2(two) |
- 日時: 2005/03/27 00:00
- 名前: のの
2(two) - のの 04/08/09-01:44 No.201 「2(two)」について。 - のの 04/08/09-01:49 No.202 Re: 2(two) - tamb 04/08/09-22:25 No.210 レスありがとうございます。 - のの 04/08/10-00:47 No.214 Re: レスありがとうございます。 - tama 04/08/16-00:00 No.248
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タイトル : 2(two) 記事No : 201 投稿日 : 2004/08/09(Mon) 01:44 投稿者 : のの <nono0203○po1.dti2.ne.jp>
「段取りってもんがあると思うんだよ」
「そうね」
「それと、なにかをするときにふさわしいか、ふさわしくない場所か」
「そうね」
「これは、どうだと思う?」
「そうね……」
彼女はようやく周囲を見渡した。覚悟を決めた、という感じがちらりと見えた。 周囲はまさに飲めや騒げやのどんちゃん騒ぎというやつで、まったく困ったものだ。こまったじゃすまされないくらいだ。どうしてくれるんだ、ってやつだ。 「とにかく、もうちょっと静かなところに移動しようよ」 「ええ」
ぼくらはぎこちなく並んで歩いた。そりゃそうだ、四年ぶりの再会がこんなんじゃ、どうしたらいいのかわからなくなってしまうのは当然だろう。にしてももっとよく考えておくべきだった。セッティングはあのミサトさんなんだ。こういうマヌケな事態もあるってことを考えてなかったぼくの方が不注意だ。 (いやいや、そうじゃないだろ。こういうときぐらいちゃんとやってくれよなあ) 会社員、大学生、ご老人方。まさに老若男女、集団の種類もさまざまで、この季節はここはそういう場所になってしまうのだ。花見ってやつのメッカなんだった。 春休みの真っ最中、四年ぶりに綾波レイに会うという大事な、そりゃもう大事なシチュエーションがこんなとこになっちゃあ台無しだ。
こんな中訊くのもなんなんだけど、と前置きを置いて、「この四年、どこにいたの?」 「小樽」 「北海道の?」 「ええ、札幌で定期検診を受けながら」 「なるほどね」 「碇くんは?この近くに住んでるの?」 「だったらこんなとこで会う気になんないよ。もっと別のとこ。ここ(大阪)から近いけどね」 「ふうん」 「京都にいたんだ」 「京都?」 彼女はたいそう驚いたみたいだった。そんな顔をするほどのことだろうか? 「本当に?」 「うん、冬月さんの知りあいのとこに居候させてもらってたんだ。いまは一人暮らしだけど」 「わたしも一人暮らしよ」 「ああ、そうなんだ?自炊はちゃんとやってるほう?」 「結構」 「それがいいと思うよ。特に女の子はね。男とちがって甚だだらしなく思われる」 「そういう問題?」 「そういう問題でしょ、結局。自分と他人にどれだけ見栄張れるかってこと、けっこう大きいと思うよ」 「そう?わたしはもっと、そうじゃない生き方がいいけど」 「程度によりけり、かな。見栄張らないでいい友達とか親しい人がいたらもっといいよね」 「そうね、それはそう」 桜並木を抜けて、売店と塗り替えられたばかりなんだろう、やけに朱色が映える神社が建っていた。ナントカ大明神、というのぼりがいくつかあって、はたしてそういう宣伝はどうなんだろうとか思いながら、ようやく少し落ち着いて座れる場所をみつけた。売店脇のパラソルの下のベンチにぼくらは腰かけた。桜がよく見える位置じゃないからか、露骨に人が少ない。いいことだ。
「綾波、変わったね」 「言うと思ったわ」 「そりゃそうでしょ」 「でも、お互いさまだと思うけど」 「そうかもね」 「前はあんなに黙ってばかりだったのにね、わたしたち」 「確かに。まあ今かなり頑張って喋ってるんだけどね、正直なところ。黙っててもしかたないし」 「そうね……」 長袖の白いTシャツとスカートを履く彼女は、大げさではなく絵本から抜け出してきたような格好だった。 上下セットの服で、同じ刺繍がシャツの袖やスカートに施してある。
「溶けちゃいそうなくらい白い格好してるね」 「民族雑貨のお店でバイトしてたころに店長にもらったの。退職金代わりにガテマラの刺繍、きれいでしょ?」 「うん」 他につけ加えたい言葉が浮かんだけど、言うのはやめた。再会したばかりだ。 「いい人だね。でもやめちゃったんだ」 「先週ね」 「へえ、なんで?」 「アパートを引っ越すことになったから。学校は近くなるけど、そのお店は遠くなっちゃうの」 「なるほどね」 前より伸びた髪をかきあげた彼女はすこしのためらいを表情に出した。追及はしなかった。言う必要のあるなしは彼女自身が決めることだ。
「飲み物買ってくるけど、なにかいる?」 「ン……一緒に見るわ」 彼女も立ち上がった。前より身長差があることにようやく気がついた。売店で冷えたお茶をふたつ買ってさっきの席に戻る。けれど会話のペースはがくんと落ちて、僕ららしく喋らない時間が増えた。
腕時計に目をやった彼女が言った。 「時間ある?これから」 「あるけど」 「道案内してほしいの」 「どこの?繁華街とか、知らないよあんまり」
