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このままこうして磁石のように
日時: 2005/03/27 00:00
名前: のの


このままこうして磁石のように - のの 04/08/10-01:53 No.215
 「このままこうして磁石のように」について。 - のの 04/08/10-01:55 No.216
 Re: このままこうして磁石のように - tamb 04/08/11-20:24 No.224
  Re^2: このままこうして磁石のように - tama 04/08/11-22:11 No.233

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タイトル : このままこうして磁石のように
記事No : 215
投稿日 : 2004/08/10(Tue) 01:53
投稿者 : のの <nono0203○po1.dti2.ne.jp>

「そこでなにやってるのっ」

 飛んできたのは罵声だった。びっくりして下を覗きこむと、見慣れた顔がハシゴからぬっと現れてぶつかった。

「痛っ!」
 ぼくらは声をそろえて言い、ぼくはあわてて彼女がハシゴからおっこちないよう手を握った。
「あ、大丈夫」
「そう?ごめんね、慌てちゃってさ」
「わたしだって、わからないものなんだ」
 よいしょ、と彼女はわざとらしく言いながらハシゴを登りきり、ぼくにならって給水塔に背中をあずけた。
「よごれてない?」
「さっき業者さんが掃除してったばっかりだよ」
「居合わせたの?」
「いや、ここに上がってくるときにすれちがっただけ」
「そういうこと」
「そういうこと。さて、ごはん食べようよ」
 ぼくは売店で買ったお茶を飲んだ。今日はなにも作ってないし、買ってもいない。彼女が作ってくる日だからだ。
「はい」

 彼女は持ってきていた小さな紙袋(地元のケーキ屋さんの袋だった)からふたつの弁当をとりだして、大きいほうを渡してくれる。2人ともバンダナの色が同じなのは二枚500円のを彼女が前に買ったからで、こういうことを意識してたわけじゃない。もともと、彼女にはそういう趣味はないみたいだった。

「今日はいい天気だけど、外で食べるのもそろそろ限界じゃない?」
「そうだね、確かに。枯れ葉もすごいしね」

 見下ろせば校庭を埋め尽くすほどの大量の落ち葉が見えた。セカンドインパクト以後に生まれたぼくたちにとっては三回目の秋になる。

「学校で受けた模試の結果、どうだった?」
 今朝のホームルームで配られたのを思いだした。休み時間には会わなかったから聞けなかったことだ。
「このあいだ予備校に行って帰ってきたのと同じ」
「そりゃそうか」
「あんまり差があっても」
「問題だよなあ。でも、それじゃあ問題なしってことなんだから、よかったね」
「そっちはどうなの?」
「そりゃ変わんないよ。だから、まあ順調ってことになるのかな」

 ひき肉とピーマンの入った卵焼きを口に放り込んだ。粗塩が固まっていて思わず吐きだしそうになったけど、我慢しながら飲み込んで、

「ワタクシを殺す気ですか」
「え?」
「卵焼き、ゲホッ、あらじぉ……ゲホッ!」
「ああ、ごめん!大丈夫!?」
「いや、まあ、ごほっ、いいんだけど……」
 あんまり大丈夫ではないのだけど。
 彼女はすこし慌てながら自分の飲んでたお茶を渡してくれたけど、断って自分のを飲んだ。ようやくひとごこちがついて、頭にチョップを見舞った。もちろん軽くだけど。

「謝ったじゃない」
「ゴメンで済んだら警察はいらないの」
「いらないでしょ?」
「まあ、まあ、そうね、そうだけど。でもなあ」
「じゃあ……」

 彼女はにっ、と笑うとぼくの手をとって、すこし眉をハの字にさせると、

「……ごめんね」

 ごていねいに足まで崩して(片手では弁当持ってるクセに)謝ってみせた。どこの遊女だあんたって感じだったけど、彼女がやるときっちりかわいいもんだから、なおさらおかしくて笑えた。この子はいつの間に人から笑いをとれるようになったんだろう、なんて思いながら。
「はー……いまのは面白かった」
「でしょ?やりながらそう思ったもん」

 近代的な建物の学校なので八階建てのうえにこのあたりは住宅街なので景色がかなりひらけている。上空の冷たそうな風と空、ここを温めてくれる太陽、それと彼女との談話が、ぼくを存分に幸せにさせてくれる。

