壁は、失われたのだ。


                 △▽▲▽△


 白い壁紙で覆われた部屋の中で、舞台セットのようなプリンターが身を震わせ帳票を次から次へと吐き出し
ている。見る人から距離感を剥ぎ取る病室のようなその中央で、赤木リツコは執務机の上で両腕を枕にして、
顔を伏せている。恐らく昨晩は夜を徹した作業になったのだろう。プリンターが動きを止めると、室内に静寂
が澱のように降りだしてきた。視線を上げた先の壁面に埋め込まれた大型モニターには、蒼い髪の少女が画面
いっぱいに映し出されている。
 色々な機材をかき分けて部屋の奥へと歩を運び、壁の半分ほどを占めているガラス越しに隣室のベッドへと
視線を注いだ。質素なパイプベッドの上では、蒼い髪の少女が純白のシーツにくるまれて、その体を微かに上
下させ静かな寝息をたてている。深い眠りなのだろう。目覚めの時を推し量ることさえ叶わぬほどに。或いは、
この世界の役割に準じたコンディションを創り上げるために、相応の負担に耐えているのかも知れない。
 知れず強張っていた顔を誤魔化すように右手でサングラスを持ち上げ息を継ぐ。
 紛れも無くレイだ。少なくとも外見、そして既に定着させた魂といわれるものは。だが、しかし――。

「何故、レイの記憶を戻さなかったのですか?」

 意識を持ち上げると、リツコの影がガラス窓に淡いシルエットを作っていた。

「…………」
「……私には理解できますわ」
「赤木博士」 
「…………」
「無理に目覚めさせることは無い。司令室への出頭日時は多少ずらしても構わん」

 リツコはその顔を冷笑気味に歪ませた。

「お忘れですか? 意識が覚醒半ばであろうが、例え体が不自由であったとしても、レイはあなたの命令であ
れば、どこにでも行きますし、どのような事でも実行しますわ」
「…………」
「…心を、定められたのでは無かったのですか、碇司令?」

 トーンを落としたリツコの声が地底から湧出したように響いた。ふたたびサングラスを直したゲンドウは、
蝋人形のように青白い顔をしたリツコと視線を交わすこともなく、その部屋を後にした。
 玄関に出ると、どこからともなしに現れたベントレーが黒い筐体を車寄せに滑りこませた。後部座席に体を
沈めると、ヘッドレストに後頭部を預けて目を閉じる。目的地を口にする必要など無い。行き先などはとうに
定まっているのだ。
 私は瞑目を続ける。私は私の中心を暗闇の底に置く。


 私が絶望の底で手にしたただ一つの手順。究極にして禁断の奥義。
 それを知らしめる偶さかなる産物であり、その計画を発動させる為の鍵。
 それがレイだった。
 ただ…ただひとつの誤算は、レイは心を持って産まれてきたのだ。
 心。それはレイに本来備わっていてはならないものだった。
 そして、決して育まれてはならないもの、だったのだ。
 やがて時を経、今に至り、かつて私の胸に去来した予感は的中した。
 レイはシンジに出会い変わった。心を育んでいったのだ。
 シンジと共に過ごすレイを見ている私自身が、自分の新たな感情の発露に驚いた。
 己が計画への執着が希薄になっていた……何のことは無い、私自身がレイに対してその役割を超えた感情を
 持ってしまったのだ。
 しかし、そんなことは長くは続かなかった。
 脈々と地下に根を張り巡らすように、あの計画は生きていたのだ。
 ブービートラップ。転轍された歯車は全てを始まりに戻した。言葉通りレイを始まりに戻すことによって。
 レイの心は、無に還った。絆という名のもとに交わした皆の心を道連れにして。 
 なんと愚かなことなのだ。私は…あろうことか同じ過ちを繰り返してしまったのだ。
 赤木博士、君なら理解できたろう。
 三人目のレイには、失われた二人目の心そして共に有った我らの心は存在しない。
 記憶を戻したところでどうなるというのだ?
 レイに触れるたびに失望し、そして嘗て交わした己が心は二度と取り戻せないのだと思い知るだけなのだ。
 であれば、記憶など戻さない方がよい。 
 そして、記憶を戻すことが三人目の心に作用することがあってはならないのだ。
 繰り返してはならぬ。今度こそは。
 もはや、二度とぶれることも無い。
 なんびとたりとも、波風さえ立てることも叶わぬ。
 定められし無限の軌道をなぞるのみ。迷いはせぬ。惑わされはせぬ。
 レイ。その心の覚醒の兆しさえ見えぬうちに、今度こそ我らが約定を成就させよう。
 世界が終焉を迎え、全てが始まりに戻った暁に、乾ききった虚ろな心を持った私は、ユイとふたたび見える
 ことで私は私の真心を取り戻すことが出来る。
 そして、その役目を全うしたした後に、レイ、おまえの願いは叶うのだ。
 その身も魂も無に還り、永遠の安息を得ることができるのだ。


