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ある少年の一日
日時: 2009/05/31 00:00
名前: ヤブ

【タイトル】ある少年の一日
【記事番号】-2147481352 (2147483647)
【 日時 】07/01/12 00:24
【 発言者 】ヤブ

 チュンチュン

 今日もそんな小鳥のさえずりと共に深紅の瞳を開かせようとするものがいた。

 ……眠いねえ、とても起きる気にはなれないよ。二度寝、この甘美なる誘惑に勝てる者がいるとは到底思えないね。そうは思わないかい?

 いったい誰に言葉を投げ掛けているのかは全くもって不明だが、渚カヲルはそういって気持ち良さそうに再び眠りに落ちていった。


ある少年のありふれた一日


 渚カヲルの一日は二度寝からの目覚めと共に始動する。

 ……今日もあの誘惑には勝てなかったようだね。だけど、そんなことは気にするに値しない。生きていく上で重要なのは次に何をするかということだからね。そして僕は今シャワーを浴びなければならない、結果遅刻することになっても……。

 カヲルは顔にアルカイックスマイルを貼り付けたまま、毎朝繰り返され身体に染み付いた思考と行動をおこしていく。
 たとえ時間に追われることになろうとも決してその優雅さが失われることはない。
 カヲルはパジャマを脱ぎ終えると丁寧に洗濯機に入れ、制服と下着を用意しバスルームへと消えていく。そして思い切り良く蛇口を捻ると、シャワーが温かくなる前に頭から浴びた。

 ふっ、なかなか刺激が強いようだね。身体にはあまり良くは無さそうだけど、目を覚ますのにはもってこいだよ。

 彼はこれによって半覚醒状態だった頭を覚醒状態へともっていく。そうして一通り汗を流し終えると、入念に身体と頭を洗いバスルームを後にする。その時に何気なく鏡に視線を送るのもまた習慣となっている。

 カヲルは次に朝食の準備をはじめる。その時にクラシックを流すことも忘れない。
 今日のメニューはトースト二枚とコーヒー、そしてシリアル。コーヒーは勿論ストレートである。この時点で時計の針は8時丁度を指している。尚、第3東京市第一中学の登校完了時間は8時20分。学校はカヲル家からは徒歩30分程である。
 それでもカヲルは朝食を優雅に進めていく。そして身支度が全て完了する頃にはホームルームが終了している。


 カヲルが家を出たとき、まずはじめに目に入ってきたのはこれ以上ない程に澄み切った青空。その空という名の海を雲が優雅に漂っている。

 この青空の中、流れに身を任せて漂うことはどれほどの安らぎを与えてくれるんだい? ……今日は絶好の散歩日和という事だね。心の安らぎ、それは人の生きていく上で決して欠かすことの出来ない要素の1つだよ。どうやら僕の心もそれを欲しているようだね。

 そしてカヲルは今日も散歩がてら学校に行くことに決めるのだった。


 カヲルは学校で一時間目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴るのとほぼ同時に教室の扉を開いた。

「やぁみんな、おはよう」

 その顔にはいつもの笑顔が浮かんでいる。そしてこの少年があまりにも清々しく遅刻を繰り返す様に、委員長こと洞木嬢も注意することを諦めている。そしてそんな少年に誰よりも早く声をかけるのが碇シンジであった。

「おはよう、カヲル君。今日も一時間目には間に合わなかったね」

 そういって微笑むシンジにカヲルも心からの笑顔を向ける。

「僕も早くシンジ君に会いたくて仕方が無かったんだけどね。世の中には多くの止むを得ない事象というものがあるものなのさ」

 シンジはカヲルが何をいっているのかよく分からないといった感じで苦笑している。
 そしてそこに青い瞳と赤茶色をした髪を持つ、SALこと惣流・アスカ・ラングレー嬢が現れる。

「あんた馬鹿ぁ? そう毎日毎日止むを得ない事象なんてあるわけないじゃない。大体いちいち変な言い回しで喋るんじゃないわよ。分かりにくいったらありゃしない」
「そうかい? だけど僕にとってはこれが普通なんだよ。惣流・アスカ・ラングレーさん?」
「なによそれ。ホントあんたって気持ち悪いわね〜」
「アスカ、そんなこといったらカヲル君に失礼だよ」
「シンジ君は優しいねぇ」
「あんたは一々首突っ込まなくていいの!」
「ご、ごめん。……でも」

