11%MISTAKES |
- 日時: 2009/05/31 00:00
- 名前: のの
- 【タイトル】11%MISTAKES
【記事番号】-2147482272 (2147483647) 【 日時 】06/01/25 23:02 【 発言者 】のの
僕は、自分の手が冷えていることをようやく自覚した。一緒にベッドに座っていた恋人の背中に手をまわしたときにそれに気づいて、すこし体を離して訊ねた。「寒い?」 伏し目がちに彼女が頷く。ぼくは手の届くところにあったリモコンを取り、うしろを振り向いてエアコンをいれた。もうそういう季節になっていた。彼女に向きなおって額に口づけをする。唇以外にキスをされるとき、彼女はきまってすこしこわがるように目をつぶる。そういうしぐさがぼくを刺激するのだけど、今日のところは我慢しなきゃならない。わが家はその構造上、家族がだれか他にいるときにベッドで絡みあうなんてことをしたら、軋む音、漏れる声がかすかながらに聞こえてしまうからだ。だからかなしいかな、第二ラウンドに突入とはいかない。すこしよれた僕のTシャツに着替えた彼女をあらためて抱きしめて、ゆっくりベッドに倒れこむ。彼女はこういうときにあまりしゃべらない。そのかわり、甘い言葉を囁けば頷いたり、もっと近くに寄り添ったり、あるいは囁くように「あたしも」と言ってくれる。その瞬間が僕はたまらなく大好きだった。 しばらく抱き合い、頭を撫でているうちに彼女は眠ってしまっていた。トラブルがあったバイトが忙しく、ずいぶん疲れがたまっているらしい。しばらく寝かせてあげようと思い、僕は彼女を起こさないようにゆっくりベッドから出た。それでもこういうときは大抵相手を起こしてしまうもので、彼女はゆっくり目を開けた。まるではじめから眠っていなかったかのように。あいかわらずしゃべらないけれど、そのぶん目がものを言う。「どこにいくの?」 「なにか飲み物をとってくるよ」 と言い、返事を待たずに部屋を出た。もちろんちゃんと服を着ている。 居間では母が昼寝していた。やれやれどいつもこいつも、とあきれつつおかしくなる。お湯を沸かしている間、飼っているペンペンが視界に入った。もうそろそろ昔のような旺盛な行動力がなくなってきていて、そののったりとした動作がすこし悲しい。仕方ないとはいえ、時間の流れを感じさせる象徴でもあり、家族であり、あの人の忘れ形見みたいな存在だ。 お茶をいれて部屋に戻ると、同じ体勢で目をうっすらあけた彼女が顎を上げて僕を見た。 「眠そう」 ゆっくり起きあがった彼女は、僕の言葉に頷きながら髪を手櫛でなおすしぐさを見せた。床に湯飲みをのせたお盆をおいて、そのひとつを差しだすと、彼女は両手でそれを受け取って言った。「ありがとう」 「どういたしまして」 僕は自分の湯飲みを持つと、壁に寄りかかった。ベッドは壁にぴったりつけてある。僕に倣って後ろにさがった彼女のために枕をクッションがわりにたてかけると、彼女はまた「ありがとう」と言って壁にもたれかかった。僕とちがって彼女は下着しか履いていないので足が寒そうだった。かけ布団を二人で共有し、しばらく黙ってお茶を飲む。僕の頭の片隅では、たぶん寒そうにしてるだろうペンペンの絵が浮かんでいる。けれど、この愛らしい子と一緒にいることより重要にはどうしても思えず、その映像を無視することに決めた。 空になった湯飲みを彼女から受けとってお盆に置く。ひと息つくと、彼女が僕の肩に頬を寄せた。 「あったかい」 彼女は両手を僕の腕にからませていた。その手は温かかった。僕の手もようやく冷たくなくなっていたので、安心して彼女の肩を抱くことができた。 「眠くなってきちゃった」 時計をみると、二時をまわったばかりだった。 「まだ時間あるから」 と、僕は彼女と壁にはさまれていた枕を引っぱりだし、あるべき位置に戻すと、彼女に勧めた。黙って寝そべった彼女を抱きしめ、鎖骨の下にキスをした。 「だから、寝るのはもうすこしあとにしよう」 返事を待たずに下唇を軽く噛む。彼女は熱い息と両腕を僕の首にまわすことで応えた。みるみるうちに体温が上昇していくのを自覚する。同時に毛並みの老化が進むペンペンの映像がちらつく。うるさいな、もう。 「愛してる」 強い言葉で頭の映像を打ち消すことを試みた。彼女が潤んだ瞳で「うれしい」と言った。温かみのある言葉だった。彼女にプレゼントした小指の指輪と、薬指にキスをする。もちろん両方左手の。 他のことはもう頭からなくなって、温かい肌と唇、彼女の匂いで満たされていった。
【タイトル】 11%MISTAKESについて。 【記事番号】-2147482271 (-2147482272) 【 日時 】06/01/25 23:00 【 発言者 】のの
イレブンパーセントミステイクス、と読みます。 11%くらいのミスなのか、11%くらいしか成功してないのか。 実はエヴァ仕様に手を加える前はペンペンが飼いウサギという設定でした。 痩せ衰えてしまってベランダで寒そうにしてる姿がちらつくけど、彼女のぬくもりで消しちゃう、という。
まあちょっとアダルトな話が書きたかった時期なのですね。
【タイトル】Re: 11%MISTAKES 【記事番号】-2147482270 (-2147482272) 【 日時 】06/01/25 23:43 【 発言者 】なお。
久しぶり、復活予告をしたばかりの、ののさんの投下! お疲れ〜。
えっちいですねえ、アダルトな雰囲気はムンムンですね。おこちゃまな僕は顔を真っ赤にして読んでましたw
> 痩せ衰えてしまってベランダで寒そうにしてる姿がちらつくけど、彼女のぬくもりで消しちゃう、という。
ここがリアルチック。愛情は持ってるだろうけど、邪魔なものは邪魔だもんなw
さすが上手いですね。自分の書いてるやつ、書き直し決定。
【タイトル】Re: 11%MISTAKES 【記事番号】-2147482266 (-2147482272) 【 日時 】06/01/27 18:59 【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>
第一ラウンドが帰ってきたところで母親が帰ってきたんですかね。彼女も服を着たほうがいいだろうな、やっぱり(笑)。念のためにね。 ぶっちゃけた話が、たぶんエヴァにしなかった物の方が良かったんだろうな、という感じ。ペンペンが寒そうとか、母が昼寝とか、そういうところが気になる。
商業的に流通させようとする作品一般、つまり小説でも映画でも漫画でもそうなんだけど、いかに届けるかというのは大きな問題として常にある。小説はビジュアルとして見せられないから、TVCMも打てないしポスターもなかなか作りにくい。新聞の書評欄くらいがせいぜいだけど、TVとかだと勝手に目に入るのに対し、能動的に読まないと伝わらない。 とある評論家が、伝えるのは実は比較的簡単で性と暴力を使えばいいんだ、みたいな、実に全く身も蓋もないことを書いてたことを思い出した。春樹も龍もその辺は計算してるって書いてたような気もする。
この話は、あんまり村上春樹っぽいとは思わなかったな。「やれやれ」って入れなきゃ(爆)。
mailto:tamb○cube-web.net
【タイトル】Re: 11%MISTAKES 【記事番号】-2147482203 (-2147482272) 【 日時 】06/02/26 04:39 【 発言者 】tama
うん、EVAじゃなくしても読めます。 ののさんタッチは本当私には読みやすい。
母はいないけど、どちらかというと男の子の性格がカヲルのほうがしっくりきたかも。
|
|