「碇司令、恐縮ですが…」

 重い瞼を開くと視界が曙の地平線のようにひらけた。先ほどから少し気にかかっていることを私は口にする。

「ドライバーは初めてだな、君は?」

 まだ若い、あどけなさを残した女性は、的確にステアリングを操作しながらルームミラーの中でニコッと
微笑んだ。

「今日はピンチヒッターなんです。先の下知をお受けしガード班員も手が空いてまいりましたので」 
「…そうか」そうだったな。「それで、どうしたのだ?」 
「お許しいただけるのでしたら、少しお話しさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「…………」
「…だめ、でしょうか?」

 真摯な眼差しが眩しい。私は視線を車窓へと逸らせる。

「……構わん」

 タバコが欲しい。アームレストを開けソフトパッケージをまさぐると指先にあたった別の感触に気が付いた。
 綺麗にラッピングされたテイラーズ オブ ハロゲイト。
 その黒いリーフティーはゲンドウにとっては特別な意味を持つ。



 それでも、
 若しや、とどこかで信じている私が存在するのだ。
 一縷の望みを託し、試みずにはいられない私がいるのだ。
 ……おまえの心は、もはやこの世に存在しないのか?
 ………レイ。
 


  



メンテ
Re: 親父補完委員会((笑))【ゲンドウ ( No.12 )
日時: 2012/08/19 22:36
名前: calu

何処さん
すいませんが、親父補完委員関連作品(?)につきご容赦くださいm(_ _)m
◇calu

メンテ
Re: 親父補完委員会((笑))【ゲンドウ ( No.13 )
日時: 2012/09/24 06:32
名前: tamb

■My Foolish Heart

 これは難解なので反応を先送りにしたケース(^^;)。すいません。にしても、一ヶ月も先送
りにすることはないよな。先送りにしても何か変わるわけじゃないんだし。
 リカバリをせずとも記憶が回復し、そこには心が宿る、という展開を期待したいところでは
あるけれども、心とはなにかという問題は難しいかもしれん。まあでも例えば、碇くんが好き、
という気持ちを持つのは心であろうということは言えると思う。
 最後に出てくるドライバーはミキちゃんだろうか。

 いずれにせよ本編の展開を望みたいところ(笑)。
メンテ
Re: 親父補完委員会((笑))【ゲン ( No.14 )
日時: 2012/12/03 02:46
名前: 何処