 そういうこと言うのはよくないよ、と言おうとしてやめた。
 アスカからのプレッシャーに完全に圧倒されてしまったからだ。

「でも、なにぃ?」
「…いや、なんでもないよ…」

 うぅ、情けない……。

 そして三馬鹿1号、2号は毎日のように繰り返されるそんな言い合いをボケ〜っとした様子で眺めている。

「あいつらも毎度毎度ようやるわ」
「まぁね。あれはあれで楽しんでるんじゃないか?」
「せやなぁ。……にしてもセンセは情けないの〜」
「言うなよトウジ。相手が惣流じゃあシンジには荷が重いって。…というよりは、渚くらいしか相手にならないんじゃないのか?」
「あと、綾波や」
「あぁ、そうだったな」

 そういってレイを見る二人。
 レイは頬杖をついて窓の外を向いているが、時折チラリチラリとシンジを盗み見ている。

「……綾波も、変わったよな」
「ほんまやな。あの綾波の笑顔が拝める日が来るなんての〜」
「そのお陰で俺の懐も今まで以上に潤うようになったしな」
「……なぁ、ケンスケ」
「ん?」
「平和やなぁ」
「あぁ、まったくだ」

 そして二時間目の始まりのチャイムが鳴り響いた。


 カヲルは授業開始と共にケンスケ写真市場の新商品チェックをはじめる。尚これは女子には男子の写真、男子には女子の写真のみを情報を公開している。写真のサムネイルなどは表示されず、生徒ごとに何枚新作があるのかを公開している。その写真を欲するものはケンスケに直接見せてもらい購入するか否かを決めるというシステムだ。
 しかし、カヲルの端末には碇シンジの写真が映し出されている。これは親しい友人ということでケンスケが特別に送っている。またケンスケ曰く、金をとる気になれない、だそうだ。

 ふふふ、今日もいい写真が入っているようだね。シンジ君、君は僕の太陽さ。君の笑顔は僕の心を容易に溶かしていくよ。特にこの写真の笑顔なんて………ん?

 そこには極上の笑みを浮かべたシンジと、その笑顔を向けられ心持ち頬の染まったレイが写っていた。

 ふっ、また君か。どうやらこれは早急にあるべき姿に直す必要があるね。

 カヲルは怪しげな笑みを浮かべながら凄まじい勢いでその写真を処理していく。その姿は周りの生徒たちを引かせるのには十分すぎるものであった。
 そしてカヲルの作業が終了し口元が不気味に弛むと、端末に写る写真が先ほどとは違った形に修整されていた。
 先ほどレイの写っていた場所にはこちらも極上の笑みを浮かべたカヲルが写っているのだ。そしてその処理の実に見事なこと。誰が見てもはじめからこういう写真であったのだと思うはずだ。
 ちなみにカヲルの技術指導にあたったのは、某特務機関のマッドな科学者であるらしい。

 ふう、これであるべき姿に戻ったね。やはり彼女とはシンジ君をかけて戦わなければならないようだ。まぁいい、恋愛に障害は付き物だからね。そしてそんな障害があるからこそ二人の愛はさらに激しく燃え上がっていくのさ。

 そして徐々にあちらの世界へトリップしていくカヲル。そして彼は四時間目終了のチャイムが鳴るまでこちらの世界に帰ってくることは無かった。
 その間シンジはどこからか凄まじい視線を感じ授業に全く集中できなかったという。


 四時間目が終わると、どの生徒たちもいくつかのグループを作り昼食を取り始める。カヲルは勿論シンジたちと共に昼食をとることになっている。

「それじゃあ僕達は先に屋上に行ってるから」

 シンジはそういって先に屋上へと向かう。カヲルにとってこの瞬間が最も恐れている時だった。

 速くしなければ僕の大事なシンジ君が彼女の毒牙にかけられてしまうかもしれないね。それは僕の望むところではない。

 そしてカヲルは鬼気迫る勢いで売店へと駆ける。それでいてその笑みは崩れることが無いのだからその不気味さは一級品だ。

 その頃屋上では、カヲルを除いたメンバーが円くなって座っている。

「はい、綾波のお弁当」

 シンジはレイのお弁当も作ってきている。本人曰く固形栄養補助食品ばかり食べているのは見ていられなかったのだそうだ。

「……ありがとう」

 レイはそういってお弁当を受け取る。中に肉を使った料理は入っていない。
 そしてレイはアスカとシンジのお弁当の中身を確認する。すると二人のお弁当の中には肉料理が入っているのが見える。
 そしてそこからシンジは自分の為にわざわざ別の料理を一品作っているのだということが分かる。それを申し訳なく思う気持ちはあるが、そんな些細な気遣いが嬉しい。
 そうしてレイも料理を口へ運ぶ。

