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貞本エヴァ STAGE.73「辿りついた境界線」、STAGE.74「手のひらの記憶」/貞本義行
日時: 2009/05/31 00:00
名前: tamb

【タイトル】貞本エヴァ STAGE.73「辿りついた境界線」、STAGE.74「手のひらの記憶」/貞本義行
【記事番号】-2147481424 (2147483647)
【 日時 】06/11/18 20:02
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>

 だがその刃先は阻まれた。

「A.T.フィールド!?」
「なんでそんなに驚いてんの?」

 カヲルは平然と続ける。

「君だって持ってるくせに。何人(なんびと)にも侵されない聖なる領域。心の光。
 君にもわかっているはずだ。
 A.T.フィールドとは、誰もが持っている心の壁だということを」
「そんなの、わからないよッ!
 A.T.フィールドを持っているのは、エヴァと使徒だけだ!」

 シンジの叫びと同時に繰り出された弐号機のプログナイフが初号機の胸に突き刺さる。

「う゛あ……く……」

 シンジがうめく。

(アスカ……ごめん)

 叫び声と共に初号機のプログナイフが弐号機の首筋に突き刺さる。二体のエヴァからは体液が噴出している。


<エヴァ両機、最下層に到達。目標ターミナルドグマまであと20!!>

「……日向くん」

 ミサトが静かに呼びかける。

「はい」
「初号機の信号が消えて、もう一度変化があったときは……」
「わかってます。その時はここを自爆させるんですね。サードインパクトを起こされるよりはマシですからね」
「すまないわね」
「いいですよ。あなたと一緒なら」

 二人の表情は硬い。

 その時、地鳴りと共に司令塔が大きく振動した。

「何が起こったの!?」
「これまでにない強力なA.T.フィールドです!」

 日向の報告に青葉が呼応する。

「光波、電磁波、粒子、全て遮断しています! 何もモニターできません!」

 続いてマヤが報告する。

「目標及びエヴァ初号機共にロスト。パイロットの連絡も取れません!」
「まさに結界か……」

 ミサトが呟いた。


 二体のエヴァはセントラルドグマを抜け、地底湖に落下する。

「くっ……」

 衝撃で気を失いかけたシンジの視界に、去って行こうとするカヲル後姿が映る。

「渚ッ! 待てッ! うッ」

 初号機の手を伸ばすが、その足首を弐号機が掴んでいた。

「放せ、くそオ!」


 カヲルがドアの前に立つ。そのドアを一瞥すると、ロックが解ける。


「最終安全装置解除!」
「ヘヴンズドアが開いていきます!!」

 日向が、続いて青葉が叫ぶ。


 開いてゆくドアの先、カヲルの視線の先には、磔刑にされたリリスの姿がある。


「ついにたどり着いてしまったのね。使徒が……」

 異様な沈黙に支配される司令塔の中でミサトが呟く。

「シンジ君お願い、頼むわよ」


「やはり、これはアダムじゃない」

 カヲルはリリスの前にいる。

「黒き月、リリス
 ――そうか、最初からここにいたんだね。このジオフロントは君が最初に来た時にできたってわけか。
 そしてずっと待っていた。継承者がここまで来るのを」

 その時、大音響と共に二体のエヴァが絡み合ったままリリスの前になだれ込んで来る。カヲルはそれを横目で見る。シンジは弐号機を倒し、カヲルの前に立った。

「はあ、はあ、はあ」

 カヲルは静かにそれを見る。

「それ以上、少しでも進んだら、容赦……しない」
「どうかな。たとえ僕が使徒でも、人の形をしたものに君が手をかけられるの?
 でも、僕がこれに接触すれば、サードインパクトが起こるらしいよ。
 接触した生命を含め、すべての種が一瞬で滅びる。もちろん君たち人類(リリン)もね。
 どっちにしても君にはつらい選択だ」
「今なら戦わなくて済む! 引き返せ!」
「戦わなくて済む……か。相変わらずムシがいいなあ。
 もうひとついいことを教えてあげるよ。
 サードインパクトが起こったとしても、人はただ滅びるんじゃない。
 新しい形で生まれ変わるんだ。ひとつに結合して単体の生命としてね。
 そうすれば君の望んでいるとおりの世界が訪れる
 A.T.フィールドも必要ない。戦いや争い、人を失う苦しみや悲しみ、君はそのすべてから解放されるんだ。
 それでも君は、僕を止めるっていうの?」
「サードインパクトは起こさせない!」

