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太陽のような月
日時: 2009/05/31 00:00
名前: aba-m.a-kkv


【Date:】 13 Sep 2008 23:01:00
【From:】 "aba-m.a-kkv"
【Subject:】 太陽のような月





月が消え、月は役を終えた。

それでも、僕はここにいる。

月が生んだものを、月は共に連れ去っていった。

それでも、僕はここにいる。

月は、月が残したものを呼ぶ。

それでも、僕はここにいる。





太陽のような月  aba-m.a-kkv





玄関の扉を叩いて九月が入ってくると、だんだんと夏が薄らいでいく。

未だ、日中の太陽の力は、いつも隣にいてくれる少女のように快活かつ鮮明に光を注いでいるし、
それに引き上げられる気温は八月が滞在していた時と大して差は無い。

旧世紀の日本にあった残暑という言葉が復活して間もないが、使徒戦争終結後から徐々に回復していった四季を一通り体験してみると、
その言葉はとても合っていると渚カヲルは実感していた。

まさに夏が残っているように、昼間は暑い、でも、夜になると、九月が肌に触れる。

日没と同時に徐々に気温が下がっていき、鈴虫たちの綺麗な音が街を劇場へと変えていく。

クーラーを手放せなかった八月と違って、今夜も窓を開けていれば十分涼しい。

こんな涼しさを経験すると、本格的な秋ももうそろそろだな、とカヲルは思った。

九月も半ば、秋の涼しさが夜の下を巡る、そんなベランダの欄干に肘を付いて。

綺麗に晴れ渡った青闇色の空には、満月になりきれていない白い月が浮かんでいた。





「カヲルー、って、あれ? 真っ暗」


快活に扉を開けて刹那、拍子抜けたような惣流アスカの声が渚亭に響いた。

部屋の分かれているカヲルとアスカは夕食が済むと、たいていどちらかの部屋で寝るまでの時を過ごすのが日課だった。

そして今日も、当番のないカヲルが先に部屋に戻り、アスカはレイと役割を終えてから追いかけた、という状況なのだが、
アスカが擦り切れて久しい渚亭のスペアキーをかざして開いた扉の先は照明が落ちて真っ暗だった。


「おっかしいわね、コンビニでも行ったのかしら? ん、でも靴はあるわね」


夕食のときに履いてきていた靴があり、遠くにカヲルの雰囲気がある。

それに、夜風のような涼しい流動が頬を掠めている、窓が開いているということだ、アスカは怪訝そうな顔のまま靴を脱いだ。

それから、壁を伝って部屋を進んでいく。

もしかしたら、カヲルが何かのドッキリでも仕掛けているんじゃないかと気構えながら。

でも、そんな心積もりは空振りに終わって、窓が全開にされたリビングにたどり着いた。

誰もいない、ただカーテンだけが部屋の内側で夜風と共に踊っている。

照明はやはり付いていなくて、窓から差し込む月と街の明かりだけがぼんやりと部屋に光をくゆらせている。

たぶんあそこだ、アスカはそう呟いて、他の部屋には足先を向けず、窓のほうへと歩いていった。

たなびくカーテンを抑えてベランダを覗き込む。

“いた”

