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彼女がもらったプレゼント
日時: 2009/05/31 00:00
名前: tamb


【Date:】 12 Jun 2008 07:00:00
【From:】 "tamb"
【Subject:】 彼女がもらったプレゼント

 綾波レイは苦悩していた。
 愛する碇シンジの誕生日はもう過ぎ去ってしまったというのに、いまだにプレゼントを
思いつかないのだ。

 当日は葛城邸でパーティをした。みんなでケーキを食べ、出し合ったお金で買った最新
の携帯音楽プレイヤーを贈った。いま彼が何を欲しいと思っているか、それとなく聞き出
したのはレイだ。シンジはいたく感激した様子だった。喜ぶシンジを見てレイも嬉しかっ
た。“それとなく”聞き出すなどという慣れない高等技術を苦心して使った甲斐があった
というものだ。実際にはバレバレだったのかもしれないが。

 だがそれとは別に、何か自分だけのプレゼントを贈りたかった。
 高価でなく、自分にしか贈れないもので、心に残って、喜んでもらえるもの――。

 誰にも聞かずに自分一人で決めたかったが、どうしようと考えているうちに当日は過ぎ
去ってしまい、レイの苦悩はさらに深まった。
 苦悶しつつ本部を徘徊していると、仕事が一段落したのかネルフ美女軍団が井戸端会議
をしているのが目に入った。一人で決めたいなどと言っている場合ではない。この三人は
大人だ。それなりに経験も豊富なはずだ。なにかいいヒントを貰えるかもしれない。

「あらレイ。お疲れさま。もう上がっていいわよって、さっき言わなかったかしら?」

 テストが終わった後、ひたすら苦悶しながら歩き回っていたのだが、どうやって話を切
り出そうかと考えていたレイの耳にリツコの言葉は届かなかった。

「そういえばレイ、シンちゃんに誕生日プレゼント、なにをあげたの?」

 ミサトが言う。渡りに船とはこのことだ。
 レイは、迷って決められないうちに今日になってしまったと正直に告げた。

「何をプレゼントしたらいいでしょうか……」

 美女三人組は顔を見合わせた。

「ここんとこシンちゃんの顔色がさえないのはこのせいね」ミサトが納得したような顔を
する。「中学生の女の子が男の子にプレゼントするものねえ……」
「あたしたちの頃はセカンドインパクトでそれどころじゃなかったものね……。マヤ、あ
なたは何かあげたこと、ある? 男の子に」
「ないんです……男の子には……」

 リツコの問いかけにマヤが小声で答える。レイはやや引っ掛かるものを感じたが、今は
こだわっている場合ではなかった。

「ベタだけどさ」ミサトがあっけらかんとした口調で言う。「髪にリボンでもつけてさ、
あたしをプレゼントーなんちていだだだだあにすんのよリツコぉ」
「ミサト、ちょっとこっちへ」
「いだだだいだいってば離してよ」

 リツコにヘッドロックをかけられ、ミサトが連行されて行く。

「手料理なんかどうかしら?」部屋の隅で説教されている様子のミサトを横目で見ながら
マヤが言った。「シンジ君、お料理上手みたいだけど、他の人の作ったお料理ってあんま
り食べてないと思うの。レイちゃんがお料理作ってあげたら、喜ぶんじゃないかしら」

 悪くないアイディアのように思えた。だがレイは料理などほとんどしたことがない。

「わたし、お料理は……」

 相変わらずジョークが通じない、などと口答えしてリツコの怒りに油を注いでしまい、
首をすくませているミサトから目をそらし、レイはそう答えた。

「大丈夫。あたしが教えてあげる。こうみえてもお料理は得意なのよ」

 他にいいアイディアが浮かぶはずもなく、あいまいにうなずいたレイは、翌日の午前中
にマヤの部屋を訪ねることになった。



 おじゃまします。レイはそう言ってマヤの部屋に入った。キッチンは準備万端整ってい
た。

「いろいろ考えたんだけど」マヤは微笑んで言う。「やっぱり家庭料理がいいと思うのよ
ね。それで、なるべく簡単なのって考えて、肉じゃがにしたの」
「肉じゃが……」

 レイは絶句した。肉は嫌いだ。だが笑顔のマヤに「肉は嫌い」と言う根性はなかった。
レイには、「いいわよね?」と聞かれ「はい」と答えるしか術はなかった。
 ジャガイモの皮むきから始まり、マヤの説明に従って、細かくメモを取りながら作って
行く。
 味見をしたマヤの「おいしいわ、食べてみて」の言葉に、ここまで来ておいて逆らえる
わけもなく、目をつぶって食べてみた。
 悪くなかった。

「おいしいです」
「よかったわ」

 マヤは我が事のように喜んでくれて、レイも嬉しかった。
 食材一式とネコ柄のエプロンを持たされ、そのままシンジの家に送り出された。

 コンフォート17に向かって歩きながら、レイはまだ迷っていた。
 肉じゃが。
 確かに悪くなかった。だが肉は肉だ。凄くいいというものでもない。
 いきなり肉料理など作ったらシンジはどう思うだろうか。喜ぶより先に困惑するのでは
ないか。
 逡巡は絶えることがなく、マンションに近づくに連れてそれは緊張感となってレイにの
しかかった。

