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FROM DUSK TILL DAWN―REBIRTH―
日時: 2009/05/31 00:00
名前: のの

【タイトル】FROM DUSK TILL DAWN―REBIRTH―
【記事番号】-2147482114 (2147483647)
【 日時 】06/03/28 21:41
【 発言者 】のの

 あなたの憶えていない、あなたとの話。

 あなたが忘れてしまう、朝焼けの話。

 夕焼けのなかで交わした言葉と、

 夕焼けのなかで願った、未来の少ないわたしの空想。夢。

 それ自体が夢のように絵画的な、忘れられないワンシーン。


FROM DUSK TILL DAWN――REBIRTH――
                              Written By NONO


 家にいる理由も外にいる理由もないけれど、外に出れば、ネルフに向かえば彼に会えるかもしれないと思ったので外に出た。
 一度シャワーを浴びたあとなので、新しいブラウスを着て出た。
 髪をとかさないとくしゃくしゃになってしまうので、ていねいに、ていねいに髪をとかしてから、外に出ることにした。


 鍵をかけずに部屋を出る。いくつも同じアパート。住んでいるのがわたししかいないことを、わたしは知っている。
 けれど、わたしはそれでかまわない。誰が住んでいなくても、あの部屋はわたしが育った場所によく似た匂いをしているから。

 蝉の鳴くこえが聞こえる。六時近くになっても日が陰らない。五分歩いただけでも体が熱かった。あまり汗をかく体質ではないので、熱い。


 いつもとはちがう道からネルフへ行くことにした。


 通りを右に曲がった方が近い。


 でも、左に曲がれば彼の家に近いので、ネルフの帰り際ででも、会えるかもしれない。


 最近はもう、どうしてそう思うのかは考えなくなっていた。前は、不思議で仕方なかったのに。

 碇司令の子どもだからとか、初号機のパイロットだからとか、いろいろ理由を考えたけれど、どれも当てはまらない。

 なのに、考えているといつの間にか胸が高鳴る。その鼓動とわたし自身の呼吸は誰にも似ていなくて、そしてそれは、彼を想っているからだと考えたときから、理由はどうでもよくなった。

「綾波」
 左に曲がってすぐ、後ろから声をかけられた。彼だった。急がずに振り返る。

 彼は、わたしが普段ネルフへ行く道からやってきたらしかった。いつも通りに歩けば会えてたの……?

「碇くん」

 碇くんは小走りで近寄ってきた。すこしだけ息を切らしている。

「どうしてここにいるの?」

 会えたから、やっぱりわたしの心臓はおかしくなりはじめていて、そのせいか、いてほしくないような言いかたをしてしまう。
 話しかたを考えるようになったのも、碇くんと話すようになって「ありがとう」を言うようになってから。

「え?あ、その、なんとなく、さ……天気、よかったから、こっちから帰ろうかな、って……ぐ、偶然だね、それにしても!買い物?」

 碇くんは肩に力を入れて、怯えたか怒った猫みたいな姿勢で話す。それがすこしわからないけれど、わたしの言った言葉を理解していることに、まずは安心した。

「いえ」

「そ、そう……」

 歩きながら、碇くんは困っている顔をみせていた。

 わたしも、どうすればいいかわからない。あっさり会えてしまったので帰ってしまえばいいのに、気持ち悪いような、気持ちのいいようなこの鼓動のリズムがつづく限り、彼と離れることはできない気がした。

