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I'm so grad
日時: 2005/03/27 00:00
名前: のの

【タイトル】I'm so grad
【記事番号】-2147483494 (2147483647)
【 日時 】05/03/27 22:02
【 発言者 】のの

I'm so grad - のの 05/02/14-00:08 No.700
 I'm so gradについて。 - のの 05/02/14-02:52 No.704
 Re: I'm so grad - なお。 05/02/15-02:00 No.715
 I FEEL FREE - tamb 05/02/15-13:24 No.726
  今回は。 - のの 05/02/18-19:59 No.736

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タイトル : I'm so grad
記事No : 700
投稿日 : 2005/02/14(Mon) 00:08
投稿者 : のの

 あふれる。

 あふれる。


 いたい。

 いたい。


I'm so grad


 放課後。掃除の時間。

 月に一度の校内清掃の日なので、クラス全員が駆り出される。

 わたしは教室でぞうきんがけ。主にロッカーの上や、窓を拭く。

 ロッカーを拭き終えて、いちどぞうきんをゆすぐ。ざぶ、ざぶ。桃が流れてくるようなことはない、小さめのバケツで。

 きちんとしぼる。拭くときに水滴が残るようなのはあまり好きではない。きれいにしている感じがないから。力があまりないから、ぎゅっとしぼって、水滴が落ちるのを待つ。

 碇君が私を見ている。わたしの赤い眼が周辺視界でそれを捉えてる。なぜ見られているのかはわからない。

「メ〜〜〜〜ン!!」

 碇君の隣にいた鈴原君が、ほうきで碇君の頭をたたいた。わたしは掃除をつづける。背は向けないように。

「マジメにやらんかい!!」

「ご、ごめん……」

 碇君は謝っていた。鈴原君は怒れるほどまじめに掃除をしていたとは思えないけれど、特に私が口を挟むべきことではないので黙っている。

 掃除は予定より早く終わった。ネルフに行くのも早くなる。私を含むパイロット三人は、特に別々に行く理由もないので揃ってネルフに行く。

 シンクロテストが早まるようなことはなかった。私達の都合で変わるわけはないので、それはかまわない。

 ただ、待機中も碇君が私を見ては視線を外して、を繰り返している。私にはその行動の意味はわからない。

 シンクロテストが終わって、帰りのエレベーターの中で碇君と一緒になった。弐号機パイロットはひと足早く降りている。

「…………明日、父さんに会わなきゃならないんだ。何を、話せばいいと思う?」

「……どうして私にそんなこと聞くの?」

 私と碇司令が話すことと言えば、仕事と私の体調の具合を聞くことぐらいなので、どうして私に聞くのかがわからなかった。

「いつか……綾波と父さんが、楽しそうに話しているのを見たから…………ねえ、父さんて、どんな人?」

「わからない」

 この答えは、たぶん碇君の望んでいる答えではないと思うけれど、私にはこうとしか答えられなかった。

「そう……」

 碇君は残念そうな声だった。私はエレベーターのドアの前に立っていて、彼は隅にいるから、私からは表情は見えないけれど、たぶん、出した声にふさわしい表情をしている。

「それが聞きたくて、昼間から私の方を見てたの?」

「うん」

 この答えは、私の望んでいた答えなのか、少し考えてしまった。そんなことを考えた自分に、少し戸惑う。

「あ、そうだ、今日、掃除の時間にさ、ぞうきん、しぼってたろ?」

 私はぞうきん係だったから、当たり前のこと。それがどうかしたの?

「なんか「おかあさん」って感じがした……」

「おかあさん……?」

 耳慣れない単語。

「うん、こうやって……」

 碇君が私の真似をする。私は少し首を向けて、その手つきを見る。

「なんか、おかあさんのしぼり方って感じだったな……」

 おかあさん。

 私が?碇君には、そう見えたの?