『…これも父さんの仕事なんですか?』

「そうだ。」

三年振りに聞く声に私は思わず考えるより先に答えていた。



己の発言に狼狽する間も無く、私の声に此方を仰ぎ見る息子の顔を見た瞬間、私は不覚にも言葉を失った。


様々な感情や計算、推測や憶測、希望や絶望…一切が一瞬の内に消え去り空白の…文字通り白い世界に私は息子と向かい合っていた。




永遠の一瞬




「久し振りだな。」

又もや私は何の考えも無く只の感想でしかない台詞を語るとも無く口にしていて


幼児の顔が歪む。

この顔を私は覚えている。

当然だ、忘れる筈も無い。

あの駅のホームで、泣き出す寸前の表情だ。

変わらず私の胸を抉る息子の表情

あの時と同じく思わず幼児の名を呼びそうになり、必死に口を瞑る。


我知らず握り締めた掌が疼き


世界が色を帯び


音が帰って来て


気付けば目前の息子は四つの幼児から七才の子供へ、そして11歳に、更に14歳の少年になって


遥か眼下の初号機ゲージに息子は立っていた。

その姿を見て私は漸く我に帰った。そして、不覚にも忘れ去っていた現状を思い出す。

…全く…

文字通りの苦笑を噛み殺し、私はネルフ総司令として現実に対処すべく命令を下した。

「…出撃。」




【−始動−】

《天樂》http://www.youtube.com/watch?v=LTx_4NTzLAo&sns=em




初号機を見上げ、私は独り佇む。


『お前の考えている通りだ』

『必要だから呼んだ。それだけだ』

『そうだ、お前が乗るんだ』

『説明を受けろ』

『お前にしか出来ない、お前でなければ無理だ』

『早く乗れ、乗らないなら帰れ!』





覚悟はしていた。

進むも地獄、引くも地獄

人類を滅亡から逃れさせる為敢えて修羅の道を歩ませる事も承知の上だった。

…レイは、破棄せずに済んだ。
…シンジは、サードチルドレンとなった。



あの時、シンジに“帰れ”と言った。本心から。




改めて自覚する。私は惰弱で卑怯な小心者だ
。そして醜悪な欲張りで愚かなエゴイストでもある。


人類より、未来より、我が息子を取ろうとした。


妻を諦める事も出来ず

レイを切る事も出来ず

取るべき手段は判っていながら決断を先送りにして

結果、事態を最悪な状況下に追い込み

それでも漸く決断を下しながら、いざ呼び付けた息子を前に全てを背負わせる事を躊躇した。


他に手は無いであろうと言うのに


最後まで息子に逃げ道を示唆して


…人類存亡の危機を前に、誰にも、どこにも、逃げ場なぞ、無い


そう、判っている筈なのに…


幸いにも預言は為され使徒は殲滅された。

結論から言えば、シンジは自ら決断しエヴァンゲリオン初号機に搭乗、起動に成功。そして文字通りの初陣においてシナリオ通り、使徒の殲滅に成功した。

序盤、使徒に一方的に攻められかつ最終段階で自爆に巻き込まれながらもエヴァの被害は修復可能なレベル、シンジ…パイロットもフィードバックの衝撃でショック症状を起こし検査入院中だが身体に異常無し。

人類は当面の危機を脱し、ネルフは稼働する機体と新たなパイロットを獲得、これで零号機とレイが使える様になればチルドレン二名と二機のエヴァンゲリオンの2マンセル体制で対使徒戦に望める。

結果だけを見るならばシンジを呼び出した事自体は成功であり、事実十分過ぎる成果を得られた。

しかし…

今回の使徒襲来においてネルフを…人類を滅亡の瀬戸際まで追い込んだのは誰あろう私だ。

端からレイを処置し入れ換えるか、もっと早くシンジを呼び出していれば…否、来た時点で有無を言わさずシンジをエントリープラグに放り込めば済んだ話だ。
態々私はシンジに決断を迫った…だが他に選択肢が無い決断なぞ意味があるだろうか?

だが…あの時、もしシンジがあくまで乗らぬと言っていれば…

否、考えるまでも無い。

実際、私はレイを乗せろと命令したではないか。

そうだ、私は人類よりシンジを…シンジの意志を取っていた。

否、退路を断っておきながら決断を他人任せにしただけだ。


…私は卑怯者だ…

そう、繰り返すが、シンジを呼び出したのは正解だった。その事実には間違い無い。

だが…



…ダミーシステムさえ完成していれば…



無い物ねだりと知りつつ、そう思わずにおれない。

ふと視線を下げると、破損した初号機の紫色塗装装甲板に映る男と目が合う。


そこには無能な男が独り。

人として最低
父として最悪
親として失格
科学者として無力
人類補完委員の一員として無能

そして

ネルフ総司令として惰弱

…だか、逃げる訳にはいかない。
そもそも逃げ場なぞ無い。既に賽は投げられ、ルビコン河は彼方に過ぎた。
そして対使徒戦は始まったばかりだ…
エヴァは、ネルフは、この都市は、今この為だけに創られたのだから。


