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二重の弾丸 081204
日時: 2009/05/31 00:00
名前: aba-m.a-kkv


【Date:】 4 Dec 2008 22:55:00
【From:】 "aba-m.a-kkv"
【Subject:】 二重の弾丸 081204






私は銃を構えた。

薬室には金色の弾丸が眠りから醒める時を待ちわび、撃鉄は一杯に引き起こされて弾かれる時を待ちわびている。

私の右手は銃把に固く握り締めて前に押し出すように力を込める。

その上に重ねた私の左手は逆に、銃把を引き戻すように力を込めて固定している。

アイウェア越しの私の青い眸は照準器を直線にしてまっすぐ前を見据えている。

その25メートル先には人体の形を模した標的がかかっている、頭と心臓、それぞれに赤いターゲットマークを付して。

私はその一つを選び、セーフティーを外し、照準を定め、息を整えた。

二つリズミカルに呼吸をし、一つ大きく吸い込んで、ゆっくりとそれを吐き出す。

空気が私の中から流れ出て、銃の揺れが消えたその刹那、私は引き金を絞りこんだ。

銃口が火炎と咆吼をあげる。

そして第2射。

照準を変え第3射、続けて第4射。

轟音が射撃場を駆け抜けた。





二重の弾丸 aba-m.a-kkv





本部には戦術部門や諜報保安部門の訓練設備がある。

射撃場もその一つ。

ピストル射撃からライフル射撃まで対応できる、広大なジオフロントだからこそ室内設営できる施設だ。

私はそこで射撃の訓練をしていた。

といっても、これはカリキュラムじゃない。

未だ戦術部に所属している身分ではあるが、エヴァが消滅し、戦闘教練も久しくなった今、射撃など必要なものじゃない。

しかも、もう幾許もすれば軍属を解かれることが知らされている。

なおさら必要なものじゃなかった。

それでも、銃を握っているのは何でだろうか。

ただの気晴らし、あるいは名残、そんなものにしては少々大それたものだ

子供と大人の境界からすれば前者に選ばれるような私が持つようなものでは無い。

本来、そうでなかったとしても必要とするには非日常的過ぎるものだ。

それでも、時たまにこの射撃場を訪れ、弾丸を標的に撃ち込んでいるのは、銃に、そして弾丸に対するある種の憧れなのかもしれない。

遠くの的へとまっすぐ飛んでいき、定めた目標を貫くことができるという、その意味に。

まあ、なかなか当たらないのだけれど。



それぞれのポイントへと二発づつ発射した轟音がじわじわと薄くなっていき、硝煙の臭いが鼻につく。

構えたままの状態でセーフティーをかけ、微かにビリビリする手首を下ろした。

そしてイヤープロテクターを引き剥がす。


「全体的に左にずれたね、アスカ」


後ろで纏めた亜麻色の髪を翻して私は振り向く。

そこには私が射撃訓練を始めた時から見守ってくれているカヲルのアルカイックスマイルがあった。

私はふっと張り詰めた息を解く。

スコープで見た25メートル先の標的には、頭部の左上側の端っこに一つ、心臓部はそのほぼ対象の辺りに外れた場所に一つ穴が開いていた。

二つは圏外。

標的に当たるようにはなってきている。

でもまだまだの結果。


「まあ、ミサトや加持さんのようにはいかないわ。

 照準が1度狂うだけで、この距離なら40センチは外れるから」


なかなかまっすぐはいかない、銃にしても、私にしても。

だから今の私がここにいて、今の私がここにいれるのだ。

苦笑いを浮かべたつもりはなかったけれど、カヲルはそれを見透かしたように優しく笑ってくれた。


「君ならば、まっすぐ標的を貫けるさ。

 それは遠い話ではない」


カヲルの、私を救ってくれた笑顔が私を撫でる。

そしてその赤い真っ直ぐな瞳は私を見つめて離さないでくれる。

その瞳に重ねられたなら、私は私を貫ける、そんな風に思えた。

私は銃把から弾倉を抜き、遊底を引いて薬室に残った弾丸を取り出した。

撃鉄を戻し、弾倉と銃を別々に置く。

そして、カヲルの隣に並んだ。


「あたし独りじゃ無理よ。

 それを、知ったわ」


私は手を差し向ける。

カヲルはそれを握り返してくれる。

確かに掴むことのできるぬくもり。

