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環状線
日時: 2009/05/31 00:00
名前: aba-m.a-kkv

【タイトル】環状線
【記事番号】-2147481208 (2147483647)
【 日時 】07/06/06 20:37
【 発言者 】aba-m.a-kkv

― がたん、ごとん、がたん、ごとん ―


定期的な間隔で伝わる振動が何処か心地良い。

肩に寄りかかられてるぬくもりもそれを増しているのかも知れない。

今は電車の中。

発展した第三新東京市の環状線に揺られ、行く先も目的も無しに、僕は君と一緒にループアンドループを巡り廻っていた。


環状線   aba-m.a-kkv


「一度してみたかった」そんな君の言葉がキッカケだった。

紅い眸を真っ直ぐ向けて言う君に僕は躊躇い無くOKを出した。

「環状線で第三新東京市をぐるぐる巡ってみたい」という提案に。

大きく変わっていくこの街を眺めるのは、いつもの散歩と変わらない、ただ自分の足を使わないだけ。

それに、いつも目的と行き先がないと乗ることのない環状線に、何も持たずに乗るのも悪く無さそうだった。

何より、愛しい君と共に過ごせる時なんだから。


ピクニックに行くような雰囲気で軽やかに前を歩く君の姿を追いながら、もより駅の改札を抜ける。

最近できた環状線一日乗車券を手に。

こんな乗車券が出来たのも、この街が人を中心にして大きく成長した証の一つに思う。

午前中の混んでる時間帯を縫って乗り込んだ環状線は空席も残り、僕と君とで並んで端っこの席に座った。

ちゃんと触れ合うほどの距離で。

軽い圧搾音が響いて扉が閉まると僕たちの散歩が始まった。


― がたん、ごとん、がたん、ごとん ―


電車特有の振動に揺れながら窓の外の景色を眺めたり、ヒューマンウォッチングをしたりして君とゆったり話をする。

この駅のなんとかってお店がよかった、とか。

あの人が持っていたパンフの映画はどうだったとか、そんな派生した話も。

見つめようとすればそれだけ、環状線の沿線上は色に富む。

どの景色も、どの人影も一つとして停滞していない。

変わりゆく街の色。

変わりゆく人の色。

旧世紀は停滞の象徴が世界を覆い尽していた。

人の路線の限界、成長への行き詰まり。

旧世紀のそれは、人をヒトから外そうとさえするキッカケになった。

でも、この新世紀はどうだろう。

最善にはほど遠いかも知れない、最高など無いのかも知れない。

でも、人はまた、前に歩き出す道をゆっくりと進み始めている。

戦下の中枢となったこの街でも。

復興していく街、笑顔の増える人々、それが証。

そんな景色を見て、新世紀を導けたことを心の中で喜んでいた。

たぶん隣にいる君も同じはず。

お互い優しい笑顔を浮かべているから。


― がたん、ごとん、がたん、ごとん ―


流れる窓の景色の欠片がひととき程の時を繋いで巡りすぎた頃、いつのまにか穏やかな沈黙が満ちて、こつんと肩に重みが加わった。

「レイ?」

隣に目を向けると、綺麗な紅い眸を隠してしまった君の姿が映り込む。

安らかな表情で僕に身体を委ねて眠り込んでいた。

窓からさす初夏の暖かい明かりや環状線の定期振動の心地良さに瞼を閉じてしまったのかも知れない。

誘った本人が寝ちゃうなんてね、なんていう微かな呟きも笑みと共に溢れていく。

願ってやまなかったぬくもりが、いまは普通に傍らにある支合わせもあいまって。

確かにこの独特な振動と音は眠気を誘うかも知れない、そんな風に考えながら、今度は一人電車の窓の外を眺める。


― がたん、ごとん、がたん、ごとん ―


「……環状線、か」