 ……おいしい。それに、温かい。

「あの、どうかな?」

 シンジは心配そうな顔をしてレイに訊ねる。

「……おいしいわ、とても」

 そういって微笑んだ表情は純粋な幸せを感じさせるものだった。

「……ほんとに!? そういってもらえると嬉しいよ」

 シンジは一瞬レイの笑顔に見惚れて反応が遅れたが、頬を赤く染めながら嬉しそうに微笑んだ。
 しかしそんな雰囲気も長くは続かない。

「待っていたよシンジ君」

 そんな意味不明なことをのたまいつつ、カヲルはシンジの隣に腰をおろす。その鋭い視線の先にいるのはレイだ。

 全く油断も好きも無い泥棒ネコだね。僕のシンジ君は優しいからね、そこにつけこむなんて卑劣極まりない行為だよ。

 そしてレイもカヲルに厳しい視線を送る。

 ……この人、嫌い。いつも碇君との時間を邪魔する。……そう、あなたも碇君のことが好きなのね。でもダメ。碇君はホモでもバイセクシャルでもないの、ノーマルなの。ぞ〜さんは用済みなの。

 そしてカヲルに対し不敵な笑みを浮かべる。
 それに対してカヲルの笑みが若干歪む。その心中は、なんだその不敵な笑みは? といったところだろうか。

 シンジは自分を挟んで二人の視線がぶつかっているこの状態を少し居心地悪く感じていた。

「あの、カヲル君も綾波も早くご飯食べちゃおうよ」

 二人はその声を聞いてハッとしたようにシンジの方へ顔を向ける。カヲルは、僕の名前が先に呼ばれたよ、などと軽く優越感に浸っていたが。

「シンジ君、すまなかったね」
「……ごめんなさい、碇君」
「えっ? あ、いや、謝るほどのことじゃないよ」

 シンジはそういって少し困ったように微笑んだ。
 レイはそれはとても彼らしい顔だと感じた。
 カヲルはその笑顔を食い入るように見詰めていた。


 午後の授業もカヲルはいつも通りシンジを見詰めるかシンジの写真を見詰めるかして過ごしていた。頻繁に溜め息をついているその様子は、まさに恋する乙女である。

 あぁ、シンジ君。君はなんて罪作りな人なんだ。君はその優しさを誰にでも平等に与えてくれる。それは君の素晴らしいところだ。……だけど、そのことが僕の胸をきつく絞めつけるのさ。僕はいったいどうしたらいいんだい?

 完全に自分の世界に入ってしまっている。そして彼の暴走は帰りのホームルームが終わるその時まで終わることは無かった。


 帰りの挨拶と共に各々が帰り支度をはじめる。
 カヲルは身支度を整えるとシンジに声をかける。

「お待たせシンジ君、さあ行こうか」
「うん、それじゃあ一緒に帰ろう」

 そしてカヲルはシンジと二人っきりで下校することに成功した。

 二人が学校を出てから暫くしてカヲルがシンジに提案する。

「シンジ君、少しあそこで休んでいかないかい?」

 そういってカヲルが指さすのは川の近くの土手。青々と茂った芝が心地よさそうだ。

「うん、いいよ」

 シンジも承諾する。その緑の絨毯を見れば誰だって寝そべってみたくなるだろう。
 そして二人は芝の上で仰向けに寝そべった。
 シンジはリラックスしたように穏やかな表情で目を瞑る。

 はぁ〜、気持ちいいなぁ。太陽の光でポカポカして眠くなっちゃうよ。

「たまにはこういうのもいいね」
「そうかい? 気に入ってもらえて嬉しいよ」

 カヲルも穏やかな表情で答える。
 そして二人の間に和やかな空気が流れる。沈黙を嫌わないシンジの性格もあって、そのまま二人の間に交わされる言葉は無かった。
 すると暫くしてカヲルの手がゆっくりと動き出した。
 そしてそれがそっとシンジの手に重ねられる。

 シンジはビックリしたように手を引っ込め、カヲルの方へ顔を向ける。
 一方カヲルはそんなことは気にせずに言葉を紡ぐ。

「シンジ君、君は一次的接触を極端に避けるね」
「……えっ?」
「恐いのかい? 人と触れ合うのが。それでは寂しさを忘れることは出来ないよ。人は触れ合うことによってお互いの欠けた心を補完し合う生き物なのさ」

 徐々にカヲルの瞳に妖しい色が浮かび始める。ついでに徐々にシンジに迫ってきてもいる。
 シンジは、人との触れ合いが恐いんじゃなくて男同士は普通そういう接触はしないんだよ、と目で訴えかけるがどうやら効果無しであった。そしてシンジも少しずつ後退っていく。