「なんかね、いま、空飛べるじゃないかってくらいのもんだね」
「なにが?」
「気分が」
「いいってこと?」
「そりゃもう最高に」
「そう、良かったわね」

 いつかも聞いた言葉だった。あのときとはまたずいぶんちがうシチュエーションだけど。
 一時五分前になると、立ち上がった。

「そろそろ行ったほうがいいんじゃない?」
「ああ、言い忘れてた。今日午後ないんだ、先生病気で」
「うらやましい」
「だからもうちょっとここにいるよ」
「帰らないの?」
「もうすこししたらね」
「そう?じゃあわたし行くわ」
「また明日」
「うん」
 彼女は弁当箱を回収し、慎重にハシゴを下りて、最後にこっちを見上げて手を振ってくれた。ぼくも手を振り返す。

 彼女がいなくなって、この給水塔が急に広くなって快適になったような、淋しくなったような気がした。

 急いでハシゴを下りて、校舎に入って階段の踊り場にいた彼女を呼び止めた。

「どうかしたの?」

 あわてるぼくを不思議そうな顔をして見つめる。


 あ、これだ。


 やっぱりこれがなくちゃ、ぼくは最高な気分にも空も飛べやしないんだな。


 なにも言わないで彼女を抱きしめた。階段の下から誰かに見られないように抱き上げて、少し立ち位置を変えながら。

「ちょ、ちょっと――」
「ちょっとだけ、このままこうしていようよ」
「どうしたの、急に」
「なんか――いなくなった途端、最高の気分じゃなくなったから」
 彼女がちょっと体を離して、

「今は?」
「言うまでもなく」
「なら、いいわ」

 笑いながら、ぽん、とくっついてくれた。まるで磁石みたいに。
 磁石。ぴったりな表現だ。
 ときどき離れたり、ちょっとした距離を保ったりするのもいい。
 僕らは特別燃えてるわけじゃない、安定した恋をしていると思うけど。


 なんだか急に、引き寄せられてゆくときがある。


 まさに磁石だ。


 一度くっついたら、お互い離れようとしない。


「授業終わったら、電話するわ」

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タイトル : 「このままこうして磁石のように」について。
記事No : 216
投稿日 : 2004/08/10(Tue) 01:55
投稿者 : のの <nono0203○po1.dti2.ne.jp>

第四弾です。
寝る前に一杯、くらいの気持ちですけどなぜこんなにスムーズに書けるんだろう?珍しいなホント。

これもこれまでのと似たような時間で書きました。
ラストとか全然考えなかったんだけど、こんな形になるとはおもわなかったなあ(^^;

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タイトル : Re: このままこうして磁石のように
記事No : 224
投稿日 : 2004/08/11(Wed) 20:24
投稿者 : tamb

萌えです(笑)。特にここ。

> 彼女はにっ、と笑うとぼくの手をとって、すこし眉をハの字にさせると、
>「……ごめんね」

そしてここね。

>なにも言わないで彼女を抱きしめた。


 そんな所に登ると下からパンツが見えるからダメだとか、そーゆー細かい部分
はともかく(^^;)。
 ののさんの書く話は本編との乖離具合が絶妙で、そこが好きだったりするんだ
けど、ここまで行くとちょっとレイとシンジとは思えないかな。イメージ的には――
女のこのセリフをちょっと変えれば――アスカとカヲルの方が近い感じ。

 バイアスとしては、

>飛んできたのは罵声だった。

 ここは大きいかもしれない。私の中では、彼女は罵声を飛ばしたりはしないんで。
 ただ、いい感じにシンジ君がちょっと気障っぽく高校生になるとすると、共に成
長した綾波さんはこんな感じになるだろうという気はするので、悩ましいところで
はあったりするわな。

 なんにしても、何もない平和を存分に堪能する二人ってのはいいものです。

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タイトル : Re^2: このままこうして磁石のように
記事No : 233
投稿日 : 2004/08/11(Wed) 22:11
投稿者 : tama

うーん。

個人差なんで、気にしないで下さいね(^^;
私はこれはレイとシンジには見えないかも。
声を張り上げる時は「碇君!」とか「だめっ!」とかそういう短い言葉をレイは使うイメージがあります・・・。だからでだしからあれれと感じました。

タイトルの響きとか、終わり方とかすごく好きなんですが。
ええ、もう。好きですよ。好みですよ。

tambさんがアスカとカヲルといっていましたが、私はモロそのイメージかもしれません。LAKのたわごとでした(^^;

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