二度目に聞く駅のアナウンスを耳にしながら、あの建設中の百貨店は見たなという感じで、映る景色がループアンドループに陥ったのを見つけた。

ぐるぐる巡り廻るワッカの中。

昔はそんなのが苦手だったのを思い出す。

自分の嫌いな自分の歩いてる道に似ているから。

居場所がないとわかっていながらいろんなところを巡り廻る。

でも、どこも同じで繋がっている。

そんなループアンドループは苦手だった。

でも、いまは違う、君が隣にいる今は。

同じ時の上の同じ場所、同じものはないって教えてもらったから。

この世界は螺旋階段だって気が付いたから。

ぐるぐる巡りに廻っても、それは別の時、別の場所へと繋いでくれる。

ループアンドループと思っていた旧世紀の自分でさえ。

だから、今の自分がいる。

そして、この環状線も同じ。

その窓に映る景色も、乗降していく人たちも、そして席に座る僕と君も、螺旋の上にいる。

一つとして同じ場所でとどまってはいない。

いろんな意味の上で、前へと進んでいる。

それに、変わらずに共に進めるものの大切さを、いまは知っている。

隣に在る重み、隣に在るぬくもりがその証。


「……環状線、か」


ふと、隣で気持良さそうに眠る君のほうを覗きこんだ。

もしかしたら、君はそのことを贈ってくれたのかな。

一緒に、このループアンドループで時を過ごすことで。

ちょっとの驚きと微笑みを浮かべて、僕は寄りかかる君にそっと寄りかかった。


ひとつだけ、ひとつだけなら、ループアンドループでもいいかも知れない。

君との絆なら。

君から抜け出せないまま巡りに廻るのなら。

そんなループアンドループなら。


― がたん、ごとん、がたん、ごとん ―


環状線がぐるぐる巡り廻っていく。

僕も、君を隣に、ぐるぐる巡り廻っていく。


シンジくんへ、一年間ありがとう。

そして、これからの一年もよろしく。


【タイトル】Re: 環状線
【記事番号】-2147481207 (-2147481208)
【 日時 】07/06/06 20:39
【 発言者 】aba-m.a-kkv

よかった、なんとか投下できました。


【タイトル】¬REW
【記事番号】-2147481206 (-2147481208)
【 日時 】07/06/06 23:24
【 発言者 】のの

巻き戻せません。

できるはずがありません。

さて、どこへ行かれるのですか?


¬REW


第三新東京市をぐるりと包囲する環状線に乗っている。
いつも下りる駅で下りないで、同じ姿勢で。
一人ではなかった。彼が隣にいた。

わたしは、彼が薦めてくれた本を読んでいる。
一昨年前に出た本で、先日文庫化された。わたしは知らなかった。
タイトルは「ドミネ・クオ・ヴァディス」。

「意味は知らないんだ」と彼は言っていた。
「綾波は知ってる?」と彼が訊いてきた。
彼を見て、頷いた。彼が目顔で「どういう意味?」と訊ねてきた。


彼を見上げたわたしは、なぜだか言えず、頁をめくってごまかした。


あれから四十分がたつ。
わたしは下りるべき駅を通りすぎて、まだ乗っている。
彼の下りるべき駅は、いま、ドアがしまった。

「……綾波って、いつも難しい本読んでるよね」
「そう?」
「うん……だから、たまにはそういう本もいいかな、って。どう?」

話は、確かに難しくない。けれど、どういう主旨で書いているかはわからなかった。
ただ、主人公が歌う唄だけは、鳥肌が立った。
氷の針で記されたかのように残酷だった。


永遠を頬張ったので、排泄を行う


この一節だけが、気持ちが悪い。鳥肌が立つ原因でもある。
永遠を得て、どうしてそれを排泄するのだろう。
わたしの願いは、まさに、永遠を得ることなのに。永遠の無を得ることなのに。

