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目の前の同じ明日
日時: 2009/05/31 00:00
名前: のの

【タイトル】目の前の同じ明日
【記事番号】-2147483249 (2147483647)
【 日時 】05/05/14 02:51
【 発言者 】のの

 目の前に広がる同じ明日。

 やってられねえ。


 目の前の同じ明日


「どうしてここにいるの」
 僕が訊いたのか、君が聞いたのかすら今や定かではない言葉。たぶん、僕だったような。

「死にたくないんだ、つらいことばかりなんだ、それでもまだ、って思うんだ」
 そう、答えたのもまた僕だったような。自問自答の記憶もないのに。


「まだ、どうしたいの?」
 これは確かに彼女の言葉だった。出会ったころと同じく、感情の見えない、棒読みみたいな言い方。とても容赦のない言い方で。

「まだ生きたいんだ、誤魔化すのに嫌気がさしてるんだ、それでもまた繰り返すんだろうってわかってんのに」
 僕は息切れしはじめていた。喉の奥から鉄の味がする。鼻が痛いかもしれない。水が入ってしまったかのようだ。誰も助けてくれないのはわかってるから我慢した。

「僕は、どうなったの?どうなってしまうの?」
 考えてなかったけれど、ココは深海より暗く、それでいて見上げればきらめく星々が望めた。
 僕らは互いの姿も見えないどころか、自分がどんな姿勢なのかもわからず、独りぼっちだった。なのに向かい合っているかのような距離感で話をする。
 とても不自然だけど、呼吸のように当たり前だった。

「生きているわ」
 綾波レイは、すこしの間をおいた。なにから話そうか考えていた、そんな間だ。
 その一言は、さっきより少しだけ力強かったので、僕を勇気づけてくれた。どうやら死んではいないらしいので。

「ただ、すべてがひとつになっているだけ」
 見て。
 彼女が付け加えると、一気に暗闇が消え去った。
 僕はどうやら寝そべっていた。ただ、どこにかはわからない。オレンジ色の水の中に浮いている、とも言えた。
 地面というか、重力の存在はないように思える世界の中で、僕は目を開けていた。目の前に彼女がいる。彼女が僕に跨がっているけれど、卑猥な感覚はまったくなく、接触面は水面の油のようにゆるゆると接着されていた。
 彼女の手首まで、僕の両胸に溶け込んでいる。異物感はなく、この時彼女は僕の一部で、僕は確かに彼女の一部になっていた。
 僕らは一つだった。

「ここは、LCLの海。どこからが他人で、どこまでが自分なのか……誰にもわからない、あいまいな世界」
「すべてが、ひとつに?」
「……そう…………これが、あなたの望んだ世界、そのままなのよ」


 誰か僕に優しくしてよ。

 僕にかまってよ。

 僕を見つけて。

 忘れないで。

 殺さないで。


「でも、これは…………ちがう。ちがう、と思う」
「あなたが望めば、再びA・Tフィールドが人々を隔てて……また、他人の恐怖が始まるのよ」
 この言葉は、それでもいいの?という問いのように思えた。
「……いいんだ」
 実際には、わからなかった。このままの方が魅力的なのかもしれないと、もちろん思う。
 でも、僕は。僕でしかないから。
「ありがとう」
 僕の胸に埋まっている彼女の腕を抜いて、その手を握った。
 溶け合うんじゃなくて、交わし合う。
 握り返してくれた力は、なによりも頼もしい。


「碇くん」
 彼女の声が、少し遠くなっていた。

「本当に、いいの?」
「……うん」


「綾波」
 僕の声は、彼女に届いているだろうか。

「僕は、今でも、愛されたくてしょうがないんだよ」
「……」

「そのために、少しでもこの僕の、この姿を愛してみようって思うんだ。そうすれば、誰か、想ってくれるかな」
「……わたしが、想ってるわ」

「……ありがとう」
 これは、どっちの言葉だっただろうか。きっと、お互いの言葉だっただろう。


 僕にはいつだって、目の前には同じ明日が見えていた。

 今度からは、君がいますように。

 その変わらない明日に、君がいますように。


【タイトル】「目の前の同じ明日」について。
【記事番号】-2147483248 (-2147483249)
【 日時 】05/05/14 02:54
【 発言者 】のの

