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貞本エヴァ STAGE.75「欠けた心」、STAGE.76「最後の敵」/貞本義行
日時: 2009/05/31 00:00
名前: tamb

【タイトル】貞本エヴァ STAGE.75「欠けた心」、STAGE.76「最後の敵」/貞本義行
【記事番号】-2147481357 (2147483647)
【 日時 】07/01/08 20:14
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>

STAGE.75「欠けた心」


惹かれていたんだ
僕は

いつのまにか
心の深いところで

あんなやつを
好きになってはいけないと思っていたのに
友だちはもういらないと思ってたのに

それなのに
なぜ人は

自分以外のものに惹かれてしまうんだろう


「それはね、神様が人をそういうふうに造ったからよ」

 リフトで本部に向けて移動中の車内、ミサトが前を向いたまま言う。シンジは何の反応も示さない。

「逆に言えば、単体では生きられない不完全な生き物なのよ。人は。
 でも私たちは生きていかなきゃならないわ。たとえ不完全でも。
 そんなふうに生まれてしまった以上、求め合うのも傷つけ合うのも意義のあることだと私は思うもの」

 シンジは表情を消したままだ。ミサトはシンジの方に振り向き、肩を掴んで大きな声を出す。

「しっかりしなさい! まだすべてが終わったワケじゃないのよ。
 むしろこれからが本当の戦いになるかもしれないのよ」
「もういいよ」

 シンジはかすかに表情を歪めた。

「そんなことはもう聞きたくない。
 そんな大義名分は僕にもわかってる。ミサトさんの言うことはいつも正しいよ。でももう聞きたくないんだ」

 車が本部に到着したが、シンジは続けた。

「戦うのはミサトさんじゃなく僕なんだ。今までもこれからも。
 ミサトさんはいつもモニターの向こうで命令してるだけじゃないか」

 そして彼は叫んだ。

「僕が今までどんな気持ちで戦ってきたか、ミサトさんにはわからないよ!」

 ミサトは怒りの表情をあらわにし、手を振り上げる。だがその直後、手を止めて驚いたような顔になった。

「ほんとに、そんなふうに思ってるの?」
「……ぶたないんですか? ぶってもいいのに」

 シンジが再び表情を消した。

「降ります」
「シンジ君!」

 ミサトも車を降り、シンジに呼びかける。

「待ちなさい! シンジ君!」

 シンジが立ち止まるはずもなく、ミサトも後を追おうとはしない。

「わからないわけないでしょ……」

 わかるからこそ辛いのに。あなたに命令をしなきゃならないのが――。

「でも私たちには、泣き事を言ってる時間はないのよ、シンジ君」

 そうつぶやくミサトの表情は悲しげだった。


「本部施設の出入りが全面禁止!?」

 マヤが驚きの声をあげ、日向も続いて言う。

「第一種警戒態勢のままか?」
「なぜ? 最後の使徒だったんでしょ? あの少年が……」

 青葉がコーヒーカップを片手に答える。

「ああ……。すべての使徒は消えたハズだ」
「今や平和になったってことじゃないのか?」

 日向が当然の疑問を口にする。

「じゃあここは? エヴァはどうなるの?
 先輩も今いないのに……」
「ネルフはおそらく組織解体されると思う。オレたちがどうなるのかは……見当もつかないな」

 日向は視線を落とし、心の中で言った。

 自分たちでねばるしかないのか。補完計画の発動まで……。


 ――ゼーレ

 タブリス。
 ヘヴンズドアを開いたまでは良かったが、最後の最後で我らを裏切ったか。
 彼を攻めるのは間違っている。最初からこれが筋書きだったと考えればな。
 左様。彼が最後の使徒であったことは事実。
 だが生命の継承者であることはどこにも記されてはおらん。死海文書の中にはな。
 もはやアダムや使徒の力は借りぬ。補完は我々自身の手で行えということだ。
 神も人もすべての生命がやがてひとつとなるために。
 滅びの宿命は再生の喜びでもある。今度こそそのときが来た。
 だがその前に、ひとつ忘れてはならぬことがあるぞ。
 碇ゲンドウ。
 我らに背き、滅びを拒み、自らの補完を目論む者。
 彼には、死をもって償ってもらおう。


