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080330 蒼い……
日時: 2009/05/31 00:00
名前: aba-m.a-kkv


【Date:】 30 Mar 2008 23:18:00
【From:】 "aba-m.a-kkv"
【Subject:】 080330 蒼い……






それは銀色の鏡みたいだった。

流れていくその音を聞いて、私はそんな風に思った。

それは、チルドレンが本部居住を命じられて数日経ったある日の夜。

私を内包した計画の完遂まで時が無いことを肌で感じていた夜の事だった。


その日、私は本部の居住施設の中に割り当てられた部屋のベッドの上で眠りにつけずにいた。

いや、寝つけずにいた、というのは正確ではないかもしれない。

私には眠る必要がなかった、だけ。

人とは違うこの身体を調律して、1、2時間程度の深い睡眠を取れば脳機関の休息には十分のものだったし、
肉体の疲労はベッドに横になっていなくても、安静にしていればそれで十分だった。

精神や肉体が人のそれと類似していても、私の中には生命の実の欠片があったから。

それに、少し無理をしたって私は構わない。

この身体が、計画の時に計画に必要なだけ動けばそれでいい。

例え、この身体が、心が壊れてしまっても、私には沢山の代わりがいる。

そう思っていたから。


そんな私は、無理に横になっていることを選ばず、ベッドから起きて備え付けの簡素なクローゼットを開いた。

身に着けていたパジャマ代わりのワイシャツの脱ぎ、もう二度と行くことが無いだろう中学の制服を纏った。

そして、部屋を出る。

完全な空調システムで、扉を越えたときにも空気の変化は無い。

白を基調とした無機質で整えられた通路に人影は無く、人の動く音も無い。

沢山の居住施設を持つ本部の中でも、このエリアに泊まる人の数は少ない。

チルドレンの警備と管理をするレベルの階層だからで、沢山の部屋があるのに現時点でここに留まっているのは3人だけだった。

しかも、今は真夜中。

本部の中心部では夜など知らず活発に動いているのだろうが、この居住施設は恐ろしいくらいの静寂で満ちていた。

孤独で無味な空間、それでも私は歩き出した。


何かを目的としたわけじゃない、何かを考えて歩いているわけではない。

気を紛らわすためとか眠りを誘うためにという意図も無かった。

ただあてどなく。

そんな風な“散歩”という行動を取ることそのものが私には意外なことだったが、そのことにも私は特段の感慨を持っているわけではなかった。


「何かに意味を求めて、何になるというの」


そう、私は透明な存在。

無に還ることを望む、無、そのもの。

何かを考えることも、何かに染められることも、何かに依存することも、私には必要ない。

ただ、この機関の長に従っているのは、私の目的を果たすためでしかない。

無が、私を飲みつくしてくれれば、それでよかった。

でも、そんなことを考えると、心の中心に、生命の実の欠片の奥にある、私の欠けた心が少しだけ震えた。

そこに、消えることの無い何かがあるように。

それに、意識の手を伸ばそうとしたとき、私の足音しか聞こえていなかった空間に微かな音が聞こえてきた。


「何……?」


何処かから漏れ聞こえてくる音。

人の声でも機械の音でもない。

私の耳に馴染みの無い音、でも、私の心を引きつけるような音だった。

その音に、私の心の奥底が揺れた。

さっき、私の中で震えたのと同じ場所が。

私は紅い眸を閉じて、その音を伝って歩き出す。

知りたい、そういう強い想いではなかった。

でも、それに引き寄せられる、そんな感覚で。

そして、音を辿っていくと、一つの部屋の扉の前に行き着いた。

同じ概観の部屋、同じ雰囲気の扉、でも、その奥から音が微かに聞こえてくる。

私の聞いたことの無い音、でも、それは柔らく低い音で、そして銀色の鏡のような音色だった。


「はい、どうぞ、開いてますよ」


扉の向こうの音が止んで、少し硬い声が返ってくる。

その声にふと我に返る、音に聞き入って無意識に扉をノックしていた自分がいた。

何故そんなことをしたのか、自分でも理解できなかった。

