アンチシャウト・ラヴ |
- 日時: 2005/03/27 00:00
- 名前: のの
アンチシャウト・ラヴ - のの 04/09/02-21:04 No.272 「アンチシャウト・ラヴ」について - のの 04/09/02-21:08 No.273 Re: アンチシャウト・ラヴ - tamb 04/09/03-20:53 No.281
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タイトル : アンチシャウト・ラヴ 記事No : 272 投稿日 : 2004/09/02(Thu) 21:04 投稿者 : のの <nono0203○po1.dti2.ne.jp>
浜辺に座っていた。乾いた砂の上に腰を落ち着け、煙草を吸っている。 夜と昼の間の、藍色の空の時間帯。ごくごく短く、きれいな時間。
煙草を吸っている。大人になった証拠か。いや、いきがるやつは15でも吸うさ。 特別うまいと感じてるわけではない。でも、煙が喉をくぐる重さと景色のアンバランスさを楽しむために吸っていた。
もう何年すぎたか。 片手では足りないくらいの時間だ。だから煙草を吸っても捕まらない。海水入りの空き缶に煙草を落とした。
「ちょっと、そこのお兄さん」
声をかけられた。僕は無視して次の煙草に火をつけた。 風で日が煽られたけど、それほど苦労せずに火がついて、それからようやく返事をした。
「なんですか」 「私と遊ばない」 「約束があるので」 「でも、ここは寒いわ」
確かに。十一月の海風は、身体を縮こまらせた。でもそういう寒さもまた、この景色には似合っている。 煙草を吸っている僕と、藍色の景色と、寒い風。なにを意味する。
「いいんです、好きでやってることですから」 「冷たいわ、こんな美女を放って」 「僕が待ってる人も、あなたと同じくらい美しいですよ」
ようやく振り向いて、話しかけてきた女性を見た。彼女はすこし驚いた顔を見せていた。
「ずいぶん上手になったわね」 「はは、まあね」 「誰を相手に練習してたのかしら」 「そりゃもう、あなたを」 「本当に?」 「本当に」 「ふうん……」 「なんだよ、それ」 「冗談よ」 「助かるよ」
立ち上がって、砂を払った。
「でも、本当に寒くない?」 「寒いけど、嫌いじゃないから」 「ならいいけど、でも、風邪ひくわ」 「寒いと風邪ひくっていうの、あんまりわかんないんだよね」 「あなたは風邪ひかないだろうけど、わたしはまだ病み上がりなんだから」 「そうだったね、じゃ、さっさと行こうか」 「そうしましょう」
砂浜を去って、帰り道。
「もう10年だね」 「そうね」 「早かった?」 「それはわからないわ。でも、色々なことがあった」 「そうだね」 「でも、それでようやく他の人と同じラインに立ったって言うだけ。特別じゃないわ」 「特別でいいんじゃない?」 「でも」 「だって、同じラインに立てて、幸せだと思うんでしょ?」 「ええ、それはもちろん」 「だったらそれは、すごく特別なものと思っていいんじゃない。なにも気負うことなんてないよ」 「そうかもしれない」 「10年たって、大人になって、それでもまだこの先はある――って、こんなマジメな話しても疲れるだけかな、せっかくみんなが来るって言うのに」 「だからそういう気持ちになるのは、すごくわかるわ。だって、10年前の今日、すべてが終わって、はじまったんだもの」 「うん、そうだね」 「それで、なにが言いたかったの?」 「え?んー……改めて言うと恥ずかしいし、今さらなんだけど」
と言って、立ち止まった。歩きながら言いたいセリフじゃない。
「これからも、僕と一緒に生きていくってことでいいの?」
「それが一番幸せだって、思ってるわ。あなたが私と生きていくことが一番幸せだと、願ってる」
「うん……じゃあ、これからも、よろしく」
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タイトル : 「アンチシャウト・ラヴ」について 記事No : 273 投稿日 : 2004/09/02(Thu) 21:08 投稿者 : のの <nono0203○po1.dti2.ne.jp>
浜辺で煙草を吸うシンジ君が思い浮かんだので書いてみました。 本チャンがビッグウェーブに行き詰まってるので逃げです(またか)。
あと、Symeiさんという方の短編を読んでつくづくうまいなあと思ったので、あのへんのバランスに憧れてるというか目標の一つである僕としては、こういうい軽めの中に確かなものがあるというFFは非常に書きたいのです。成功しているかどうかはわかりませんが。
ちなみにタイトルはオリジナル。 「愛を求めて」というのも考えたけど、いやむしろそういうのじゃない静かな愛の形を書きたかったので、こういうタイトルにしてみました。自分でも言うのもナンだけど、僕らしくない。
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タイトル : Re: アンチシャウト・ラヴ 記事No : 281 投稿日 : 2004/09/03(Fri) 20:53 投稿者 : tamb
これで隣にビッグシングルかツインのバイクでもあったら、もろに初期〜中期の 片岡義男ではないだろうかと思ったのは私だけではないと思うのだが。いや、好 きなんですけどね。嫌いだったら最大の侮辱だろうと思うけど。まぁいいや。
ざーっと読んでて、
>「ずいぶん上手になったわね」
これを彼のセリフだと思った。単に「わ」を飛ばしただけなんだけど。だって、 「私と遊ばない」なんて、ずいぶん上手になったと思わないかい?
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