treasure |
- 日時: 2009/05/31 00:00
- 名前: aba-m.a-kkv
- 【タイトル】treasure
【記事番号】-2147481936 (2147483647) 【 日時 】06/05/06 01:14 【 発言者 】aba-m.a-kkv
それは、とても、とても大切な“たからもの”。
とても、とても愛しい“たからもの”。
今は、触れることの出来ない、掛け替えの無い“たからもの”。
だから、どんなに時をかけても、どんなものになっても、どんなことをしてでも、見つけてみせる。
桜舞い散る春の下、再会を誓い合ったあの庭園で。
『こちらの特殊戦も最終段階に入った、そろそろドイツ連邦が陥落する。
主要拠点であるドイツが落ちれば、中国連邦も迂闊に戦線を南下させることも出来なくなるだろう。
そちらの特殊作戦展開が命令されるのも時間の問題だよ、日本部長』
「太平洋戦線に麾下特殊軍、戦輸軍が展開済みだ。
本国の裁可が下れば、対中部、対露部も同時に作戦を即応できる。
君のところが最初の引き金だ。
…………
待ちわびてきた時がもうすぐ訪れるわけだね、ドイツ部長。
僕にしても君にしても、十一年間待ち続けた時だ」
『ああ、そうだね。
やっと掴める足場まで来た。
お互い、“たからもの”のためにここまで身をやつしてきた。
だが、それを見つけるまで、この手に抱きしめるまでは、気を抜くことは出来ない』
「うん、わかってる。
必ず成功させよう、僕の、そして君の“たからもの”を取り戻すために」
たくさんのコンピューターや通信機材のおかれた薄暗い部屋の中、防諜対策の施された電話の通信ランプが消える。
それを見て、モスグリーンの官服を着た青年は受話器を置いた。
官服のポケットからのぞく鎖の先には、不活性化ガスを込めた瓶に一枚の桜色の花びらが収められている。
それは、別れる前、大切なたからものと最後にあった庭園の真ん中に咲いていた桜の花びら。
青年はそれを少し眺めて、ぎゅっと握りしめた。
たからもの。 Written by aba-m.a-kkv
十一年前のあの日、貴方は私に約束してくれた。
国連軍の移送部隊に引き剥がされる中、私に叫んでくれた。
どんなに時間がかかろうと、どんなものになっても、どんなことをしてでも、綾波を迎えにいく、って。
私は、その言葉に何もいえなかった。
もっと言いたいことがあったのに。
あの戦争を生きて貴方と切り抜けて、貴方に伝えたいことがたくさんあったのに。
私は何もいえなかった。
心が詰まって。
せっかく生きて会うことが出来たのに。
サードインパクトを、人類補完計画を挫折させて、再び会う事が出来たのに。
すぐに引き離される悲しみと、これからもう二度と会う事が出来なくなる悲しさで。
胸がつぶれて何もいえなかった。
そして、私が考えたとおりに、貴方が感じていたとおり、世界は二つに分かれてしまった。
SEELE残存部の残る連邦と、反旗を掲げた連合とに。
私の残された日本は、どちらにも属さない不可侵地域として、貴方がいる連合と交流することが出来なくなった。
連邦と連合との冷戦が終結しない限り、貴方に会うことはできなくなった。
私が予想していたように、貴方が理解していたように。
あの日から、もう十一回目の桜が咲く。
貴方が私に約束を残してくれた、あの桜の下の情景が、この黒き月の残骸に現れて、もう十一回目になる。
今年も、綺麗な桜が咲いているわ、碇くん。
今年も、雪のように、桜の花びらがこの地を埋め尽くしているわ。
ロンギヌスの槍から生まれた桜の樹が。
もう会う事が出来ないことを、私は知っている。
もう誰も世界を動かせる人なんて居ないんだから。
この冷戦は、私たちを隔てる鉄のカーテンは、あと半世紀は仕舞われることは無い。
貴方が私に投げてくれた約束が、果たされることの無いことを、私は理解している。
それでも。
それでも、私はここを訪れるわ。
ロンギヌスの桜が咲き乱れるこの季節に。
貴方の約束を信じて。
貴方が会いに来てくれる事を信じて。
貴方が、私を見つけてくれることを信じて。
この場所で待つ。
桜吹雪の中に、身を置いて。
私は、綾波レイは、貴方を待っているわ。
碇くん……。
白く細い手が、桜の幹をなぞる。
そこから伝わるのは、春と、生きているものの脈動。
生きているものが、生きていることが、その手に伝わっていく。
自分の掌に血が流れ、自分が生きているのだということも。
それでも、本当に求めるぬくもりは、生きている彼のぬくもりは、その手に伝わらない。
でも、レイの紅い双眸は涙を流さなかった。
レイの中で、決めていたから。
シンジと再会するその時に、涙を零そうと。
どれだけ時間がかかっても、どんなものになっても、どんなことをしてでも、待っていようと。
レイは、桜の樹を見上げた。
視界一杯に桜色が広がる。
美しすぎるほどに、一杯に。
強い風が吹いた、爆音と共に。
それは桜の花びらを舞わせ、レイの白い帽子を空に飛ばした。
雪が降り積もった銀世界のように、黒き月の残骸を覆う桜に。
雪を踏み行くような音はなく、それを踏みしめて進む足音が地面を伝わる。
モスグリーンの官服を着た影は、真っ直ぐこの地の真ん中に生えるロンギヌスから生まれた桜の樹に歩いていった。
雪のように舞い散る桜吹雪の中、その影は桜の樹の幹に縋る“たからもの”見つける。