 玄関の前に立ち、考えるより早く腕が動いてインターホンを押した。レイの緊張感は爆
発寸前にまで高まっていた。


「はい?」
「綾波レイです」
「あ、ちょっと待って」

 玄関を開けてくれたシンジの笑顔と優しい声が、ついにレイの緊張感を爆発させた。

「どうしたの? とにかく上がってよ」
「お料理を作りにやって参りました」
「へ?」

 レイは驚くシンジには目もくれずキッチンに突進した。あちこちの引き出しや開きをか
き回し、必要な調理道具を取り出して行く。

「ジャガイモの皮むき器はどこにございますでしょうか」
「あ、えーと、三番目の引き出しに……」

 言われた通りの場所に皮むき器を発見し、ニヤリと笑ったのも束の間、彼女はエプロン
を装着すると取り出したメモを一瞥し、ジャガイモの皮をむき始めた。

「あの、何を……」

 シンジの声も耳に入らなければ、自分の言葉遣いが妙なものになっていることにも気づ
かない。肉じゃがだけ一品作ってどうするのかということにも考えが回らなければ、エプ
ロンの後姿を見つめるシンジの頬が緩んでいることにも気づかない。まさにないないづく
しの中で、レイは一心不乱にジャガイモの皮をむきまくりつつ、いまだに肉じゃがの肉を
どうすべきか結論を出せていなかった。

 結局、シンジの前に出されたのは肉抜きの肉じゃがだった。

「食べてもいいの?」
「どうぞ、お食べになって下さいませ」
「じゃあいただき……いただかさせていただきます」

 シンジまで妙な口調になりつつ、ひとくち食べた。

「これは、なんというお料理なのでございますでしょうか」
「肉じゃがでございます」
「……肉は入っておられぬようでございますが?」

 レイははっと我に返った。肉を使わないという決断などした覚えはなかったが、確かに
目の前にある料理に肉は入っていない。肉抜きの肉じゃがなど理論的にありえない。では、
これはいったい何という料理なのか。レイは必死に考えた。

「……じゃがじゃが」
「じゃがじゃがでございますか。とてもおいしゅうございます」
「碇くん、口調が変だわ」
「え? あ、ああ。……おいしいよ。このじゃがじゃが」

 だがレイには味見をした記憶はなかった。メモには「ここで味見する」とは書かなかっ
たから。では、このじゃがじゃがなる料理はいったいどんな味になっているのか。彼女は
恐る恐る手でつまんで食べてみた。
 悪くない。だが一味足りない、と思った。
 これが肉の威力なのか。
 だが一味足りないと感じるならば、自分にも肉を美味しく感じる素養があるということ
ではないだろうか。
 ごめんなさい、今度は普通に肉じゃがを。そう言おうとして、笑顔でじゃがじゃがを頬
張る彼の瞳に光るものを見た。

「……どうしたの?」
「誰かが僕のために料理を作ってくれるなんて何年ぶりだろうって思ったら、なんだか嬉
しくてさ」

 シンジは涙が零れ落ちる前にその瞳をぬぐった。

「これって、きっと誕生日プレゼントだよね?」
「……うん」
「ありがとう。一生忘れないよ」

 また涙を浮かべ、それでも笑顔でシンジが言った。

 この人はわたしに笑顔をくれる。傍にいて、わたしを見ていてくれる。
 それだけでわたしは幸せになれる。もう他に、何もいらない。



【Date:】 17 Jun 2008 01:10:00
【From:】 "のの"
【Subject:】 Re: 彼女がもらったプレゼント

こちらも良いですね。オツでございます。
くそう、肉じゃがというベタな小道具でレイに「じゃがじゃが」と言わせる能力が俺にあるだろうか?
センスですな、センス。こういう幅がない自分が悲しい。

結びが急ではないかという気がしたが、瞬間最高視聴率みたいなもんで、つまりはなにも問題ないか。



【Date:】 20 Jun 2008 23:10:00
【From:】 "tamb"
【Subject:】 Re: 彼女がもらったプレゼント

 肉じゃがでじゃがじゃがってのがこの話の全てなんで(^^;)、オチが弱いのはその通り。

 最初は、こういうのを毎日作ってくれってシンジがいきなりプロポーズして、レイが
「誕生日プレゼントだって気づいてない」って思うってのだったんだけど、気づいてない
のはともかく、いきなりプロポーズはどうかと思って、5分くらい考えてこうなったとい
うのが制作秘話でした(笑)。



【Date:】 13 Jul 2008 23:35:00
【From:】 "tama"
【Subject:】 Re: 彼女がもらったプレゼント

じゃがじゃが。
じゃがじゃがって可愛すぎて噴きました。
あと、シンジがつられて変な口調になっているのも可愛い。確かにこんなプレゼントなら一生忘れないなぁ。うん。
ちなみに私が誕生日にもらって一番印象に残っているプレゼントは宝石箱に入れられて渡された手裏剣です。(・・・貰った瞬間投げつけてやりたいと思いましたがね!)
今でも友人・会社の同僚には誕生日にはケーキや仕掛けをすることに気合いを入れる私です。
・・・とにかく、自分が大切な人達が生まれてきた日には感謝するっていいですよね。(嫌がらせかといわれても!)

ごちそうさまでした!



【Date:】 15 Jul 2008 17:27:00
【From:】 "tamb"
【Subject:】 Re: 彼女がもらったプレゼント

> 宝石箱に入れられて渡された手裏剣です

一番印象に残ってるんだから、贈った方としては大成功でしょう(笑)。

マキビシでも贈り返すが吉(爆)。




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