「老人たちは焦りすぎたな」

 司令室の中、冬月はゲンドウに背を向けたままそう言った。

「――無理もない。エヴァ、アダム、リリス。すべてが我々の手の中に揃っているのだからな」

 ゲンドウも冬月を見ずに答えた。

「初号機パイロットはよくやったと思わんかね?」

 答えはない。冬月はちらりと振り返り、続ける。

「だがまあ……ロンギヌスの槍を失ったままでは、あの少年がリリスに接触したとしても補完は不完全なものに終わっていただろうがね」
「ロンギヌスの槍……。そして一番必要なものが欠けていた」

 ゲンドウの言葉に冬月が再び振り向く。その視線の先にはレイの姿があった。


 アスカの病室にシンジが立っている。アスカは目を開いてはいるが、その瞳は何も映してはいない。

「アスカ……起きてよ、アスカ」

 シンジが無表情のまま言う。

「なにいつまでもそんなトコで寝てるんだよ。大変なんだよ、僕ひとりで。
 初号機もなくなっちゃったし、みんな死んじゃったんだよ。綾波も渚も加持さんも」

 何の反応も見せないアスカにシンジは苛立つ。

「アスカッ! 起きろってば!」

 シンジはアスカの腕を掴み、その上半身を強引に引き起こす。アスカはされるがままだった。シンジは茫然とした表情になる。

「こんなの、アスカじゃないよ。
 前みたいに、笑ったり怒ったりしてよ」

 そしてアスカの肩を掴み、激しく揺さぶりながら叫んだ。

「僕をバカにしたり、毒吐いたり、よけいなおせっかいやいたりしろよ!
 こんなのアスカじゃない! 僕が守りたいのは!
 こんな抜けがらみたいなアスカじゃないんだ!」

 アスカが突然口を開き、絶叫した。

「きゃーあああああ!!」

 叫びながら、爪を立てた手でシンジの頬を打ち、倒れた彼に乗りかかり首を絞める。

「アス……やめろッ、苦し……!」

 アスカは絶叫を続けながら、その行為を止めようとはしない。瞳には狂気が宿っている。

「何してるっ!」

 医師と看護師が病室に走り込む。

「放すんだこら!」
「そっちおさえて!」

 二人の医師がアスカを押さえ、看護師がシンジを抱き起こす。

「君……大丈夫?」
「はい……」

 シンジが咳き込みながら答える。

「鎮静剤だ! 早く!」
「ほらっ、おとなしくして!」

 叫び続けるアスカを医師がベッドに押さえつける。

「とりあえずここから出て」
「でも……」

 看護師の言葉にシンジはためらう。

「いいから早く!」

 背中を押されながらシンジは振り向く。

「……ッライ!」

 アスカが言葉を発した。

「キライ! キライキライ! みんな、大キライ!」

 狂気を宿した瞳を見開き、彼女は叫んだ。

 シンジが病室の外に出ると、その扉は素早く閉ざされた。
 傷ついた頬を撫で、彼はつぶやく。

 ――アスカ……なんで……。

 気配に顔を上げると、右の方の廊下に、ゲンドウに従って歩くレイの姿が見えた。
 レイも彼に気づいた。冷たい視線が絡む。彼女は表情を変えぬまま顔を前に戻すと、ゲンドウに従ったまま廊下の向こうに消えた。

 シンジはしゃがみこみ、膝を抱えて嗚咽した。


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STAGE.76「最後の敵」


 MAGI内部のメンテナンススペースだろうか、ケーブルが床を這う狭い廊下で、缶コーヒーを傍らに置いたミサトがノート型の端末を膝の上において操作している。廊下の幅は足を伸ばすだけの広さもない。

「そう、このためにエヴァが13体必要だったのね……」

 端末の画面を見ながら彼女はつぶやく。

「できそこないの群体としてすでに行き詰った人類を、完全な単体としての生物へと人工進化させる補完計画。
 まさに理想の世界ね。
 そのためにまだ委員会は使うつもりなんだわ。
 ネルフではなく、あのエヴァを」

 その時、端末が警告音を発し、画面にDELETEDの文字が走った。ミサトは拳銃を持ち立ち上がる。

「気づかれた!?」

 その指は既にトリガーにかかっている。

「いや……違うか……」

 廊下の先で何かが光った。

「始まるわね……」


 司令塔ではMAGIが警報を発している。

「通信機能に異常発生! 外部との全ネット情報回線が一方的に遮断されています!」
「左は青の非常通信に切り換えろ! そうだ、衛星を開いてもかまわん!」

 冬月が館内電話を取って叫ぶように指示を出す。青葉が重なるように報告する。

「全ての外部端末からデータ侵入! マギへのハッキングを目指しています!」
「やはり、目的はマギか……。侵入者は松代のマギ2号か?」
「いえ、少なくともマギタイプ5、ドイツと中国、アメリカからの侵入が確認できます!」
「ゼーレは総力を挙げているな。彼我兵力差は1対5。分が悪いぞ」
「第4防壁、突破されました! データベース閉鎖! ダメです、侵攻をカットできません!」