「いえ、そうじゃないの」 彼女は言い出しにくそうに頭を掻いた。それから照れ笑いを浮かべながら、
「引っ越し先のアパートの場所、自信がないから」 「は?」 「住所はここなんだけど」 小さなバッグから手帳を取りだし、はさまっていたメモを見せてくれた。
おいおい――
「そのあたりなら、わかるでしょ?」
わかるもなにも、ねえ。
「そりゃ、近所だからね」
「よかった」
「よかったって――」
「じゃあ、行きましょう」 彼女のほうからさっさと立ち上がってしまった。 ぼくはそれについていくので精一杯だ。
「それと、高校にも寄らなきゃ。案内してくれる?」
「……」
ここまで言うんだから当然、同じ学校なんだろう。
「あー、なんて言えばいいのかな……」
綾波の嬉しそうな顔を見ながら、色んな不安が吹っ飛んで、嬉しくなるのを自覚した。
「まあ、いいや」 「なに?」 「色々話したいこととかあるけど、今はいいやってこと」 「そう?」 「だって、時間はあるじゃないか」 「フフ、そうね」 「じゃあ、行こうか」 空き缶を捨てて、またうるさい桜並木を通っていく。
今度はぎこちなくなかった。
こうして2人で歩いてる。
なんて素晴らしい。
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タイトル : 「2(two)」について。 記事No : 202 投稿日 : 2004/08/09(Mon) 01:49 投稿者 : のの <nono0203○po1.dti2.ne.jp>
ショートFF第三弾。 所要時間は昨日と同じくらい。 ガテマラの刺繍について時らべてるぶん、もうちょっとかかったかな。
ちなみにタイトルは「スネオヘアー」のミニアルバム「東京ビバーク」より。7曲目の「2(two)」から拝借。
さらに、本文ラストが某氏の短編ラストのまんまと思った方、これはまあリスペクトの意味での引用と思っていただければ幸いです。不快な方、スミマセン(^^;
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タイトル : Re: 2(two) 記事No : 210 投稿日 : 2004/08/09(Mon) 22:25 投稿者 : tamb
このペースでこれだけのレベルの作品を投下されると、感心を通り越して腹立たしい(爆)。 本当に良く出来たいい話だけに。 喧嘩売ってんのか、それとも挑発かー!(笑)
とりあえず、なんで北海道と京都なんだよ(笑)。
>「確かに。まあ今かなり頑張って喋ってるんだけどね、正直なところ。黙っててもしかたないし」 >「そうね……」
このあたりが再開を果たしたばかりの二人の間にあるA.T.フィールド。そして
>言う必要のあるなしは彼女自身が決めることだ。
そう思ってしまう気障なシンジ君。本当は溶かしたいのにね。
>綾波の嬉しそうな顔を見ながら、色んな不安が吹っ飛んで、嬉しくなるのを自覚した。
で、ちょっとしたことで溶けてしまう、と。 そんなシンジ君にはこの言葉を捧げましょう。
「惚れたほうが負けなんだよな。」
>本文ラストが某氏の短編ラストのまんま
なんだっけ?
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タイトル : レスありがとうございます。 記事No : 214 投稿日 : 2004/08/10(Tue) 00:47 投稿者 : のの <nono0203○po1.dti2.ne.jp>
他の人からもあるかもしんないから待とうかとも思ったけど、そんな図々しい態度はいかんよなあと思ったので素早くお返事(笑)
某氏の短編ラストとは、ズバリYAS氏「ANGEL」です。 xxxsさんのサイト掲示板で嘆いたら綾波展でサルベージされた投稿作品です。あれ、ラストがまんま「なんて素晴らしい」なんですね。われながらどうなんだろうかこれは(^^;
>「惚れたほうが負けなんだよな。」 ですな(笑) まったくもう、あっさり溶かされちゃってます。 こういう経過って「綿密に書かなくては!」っていう意識がすごく強かったんだけど、今回3つ書いてそうでもないというか、そうしなくてもなんとかやれることを学びました、うむ。
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タイトル : Re: レスありがとうございます。 記事No : 248 投稿日 : 2004/08/16(Mon) 00:00 投稿者 : tama
読み返すたびに、やっぱりうまいなぁと思います。 うーむぅ。
最後の台詞もここで、これが最後に置けるというのはやっぱりセンスのよさですよね。うまい。 綾波がシンジがいないその時間を彼女は一人で立って生きてきたんだろうなと感じさせるくらいに大人で、憂いもあって・・・そのことへの影のつけ方とかシンジがそれに反応しつつ、でもいえないみたいな駆け引きがリアルで上手。 でも最後はなんていうか、本当惚れてるほうが負けでいいです。 好きな人が自分を好きで、隣にいてくれるならたいていのことはどうでもいいんですよね、きっと。 この小説、本当、なんて素晴らしいって気分にしてくれます。
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