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プロミネンス
日時: 2009/05/31 00:00
名前: aba-m.a-kkv


【Date:】 4 Dec 2007 23:29:00
【From:】 "aba-m.a-kkv"
【Subject:】 プロミネンス






立ち上る湯気と、芯まで伝わってくる温かい熱の対流。

視界は白く煙り、水蒸気から水に変わった水滴が静かな空間に微かに音を打つ。

そんな浴槽に浸かっていると、時たまに思い出すことがある。

いまの、この場所とは全然違った昔のことを。

もう何年も前、この冬の存在すら予想もしなかった頃、もっとボロボロの浴槽の中、身体を温めない緩い水に浸かって、虚ろな眸を天井に向けていた自分がいた。

あの時の私には熱なんて無いみたいなものだった。

心の命も、体の命も、ほとんど消えかかっていて、私が灯す炎の熱は自分で触れたって熱くないくらい。

ましてや、他人を暖めたり燃やしたりするなんて有り得ないことだった。

でも、今の私の中には炎が、私の長い髪のように燃える炎がある。

それが、不思議だった。


「ほとんど消えていた私の火が、なんで今は炎となって燃えているんだろう……」


アスカは、そう呟いた口唇までお湯に浸かり、全身をよく温めてから浴槽から上がった。





プロミネンス aba-m.a-kkv





身体をよく拭いてお揃いの黄色地に白い水玉のパジャマを着て、それから髪を丁寧に乾かしてからアスカは寝室へと向かった。

廊下はもう電気が落としてあって薄暗い。

冬の季節らしい空気が、暖房を切った部屋に伝わり始めているが、アスカの身体は温かいまま下がることをしらない。

唯一、すぐに冷たくなってしまう左手の先も、それくらいなら逆に心地いい。

壁を伝いながら進んでいき寝室の扉に手をかけて開けると、スタンドライトの小さな淡い光の中に影が座っていた。

同じお揃いのパジャマに銀色の綺麗な髪を冠して。

でも、既に横になっていると思っていたその人は、ベッドの上に座ったまま、その紅い眸を隠している。

アスカは思わずキョトンとした。

自分が入浴していた時間を計算してみて、やはりそんなに短い時間じゃないと考える。

その間、横にもならずに座っていたのだろうか。

瞼を閉じるくらいなら寝てたっていいのに。


「アンタ、何やってんのよ?」


アスカはカヲルのすぐ近くに立って腰に手を当てる。

そんなアスカの雰囲気にカヲルはゆっくりと瞼を開いた。

そこで、アスカは再びキョトンとして、それから少し笑ってしまった。

カヲルの身体が微かに震えていたからだ。

よく見れば、猫背に丸くなったカヲルは硬直しているように見える。


「アンタ、寒いの?」


コクリと頷くカヲル。

確かに部屋は肌寒い。

窓際からガラスとカーテンをすり抜けてシンシンと冷気が伝わってくる。

冬の季節にはしょうがないことであり、アスカはもう慣れてしまって久しい。

それに、お湯に浸かってから横になれば十分暖かくなる。

暖房は後で暑すぎることになるし、使わなければ節約にもなる。

だから二人ともそう決めて過ごしてきた。

そんな中で何処か弱々しいカヲルの姿に、アスカは呆れ顔で言う。


「なら、ベッドん中に入ってればよかったじゃない」


そんなアスカの言葉に、カヲルはやっとという感じで口唇を開いた。


「いや、寒くて冷たくて、中に入れなくてね。

 本当は温まった身体で直ぐに潜り込んでしまえばよかったんだけど、気になる資料を思い出してたら、この様だよ。

 使徒である僕も、冬の寝る前の寒さは苦手みたいだ」


首をすくめながら寒々しいアルカイックスマイルを浮かべたカヲルを見て、アスカは息をつく。

それから、ゆっくりとカヲルの隣に腰を下ろした。


「バカじゃないの、ホンの少し我慢して潜ってればすぐ暖かくなるわよ。

 それか、いまだけでも暖房を入れればいいのに」


アスカの口調が優しいものに変わっていく。

片手を置いたその肩が、何だかとてもひんやりしているように感じる。

カヲルの身体が冷たいのか、アスカの身体が熱いのか。

その両方かもしれない。

それから、カヲルはアスカの方によりかかってきた。

アスカはそんなカヲルを受け止める。


「寒くて冷たいのは独りには酷しいのさ、単体にとってはね。

 特に、リリンのぬくもりを知って長くなればなるほど。

 冬は自らの熱も他人の熱も感じやすい季節だ。

 だから、なおさら触れたくなる。

 冷たいのは嫌だし、暖房の暖かさも遠慮する。

 僕が欲しいのは――」


カヲルが手をアスカの頬に伸ばす。

でも、アスカはそれをゆっくり押さえつけた。


「じゃあ、アタシを待ってたのはワザとなわけ?」


カヲルが嬉しそうに笑った。

それから、真摯な紅い瞳をまっすぐ向けて囁く。


「だとしても、それは僕の無意識だ。

 絶対領域、欠けた心。

 僕のレゾンデートルが君を、求めて、やまない」


この冬のように芯に伝わる冷凛としたカヲルの声に、アスカの中心が熱くなる。


なんでだろう、カヲルの言葉は凛としているはずなのに、それは私の中にくべられる薪みたい。