 シンジはプログナイフをカヲルに向ける。

「そのナイフじゃ脅しにもなんないよ。さっきわかっただろ?
 これは僕の運命だ。僕は最初からこの時のために生まれ仕組まれた子供だから」
「やめろっ!!」
「でも、僕にも意思はある」

 カヲルを握ろうとした初号機の手のひらが止まる。

「自らの意思で運命に逆らうこともできる」

 シンジは動きを止めたままだ。

「勘違いするなよ。君のために言ってるんじゃない。
 このまま引き返したりしたら老人たちが黙ってないだろう」
「老人?」

 シンジが困惑したように言うが、カヲルはかまわずに続ける。

「あいつら即行で僕を消すだろうな。もともと僕の命はあいつらが握ってるのも同然だからね。
 まあ、サードインパクトを起こそうと起こすまいと、どっちにしろ僕という固体は消えてなくなるから、本当は僕にとってはサードインパクトなんてどうでもいいんだよ。
 僕に残された絶対的な自由は、自分の意思で自らの死の形を選べるってことだけだ」

 カヲルの表情が、初めて一瞬だけ翳った。

「だから僕は僕を、君の手で消してもらいたい」

 シンジにはカヲルの言葉が理解できない。

「何を言って……」
「聞こえなかった? 君に消してもらいたいと言ったんだ。
 君が少しでも僕のことを思ってくれるなら、君がその手で消してくれ。
 あの時のネコみたいに」

 シンジは茫然とするしかない。

「そんなの、ずるいよ……
 そんなふうに言われたら、できるわけないだろ!?」
「最後の願いなんだよ。僕のことを少しでも好きなら
 叶えてくれ」


-------------------------------------------------
STAGE.74「手のひらの記憶」

「静かですね……」

 司令塔の中、マヤがポツリとつぶやく。その時、不意に地鳴りのような音がした。

「A.T.フィールドです!!」

 青葉が報告する。

「ターミナルドグマの結界周辺に先と同等のA.T.フィールドが発生!」
「まさか、新たな使徒!?」

 ミサトがあせったような表情で言う。

「結界の中に侵入していきます」

 青葉が報告を続ける。だが、急に茫然となって言った。

「いえ、消失しました!」
「消えた!? 使徒が?」

 ミサトも驚きを隠せない。

 ――何が起こっているの? いえ、何が起ころうとしているの?


 セントラルドグマの下部には、その先を見下ろすレイの姿があった。


 ターミナルドグマでは二人の少年が対峙している。エヴァ初号機の手は、カヲルの近くに伸ばされたまま動かない。

 シンジはあの時のことを思い出していた。

 ――このネコ、ほっといてもどうせ死んだんだよ。
 親もいないし食べ物もないし、餓えて苦しんで徐々に死ぬんだよ。
 だから今、殺してやったほうがいいんだ。

 シンジは閉じていた目を開いた。

「できないよ
 そんなふうに言われても、抵抗もしない相手を殺すなんて
 僕にはできない」
「なんで? 最後の願いだって言ってるのに。
 できないのは自分が罪悪感にさいなまれるのが怖いからだろう? 僕のことはこれっぽっちも考えてない。
 そんなに嫌いなんだ。僕のこと」

 カヲルは無表情のままだ。

「嫌いじゃない!」

 シンジがさえぎるように言う。

「嫌いだなんてひと言も言ってない」
「じゃあ、君の本心を見せてみろ」

 カヲルが微笑んで言う。

「次に君のとる行動が、僕に対する君の本当の気持ちの
 証だ」

 シンジは悲しみの表情を見せ、エヴァの手が徐々にカヲルを包みはじめる。

「そう、武器は使うなよ。
 君は僕を絞め殺した感触をその手に残すんだ。
 そうしたら、君は僕のことをイヤでも忘れられないだろ?
 今まで君が失った人たちと同じように」
「たぶんね」

