Re: I was waiting for you for 30 minutes.So,what do yu do? ( No.1 ) |
- 日時: 2009/05/31 00:00
- 名前: tomo
- 【タイトル】I was waiting for you for 30 minutes.So,what do yu do?
【記事番号】-2147482068 (2147483647) 【 日時 】06/04/10 00:30 【 発言者 】tomo
不運なことっていうのは起こってほしくないときに限って起こるものだ。 窓の外の流れる景色を見ながら、僕はそう思った。 前方に広がる紅いビル群と後方を侵食する夜の帳。そのちょうど真ん中を僕の乗る電車が進んでいく。 じわじわとその面積を広げる黒い闇は僕の心にあせりを誘う。 この期に及んで今更じたばたしてもしょうがないとは思いつつも、僕は誘われるまま右腕の時計を見てしまう。
17:40
デジタル時計の数字はきっちりとした刻を教えてくれる。
(この時計、電波時計だから殆ど常に正しい時刻を表示するんだっけ……)
無意味に思い出した知識が余計に自分を心配させる。 そんな自分に、思わず苦笑する。
(こういうの、内罰的っていうのかな……)
かつての同居人の言葉を思い出す。同時に、彼女は今、どうしてるんだろう、なんて思ったりもしてみる。
ブルブルブル………
現実逃避しかけた僕の意識を、左胸の振動が強制的に引き戻す。 少しだけ体を硬直させて、僕はジャケットのうちポケットから携帯を取り出した。
『新着メールを受信しました』
誰からなのかはわかってる。その内容も。流れるようにボタンを押す。
『From:綾波 [件名Re:ごめん。ちょっと遅れそう] [本文] わかった。』
見事なまでのワンワード・メッセージ。 それが意味することは、たぶん、一つだけ。
(怒ってる、よな……やっぱ……)
もともと全てが僕のせいというわけではない。 最も不可抗力なのは電車が遅れたことだ。 いつも使っていて、めったに遅れることのない環状線が今日に限って5分遅延していた。 まぁ、この点に関しては彼女も許してくれるだろう。 問題はその先だ。 一番初めのきっかけは、大学の授業が10分伸びたこと。 これもどちらかといえば僕のせいではないといえる。 続いて授業が伸びたせいで連鎖的に起こったのは、次の授業のために教室の外で待っていた知り合いに声をかけられたことだ。 この点に関してはたぶん、僕が悪い。 さっさと切り上げればよかったのにその場で少し話し始めてしまったのだから。 しかも、だ。 決定的なのは、その知り合いがサークルの後輩の女の子だった点だ。 これはもうどうしようもないくらい僕が悪い。 ここで失った10分は申し開きの仕様がない。
(……謝るしか、ないよな、やっぱり)
人から話しかけられたのに途中で打ち切ることが僕にとって結構大変であるということを彼女だって知っている。 知ってるからこそ、余計に怒る。 その理由はよくわからないけれど、その気持ちはなんとなくでもわかりたいと思ってる。 そう思ってくれる彼女を大切にしたい、とも。
ガタン
少しだけゆれて、電車が停まる。 僕は体をできる限り角によせて、降りる人が下りやすく、乗る人が乗りやすくするためスペースを空ける。
プシュン。
ドアのしまり際、視界の片隅に駅名が飛び込んでくる。
(……あと、3駅……)
わざわざ確認しなくてもわかっていた事実を心の中で繰り返しながら、僕はゆっくりと流れ出した景色に目をやった。
電車を降りると、外は既に暗闇に包まれていた。 もう春だというのに、吹き抜ける風は結構な寒さを携えている。 その寒さが僕の心を絶望的に暗くした。
(はやく待ち合わせ場所にいかないと………)
今にも駆け出そうとする足。 対照的にゆったりとしか動かない人の波。 心と体がアンチノミーになりながら、僕はやっとのことで改札を出る。 そこでようやくまばらになる人の群れ。 僕は彼女が待っているであろう場所に急いだ。 そこに着いたとき、僕はもうほとんど走っている状態に近かった。 息を整えるのももどかしく、僕は彼女を探す。
そして。
僕は彼女を見つけた。 目印とした背の高い時計塔。その下のベンチに彼女はいた。
「ごめん、綾波……」
開口一番、僕は謝った。 この場所で、日の沈む、まさにその最後の光を見取ったであろう彼女には、そうすべきだと思ったから。 ゆっくりと、本当にゆっくりとした動きで彼女は手に持っていた文庫本を閉じると、それを鞄にしまい、立ち上がる。 顔を上げた彼女は、メガネの奥のその瞳で僕を捉える。 ライトグレーの色をしたメガネの、流れるような流線型フォルムがとても美しかった。 目線が合ったと思ったのに、彼女はすぐ下を向いてしまう。 左腕の腕時計で彼女は時間を確認した。