「そして、シンジ君をめくるめく官能の世界に導いてあげることが出来る存在は、僕一人しか選ばれないんだ!」
「ちょっ、ちょっと、カヲル君?」

 しかし残念ながらシンジには理性を失ったカヲルを止める事はできない。そしてカヲルはまさに今飛び掛らんとしている。

「さぁいくよ!!」

 そしてカヲルは肉食獣のごとくシンジに飛び掛った。
 しかし、その願いを果すことなくこっそりと二人を尾行していた青い髪の少女の一撃を喰らいふっ飛んでいく。もちろん笑顔のまま。

「変態は殲滅」

 レイはカヲルの顔に芸術的なまでに美しい回し蹴りを喰らわせていた。
 カヲルは数メートルほど吹き飛んだところで停止し、ピクピクと軽く痙攣を起こして気を失っている。

 シンジはその様子を呆気に取られたように眺めていた。

「碇君ここは危険よ。早く行きましょう」
「う、うん。あ、ありがとう」

 シンジは未だ軽く放心したまま、レイに連れられて安全な帰路に着いた。


 外はもう暗くなり、空には星が輝いている。
 そして渚カヲルは蘇った。

 今日はもう少しだったのに、またしても彼女にしてやられたようだね。だけど僕は諦めないよ。ふふふふ……

 そして今日も妖しげな笑い声を漏らしながらも我が家を目指して歩き出した。
 シンジが18歳になるその日まで彼の戦いは続く。


【タイトル】Re: ある少年の一日
【記事番号】-2147481351 (-2147481352)
【 日時 】07/01/12 00:31
【 発言者 】ヤブ

 ある日寝ようとして布団に入った瞬間に「カヲルで書かないといけないよな」と思い、いきなり書き始めていた作品です。
 ただ自分の気の向くままに特に何も考えずに書いてました。
 ()を使わないで書き上げるってことは意識しました。自分はいつも()使っているので。
 そしたらやっぱりグチャグチャになってますねw
 難しいです。


【タイトル】Re: ある少年の一日
【記事番号】-2147481350 (-2147481352)
【 日時 】07/01/12 22:26
【 発言者 】みれあ

>カヲルで書かないといけないよな

カヲル君のギャグキャラピンク要員としての素養は激しく同意!

…ダメだこりゃ。


【タイトル】Re: ある少年の一日
【記事番号】-2147481349 (-2147481352)
【 日時 】07/01/13 13:27
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>

 こうして読み返すと何ともいえない話だな(笑)。

 しかし

> その時にクラシックを流すことも忘れない。

 とか全然違和感ないんだけど(^^;)、カヲルのこういう設定って、ルーツはどこなんだろう。

> シンジ君をめくるめく官能の世界に導いてあげることが出来る存在は

 ストレートすぎて笑える(笑)。「めくるめく」という単語を開発した奴は天才だ。ちなみに漢字では「目眩く」で、「目がくるめく。目がくらむ。」だそうだ。目がくるめく、なんて使わないよな。

mailto:tamb○cube-web.net


【タイトル】Re: ある少年の一日
【記事番号】-2147481348 (-2147481352)
【 日時 】07/01/13 14:41
【 発言者 】ヤブ

> ギャグキャラピンク要員としての素養

 誰が見ても素養満天ですからねw


> こうして読み返すと何ともいえない話だな(笑)。

 だと思いますw
 自分で書いてて「俺はいったい何がしたいんだか……」って思ってましたからね。


> カヲルのこういう設定って、ルーツはどこなんだろう。

 単純にBGMの第九が印象強いからではありませんか?
 クラシック=なんとやら、というような感じで。
 ……もしかして意味を取り違えてます?


【タイトル】Re: ある少年の一日
【記事番号】-2147481342 (-2147481352)
【 日時 】07/01/13 23:57
【 発言者 】あいだ

ヤブさんはグチャグチャと仰ってますが、私はこの書き方好みですよ。

個人的に生きて存続するカヲルと言う存在を許容出来ないので自分ではこういった話は書きませんが、すごく面白かったです。

これからも楽しみにしてます。


【タイトル】Re: ある少年の一日
【記事番号】-2147481340 (-2147481352)
【 日時 】07/01/16 00:54
【 発言者 】ヤブ

> 面白かったです。

 僕が思っているほど酷くはないようですね。
 一安心です。


【タイトル】Re: ある少年の一日
【記事番号】-2147481335 (-2147481352)
【 日時 】07/01/17 20:52
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>

テストや宿題は終わりましたか?(笑)

> もしかして意味を取り違えてます?

あってます。

mailto:tamb○cube-web.net


【タイトル】Re: ある少年の一日
【記事番号】-2147481334 (-2147481352)
【 日時 】07/01/17 22:42
【 発言者 】ヤブ

テストや宿題は終わりましたか?(笑)

 宿題は終わりました。
 テストもいろんな意味で終わりましたw

メンテ

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