 シンジが自嘲的な笑顔を浮かべて言った。

「きっとそうだ」

 カヲルは微笑を絶やさない。

 初号機に乗るシンジは、両手で抱きしめるようにカヲルを包み込み、その姿は手のひらの中で見えなくなる。
 廃墟の中でカヲルの首を絞める自分の姿がフラッシュバックする。

 そして――。


「モニター復活しました!」

 日向が、突然反応をはじめたモニターを見て叫ぶ。

「初号機パイロットの生命反応に異常なし! A.T.フィールドはふたつとも消失しています!」
「弐号機からの信号もありません!」
「エヴァ初号機、セントラルドグマを上昇します。」

 マヤが、そして青葉が続いて報告した。青葉の表情は沈痛だった。
 ミサトの表情も暗い。マヤが目を伏せて言った。

「倒したってことですよね。12番目の使徒を」

 ゲンドウはまっすぐに前を見たまま動かない。
 ミサトは心の中でつぶやく。

 ――シンジ君……


 コンフォート17

 ミサトがシンジの部屋をノックする。

「シンジ君、開けるわよ」

 シンジはベッドの中でむこうを向き、横になっている。

「もう夕方よ。起きて食事したら?」
「……まだ、眠いんです。すみません」

 ミサトが目を伏せる。

「後悔しているの?」
「いいえ」

 シンジはむこうを向いたまま答える。

「今は何も考えたくない。ただ疲れてるだけです」
「すまなかったわね……。もっと早くに彼が使徒だとわかっていれば……。
 でも、あなたがやったことは正しいことよ。守るべきものを守ったんだもの」

 シンジは何の反応もしない。

「明日から本部に泊り込みになるわ。支度しておいて」
「はい……」

 シンジは最後までミサトを見ることがなかった。


「おいで、ペンペン」

 部屋を出たミサトはペンペンを抱き上げる。

「あなたの預け先も探さないとね。
 この前の爆発でも運よくここは残ったけど、
 この次はどうなるかわからないもの」


 あなたがやったことは正しいことよ――

 シンジはベッドの中でミサトの言葉を思い返していた。

 ――正しいこと……。守るべきものを守った……。
 結果的にはそうなんだろうけど、
 ミサトさんの言う守るべきものと僕の守りたいものは、別のものだ。
 僕が本当に守りたいものは、次々と失われていくのに。

 シンジは、加持やアスカ、トウジ、そしてレイの姿を思い浮かべる。

 ――僕が守らなければならないもの。僕が必死で守ろうとしているもの。

 彼の脳裏をよぎるのはゲンドウ、リツコ、ベッドに横たわったアスカ、そして、三人目だと言ったレイの姿。

 カヲルを思い出す。

 戦いや争い、人を失う苦しみ。
 君はそのすべてから解放されるんだ。
 サードインパクトが起これば、君の望んでいるとおりの世界が訪れる――。


 ――今、僕が守ろうとしているこの世界。
 この世界は
 僕にとって本当に
 絶対に守らなければならないものなんだろうか。


つづく

mailto:tamb○cube-web.net


【タイトル】Re: 貞本エヴァ STAGE.73「辿りついた境界線」、STAGE.74「手のひらの記憶」/貞本義行
【記事番号】-2147481423 (-2147481424)
【 日時 】06/11/18 20:02
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>

73でリリスに足がない。
で、74。シンジはレイを「失われたもの」と考えているのか?

佳境です。待ちましょう。

mailto:tamb○cube-web.net


【タイトル】Re: 貞本エヴァ STAGE.73「辿りついた境界線」、STAGE.74「手のひらの記憶」/貞本義行
【記事番号】-2147481418 (-2147481424)
【 日時 】06/11/19 00:00
【 発言者 】tokia

予想出来ていた結果ではありますが、合掌。
カヲルの性格やこれまでのシンジとのすれ違いが効いていて、良い意味で漫画版独自の展開をしてくれたと思います。
追悼作品は……タイミング的に発表したことになるからいいや(笑)。

次回は3人目レイとシンジとの接触でしょうか。レイがドグマに降りていった理由も説明されますかどうか。

メンテ

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