 日向に続いてマヤも報告する。

「さらに外郭部侵入! 予備回路も阻止不能です!」
「まずいな……」

 冬月は背後のゲンドウを意識しながらつぶやいた。

 ――マギの占拠は本部のそれと同義だからな。


 ミサトが本部に向けて歩きながら携帯で状況を確認する。髪を止めているゴムを外した。

「状況は!?」
 ――先ほど第2東京からA-801が出ました。
「801?」
 ――特務機関ネルフの特例による法的保護の破棄、及び指揮権の日本国政府への委譲です。

 電話の相手は日向だ。

「最後通告ですよ。現在マギがハッキングを受けています。かなり押されています」

 マヤが電話を代わる。

「伊吹です。今、赤木博士がプロテクトの作業に入りました」

 突然の警告音に二人が振り向くと、上昇してきたリフトにミサトの姿があった。

「リツコが……!?」


 司令塔の中は束の間の落ち着きを取り戻していた。

「あとどれくらい?」

 ミサトの声に日向が答える。

「間に合いそうです。120ページ後半まであと1分半、一次防壁展開まで2分半ほどで終了しそうです」
「さすがは赤木博士ですね」

 そう言ったマヤも、報告した日向も嬉しそうだ。だがミサトは冷静だった。

「安心してる場合じゃないわよ。マギへの侵入だけで済むような生易しい連中じゃないわ」


 マギの奥深くに、端末のディスプレイに照らされるリツコの姿があった。

「必要となったら捨てた女でも利用する……。エゴイストな男……。
 なのに私、まだそんな男の言うことに従ってる。バカなことをしてるわね。
 でも、母さんなら、わかってくれるでしょ?」


 司令塔ではマヤが笑顔で報告していた。

「マギへのハッキング停止しました! Bダナン型防壁を展開、以後62時間は外部侵攻不可能です!」


 リツコは少しのあいだ目を閉じてから、顔を上げて眼鏡を外した。

「母さんの残した裏コードのおかげで助かったわ」

 筐体に手を触れ、そうつぶやく。

「また後でね、母さん」


 ――ゼーレ

 碇はマギに対し、第666プロテクトをかけた。
 この突破は容易ではない。マギの接収は中止せざるを得ないな。
 できるだけ穏便に進めたかったのだが、いたしかたあるまい。
 本部施設の直接占拠を行う。


 セミがうるさいくらいに鳴く林の中、戦闘服の男たちが展開している。
 野戦電話を切った男が言った。

「始めよう。予定通りだ」

 重戦闘機が本部に向かう。


 ――つづく。

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【タイトル】Re: 貞本エヴァ STAGE.75「欠けた心」、STAGE.76「最後の敵」/貞本義行
【記事番号】-2147481356 (-2147481357)
【 日時 】07/01/08 20:15
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>

> みんな死んじゃったんだよ。綾波も渚も加持さんも

!!

mailto:tamb○cube-web.net


【タイトル】Re: 貞本エヴァ STAGE.75「欠けた心」、STAGE.76「最後の敵」/貞本義行
【記事番号】-2147481326 (-2147481357)
【 日時 】07/02/05 00:16
【 発言者 】のの

結局どういう着地をしたいんだろうか。


【タイトル】Re: 貞本エヴァ STAGE.75「欠けた心」、STAGE.76「最後の敵」/貞本義行
【記事番号】-2147481309 (-2147481357)
【 日時 】07/02/16 02:07
【 発言者 】dan

新劇場版にシンクロさせて終わるのか?


【タイトル】Re: 貞本エヴァ STAGE.75「欠けた心」、STAGE.76「最後の敵」/貞本義行
【記事番号】-2147481305 (-2147481357)
【 日時 】07/02/17 14:49
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>

 danさん、お初ですかね。よろしくどぞ。

> 新劇場版にシンクロさせて終わるのか?

 どうでしょうね。貞本さんは、新劇場版はある意味コミックのリメイクだ、みたいなこ
とを言ってるみたいですけど、普通にEOEになるような気も。

 というか、新劇場版の漫画版の連載が始まったらどうします?(爆)

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メンテ

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