本を閉じた。
彼がすこし、体を震わせた。驚かせたかもしれない。
わたしは本を鞄にしまった。

「……。」
「……………………」
「……。」


いつ下りるのだろう、彼は。


わたしはどうして下りなかったのだろう。
なぜだか、そうしたかった。下りたくなかった。
彼が下りたら、逆の電車に乗ればいい。そう思っていたら、彼も下りなかった。

この回転が終わったら、わたしは家に帰って眠る。
朝まで眠って、訓練に出る。いつもと同じ。くるくるめぐる、いつもの日々。
この電車と同じ、同じところをくるくる回るだけのこと。

ありふれているのか、あふれきっているのか。
赤木博士がいつか、そんなことを呟いていた。
あのときの博士は、なんと言っていたの……?そう、たしか−−


「あなたが普通と思っていることは本当に普通なのか?ということよ」


わたしが普通と思っていることは、碇司令が当然と思っていることだと思う。
それを疑うという選択肢は、わたしにはありえない。赤木博士もそうではないの?
あのときはわからなかった。でもいまはわかる気がする。

電車は同じ場所を走る。
わたしは、自分もそうだと思っている。
でも、そうではない自分がいる気がする。おかしな話。

おかしくないかもしれない。
碇くんといるときは、わたしはいつものわたしじゃないと思う。
だって、いま、こうしている。


「乗りすごしてるよね……」


碇くんが呟いた。わたしは頷いた。
わたしは窓の背後の景色を振り返り、見た。碇くんが、わたしを見た。
わたしはなぜか、顔を上げられなかった。ぶつかりそうなほど近くにいる彼の目を見られなかった。

無へと帰る。永遠の無へと。
その願いがかなえば、わたしは使命を果たせる。
けれど、だからと言って、同じところを走らずに済むとは限らない。ふと、そんな気がした。

永遠であるということは、回転の中にいるということ。
それでは、今となにも変わらない。行く先が無でも、自分の部屋でも。
ではどうすれば、わたしが望むところへ行けるのだろう。

薦められた本のタイトルがちらついた。
全身の毛穴が開いて、汗が噴き出てくる。
すると突然、彼が立ち上がった。


「碇くん!?」


自分でもびっくりするような声だった。
彼はもっとびっくりしていた。
「ご、ごめん!」という、彼の声がわたしの耳に入り、全身をめぐっていった。

それでも足りない。暑いのか寒いのか、体が震えそう。
こらえきれずに立ち上がって、彼の腕を掴んだ。
細い腕だった。

彼は、こんな腕で戦ってきた。訓練の行き届いていない身体。
あのひとの子供。サードチルドレン。碇ユイ博士の息子。
でも、わたしはそういう風に呼ばれる彼よりも、友達と一緒にいる彼の顔の方がいい。


「碇くん……」


碇くん。シンジ君。シンジ。
そう呼ばれているあなたがいい。
そしていま、ようやく、どうしてずっと電車に乗っていたのか理解した。心でできた。

「綾波?」
「……。」
「あ、あのさ、とりあえず……座ろうよ」

さっきの席に戻ったわたしたちは、さっきとはちがった。
わたしの右手は、碇くんの両手に包まれている。
わたしを見ている碇くんの両手が、わたしの手を包んでいる。


「どうしたの?」


ごめんなさい。
大丈夫。
なんでもない。

どれもちがう。なにが言いたいのか、なにを話せばいいのかわからない。
どうすれば伝わるのだろう。そもそも、今の自分がどんな言葉で表す気持ちになっているのかもわからない。

「どこへ行こうとしていたの?」と訊ねた。顔は伏せた。
「え?いや、路線図見ようと思って……。」彼が答えた。たぶんわたしを見ている。
わたしは顔を上げた。碇くんは困った顔をして、誰もいない後ろを気にしたりしている。