いままで知らなかった熱が伝わる。

いままで私が、私を磔けていたものとは違う。

それは一方向のものじゃない。

自分を置いていくようなものじゃない。

このぬくもりは、相互の絆だ。

だから、それは私だけのものじゃない。

カヲルが覗き込むように赤い瞳を向けてアルカイックスマイルを浮かべる。


「それは僕も同じさ。

 でも、僕はここにいる、君はここにいる」


カヲルが握る手の力を強めた。

そう、私だけのものじゃないんだ、そう刻まれる。


「そうね、私たちは、ここにいるわ」


私はカヲルに笑い掛けて、そしてまた射撃場を真っ直ぐ見据えた。


「もう一度初めからやってみようか」


カヲルが寄りかかっていた壁から背を離した。

私の手を軽く引き促してくれる。

私は瞼を閉じ一つ大きく息をすると、握り返す掌の力を強くした。


「あたしを支えてくれるなら、ね」


カヲルが笑顔で頷くのが青い眸に映った。



私は立射位置について銃を手に取った。

弾丸の数を確認し、銃把に銃倉を滑り込ませる。

遊底を引き、薬室に弾丸を送り込むと共に撃鉄が起きる。

そして、構え、照準を定めた。

そして求める。

いままでの自分はそうしてこなかった言葉を紡ぐ。


「カヲル、おねがい」


私の言葉にカヲルが頷いて近づく。

そして私の後ろから覆うようにして、銃把を握りしめる私の掌に手を重ねた。


「あたし独りじゃ、あたしの弾丸はまっすぐ飛んでいかない。

 でも、あんたが手を添えてくれるなら」

「僕も、独りでは、弾丸を射ち放つことさえできない。

 でも、アスカが銃を握ってくれるなら」


掌を重ね、私が狙い、カヲルが補完する。

セーフティをカヲルが外し、私は引き金に指を掛ける。

息を整え、息を重ねる。

そして、想いが重なった瞬間、引き金を引き絞った。

刹那、撃鉄が雷管を射ち叩き、金色の弾丸を目覚めさせる。

轟音が響き渡った。



金色の弾丸が飛んでいく。

私の弾丸でも、カヲルの弾丸でもなく、私たちのそれが。

真っ直ぐ真っ直ぐと。

そして、金色の弾道は標的の赤いポイントに小さな小さな穴をうがった。

それは欠けた心が二つ、孤独が二つ重なった弾道。

これから紡ぎ出す真っ直ぐの道を差し示す軌跡。



弾丸が駆けた轟音の波が凪いだ静寂の中。


二つの吐息が重なり、セーフティーを掛ける音が、まるで新しい時を告げるように小さく鳴いた。





アスカ、一年間ありがとう、そしてまた一年よろしく。



【Date:】 5 Dec 2008 19:19:00
【From:】 "楓"
【Subject:】 Re: 二重の弾丸 081204

人様のカヲアスはやはりいいなぁ…と呟きに(笑)


毎年、チルドレンの誕生日にはこちらに書かれる話を楽しみにしていました。
今年もこの作品を含め、とてもよかったです。



【Date:】 11 Dec 2008 05:49:00
【From:】 "tamb"
【Subject:】 Re: 二重の弾丸 081204

 錯綜してますが、これは競作参加作品ではありません(^^;)。

 私は大藪春彦マニアなので、仮にこういう話を書こうと思うと銃の種類から弾丸の種類、
グリップの握り方から照準の見方まで事細かに書いてしまい、結果として何を書きたいの
かわからなくなってしまうことうけあい(笑)。そういうのを書いていいのは大藪春彦だけ。

 この話の場合は、そういう無駄なディティールはちゃんと省き、でもそれとなく書いて
るところは素晴らしい。たとえばイヤーマフラーはしてるし、銃を置くときは弾倉を抜い
て薬室から弾丸を抜いてる。こういうのは凄いし、しびれる(しびれる場所が違うという
ことは自覚してる)。強いて言えば遊底は開きっぱなしにしておくべきだが、近代の銃で
は弾を撃ち尽せば開いて止まる状態になるはずなので、弾倉を抜いて薬室から弾を抜いて
も止まるのかもしれん。よく知らん。

 えーと(^^;)。
 この話はよく読むと、二人で撃ってるときでも、狙ってるのも引き金を引いているのも
アスカで、カヲルはただセーフティを外してるだけ。で、アスカの身体からは力が抜けき
っていて、カヲルに身を任せてる。それがいいんだと思う。




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