「暑いね」

「そうね」

 会話は短い。わたしには、学校にいる同級生たちのように語るべきエピソードがないので喋ることができなかった。暑いということに対して、事実以上のなにかを語る術がない。

「ちょっと、待ってて」

 碇くんは自動販売機の前で止まり、お茶を二本買って、一本をわたしにくれた。

「暑すぎるからね」

 笑う。彼が笑う。笑ってくれたのに、わたしは頷くだけだった。

 いつになれば笑顔が浮かべられるだろう。もう、私に残された時間は少ないのに。

 百貨店の脇の遊歩道のベンチはちょうど植え込みの木の陰になっているのを見つけた。

「こっち」

「え?」

 ベンチに座る。

「暑すぎる、から……」

「ああ、うん……」

「座れば?」

「……うん」

 ベンチに深く腰かけ、日陰に体を落ち着かせる。ようやく陽が傾いてきていた。

 二人で会うのは、四日ぶり。前は、ネルフ本部内で、あの人のお見舞いに行く彼を、わたしが待っていて、二人で帰った。

『わたしたちだけ平和に仲よくおしゃべりなんて、できる感じじゃないわね』

 確かにわたしは言った。なのに、こんなことしてる。

 自分自身のあんな暗い声と、歪んだ鼓動を聴いたのははじめてだった。

 理由は、考えたくない。いずれ考えなきゃいけない時がくるまでは。

 冷たいお茶を飲んで、景色を見つめる。言葉はまったくなかった。必要だと思っていても、出てこない。碇くんはなにを考えているのだろう。


 西の空が急速に燃えはじめた。立体的な雲を燃料にしているかのように、すごいスピードで。

「すごい夕焼けだね」

 彼が体を傾けて夕陽を見つめながら言う。彼の顔まで赤く染まる。

「あの人の色みたいね」

 いまの碇くんは、あの人の髪が絡まったみたいになっていた。わたしは思わず奥歯を噛んでいた。自分でもびっくりする強さ。

「え?」

「……」


 名前は、言いたくなかった。


「あの、綾波……」

「……なに?」

 声は震えていなかったと思う。

「あのさ、夕焼けは真っ赤で、そりゃ、アスカみたいかもしれないけど…………」

 聞きたくない……。耳をふさぎたい。


「それなら昼間の空は、綾波の色だね」


「……わたし…………?」


「……うん」


「ほんとうに?」


「うん」


「……」


「それに、ヤシマ作戦のとき、満月でさ、出撃前も戦闘後もよく見えたんだ。それ以来……」


「………………なに?」


「…………ごめん、なんでもないんだ。月が見えても、その……綾波が、見えるわけじゃないから、仕方がないんだ、こんなことは」


「そう……仕方がないのね」


「……ごめん……」


「わたしも、今も心臓が……」


 胸に手を当てる。


「どうかしたの?」


「…………仕方がないから、いいの」


「……ごめん」


「碇くんが謝ることでも、ないわ」


 また、しばらくの間。

 夜がはじまるころ、碇くんが言った。


「夕焼けがきれいなのはさびしいからだって、先生が言ってたんだ。終わってしまう寸前だから淋しいんだ、って……」

「そう……そうかもしれない」

「でもさ、朝焼けは、全然ちがうんだって。特にセカンドインパクト前の冬の朝焼けは夜の星空と朝焼けの空が両方見えて、ものごとのはじまる瞬間が見えてるみたいでわくわくする、鳥肌が立つって……言ってたんだ」

「朝焼け……」

「うん……いつか、みんなで見られるといいなって、いつも思ってるんだ。僕たちみんな、変な風になってしまっているけど……」

「……そうね」


 みんなでじゃなくていい、と思うわたしは、よくない人間なのかもしれない。でも………………あなたがいい。


 碇くん、あなたと、二人だったらいい。


 そこでわたしのこんな想いを言えたら……それこそ、鳥肌が立つようなはなし。


 未来のすくないわたしの、空想と願い。


 ここで立ち上がれば過去の想いになって、足の間をすり抜けて消えていってしまうわたしの願い。


 だからずっと座っていたかったけれど、碇くんが「帰ろう」と言うので立ち上がった。だから、わたしの願いは夜に溶けてなくなってしまった。


【タイトル】 FROM DUSK TILL DAWN―REBIRTH―について
【記事番号】-2147482113 (-2147482114)
【 日時 】06/03/28 21:47
【 発言者 】のの

時期があきました。
tamaさんにだけ送っていた真・お礼SSであり「裏」でもある話。
素性が怪しい感じだけど、まあやっぱそういうことしたいときもある。

んで、これは14歳当時のふたり。
実は20歳のとき見た朝焼けとあのシチュエーションにはこんな事情があったのだと。
これ、シンジは忘れちゃってるんだけどね。
それはそれで、よくある話だと僕は思うのです。特別な状況だってこと、片方だけが知ってる。

最近ひらがなが好きなので、それを使ってレイのやわらかい部分が出てればいいなと。


【タイトル】Re: FROM DUSK TILL DAWN―REBIRTH―
【記事番号】-2147482112 (-2147482114)
【 日時 】06/03/29 01:36
【 発言者 】aba-m.a-kkv

すっごくいいですね。
見れてよかったです。
ちょっと切ない感じがするのも、「表」を知っているから、とてもいい雰囲気になります。
こういう「表」と「裏」の順番っていうのもいいですね。
時系列の逆に遡る、その中にあるリンクがなんともいえない。

ひらがなの多い言葉、言葉少なげな会話、空白、それが14歳の二人の距離をうまく表わしていて、流石ののさん、と思います。

>あなたの憶えていない、あなたとの話。

よくあると、私も思います。
相手は覚えていない、でも、受けた側はとても大切な記憶として胸に刻んでいる。
夢が叶った時に涙してしまうくらいに。

とても素敵な話でした。


【タイトル】Re: FROM DUSK TILL DAWN―REBIRTH―
【記事番号】-2147482109 (-2147482114)
【 日時 】06/03/29 22:21
【 発言者 】牙丸