でも、私は私の心が揺れるままに、扉の開閉センサーにカードを当てた。

軽い圧搾音と共に開く扉。

同じ間取りの部屋に入っていくと、そこに見知る人影を見つけて、私は軽く目を見開いた。


「碇、くん?」


リビングの真ん中に背もたれの無い椅子が一つ。

そこに、黒髪の少年が座っていた。

その手に、本でしか見たことの無い楽器を持って。


「綾波?」


サードチルドレン、碇シンジ、彼も私の来訪に驚いていた。

もしかしたら、係官の来訪と思って気構えていたのかもしれない。

そうでなくても、私の来訪は意外なものだったんだろう。

そして、その姿を見て、この部屋が彼に宛がわれた部屋だというのを思い出した。

ここに居住するときに説明を受けていたのに、私の中ではその知識はどこかへ追いやられていたらしい。


「どうしたの、こんな時間に」


私のほうも、予想していなかった彼の存在に驚いていた。

でも、彼だったから、そう思ったのかもしれない。

それに、これは驚きの感覚ではないのかもしれない。

彼の問いを受けて、私は微かなそんな感情から浮かび上がった。

それと共に、彼に答える。


「眠れなかったから、部屋の外を歩いてみようと思って。
 そうしたら、貴方の部屋から音が聞こえてきた。
 だから……」


そう言って、私の口から続きが出てこなかった。

だから、何なんだろう。

なんで、ここを訪れたのだろう。

わからない。

いえ、違う、たぶん、それは。


「そうだったんだ、ゴメンね、うるさかったかな?」


彼が自嘲するように笑顔を向けたから、私は頭を振った。

それから、私は彼の瞳からその手元へと視線を落とす。


「それって、チェロ?」


私の問いかけに、彼も自分の手元に視線を下ろした。

座った人の身の丈ほどもある弦楽器。

四本の太い弦、厚みのある概観、ヴァイオリンと違って手に持つことの出来ない大きさのそれは、エンドピンで支えられ、彼の腕の中に構えられている。

彼のもう片方の手にあるのは、太く短い弓。

椅子から少し離れたところには楽譜台が経っていている。


「あ、うん。
 そう、チェロだよ、よく知ってるね、綾波。
 まあ、このとおり、遊ぶ程度しか演奏できないけど」


そう微笑を浮かべる彼を、私は幾許の間見つめていた。

そんな私の視線に気づいて、彼が怪訝そうな、少し困ったような表情で私を呼んだ。

「綾波?」

「ねえ、碇くん。
 私に、聞かせて、くれないかな?」

私の言葉に彼は再び目を見開いて驚いていた。

そして、内心私も、私の口からそうこぼれていたことに驚いていた。

この時期に来て、私の心が何かを求めることに。

そして、その問いと共に、私の内奥の揺れが収まっていくのを感じた。

たぶん、私の心の奥底が紡いだものを、正しく言葉に乗せられたのだろう。


「だめ、かな?」


私が少し首を傾げて、そう尋ねる。

私が彼の漆黒の瞳を見つめる。

彼の瞳の中に私の紅い眸が映りこむ。

暫く静寂のもとにその重なりが続いて、そして、彼は少しだけ表情を染めて私から目を逸らした。


「僕は、聞かせられるような音楽を奏でられないよ」

「私は、碇くんのチェロが聞いてみたいの」


彼は、瞼を閉じる。

そして、一つ深呼吸をしてから、私の眸を見つめた。


「そこに、椅子があるから、好きなのを引っ張ってきて。
 僕の正面に、少し間隔をあけて座ったほうが聞きやすいと思う」


彼の声に、私は表情を綻ばせた。

断られるかもしれない、そんな思いが断ち切られたからだろう。

彼の言うとおりに、リビングの椅子を一つ借り、彼の正面に腰を下ろした。

そんな私を見て、彼が楽譜台の楽譜を捲る。

そして、演奏の構えをする前に、私に紡いだ。


「チェロを教えてくれた先生に言われたことがあった。
 演奏家は、その音色を聞いてくれる観客のために楽器を弾く。
 誰であれ、聞いてくれるものへ向けて音楽を奏でるように、って。
 いままで、僕は誰か観客を前にしてチェロを弾いたことが無い。
 そうできるだけの腕も無い。
 だけど、いま、綾波が僕のチェロを聴きたいって言ってくれたから、いま君は僕の観客だ。
 だから、僕はその観客のために、このチェロを弾く」