「どこへ行くの?」


これしか言えなかった。
私自身なのか、碇くんなのか。
わからない。ただすこしずつ、そしてどんどん、怖くなってる。

「わからない。」と彼が言う。
「僕も怖い。みんないなくなっていくんじゃないかって……加持さんも、アスカも、離れてく……」
「そもそもなにを大切にしたらいいかわからないんだ。世界を守るなんて考えられない」

どこへ行くのか。道標のない道を。
もしも環状線のような道を歩いているなら、そんなことを悩む必要はない。
どこへ行くのかと思ってるわたしは、どこかへ行くつもりがある。


「手が暖かい」


そう思う。
暖かさを消したくない。
この暖かさが消えないようにすることは、ループした道を行くのではないと思う。

わたしはもしかしたら消えるかもしれない。
わたしがもしも次のわたしになったら、この想いは消えてしまう気がする。
だから、今のうちに話しておきたい。

わたしはもうループはしない。
環状線はぐるぐる巡り回っていく。
でも、わたしは、あなたと一緒に、めぐらない道を歩くことを願ってる。


【タイトル】Re: 環状線
【記事番号】-2147481205 (-2147481208)
【 日時 】07/06/06 23:27
【 発言者 】のの

思いついたので書きましたが、うまくいきませんでしたOTZ

ふひゃー。
レイ視点の環状線ネタ書きたかった。
シンジくんの誕生日だけど、レイの話書いてしまったなあ(^^;


【タイトル】Re: 環状線
【記事番号】-2147481199 (-2147481208)
【 日時 】07/06/10 14:55
【 発言者 】tamb <tamb○cube-web.net>

 環状線。一周回って同じ所に戻ったと思っても、そこはもう同じ所ではない。同じ場所
には二度と戻れない。だから前を見なければならないのかもしれない。

 あなたは行けないから、あるいはあなたが行くべきではないから私が行く、というのは
殉教の基本的な理念のような気がする。では「私」に行かれてしまった「あなた」はこれ
からどうやって生きていけばいいというのだろう。どうすれば前が見えるのだろうか。

 つい先日のこと、私は郊外に向かう電車に乗っていた。私は座っていたが、その駅につ
いた時には座席にはほとんど空きがなかった。だが立っている人もちらほらという程度で、
さほど混んでいるというわけでもない。
 その駅で、高校生と思しき二人が乗ってきた。男の子と女の子。手を繋いでいるわけで
もなく、微妙な距離感を保っていた。なんとなく意識しあってはいるが、特に付き合って
いるわけでもないかな、という距離感。
 二人はドアのところに並んで立った。向き合うのではなく、二人ともドアに背中を付け
て並んで立っていた。彼女は笑顔だったが、二人に特に会話はなかったように思う。
 やがて彼女の笑顔が照れ笑いのようなものに変わり、彼の肩にことんと頭を預けた。彼
は肩をずらしていじわるをする。彼女は怒ったような顔を向けてから、もう一度頭を預け
た。
 なんて初々しい。私はそう思いながら目を逸らした。
 実話です。

mailto:tamb○cube-web.net


【タイトル】Re: 環状線
【記事番号】-2147481187 (-2147481208)
【 日時 】07/06/24 01:21
【 発言者 】aba-m.a-kkv

わー、ののさん、記念ショートショートありがとうございます!!
さすがですね、スピードも内容もともに。
旧世紀のころの二人の立ち位置、心情、素晴らしい描き方だと思います。
ののさんらしい文体もとても好きですね。
「ドミネ・クオ・ヴァディス」とレイの独立した切ない問いに鳥肌が立ちました。
いいSS、感謝です。

tambさん、それはとてもとても初々しい実話ですね。笑
これ、このままSSになるんじゃないですか?
背景描写と心理描写を含めて。
日常生活のなかにも、元になるものはたくさんありそうですね。


環状線っていうのは時間の流れがあるゆえに螺旋線なんだな、なんて思いながら書いていました。
と、書きながら、XXXSさんの「LOOP」の強い影響下にあるなあ、とも思いました。笑

メンテ

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