進むより他、道は無い


装甲板の向こうに突っ立っている男の姿を眺めながら、ふと気付く。


…そうだ、息子の転入手続きをしなければ…


今更嘆いても何も変わらぬ。目前の現実に対処すべく、私は踵を返しエレベーターへ足を向けた。




《計画都市》http://www.youtube.com/watch?v=fldw6JUHvx0&sns=em




…やはり同居は止めようと思う…




…ユイ、やはり私は小心者だ…


エレベーターのドアが目前で開き、私は前へ一歩踏み出した。
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Re: 親父補完委員会((笑))【ゲンドウ ( No.15 )
日時: 2013/01/20 03:43
名前: tamb

 わけあって昨年11月くらいから四人目にはほとんどレスしてなかったわけだが、インフルエ
ンザのせいでまんまと時間ができたので徐々に書いていこうかなと。

 中学生や高校生くらい、あるいはそれ以下の子供がいて離婚を選択する夫婦というのはいる
わけで、それはやはり難しい決断なんだろうとは思うけれど、やはりそれでも、ということな
んだろう。そういう状態になれば、その時には離婚をしないという決断も難しい決断には違い
ない。それはそこに子供を想う気持ちがあるからなんだけれど。いがみあう姿を見せてしまう
のが果たして正しいのか、と。
 最低とか最悪とか、そんなことは言われなくてもわかってる。それで、そんなことは前提と
して、これからどうしろというのか、という問題なのだ。

 こうするより他に道はないとわかっていても、そんなことしなくてもいいよ、と思うことは
ある。それが辛すぎるとわかっているから。ではどうする、と堂々巡りになるだけともわかっ
ているのだけれど。

 惰弱、という字を見て、この流れで情弱は変だろと思って目をこらしたら違った。当たり前
なのだった。
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Re: 親父補完委員会((笑))【ゲン ( No.16 )
日時: 2013/02/17 00:20
名前: 何処

遠くの高層建築群の間に紫色の機体が繭に包まれた様に存在している。

「…あれ、やーっぱどう見ても対使徒戦用装備ってより対エヴァ用兵器って感じよねー。」

迂闊な事に、私はふと感想じみた台詞を誰にともなく口に出していて。

事の重大さに気付き私は慌てて周囲を見渡し、今洩らした台詞が誰かに聞かれてはいないだろうかと様子を伺った。

この場はナントカ事業部やカントカ協会やナンタラ委員会への初号機回収作業説明会会場、そして私は今、主催者側責任者代理として正にその立ち会い参加真っ直中。
もしこんな台詞が他の面々に聞かれたらドえらい騒ぎになるのは目に見えている。

…幸い他の監査員は現場監督の説明を聞く為に離れていて、周りを眺めながら皆より少し遅れて歩いていた私の呟きは誰にも聞かれていなかったようだ。
ホッと胸を撫で下ろし、再び工程表を眺める振りをしながら私は皆が説明を受けている現場へと足早に近付いていった。


【外伝−父と子−】


「皆さんお疲れ様でした〜。… … … ……はぁー――っっ、やぁれやれぇー、やあぁっっと終わったぁあー―っ!」

解散した一同の乗った観光バスの出発を見送って長い長い説明会の立会が終わり、漸く私は黄色いヘルメットを脱ぎ額の汗を拭った。

「あー疲れたぁ、にしてもお偉方はいーわよねーあれで給料貰えるんだからぁ。大体概要書いてあるんだから一寸は資料読みなさいよ頓珍漢な質問ばっかしてないでさぁ、そもそもあたしの胸のサイズが何の関係あんのよ全くぅ…」

ヘルメット片手に愚痴りながら作業ツナギのジッパーを下げ、風通しを良くする。

「さぁて、とっとと帰って早めに報告書書こ。そいで今夜は久しぶりに家でお風呂ーっ!やぁっと職場泊まり込み生活脱出かぁ…最近湯船がペンペン専用になりつつあるもんねー。」