なんだか、目にその時その時の景色が浮かぶようです。特に
>西の空が急速に燃えはじめた。立体的な雲を燃料にしているかのように、すごいスピードで。
っていう表現が好きです。綺麗で、本当に真っ赤な夕焼けが思い出されます。

2人の微妙な関係と、揺れていくレイの心情がいい感じ。

相手にとって何気ない日でも、ある人にとってはそれが特別な日になったりってよくありますよね。
人と人との関係って、案外そういうものの積み重ねなのかもしれませんね。


【タイトル】Re: FROM DUSK TILL DAWN―REBIRTH―
【記事番号】-2147482102 (-2147482114)
【 日時 】06/04/01 00:35
【 発言者 】なお。

 裏、ということだけど、これは表と合わせて一つの話だと思った。それはさておき、ののさんが
こういう綾波レイを書いてくるのは、ちょっと意外でした。あまりにも恋する乙女で。

 外に出るのに、髪をていねいに、ていねいにとかす、なんてあたりが最高にきてます。少し前ま
ではまったく気を使わなかったであろう、そんなぎこちなさまで想像させられます。
 外に出た動機も、家にいるよりも会える確率の高い方を選択して行動しただけ、といった感じだ
けど、出かけるまでのプロセスからすると積極的でノリノリだ。
 しかしその影には消極的な部分も見える。会いたいのなら連絡を取るなりなんなりもできようが、
それをせずにわざわざ偶然をよそおうとするのは、非効率的で積極性とは相反するものだろう。そ
こに恥じらいがある。といっても普通はこんな感じだろう。

 ここまでたった三行。二次小説ゆえの助けもあるだろうけど、それを差し引いてもわかりやすい
し、おそらく正しいであろう方向に想像も膨らんだ。私の欲しいのはこういう濃さで、それは求め
てやまないところ。はっきりいってうらやましい。

 他の部分の感想は悪いけど省略。やっぱり自分の中では表と一つの話なんで。

>  なのに、考えているといつの間にか胸が高鳴る。その鼓動とわたし自身の呼吸は誰にも似てい
> なくて

 ここの解釈に悩んだ。例えとしては難しい部類だと思う。
 早くなった鼓動と締め付けられる胸に感じた息苦しさなどは、かつて経験のないもので、それを
過去の自分と照らし合わせて、更にその過去の自分を他人のように見立てて、それと似てない、と
言っているのだろうと解釈したのだけど、はっきりいって自信がない。


【タイトル】Re: FROM DUSK TILL DAWN―REBIRTH―
【記事番号】-2147482099 (-2147482114)
【 日時 】06/04/01 17:03
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>

 これはいい。すごくいい。これは載せようよ。このまま流れてしまうのはあまりにもったいない。

 ラストはあまりに秀逸。シンジが「帰ろう」と言うまでには長い時間があったことが、レイの願いが「夜」に溶けてしまったことでもわかる。願いが夜に溶ける、なんてそうそう思いつくフレーズじゃないぜ。

 ひらがなの使い方は、私はこれくらいが好きです。

>>  なのに、考えているといつの間にか胸が高鳴る。その鼓動とわたし自身の呼吸は誰にも似てい
>> なくて
>
> ここの解釈に悩んだ。例えとしては難しい部類だと思う。

 ここは難しいね。ストレートに解釈すれば、私のように彼を想っている人は私しかいない、ということになるんだろうけど、どうしてそう考えたのかは微妙。理由なんか無しにそう考えることにした、っていうのはストレートにあり得る。彼女に残された時間は少ないのだから。

mailto:tamb○cube-web.net


【タイトル】Re: FROM DUSK TILL DAWN―REBIRTH―
【記事番号】-2147482086 (-2147482114)
【 日時 】06/04/03 17:20
【 発言者 】のの

こっちのレスを忘れてた。
なんだか好評みたいでホッとしています。

■aba-m.a-kkvさん
アリガットさんです。
やっぱり(裏)なので裏話要素を盛り込むと、うっとりしてしまうわけです、なにがって
僕自身が読者だったらこういうギミック大好きなんでやりたくなる。
そういうワザがうまく回ると気分がいいっすね。ふへへ。
何気ない言葉が実は相手には大きな意味を持っているってのは、他人との関係で
悪いほうにも素敵にもなる。面白いなというのをすこしでも形にできてよかったです。