 私がお母さん?碇君の中で、そんな自分が想像されてる。


 顔が熱くなった。心臓が高鳴る。

 手には汗をかきはじめているし、視線をどこに定めたらいいのかわからない――別に碇君と向かい合っているわけでもないのに――


「案外、綾波って主婦とかが似合ってたりして……ふふっ」

 碇君の中では、私は、どんな人間なんだろう。

 顔はますます熱くなった。

「なにを言うのよ……」

 これだけ言うのが精一杯。それも、振り向いて言うことはできなかった。


 家に帰ってもまだ、碇君のことばが離れなかった。


 はじめて知った。

 そんなこと、今までは考えてこなかった。ありえないから。

 他人の中の私がいること。

 他人の中に、私が存在し得ることを。

 碇司令だって、私を通して他の誰かを見ていた。私を最も知る人でさえ。

 私をあまり知らない碇君が、私のことを考える。そういうことが起こり得る。

 碇君が、私のいないときに私のことを考えることがあり得る。

 またシャワーを浴びて、ベッドに倒れた。食欲はあまりない。

「碇君」

「碇君」

 名前を呼ぶ。それだけでなにかがあふれそうになる。頭から、胸から、つまさきから。

 けれど、それはけっして、嫌なカンジはしなかった。





 黒い影に初号機が、碇君が飲み込まれた。

 落ち着かせていた心拍数が跳ね上がったのを自覚した。救出命令が出て、平静を取り戻してライフルを構え直す。

 目標は大きい。目をつぶっても当てられるほどだけど、確かに碇君が撃った時、使徒は消えた。

 それでも何もしないわけにはいかない。二発、発射。目標はまた消える。

 比較的遠くにいる私は目標が広げる影に飲み込まれる心配はない。ただ、兵装ビルがずるずると下がってゆくのは碇君の消え方を思い出させる。不快。

「アスカ、レイ、後退するわ」

「――まって!」

 葛城三佐の命令は、一度は落ち着いた脈拍をおかしくさせるには十分だった。

 このまま、碇君がいなくなったまま後退することは考えられない。考えたくない。

「まだ、まだ、初号機と碇君が……!」

 いない。碇君がいないまま下がれない。

 胸が痛い。

「命令よ、下がりなさい……!」





 使徒は殲滅できた。

 私はなにもしていない。ネルフの誰もが、初号機の暴走を見ているしかことしかできなかった。

 鮮血を噴き出し、街を汚す使徒。影と言われていた球体から産声のような雄叫びを上げて出てきた初号機。

 碇君を「守る」ために動き出した。そう思った。

 そして今、私は碇君の眠る病室にいる。

 看病じゃない。それは医師の仕事で、私ができることは何もないはず。でも、ここにいる。

 どうして?


 いたいから。


 心が痛いから。


 ここにいたいから。

 起きたって、何を話せばいいのかわからない。話したいことがあるわけでもない。


 無事だと知って、そばにいたくなった。


 たったそれだけのこと。


 そして、とてもとても、大切にしたいこと。

「碇君」

 ほとんど読み進まない本から目を離して、呼んでみた。反応はないけれど、それだけで満たされた。

 この部屋には、私と、碇君しかいない。

「碇君」

 そっと、碇君の頬にふれてみた。

 暖かい。

「碇君」

 頬を撫でる。

 そのとき、私は、ひょっとしたら笑っていたかもしれない。


To Be Continued By "Wind Machine"


【タイトル】Re: I'm so grad
【記事番号】-2147483493 (-2147483494)
【 日時 】05/03/27 22:02
【 発言者 】tamb

タイトル : I'm so gradについて。
記事No : 704
投稿日 : 2005/02/14(Mon) 02:52
投稿者 : のの

はい、二日連続更新。
脳汁出てます、はい。

見てない人は知らないだろうけど、リアルタイム更新ということで12時から書いて、随時加筆アップをしてました。

チャットしながら、大体3時間で完成。

siren&silentのテレビ版てカンジです。
だからシメも同じ。


【タイトル】Re: I'm so grad
【記事番号】-2147483492 (-2147483494)
【 日時 】05/03/27 22:02
【 発言者 】tamb

タイトル : Re: I'm so grad
記事No : 715
投稿日 : 2005/02/15(Tue) 02:00
投稿者 : なお。

チャットで簡単な感想は伝えたんであまり書く事はないんだけど
ののさんなりの綾波レイの心理の解釈って感じがよくわかります
原作を掘り下げたって感じで、読んでて、ああ、そうかもしれないって思う。

自分で気がつかなかった所というか、こういう解釈もあるんだなって事で、またエヴァンゲリオンという作品が好きになりそうです


【タイトル】Re: I'm so grad
【記事番号】-2147483491 (-2147483494)
【 日時 】05/03/27 22:02
【 発言者 】tamb

タイトル : I FEEL FREE
記事No : 726
投稿日 : 2005/02/15(Tue) 13:24
投稿者 : tamb

私のいないときに私のことを考えることがあり得る。
それは可能性に過ぎない。

もう一度、彼の頬に触れた。
暖かい。
彼はここで、私の隣で生きている。

他人の中の私がいること。
他人の中に、私が存在し得ること。
それは可能性に過ぎない。

でも私の中に、彼がいる。彼のことを考えるだけで満たされ、想いがあふれる。

私の心を縛るものなど何もないと気づいた。私は自由だった。


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 どうしても「碇『君』」は使えません(^^;)。

 再結成クリーム、どうなったかね?


【タイトル】Re: I'm so grad
【記事番号】-2147483490 (-2147483494)
【 日時 】05/03/27 22:03
【 発言者 】tamb

タイトル : 今回は。
記事No : 736
投稿日 : 2005/02/18(Fri) 19:59
投稿者 : のの

おおう、アリガットさんです。
レス遅れてすいません。

今回は「わたし」「碇くん」という自分の中の基本規則をあえてとっぱらいました。
変換ミスで「わたし」にしちゃってるところがあるけど。
INNOCENT RED EYESにあるHALさんの短編がすごい好きなんだけど、あのヒトは
フツーに「碇君」と書いてて、「なんだよ面白さのスパイスとかそういうことじゃないじゃん、面白いのは呼び方なんてひっかからんのか」
と思ったのがきっかけです。
個人的にはそっちより「私」に抵抗を感じました(笑)
「くん」だとやわらかいけど、そのぶん綾波さんらしい堅さが失せるなというのが使ってみての印象。

>他人の中の私がいること。
>他人の中に、私が存在し得ること。
コレ、今回一番悩みました。
なお。さんとチャットしながら書いてたんですが、なんでエレベーターのやりとりに恥じらいがあるのかがピンとこなかったんです。
ほいで、「〜〜じゃないか?」とか「〜〜かも」というやりとりのうちに、
「他人の中の自分」の認識って恋愛(まあそういう感情)においてすげえ気にするし
「こう思われてんのかな、ああかな」というのはなかなかネタとしてよろしいんじゃないかと思って使ってみました。

むふふ、しかしこういうレスは面白い。tambさんのとった形式は。
ヒトがかわると視点もかわり、そこがたまらなく面白いのです。感動だッ。

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