Re: Just the Way You Are:02 ( No.1 )
日時: 2010/02/21 22:41
名前: tamb

「綾波……」

 小さな声でそう言ったシンジの目は霞んでいた。それは、あるいは欲望によるものなのかも
しれない。
 それでも構わない、とレイは思う。彼女自身にしても、シンジの側に居たいという思いがあ
った。隣に居れば手に触れたくなる。頬を寄せたくなる。一緒に眠りたいと思う。それも欲望
には変わりがない。

 金曜日の午後。学校帰りに夕食の買い物をした。今は一緒に住んでいるミサトの部屋に戻り、
レイが二人分の紅茶を入れてシンジの部屋に運んだ時のことだった。
 アスカはヒカリの部屋に泊まりに行った。ミサトが仕事から戻るのは夜遅くになる。

「綾波……好きだ……」

 シンジはそう言い、レイの肩に触れた。
 初めてのキスをしてから、もう一ヶ月も経つだろうか。もっと早くこうなっても不思議では
なかったような気もした。
 シンジがレイの肩を引き寄せ、二人の口唇が触れ合う。いつもより熱い、とレイは思う。
 彼の手がレイの背中を滑り降り、前に回った。そしてゆっくりと昇り始める。

「まって……」

 レイは小さな声でそう言い、彼の手を押さえた。

 いつかはこうなると思っていたし、それなりの期待もあった。だが実際にそうなると、少し
怖いのも事実だった。
 そして、女の子はいつも言い訳を欲している。

 まってとお願いした。
 抵抗もした。
 でもやめてくれなかった。
 だからしかたがなかった。

 レイも女の子だった。

「ね、まって……」

 シンジはそう言うレイの口唇を自らの口唇で塞ぐ。
 こうして彼女は言い訳を手に入れた。

 口唇を触れ合わせたまま、シンジの手は控えめに制服を押し上げている胸の膨らみを包み込
み始める。
 レイは身体を小さく震わせ、湿った吐息を漏らす。
 そして、シンジの手が彼女の胸をすっぽりと包み込んだ。

「あ……」

 レイの身体を電流が疾り、もう一度その身体が震えた。

 電流。

 早くも白くなりかけた彼女の脳裏に、ひとつの公式が浮かんだ。

 V=IR

 電圧は電流と抵抗の積に比例する。
 オームの法則である。

 電圧Vが一定であるならば、抵抗Rが小さくなれば電流Iも増加する。この場合の抵抗Rとは、
レイのあるがなしかの抵抗であろう。レイが抵抗をやめるにつれて電圧が下がるとは考えにく
いから、電流Iが増加するのは間違いないと思える。
 レイの抵抗Rがゼロになれば電流Iは無限大になるはずだが、現実にはそうはならない。
 一般の乾電池の場合でも、ショートさせても電流が無限大に流れるわけではない。当然であ
る。それは電池に内部抵抗というものがあるからだ。
 レイとシンジの場合、内部抵抗に相当するのはシンジのためらいであろうか。
 重要なことは、電圧Vは事実上抵抗Rの両端に発生するということだ。つまり、シンジの内部
抵抗がシンジ自身にも電流を流すことになるのだ。
 そして、レイの抵抗Rが完全にゼロになってしまえば、すなわちレイが完全に無意識無反応
であれば、電圧も発生せずレイに電流が流れることもないのだ。女の子にその気が全くなけれ
ば電流など流れるものではない。抵抗無限大、つまり断線してるのと同じだ。
 ついでに言うと、一般に抵抗器は電流を通すと熱を発生する。レイの、そしてシンジの身体
が熱くなっていることはその証明であろう。

 ここでレイは、更に重要なことに気づいた。
 抵抗R。
 このRとはレイのRではないか。
 そして電流I。
 これは碇のIだ。そしてIは愛にも通じるではないか。
 碇シンジの起電力がレイRの両端に電圧Vを発生せしめ、電流Iを流すのだ。そして電流の単
位アンペアはAだ。これは綾波のAに間違いない。更に言うと、電圧はEであらわされる事も多
いが、これはエヴァのEであることも明白である。
 もうひとつ言えば、電力PはパトスのPだ。P=IV即ちP=IIRであり、パトスは碇シンジ(I)と
綾波レイ(R)と愛(I)によって発生するのだ。
 もはや完全に意味不明であるが、オームの法則とは自分たちのためにある法則だったのだ。
 要するにレイが抵抗を弱め、シンジがためらいを無くせば、より多くの電流が流れることに
なるのだ。シンジの愛が、そしてシンジ自身がレイの身体を流れるのだ。これは確実なことだ。
 だがより重要なことは、シンジの起電力を高めることである。充分な起電力がなければレイ
の両端に必要な電圧を発生させることはできず、従って期待されるだけの電流も流れない。抵
抗値を下げても電流は一定で結果電圧が下がりましたでは意味がないのだ。電力が必要なのだ。
 だからレイはこう言った。

「碇くん……好きよ……」

 レイの思惑通り、このひとことでシンジの起電力は爆発的なまでに高まったのであった。


 この後、数ヶ月を経ずして、レイはシンジによって想像を絶する超高電圧にさらされ大電流
を流し込まれ、要するにつまりそのめちゃめちゃになることになるのであったのだった。