「…30分……私はこのとても寒いなかで、30分間待ちぼうけを食らったわけね」
「そ、そうだね……」
怒るでもなく、なじるでもなく。ただ、事実を告げる。 光の加減でメガネが反射してしまって、彼女の瞳は見ることができない。 僕の鼓動は最高潮に達していた。
「ホントにごめん……この埋め合わせはなんでもするから……」
「そう……何でもしてくれるの……なら」
そこまで言って、彼女はメガネをはずした。
「強く抱きしめてくれる?今、いろんな意味であなたのぬくもりが欲しいから」
あまりにも淡々と。 彼女はすごいことを言ってのけた。
「えっ………あ…こ、ここで?」
「ええ」
「でっ……でも」
「してくれないの?……」
紅い瞳がかすかに揺れる。 いろんな意味で追い詰められていた僕には、それはこれ以上ないくらいの決め手だった。
カサッ。
かすかに服のかすれる音がして、僕は彼女を抱きしめた。 そうしてみて改めて感じる。彼女の体が冷たくなっていることに。 彼女の頭に顎を少しだけ乗っけながら、僕は彼女の甘い匂いをいっぱい吸い込んでいた。
「クスクスクスクス………」
しばらくそうしていたら、僕の胸の中で彼女が小さく笑い始めた。
「どうしたんだよ」
「別に……ただちょっと、ね」
「? ……ちょっと、なんだよ」
彼女が顔を上げる。
「反応が良すぎるって、思っただけよ」
その言葉の真意がわからなくて、ちょっと考える。 そうして。 彼女の言っているコトの意味に思い至ったとき、僕は思わず、彼女から体を離してしまう。
「あ、綾波……」
自分の声がひどく間抜けに聞こえる。 でも、そんな僕にかまわなずに彼女はすっと後ろを向いた。
「ほら。桜、見に行くんでしょ?」
そういって横顔を僕に見せる。 その顔は、やっぱり、笑顔だった。
「え……あ、う、うん」
僕がそう返事をしたときには、彼女はもう数歩先を歩いている。
(綾波って、ほんと、ときどきすごいよなぁ)
彼女の背中を追いながら、僕はそんなことを考えていた。
夜の闇はどんどんと深さをまし、時折吹く風はまだ少し冷たい。 でも。 僕の心はとても温かみに満ちている。 きっと、彼女もそう思ってくれている。 遅刻はしてしまったけれど。 僕は、彼女をお花見に誘って本当に良かったと感じていた。
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Re: I was waiting for you for 30 minutes.So,what do yu do? ( No.2 ) |
- 日時: 2009/05/31 00:00
- 名前: Kaz.Ueda
- 【タイトル】I was waiting for you for 30 minutes.So,what do yu do?
【記事番号】-2147482068 (2147483647) 【 日時 】06/04/12 01:33 【 発言者 】tomo
不運なことっていうのは起こってほしくないときに限って起こるものだ。 窓の外の流れる景色を見ながら、僕はそう思った。 前方に広がる紅いビル群と後方を侵食する夜の帳。そのちょうど真ん中を僕の乗る電車が進んでいく。 じわじわとその面積を広げる黒い闇は僕の心にあせりを誘う。 この期に及んで今更じたばたしてもしょうがないとは思いつつも、僕は誘われるまま右腕の時計を見てしまう。
17:40
デジタル時計の数字はきっちりとした刻を教えてくれる。
(この時計、電波時計だから殆ど常に正しい時刻を表示するんだっけ……)
無意味に思い出した知識が余計に自分を心配させる。 そんな自分に、思わず苦笑する。
(こういうの、内罰的っていうのかな……)
かつての同居人の言葉を思い出す。同時に、彼女は今、どうしてるんだろう、なんて思ったりもしてみる。
ブルブルブル………
現実逃避しかけた僕の意識を、左胸の振動が強制的に引き戻す。 少しだけ体を硬直させて、僕はジャケットのうちポケットから携帯を取り出した。
『新着メールを受信しました』
誰からなのかはわかってる。その内容も。流れるようにボタンを押す。
『From:綾波 [件名Re:ごめん。ちょっと遅れそう] [本文] わかった。』
見事なまでのワンワード・メッセージ。 それが意味することは、たぶん、一つだけ。
(怒ってる、よな……やっぱ……)
もともと全てが僕のせいというわけではない。 最も不可抗力なのは電車が遅れたことだ。 いつも使っていて、めったに遅れることのない環状線が今日に限って5分遅延していた。 まぁ、この点に関しては彼女も許してくれるだろう。 問題はその先だ。 一番初めのきっかけは、大学の授業が10分伸びたこと。 これもどちらかといえば僕のせいではないといえる。 続いて授業が伸びたせいで連鎖的に起こったのは、次の授業のために教室の外で待っていた知り合いに声をかけられたことだ。 この点に関してはたぶん、僕が悪い。 さっさと切り上げればよかったのにその場で少し話し始めてしまったのだから。 しかも、だ。 決定的なのは、その知り合いがサークルの後輩の女の子だった点だ。 これはもうどうしようもないくらい僕が悪い。 ここで失った10分は申し開きの仕様がない。