そして、音が紡がれ始めた。

ゆっくりとした重厚な音から曲が始まる。

そして、直ぐに滑らかな、それでいて厚く心地いい音のつながりへと変化していく。

歩く早さのような緩やかな部分から、駆けるような早い部分へ、そしてまた緩やかに曲調が移り変わり響いていく。

暖かく、優しく撫でるようなその音色が、私に向かって紡がれていく。


なんだか、さっきの音とは、違う。

銀色の鏡のような、音とは違う。

私に伝わってくるのは、それは、淡い水色のような音。

まだ、薄いけれど、強さも意志も織り込まれている色。


私は瞼を閉じて聞き入る、彼の演奏に。

そして、彼の音は、彼の淡い水色の音は、私が宿す生命の実の欠片のその奥の、私の欠けた心へと染み込んでいった。

絶対に染められるはずの無い、透明な私の欠けた心に。

ただ、無を切望していた私の心に。

彼のチェロの音色に導かれて私が潜っていた欠けた心は、どこか、淡い蒼色をたたえていた。





レイへ、一年間ありがとう

そして、これからの1年もよろしく



【Date:】 30 Mar 2008 23:28:00
【From:】 "aba-m.a-kkv"
【Subject:】 Re: 080330 蒼い……

綾波レイ記念日、何とか今年も間に合いました。
が、中身は勘弁してください。
まだ未完です。
本当は、蒼い……のあとに言葉が入ってちゃんとしたタイトルになり、
ここに乗せた話の前後にもう少し場面が入って完成予定でした。
けれど、間に合わなくて、真ん中の部分だけ投下という形にしてしまいました。
とりあえず投下したい、という思いだったので、意味の分からない部分も多いと思います。
なので、加筆修正して、予定のタイトルをつけたら、今度は投稿したいと考えています。
tambさん、そのときはよろしくお願いします。

さて、今回のを書くにあたって、去年のを参考に見てみようと思ったんですが、無いんですよね。
手元のデーターにはちゃんとあるので、投下したんだと思うんですが……
tambさんの時間の合間のその隙間にでも調べていただけたら嬉しいです。



【Date:】 1 Apr 2008 01:46:00
【From:】 "tamb"
【Subject:】 Re: 080330 蒼い……

作品を読まずに

> さて、今回のを書くにあたって、去年のを参考に見てみようと思ったんですが、無いんですよね。
> 手元のデーターにはちゃんとあるので、投下したんだと思うんですが……
> tambさんの時間の合間のその隙間にでも調べていただけたら嬉しいです。

この部分にだけレスしますが、確かに消えてます。消えてるものとして、確認した範囲では

Shall we drink ?
http://tamb.cube-web.net/cgi-bin/bbs4c/read.cgi?no=305

有限の日々5/tokia
http://tamb.cube-web.net/cgi-bin/bbs4c/read.cgi?no=306

プレゼント
http://tamb.cube-web.net/cgi-bin/bbs4c/read.cgi?no=307

未完成の絵
http://tamb.cube-web.net/cgi-bin/bbs4c/read.cgi?no=308

があります。aba-m.a-kkvさんのは「未完成の絵」です。
上記リンクをクリックすると見られまして、データは生きてます。レスは出来ません。

直せると思うので、近日中になんとかします。しばしお待ちください。



【Date:】 1 Apr 2008 03:48:00
【From:】 "tamb"
【Subject:】 Re: 080330 蒼い……

直ったはず。



【Date:】 5 Apr 2008 03:38:00
【From:】 "tamb"
【Subject:】 Re: 080330 蒼い……

 希望を知ってしまったがための絶望、なんていうフレーズが頭に浮かんでしまいましたが(^^;)。
 チェロって、何年くらい練習するとどのくらい弾けるようになるんだろう。でも、家で弾いてたらやっぱうるさいだろうな。サイレントチェロとかないかな(笑)。

> tambさん、そのときはよろしくお願いします。

 がってん承知(笑)。後半のレイがちょっと可愛すぎるかもね。




メンテ

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