周囲に誰も居ないのを幸い背伸びしながら独り言を口に出して、配布資料の束の裏に書き込んだ周辺地図を眺める。

「さて、日曜には修理工場から車引き取り行かなきゃなー。…はぁ、又ローンか…止めヤメ!気持ち切り替えて前向き〃、さって最寄りの直通エレベータはっと…あっちか。」

ネルフ本部直通エレベータ-への最短ルートは通行規制地区…瓦礫撤去が未だ終わっていない区域…を横断する。
ま、歩く分には支障無い筈だ。更に時間短縮の為回収作業現場の真ん中を突っ切るコースを選び私は歩き出した。

独り無人の街を歩く。
足元には採石場の如く瓦礫が散らばり、建物の間は所々歯欠けの様に更地が拡がる。
工事の喧騒が無ければ僻地の廃墟と見紛うばかりだ。

…あの南極基地の様に…

ふと気付けば私の歩みは無意識の内に足早になっていた。

通行規制地区を抜け初号機回収作業現場に差し掛かる。
…使徒撃退後、暴走した初号機はアンビリカルケーブル切断後、特殊兵装ビルから射出されたアモルファスメタル製ワイヤーケーブルにより活動限界−内蔵電源の電力が尽きる時間−まで拘束され、停止した。

今、私の目前では初号機を数時間前まで拘束していた特殊ワイヤーの束が重機のアームで解されている最中だ。
その傍らでは解されいたワイヤーの一本〃が各々地上に仮設置された大型巻取機のボビンに慎重に巻き取られていく。

不意に響く轟音と振動に振り返れば、剥き出しになったエヴァ発進口から専用エレベーターがせり上がって来る処だった。

工程表によればこれからこのエレベーター付属の機体固定装置へ特殊クレーンに吊り下げられた初号機がロッキングアームで固定され、簡易整備点検の後メンテナンスドックへ回収される予定…の筈だ。
冷却作業の終了したエヴァがクレーンで持ち上げられ正立状態になっていく。

「…『帰れ』…か…」

足を止めその初号機回収作業を眺めながら、私は一人愚痴た。

今、ジオフロント本部の医療施設には訳も判らず半ば強制的に呼び出され、戦自の対使徒戦闘に巻き込まれ危うく死にそうな目に逢った挙げ句に殆ど説明も無くいきなりエヴァに放り込まれて即実戦投入され、文字通り生死の境をさ迷いながらも生還した少年が入院中だ。

その少年の父親とはネルフ総司令・碇ゲンドウその人であり、即ち私の上司に当たる人物。
その人物が実の息子との…何と数年振りの…再開の際告げた台詞が…『帰れ』。
正確には

『乗るなら早くしろ、乗らないなら帰れ!』

…これ、実の息子に親が掛けた台詞。

「…可哀想に…」

そうとしか言えない。
疎遠な親にロクに説明すら受けず呼びつけられた彼は未だ14歳だ。
その少年に父親が掛けた言葉がこれでは同情するしかないではないか。

…ま、かく言う私も人の事を偉そうにどうこう言える立場に無い事は間違い無い。
何しろ作戦部長として少年にエヴァに乗れとお願いと言う名の強要をした上、更にこれからも彼を乗せて戦わせようと言うのだから、我ながら図々しいにも程が有る。

ふと彼の…どこか線の細い少年の横顔が浮かび、最初に彼…シンジ君の話を聞いた時の事を思い出す。
司令から説明を受けた時は色々な意味で正直意外だった。エヴァのパイロットは現在認定済みの二人は共に性別は女だったからって事もあったし、それより…

…あの髭ですら…衝撃の事実って奴ね。

あの髭もとい司令が結婚してたとは知らなかった。と言うより良く結婚出来たなぁ、しかも子供までいたとはねぇ…
て言うかさ。あれ本当に実の息子な訳ぇ?皮肉屋なのは確かに髭おっと司令似かもしれないけどさ。

まさかその日程が使徒来襲と重なった上、その進行ルート上の地点でリニアが止まり、戦自の迎撃に巻き込まれるとは運が悪いと言うか間の悪いと言うか…本当酷い偶然もあったものだ。
まるで使徒が彼を目指していたような…訳無いか。

しっかしあの緊急事態に搭乗拒否された時は焦ったわー。
も、どうしようかと思ったけど…

「…当然よねー。折角三年振りだかに肉親に会えばいきなり‘エバに乗れ’じゃあ…おまけに‘乗らないなら帰れ’ですってぇ?」

足元に転がる小さな瓦礫を蹴り飛ばしながら改めて少年…シンジ君に同情する。
冷静に考えればあの状況下でなければ久し振りの親子対面て場面。で、あの対応なら…
そりゃ反抗と言うか拒否反応を起こさない方がおかしいでしょ?