(……謝るしか、ないよな、やっぱり)
人から話しかけられたのに途中で打ち切ることが僕にとって結構大変であるということを彼女だって知っている。 知ってるからこそ、余計に怒る。 その理由はよくわからないけれど、その気持ちはなんとなくでもわかりたいと思ってる。 そう思ってくれる彼女を大切にしたい、とも。
ガタン
少しだけゆれて、電車が停まる。 僕は体をできる限り角によせて、降りる人が下りやすく、乗る人が乗りやすくするためスペースを空ける。
プシュン。
ドアのしまり際、視界の片隅に駅名が飛び込んでくる。
(……あと、3駅……)
わざわざ確認しなくてもわかっていた事実を心の中で繰り返しながら、僕はゆっくりと流れ出した景色に目をやった。
電車を降りると、外は既に暗闇に包まれていた。 もう春だというのに、吹き抜ける風は結構な寒さを携えている。 その寒さが僕の心を絶望的に暗くした。
(はやく待ち合わせ場所にいかないと………)
今にも駆け出そうとする足。 対照的にゆったりとしか動かない人の波。 心と体がアンチノミーになりながら、僕はやっとのことで改札を出る。 そこでようやくまばらになる人の群れ。 僕は彼女が待っているであろう場所に急いだ。 そこに着いたとき、僕はもうほとんど走っている状態に近かった。 息を整えるのももどかしく、僕は彼女を探す。
そして。
僕は彼女を見つけた。 目印とした背の高い時計塔。その下のベンチに彼女はいた。
「ごめん、綾波……」
開口一番、僕は謝った。 この場所で、日の沈む、まさにその最後の光を見取ったであろう彼女には、そうすべきだと思ったから。 ゆっくりと、本当にゆっくりとした動きで彼女は手に持っていた文庫本を閉じると、それを鞄にしまい、立ち上がる。 顔を上げた彼女は、メガネの奥のその瞳で僕を捉える。 ライトグレーの色をしたメガネの、流れるような流線型フォルムがとても美しかった。 目線が合ったと思ったのに、彼女はすぐ下を向いてしまう。 左腕の腕時計で彼女は時間を確認した。
「…30分……私はこのとても寒いなかで、30分間待ちぼうけを食らったわけね」
「そ、そうだね……」
怒るでもなく、なじるでもなく。ただ、事実を告げる。 光の加減でメガネが反射してしまって、彼女の瞳は見ることができない。 僕の鼓動は最高潮に達していた。
「ホントにごめん……この埋め合わせはなんでもするから……」
「そう……何でもしてくれるの……なら」
そこまで言って、彼女はメガネをはずした。
「強く抱きしめてくれる?今、いろんな意味であなたのぬくもりが欲しいから」
あまりにも淡々と。 彼女はすごいことを言ってのけた。
「えっ………あ…こ、ここで?」
「ええ」
「でっ……でも」
「してくれないの? ……」
紅い瞳がかすかに揺れる。 いろんな意味で追い詰められていた僕には、それはこれ以上ないくらいの決め手だった。
カサッ。
かすかに服のかすれる音がして、僕は彼女を抱きしめた。 そうしてみて改めて感じる。彼女の体が冷たくなっていることに。 彼女の頭に顎を少しだけ乗っけながら、僕は彼女の甘い匂いをいっぱい吸い込んでいた。
「クスクスクスクス………」
しばらくそうしていたら、僕の胸の中で彼女が小さく笑い始めた。
「どうしたんだよ」
「別に……ただちょっと、ね」
「? ……ちょっと、なんだよ」
彼女が顔を上げる。
「反応が良すぎるって、思っただけよ」
その言葉の真意がわからなくて、ちょっと考える。 そうして。 彼女の言っているコトの意味に思い至ったとき、僕は思わず、彼女から体を離してしまう。
「あ、綾波……」
自分の声がひどく間抜けに聞こえる。 でも、そんな僕にかまわなずに彼女はすっと後ろを向いた。
「ほら。桜、見に行くんでしょ?」
そういって横顔を僕に見せる。 その顔は、やっぱり、笑顔だった。
「え……あ、う、うん」
僕がそう返事をしたときには、彼女はもう数歩先を歩いている。
(綾波って、ほんと、ときどきすごいよなぁ)
彼女の背中を追いながら、僕はそんなことを考えていた。
夜の闇はどんどんと深さをまし、時折吹く風はまだ少し冷たい。 でも。 僕の心はとても温かみに満ちている。 きっと、彼女もそう思ってくれている。 遅刻はしてしまったけれど。 僕は、彼女をお花見に誘って本当に良かったと感じていた。
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