私の中の赤い炎が燃え上がっていく。

同じくらいに愛しさも。


アスカがカヲルの頬に触れる。

冷たさの奥にある血の温かさを感じる。

そして、鼻が触れあうほど、吐息を感じるほど、カヲルのすぐ近くまで顔を寄せて、アスカは囁いた。


「やれやれ。

 まったく、困ったヤツ。

 そんなヤツは、アタシの赤い炎で、“焼き尽くしてやる”わ」


アスカは荒々しく口唇を重ね、カヲルをベッドに押し倒した。




冬の夜、冷たい部屋、それを飲み尽くすほどに重なる炎、溶け合うぬくもり。

アスカの赤い炎がカヲルを焼き尽くしていく。


この炎は、何処から来たんだろう――


二人の絶対領域が溶けあって一つになり、そして再び二つの欠けた心を生み出した。





「暖かくなったかしら? カヲル……」

「ああ、アスカに炎を貰った……君の炎で僕は燃えていられる」

「よかった……」


冬の夜が二人の上に過ぎていく。

寄り添いあった二組の閉じられた瞳を、眠りの青闇色に覆いながら。

シンシンと澄みきった夜空の月明かりは二人に優しくあたたかかった。





カーテンの隙間から薄暗がりが消えていく。

ガラス一枚隔てた向こう側からは、早朝を唱うものたちのさえずりが聞こえてくる。

そんな、早すぎる小さな目覚ましと、水たまりのように広がった亜麻色の髪を梳く優しい感触に、アスカは閉じていた瞼を開いていく。


「カヲル……?」


視界の入ってくる薄暗さのキャンバス地の中に、カヲルの白い首筋が浮かんでくる。

少し身じろぎをして視線を上げると、カヲルが優しいアルカイックスマイルを浮かべて覗き込んでいた。


「ごめん、起こしちゃったかな

 まだ、早い時間だから、もう少し寝ていてもいいよ」


そう言いながら、カヲルはアスカの頭を優しく撫で、それからその髪に指を入れて梳いていくを繰り返す。

それは、アスカにとってとても心地よかった。

すぐに、ふんわりとした感覚に包まれて瞼が下りてくる。

朝早い起抜けの浮遊感も手助けして、素直になってしまう。

そんな時、露わになった肩の上を朝方の冷たい空気が過ぎていき、アスカは身を震わせた。

ああ、なんだか、昨日の逆だな、そんな風に思いながらカヲルのほうに身を寄せる。


「寒い? アスカ」

「うん……なんとかして」


カヲルが髪を梳く手を止めて、それをアスカの背中に持っていく。

そして、繊細なガラス細工を扱うように柔らかく、でもしっかりとアスカを抱きしめた。

直に伝わってくるカヲルの熱、カヲルの炎。


ああ、そうか。

私の炎が燃えているのは、カヲルの炎を貰ってるからなんだ。


数時間前の夜の下、夢の境界線上で聞いたカヲルの言葉がふと重なった。

同じ答えなんだ。


カヲルがこうやって傍にいて私を抱きしてめくれるから、愛をくれるから、その銀色の炎が私を燃やしてくれる。

私の赤い炎を燃やしてくれる。

だから私は、私自身を燃やすことが、そして他人を暖めることが出来ているんだ。

カヲルがいるから私は私の赤い炎を燃やしていられる。

そう、あの時からそうだった、そして今も、ずっと。


「……あったかいわよ、カヲル」


瞼を閉じたまま、アスカはそう呟いてカヲルの背中に手を回す。

重なり合うぬくもり、心地いいぬくもり。

そして、冬の朝の冷たささえ覆い尽くす二つで一つの炎。

アスカの炎があってカヲルのそれがあり、カヲルの炎があってアスカのそれがある。

そんな炎を抱きしめて、アスカは再び眠りの中に落ちていく。

そんな炎への想いを、その心に刻みながら。


ここにいて

カヲルの傍にいて

私の赤い炎は燃え続ける。





アスカ、一年間ありがとう、そしてまた一年よろしく。



【Date:】 6 Dec 2007 06:06:00
【From:】 "tamb"
【Subject:】 Re: プロミネンス

 「バージョンアップ終了」に書いた掲示板の変更ですが、実は「やるか」と思ったのが
4日だったんですよ。ちょっと時間が取れたもので。でもアスカ様の誕生日だと気付き、
万一タイミングが投下と重なるとヤバイので先送りにしたのでした。しかしこんなところ
にもアスカ様のパワーが及んでいるとは(笑)。それにしても投下があってよかった。

 同じことを繰り返し書くというのは私も良く宣言してるんだけど、aba-m.a-kkvさんも
そうなんだろうと思う。でもそれが同じ話ではないのは、同じシーンを書いているわけで
はないという以上の何かがあるような気がする。それは何なのだろうか?

 私なんぞは今でも「これと同じシーン、前にも書いたなー」とか思って困惑してるわけ
だが(つまり書いてるということだ!)。

> 僕のレゾンデートルが君を、求めて、やまない

 なんて言われたら、アスカのイメージ的には照れ隠し的にでも左フックが炸裂しそうな
ものだけど、このアスカは中心を熱くしちゃったりする。それでもアスカだなと思わせる
何かがあって、それは単に成長という以外の何かだろうという気がする。その辺が絶妙。

 これ以上の内容に触れるのはあえて避けさせていただきます(爆)。




メンテ

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