…ま、作戦部長としてはそんな事言える筈無いけどさ。でもねぇ…

それに可哀想なのは少年だけではない。他のチルドレン達…特にもう一人のパイロットの事を思えば未だしも彼は恵まれている…

ファーストチルドレン・綾波レイ。マルドゥク機関により最初に見出だされたエヴァンゲリオン搭乗適格者。

身寄りが無い(らしい)彼女は完全にネルフの道具…エヴァの附属部品扱いだ。何でも幼少の頃からエヴァに関わっていたそうだが、詳しい事は不明…所謂機密の壁の向こう側だ。

…彼女も未だ入院中なのよね…

他に適格者が居ない以上仕方ないとは言え、起動実験中の事故で重傷を負っていながらも彼女はエヴァに乗せられ戦う筈だったのだ…少年が来なければ。
あの怪我でもエヴァに乗る以外無いそんな彼女に比べ…

そこまで考えた時、私はあの時スピーカーから微かに聞こえた司令のもう1つの…決定的な…台詞を思い出し、ゲンナリしながら自分の感想を否定した。

『…イ、予備が使えな…った……う一度だ…』

…予備って、実の息子の事よ?あの時は聞き流したけど“予備”よ“予備”!
どう思う!?息子を、態々こっちの都合で呼び付けた息子を“予備”扱いよ!
思い出す度に腹が立つわ呆れるわ…

…シンジ君…辛いわよね…

良く解った。女の子だろうが息子だろうがあの髭は基本人を道具にしか見てない。
貴重なチルドレンを完璧消耗品扱いよ全く…ま、確かに戦場において兵士は或る種消耗品である事は事実だけどさ、如何にそれを消耗させない様にするかが指揮官の役目であり仕事じゃないの!
…まぁ、自分もその消耗品にカウントされてるってのも有るけど、そうでなくとも14歳の子供を使う事すら色々問題だし、ましてやブチブチ…

今の自分が端から見れば独り言をブツブツ呟く危ない女だと気付き口をつぐむ…見る人なぞ居まいが。

照り付ける日差しに汗を拭い、ヘルメットを再び被り、止めていた足を前に進め出す。

廃墟のごとき街中を独り、口をつぐみ黙々と歩きながらも思考は巡る。

それでもやっぱり考え様によっては彼は未だマシなのかも知れない。レイなぞ拒否のしようが無いのだから…

何しろエヴァンゲリオンパイロット…チルドレンとして彼女が見出だされたのは八年も昔だと言うのだから呆れる。セカンドチルドレンが見出だされたのはその数年後…

チルドレン…幼少の頃既にエヴァとのシンクロ適性を見出だされていた、正にエヴァの申し子達…か。


教官として出向していたユーロの特殊戦闘訓練センターで初年兵達に交じり赤味掛かった金髪を揺らして走っていた少女を思い出す。

出向前に渡された基礎資料によれば、彼女の母親はエヴァに心を壊され彼女の目の前で命を絶っていた…正直、半年限りとは言え彼女の教官に指名された事を当時は悩んだものだ。

ふと思い出す。大人に混じってのミーティング中でも必死に背伸びをして自己アピールを繰り返し、強がっていた未だ幼さの抜けない少女のあの青い目を。
その激しく鋭い視線に窺えるのは熱情と決意を秘めた意志の強さ。だが、寧ろ私にはその強さこそが、その熱情こそが、正にそれこそが少女の持つ弱さ(…トラウマに起因する本質的な臆病さ…)、或いは怯えの裏返しだと感じた。