■牙丸さん

>>西の空が急速に燃えはじめた。立体的な雲を燃料にしているかのように、すごいスピードで。

>っていう表現が好きです。綺麗で、本当に真っ赤な夕焼けが思い出されます。

アリガットさんですm(__)m
こういう言い回しは使いすぎるとうざったいだけなんですけどね(笑)

■なおさん
レイ主観で話をするとシンジをどうしていいかわかんなくなるんで、
さくっと「シンジも帰り道をかえてる」ってのを入れられた時点で僕の中ではかなり満足。
それと同じさりげなさで、髪をとかす女の子っつー、しかも綾波レイが人目を気にして、
っていう空気が出せればな、という、まあいろいろ短いながらも考えてた
要素がぶちこんであります。
消極的、積極的でいえば、格段に能動的で、でもイケイケじゃないから、感情に戸惑って
るから消極的、と。まあなんと「女の子」してるんでしょって感じですね、読み返すと(笑)

>>早くなった鼓動と締め付けられる胸に感じた息苦しさなどは、かつて経験のないもので、それを
>>過去の自分と照らし合わせて、更にその過去の自分を他人のように見立てて、それと似てない、と
>>言っているのだろうと解釈したのだけど、はっきりいって自信がない。

なぞ解きっぽく言ってしまうと、シンジのこと考えてる自分ってのは、もう、誰かの思惑とか、
打算だとか余計なものとが追いやられてしまってて、ありのままの姿でしかなくなってしまう
と彼女は考えてるという状態を表現してみたかったんです。
シンジのこと考えてるときの自分がほんとの(かどうかはわかんないけど)自分、と。

■tambさん
お褒めの言葉を有り難う御座いますm(__)m
ラストは、たぶんどっかで似たような使い回しがあった気がします。思い出せないんですが。
せつない話でなんとかなんねえかなと思うけど、最後は、その時点ではなくなっちゃう。
シンジのいう「終わってしまう」ということの、まさに現実化。
シンジからすればせめてそれまでは一緒にいるんだけど、微妙にズレてるような、
それでもシンクロしてるような、ぎりぎりの距離感が出せてるかな、と。
「ペニーレイン」や「このままこうして(書き下ろしの方ね)」
とほぼ同じシチュエーションで、
前作までは体の距離でそれを表現してたんだけど、もうちょっとそれに頼らずに現せたのかな、と。

漢字が多いと横山秀夫じゃあるまいし、堅い空気がどうしても出るのでやっぱりこれくらいがいいなと僕も思います。
ちなみに横山秀夫批判ではない。念のため。むしろ彼のひとはああじゃなくちゃねえ。


【タイトル】Re: FROM DUSK TILL DAWN―REBIRTH―
【記事番号】-2147482077 (-2147482114)
【 日時 】06/04/04 02:18
【 発言者 】なお。

> これはいい。すごくいい。これは載せようよ。このまま流れてしまうのはあまりにもったいない。

 そうですよね。でも、ひとつに纏めて中編くらいになったものを読みたいなって思っちゃって。

> やっぱり自分の中では表と一つの話なんで。

 と、書いたのも、これも良かったのは否定しないけど、ああ、こういう経緯があってのあの話なん
だな、といったものになってしまって、最終的な結論としては表に感じたものになってしまったから
です。何と言ったら良いのか、リンクした話、じゃなくてやっぱりひとつの話なんです。よくわから
なくてすみません。

>>  なのに、考えているといつの間にか胸が高鳴る。その鼓動とわたし自身の呼吸は誰にも似てい
>> なくて
>
> シンジのこと考えてるときの自分がほんとの(かどうかはわかんないけど)自分、と。

 あっ、やっとわかりました。これ、逆接なんですね。『誰にも似ていない』つまりは『私自身』と。
『誰にも似ていなくて』を『やっぱり私自身のもので』なんて置き換えるとわかりやすいです。わか
りやすいけど、表現としては、ののさんの書かれたやつの方が複雑で面白いです。でも、複雑ゆえに
難解でもありました、私には(^_^;)


【タイトル】Re: FROM DUSK TILL DAWN―REBIRTH―
【記事番号】-2147482074 (-2147482114)
【 日時 】06/04/05 23:28
【 発言者 】のの

書きたいんだけど、んー、やっぱなんだろな、もうちょっと別の手法で書きたいっつーのがあるんですよ。
成長を書きたくないとか書き尽くしたとかいうより、今まではテーマとして露骨すぎたというか。
話の中に内包していれば良いなと思っていて、それを抽出するとこうなるわけです。
だからなにかウマイ話が思いつけばいいんですけど……今書いている話はまた趣向が違いまして。
まあ、試行錯誤の過渡期みてーなもんと思ってください。
これはこれで載せたいけど、まとめた話も書きたい……うううむ。

メンテ

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