十一年の時をかけても、対連邦特務機関の一部門の長になっても、冷戦を崩壊させる戦略作戦の一翼を推進しても、見つけたかったものを。
掴みたかった、会いたかった“たからもの”を。
風が舞い、桜が散る音の中、影は“たからもの”の名前を呼んだ。
“たからもの”が振りかえる。
そして、その綺麗な紅い双眸から、約束が零れた。
どんなに時間がかかっても、どんなものになっても、どんなことをしても、絶対に迎えにいく。
その約束が果たされた時に、流そうと決めていた、涙が、零れ落ちた。
影が“たからもの”に触れる。
けっして感じることの出来なかったぬくもりが、互いの掌の中に伝わっていく。
春の中に桜が溶けゆくように。
「綾波、遅くなってごめん。
迎えに来た。
あの時、この桜の下で約束したことをやっと果たせる。
どんなに時をかけても、どんなものになっても、どんなことをしてでも、見つける、っていう約束を。
君は、僕の“たからもの”だ。
もう、離さないから。
とても、とても大切な君を。
とても、とても愛しい君を、もう離したりしない。
綾波、君が好きだ」
桜の舞い散る黒き月の残骸の上で、二人の影が重なる。
十一年間待ち続けたぬくもりを、十一年間探し続けたぬくもりを、その腕の中に確かに感じながら。
それは、とても、とても大切な“たからもの”。
とても、とても愛しい“たからもの”。
待ち続け、探し続け、再び会うことのできた、掛け替えの無い“たからもの”。
だから、もう離さない。
いつも、いつまでも、一緒にいる、二人で一つの“たからもの”。
【タイトル】Re: treasure 【記事番号】-2147481935 (-2147481936) 【 日時 】06/05/06 01:12 【 発言者 】aba-m.a-kkv
勝手に書いて、勝手に別スレ立ててしまいました。 すみませんm(__)m
さて、私はこんな風に情景を見ました。 皆さんはいかがでしょう?
【タイトル】Re: treasure 【記事番号】-2147481930 (-2147481936) 【 日時 】06/05/09 20:06 【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>
一瞬「ガンダムか?」とか思ったわけだが(笑)。
ドイツ部長ってのはやっぱカヲルかなーなどと思いつつ、再会するためには戦争するしかなかったのか、という悲しさはあるわな。いかに敵が「SEELE残存部の残る連邦」とはいえ、そこにいるしか選択肢のなかった人もいることであろう。という話を発展させると憲法改正の是非などという議論に発展する可能性もあるので(ないかw)止めておくとして。
なんで「世界は二つに分かれてしまった」のかとか、なんで「国連軍の移送部隊に引き剥がされ」なければならなかったのかとか、そういうバックグラウンドは欲しいですな。そういうことを書いていくと軽く50kは超えると思いますが(笑)。
>ロンギヌスの槍から生まれた桜の樹が。
このあたりとか、「生きる音」を彷彿とさせるし、もっと長く読みたかった。
mailto:tamb○cube-web.net
【タイトル】Re: treasure 【記事番号】-2147481925 (-2147481936) 【 日時 】06/05/10 22:01 【 発言者 】なお。
> 一瞬「ガンダムか?」とか思ったわけだが(笑)。
小ビンから?
うーんと、とにかくスケールがでかいw それをショートで書くのはなかなか大変だと思う。でもちゃんとしてる。ロンギヌスの桜とか、世界観を借りてるのも短くする役に立ってるのかな? すべて見越してそうしたとしたら、とんでもなく計算高い。
tamaさんの絵のイメージがあって、それにぴたっと当てはまってる。モスグリーンの服を制服に持っていったってのは技ありでしょう。変わった服だなとは思ったけど制服にして物語に組み込んじゃうんだもんな。再現率も高くなるから絵の場面としっかり重なる。
また個人的な感想になっちゃうんだけど、シンジ、立派すぎ。なんて言うかな。これは絵の方にも言えるんだけど、シンジが偉そうっていうかレイとシンジがイコールに見えないんだよね、立場的に。レイはあなたについていきますって感じで、シンジも俺について来いって感じ。このシンジはまちがいなく俺シンジ。
【タイトル】Re: treasure 【記事番号】-2147481914 (-2147481936) 【 日時 】06/05/13 23:54 【 発言者 】tama
ありがとうございます。 そのひとことにつきるんですけど、本当。
制服に見えますという指摘は、tambさんからも当初受けました(爆 でもこうして物語にくみこまれるとそれもいいなと思いました。 作品はあいかわらずきれいで照れます。でも今回は「たからもの」という言葉を使いすぎてしまったような気もしました。それを減らしても、この作品は全然平気なくらいショートとしてかけているなぁと思います。 私的にはなんか連載ものの最終回だけ読んだような感想を読後に持ちました。 そこらへん話がもっとふくらみそうで、もったいないな・・・と。 なにがいいたいかと言えば、つまりもっとバックボーンもよ見たいので書いてくださいというお願いです(爽 ・・・ドイツ部長編とか!
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