基礎訓練中、新兵達に混じり走る少女のあの姿…事情を知った私にはまるでトラウマから必死に逃げているかの様に見えた…

…にしても皮肉よね、マルドゥクが散々探して現在まで世界中に二人しか正式認定されてないチルドレン…エヴァンゲリオンパイロット候補者の三人目が碇司令の息子だったとは。
しかし自分を幼少時に他人に預け殆ど顔すら会わせなかった親に呼ばれて来ちゃう辺り…

「…あ。」

瞼の裏、父と、司令の姿が重なる。
少年と15年前の私が重なる。

「…そっか。似てるんだ…あの頃のあたしと…」

…ああ、私も司令が苦手な筈よね…父さんもあんな感じだったし…

「父さん…か…」

父が提唱した超螺旋理論…次元間エネルギー時空循環経路解析から見出だされた二つの相剋する螺旋状モデルからSS−スーパーソレノイド−と名付けられた…は、学会からは疑似無限機関の可能性を指唆する現実離れした異端理論であり荒唐無稽と酷評されていた…あの日までは。

ムルロア環礁で新型爆弾−相剋するスーパーソレノイド同士を対消滅させるN2反応爆弾−が、その発生したエネルギーを理論通り十字爆炎として…反応時間の差により指向性を持ち放出する…発生させた瞬間から、父と私を取り巻く環境は激変した。

在りふれた只の父子家庭は一転し父はしがない大学講師から新世代エネルギー研究所所長へ、私は家事から解放されると同時に家族から単なる被保護者…否、娘から只の同居人になっていた。

父の代わりに行っていた家事一切は家政婦に一任され
スケジュール管理や事務手続きの類いは秘書と司法書士に引き継がれ
論文校正の手伝いは父の部下が代わり
父と顔を合わせる事が日に一から三日置き、週一、月一となり

役割も居場所も無い家に独り、滅多に顔も合わせなくなった父の帰りを唯待つだけの生活に耐えられず、私は全寮制の学校へ転校した。
そして数年後、私は父と共に南極へ行く事になる…

父が何故学校を休学させてまであそこに私を連れて行ったのかは判らない。
そもそも部分記憶喪失症になり、失語症は克服出来たものの未だ一部の記憶…主に南極の…が無い。
…この十字架の苦い思い出以外は。


「…あたしと同じ…か…」

空を振り仰ぐ。
相変わらず太陽は燦々と輝き、そのエネルギーは降り注ぐ地表の総てを容赦無く焼き炙っている。

だが、私の心に差した影にその光は届きそうに無く

溜め息を吐き、再び私は奈落の底ならぬ地下の人工迷宮へ落ち行く極秘直通エレベーターへの入口がある立体駐車場へ重い足を向ける。

灼熱の中、この計画都市に響き渡る破砕機と重機の騒音が今の私には救いだった。


http://www.youtube.com/watch?v=WVD1WJ3mfgU&sns=em
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Re: 親父補完委員会((笑))【ゲンドウ ( No.17 )
日時: 2013/03/04 01:04
名前: tamb

 なるほどそうかもしれん、という感じが強くする。それだけに反応は難しい。

 シンジがエヴァに乗らないという選択肢が存在するとすれば、第3新東京市が使徒迎撃専用
要塞都市である以上、乗らないならそこにいるべきではない、という事実が実はある。「先生」
の元にいた方が比較の問題としては生き残る確率は高い。だからその日に使途が現れなければ
ゲンドウも帰れとは言わなかった、という解釈。まあ乗らないなら乗らないでもいいから二〜
三日ゆっくりして行けよ、忙しくてすまないと思ってる、先生にもよろしくな、近い内にそっ
ちにも行くから、という展開ですな。

 ミサトが葛城調査隊に同行していた経緯、というか葛城博士がミサトを連れて行った理由が
よくわからない。危険とは思っていなかったのだろうけれど、接触実験直前にゲンドウらが帰
国したのはなぜなのだろうか。と考えると、「何」がアダムに接触したのか、などという危険
な妄想が展開できる。

 こんなことはかつて散々考えてぶん投げたんだけど、こういう話を読むとまたぶり返してし
まう。

 いずれにせよ、父親という焦点の当て方は面白いと改めて思ったのでした。
メンテ

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