ちょっと色々箸休めということでショートショート。

さくさくっとEOEを書いてみたけど、僕の言葉じゃなくて借りた言葉があります。
THE 7TH VOYAGE OF TRICERATOPSに収録の「ACE」。
今日ライブを見てきたのだけど、ある意味シンジにふさわしいように思えたので。


【タイトル】Re: 目の前の同じ明日
【記事番号】-2147483246 (-2147483249)
【 日時 】05/05/15 04:27
【 発言者 】aba-m.a-kkv

明日へと繋がる時の止まった世界。
時を動かす少年と、それを支える少女と。
「…わたしが、想ってるわ」
その言葉に心動かされて。
「ありがとう」
どちらがというわけじゃない、互いが交わすその言葉に希望を感じて。
「君がいますように」
その言葉に、同じ明日が来るそこに、彼女がいることを願っていて。
さすがののさん、素晴らしいショートショート。
空が明るくなり始めた窓の先に、このSSを重ねて読んで、いい気分に浸りました。


【タイトル】Re: 目の前の同じ明日
【記事番号】-2147483245 (-2147483249)
【 日時 】05/05/19 21:24
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>

 もう本人には言ったんだけど(^^;)、やっぱり掲示板投下のサイズで語るにはテーマが
重いし深すぎると思う。やっぱり書ききれないよね。

 この話のポイントはやっぱり「目の前に広がる同じ明日」が「やってられねえ」で、
「今度からは、君がいますように」と願って、実際にいたとしてもやっぱり「その変わら
ない明日」であるということ。そして、それなら変らない明日であってもたぶん「やって
られねえ」じゃない。キーになるのは

>「……わたしが、想ってるわ」

 なんだろうと。この言葉で時が動き始めたなら、それは変らない明日ではない。

 書きたいことがそのまま素で出てるような感じで、ちょっともったいない。

 つーことで長編に期待だ。

mailto:tamb○cube-web.net


【タイトル】Re: 目の前の同じ明日
【記事番号】-2147483243 (-2147483249)
【 日時 】05/05/20 17:52
【 発言者 】のの

レスアリガットさんです。
今日は教授が風でゼミがなくなり、予期せぬ半休となった。

>aba-m.a-kkvさん
まずはレスありがとうございます。
相当かっ飛ばし気味のショートショートですが、雰囲気だけはなんとなく、
悪くないかなと。
お褒めの言葉ありがとう。ところで相変わらず打つたびに由来の気になるHNですわな。

>tambさん
チャットではどーも(^^;
おっしゃる通りでございます、重すぎる。
50cc用のボディで時速200km出せるエンジン積んだ感じです。

まとめきれてない点に「誰がいても明日が変わらないということ」と、
「それでもあなたがいますように」と想うということ。
この二つをどうにかしたいのだが、それを語るにはちょっと言葉が少なすぎるし、
語り尽くすにはこういう仕様で試みてもムダっつう話なんでしょう。

さて、半休を活かして本筋の長編に取りかかります。


【タイトル】Re: 目の前の同じ明日
【記事番号】-2147483187 (-2147483249)
【 日時 】05/06/19 15:31
【 発言者 】tama

EOEはラストのアスカとシンジにはあまり腑に落ちないところがあったんですが、やっぱりこの辺のくだりはよかったと思います。唯一映画のなかでシンジが頼もしく見えたよ、この世界を違うと選択したとき。

本編については長編にも期待しますが、私的には
>「…わたしが、想ってるわ」
でこの短編は成り立っているのでよかったと思います(^^)

>その変わらない明日に、君がいますように。

きっとそうだから大丈夫!


【タイトル】Re: 目の前の同じ明日
【記事番号】-2147483167 (-2147483249)
【 日時 】05/06/21 20:07
【 発言者 】のの

tamaさんおひさでーす&感想アリガット!

なぜかとにかくこのEOEの場面が書きたくなったので尻切れトンボの感は否めませんが(^^;
気に入っていただけて嬉しいです。

やっぱ世界も自分も早々変わんないけど、でも隣には自分にとって大切な人がいてくれるってのは、幸せなことだと思うのです。

本編の方もお楽しみにと言っておこう(爆)

メンテ

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