アスカはベランダの欄干に探していたヒトの後ろ姿を見つけ、でも、名前を呼ぼうとして最後まで呼びきれなかった。

銀髪の髪を月明かりに輝かせ、夜の遠くのほうを見つめているカヲルの後姿は、なんとも幻想的で、そしてどこか悲哀な雰囲気を醸し出していたからだ。

大きな漆黒の翼がその背中から生え出て飛んでいってしまいそうな、そんな雰囲気。

それは、まるで最初に出会った頃の時のような、ここに居てここに居ないような。

そんな思考がふと過ぎってアスカは頭を振った。

“私がそんな風に思ってどうするのよ!”そう心の中に刻んでベランダに足を踏み入れた。


「なにやってんのよ、カヲル」


微動だにしていなかった背中が揺れて、カヲルが空から目を離す。

月明かりに結構明るいベランダにアスカを見て、カヲルは氷が溶けたように嬉しそうなアルカイックスマイルを浮かべた。


「当番ご苦労様、アスカ。

 涼しいし、月も綺麗だから、ね、鑑賞会をと思って」


そういって差し伸べるカヲルの手を握って、アスカはカヲルの隣に立つ。

身体が触れ合うような距離に。

そしてアスカもカヲルがさっきまでしていたように欄干に肘を付いた。


「それで部屋んなか真っ暗にしてたわけね、でも驚くじゃない、どっか出かけたのかとも思ったわよ」

「いや、ごめんごめん」


アスカが横目に覗き込んで見たカヲルの笑顔はさっきの雰囲気とは違っていつものように明るくて、アスカは安堵したようにため息を漏らした。


「それで? 月を見てたって言ったわよね」


天上を見上げる。

雲ひとつない青闇色のキャンバスにぽっかり明いたような光の穴。

でも、それは真ん円ではなかった、たぶん満月までは一日か二日ほどあるだろうという少し欠けた月。


「十三夜月、この国ではそう呼ばれていたらしいね。

 古来では特に美しい月とされて、月見の宴が開かれていたらしい。

 美しさの観点は人それぞれだけど、僕もこの月は綺麗だと思う」


言葉を紡ぐカヲルの横顔を、アスカは月から目を離して見入っていた。

やはり、どこかさっきの幻想的なような悲哀のような、そんな雰囲気があるような気がする。

でも、独り見上げていた後姿のような、背筋を冷たくさせるようなものはもう無かった。


「そうね、確かに少し欠けているのも綺麗かも、私も好きよ。

 で、カヲル、あんたはその月に、何か思いはせるものがあるわけ?」


カヲルがハッとしたようにアスカを見た。

アスカは十三夜月を見つめたまま動かずに、カヲルの返事を待っている。

カヲルは、敵わないなというように両手を広げて、そしてアスカに寄り添った。


「この月に限らずだけどね、僕にとって月というのは特別な存在だ。

 黒き月、白き月、それは僕たちの存在の誕生に根幹を成し、ある意味での苗床でもあった。

 僕自身、タブリスがどうやって存在したのか、明確なところは知りえない。

 でも、月はそれに関わっていた。
 
 黒き月が消滅し白き月が役を終えた今、月はこの夜に掛かる白い月だけ」


アスカの心が少しだけ軋んだ。

でも、受け止められる軋み、否、受け止めると決意した軋み。

昔のように震えることもなく、繋いだカヲルの手を握る力を強めた。


「確かに、思い入れが無いといったら嘘になる。

 でもね、今の僕には、あまり関係が無い。

 あの月は、僕にとってもう重要なものではないから」


カヲルはアスカを引き寄せ、そっと抱きしめた。


「ち、ちょっと、カヲル……」

「アスカ、少しだけこのままじゃだめかな」


カヲルの表情は見えない、でもたぶん微笑んでいるんだろうなという気がして、アスカは赤くなりながらもカヲルの背中に手を回した。

幾許かの時の間、ただ白い月だけが二人を見つめて、カヲルと月の間にカーテンが引かれていった。





「さて、鑑賞会ももうおしまい。

 今夜は何をしようか、アスカ」


永遠のような数刻が過ぎ、包んでいたアスカを解いて、カヲルが満面のアルカイックスマイルで覗き込む。

打って変わったようなカヲルの、まるで太陽のような雰囲気に、アスカは頬を染めながら苦虫を噛んだような微妙な笑みを浮かべた。


「勝手に開いて、勝手に閉じて、まったく。

 それに今日は、あんたが新作のデザートを作ったからそれを食べようって、言ってたじゃないの」

「ふふ、そうだったね、忘れていたよ。

 じゃあ、準備をしなきゃね。

アスカには、そうだな、紅茶を淹れてくれるかい?」

「はいはい、お安い御用で」


カヲルが部屋の中へとアスカを促す。

一瞬、十三夜月に視線を向けて、すぐアスカのほうを見た。

そして、アスカには聞こえないような声で呟いてから、その後を追って部屋の中に入った。

「僕の月は、太陽みたいだ」と。





月が消え、月は役を終えた。

それでも、僕はここにいる。

月が生んだものを、月は共に連れ去っていった。

それでも、僕はここにいる。

月は、月が残したものを呼ぶ。

それでも、僕はここにいる。

月と共に。

太陽のような月と共に、僕はここにいる。





カヲル君へ、今年一年とてもお世話になりました。

この一年もよろしく。



【Date:】 15 Sep 2008 02:07:00
【From:】 "のの"
【Subject:】 Re: 太陽のような月

鈍い。
やっぱり月が題材の一つだからでしょうか。
輝きが鈍い色です。
それが文章としてあらわれているのが素晴らしい。
若干、台詞が説明口調かなと思うけど、ト書きがこういう雰囲気である以上仕方ないのかな。

月とカヲル、ってありそうで今まであんまり正面からは取り上げられなかった組み合わせかも、と思いました。
もっと掘り下げても面白いと思います(笑)



■余談
…………漆黒の翼、とか、久しく使ってない類の表現だなあ。



【Date:】 18 Sep 2008 03:06:00
【From:】 "tamb"
【Subject:】 Re: 太陽のような月

 ののさんの書いてる「漆黒の翼」もそうだし、「玄関の扉を叩いて九月が入ってくる」
とか(このフレーズはちょっとD・Tさんっぽい)、嫌味なく使えるのは結構凄い。
 セリフが説明口調(私は新劇っぽくも思う)なのはレゾンデートル系の作品を書くとき
のaba-m.a-kkvさんのスタイルになりつつありますわな。もう少しこなれてもいいかなと
思うけど、アスカの柔らかさにはその気配を感じます。

 「僕の月は、太陽みたいだ」というセリフは非常に良かった。

 ユーミンに「14番目の月」という曲があるのを思い出した。

 家に帰ると、アスカがベランダに出ていることがある。ただいま、と言っても彼女は気
づかない。窓まであるいてもう一度声をかける。ただいま。彼女は驚愕の表情で振り向き、
こう言う。おどかさないで。そんなつもりはないんだけど。

 投下作品に原則として誤変換指摘はしないけど、ウケてしまったのでひとつだけ。

> 渚亭

 落語家にいそうだ(爆)。




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