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癖になる
日時: 2009/08/26 00:12
名前: のの

もしも部屋に猫でもいれば、別のはなし。

それ以外に最低限、神様だけは知っている。

でも、わたしだって、知っている。



癖になる



 神様とわたしだけが知っている彼の癖。
 何か考え事をしていると知って、わたしは視線を本に戻した。セカンドインパクト以前に発行された海外
小説が、最近新薬本として続々発刊されている。これはとてもとても長い長い物語の第一巻。全十巻すべて
が部屋の本棚に並んでいるのに、手をつけるのはこれが初めてだった。
 あまり好きになれない貰い物のガラステーブルを挟んで向かい側の碇くんが、わたしの腰掛けるソファの
裏側の安いオーディオにかけたCDから流れる昔の音楽を聞きながら、帰りに買ってきたという中古の漫画
本を読んでいる。
「この曲、なんていうの?」
 ――珍しいね、そんな質問。彼はそういう余計な前置きをしてから教えてくれた。
「ジャケットがかっこいいんだよ」
 ほら、と彼が手元のジャケットを掲げて見せてくれた。いかにも旧世紀らしいデザインで、わたしには何
が良いのかさっぱりわからなかった。
「そういう顔を、すると思った」
「そういう風に、言うと思った……タイトルは?」
「なんていうと思う?」
 ハードルの高い問題に、本を閉じて応戦。
「買ったら?」
「冷凍庫に残ってる最後のハーゲンダッツの新発売『ショコラミルフィーユ』」
「のった」
「ではなんでしょう」
「……ヒント、ちょうだい」
「同じ題名の本がある」
「女たち」
「……正解。よくわかったね」
「そんな漠然としたヒントなのに躊躇しないから。先週読んだばかりだし」
 わたしは早速冷凍庫で、実はずっとわたしだけを待っていたにちがいないアイスクリームを出迎えて、
さっき洗ったスプーンを取って彼の隣に座った。
「ありがとう、大好き…………なんてね」
「はいはい」
 漫画を読み終えた彼が立ち上がって部屋の角の本棚に入れ、別の本を持って戻ってきた。わたしには見覚
えの無い本なんて珍しいなと思うと、天体の写真集のような本だった。
「そういうの、好きだったの?」
「べつに」
 そんな答えは予想外。
「宇宙について考えると、頭だけが凍てついてくるんだ」
 彼は誰も見たことが無い様な適当さで頁をめくって、目についたところを広げるという動作を何度か繰
り返した。
「こうしていれば、絶え間なくすべてが活発な今ここから、静かな冬を思い出せるんじゃないかって」
 わたしたちが経験したことの無い季節の名前。
「なーんて、ね」
 本を脇へ放った彼の眼の奥に余白が生まれた。すっからかんの空洞だった。心臓がゴム手袋に掴まれたか
の様にぞわぞわした。急いでアイスをすくって、うつろな眼のままの彼の口元に差し出した。彼はそれをき
れいに食べて、やっぱりおいしい、と言って笑った。
「あんな簡単に賞品にするんじゃなかった」
「なあに、こうして食べさせてあげたのに」
「それは別に、あげるかどうかに関係ない」
「なにそれ」
 ちょっといらっとした瞬間、スプーンとカップを奪われてしまった。
「ひどい、鬼、悪魔――」
 からっぽの掌を、剥き出しの自分の太股に叩きつけると、思った以上に良い音がしたし、痛かった。
 程良くアイスが乗ったスプーンが軽妙に差し出された。
「はい」
 ひとくち、ぱくり。
「はい、お借りしました、ありがとう」
「ひどい」
「なんですか、クレーマーさんですか」
 また立ち上がった彼はお茶を二つ持って戻ってきた。
「じゃあ、ずるい」
「何が……」
 だって、何か考え事してると思ってたのに。それも、少し真面目な考え事。どうしていきなり、こん
な、もう。
「碇くん、がこんな人だと思いませんでした」
「そんな……」
 わたしのいつもの手段は今日もよく効いた。
「いつも照れるね、碇くん」
「はい、悪戯がすぎました、だからやめて」
「はいはい……でも、何か考えてたでしょう?」
「うん、まあ」
 呼び水になったのか、あの頃みたいに、すっかり歯切れの悪い返答。
「でも、くだらない事だから。それに、もう解決しちゃったよ」
「そうなの?」
「そうだよ……」
 彼がゆっくり手を伸ばし、わたしの左眼の脇の髪ひと房を弄んだ。
 これも彼の癖。自分のだったり、わたしのだったり。疲れている時、何か淋しいの彼の癖。
 それに応えるべく、そうっと彼にくっついて、それからようやく彼の名を囁いた。
メンテ

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Re: 癖になる ( No.1 )
日時: 2009/08/26 00:21
名前: のの

今日書いた二つのショートショートのひとつ。
これは言わば先行シングルか!?なんつってみたりして。

これは、ゲロ甘とはなんぞや、という事を仕事中に考えていた時、それはちょっとした日常にあるやりとり
であると思い立って書いたものです。

綾波レイの一人称でありつつ、やや大人の二人を書くのは凄く久しぶりなのでちょっと新鮮でした。

これをゲロ甘というべきかどうかと言えば、多分違うと思うんですけど、これ以上は無理(笑)

碇くん、と今更呼ばせる感じが書けて良かったなあっていう奇妙な達成感がある(笑)

知らない人のために解説すると「女たち」はローリング・ストーンズのアルバムです。
アルバムに収録されている同名曲『Some Girls』が原題。
どうしても洋楽の邦題が好きになれないが、これは珍
しく好きな方だな。
本は北野武。
メンテ
Re: 癖になる ( No.2 )
日時: 2009/08/26 05:42
名前: タン塩

これはののさんにしてはわかりやすい作品。いつもはもっとヒントが少ない(笑)
ののさんのゲロ甘はくっつくまで、とφ(.. )メモメモ

ちっ『女たち』か。旧世紀っぽいデザインと聞いて『ハー・サタニック・マジェスティ−ズ・
リクエスト』かと思ったぜ。
メンテ
Re: 癖になる ( No.3 )
日時: 2009/08/29 02:35
名前: tamb

 この手のののさんのはいつもそうだけど、こんなふうにじゃれあう二人はとても好き。
信頼関係というか。

> わたしの左眼の脇の髪ひと房を弄んだ。

 二つ結びかな、と思ってちょっと萌えた(爆)。違うみたいだけど。

> ちっ『女たち』か。旧世紀っぽいデザインと聞いて『ハー・サタニック・マジェスティ−ズ・
> リクエスト』かと思ったぜ。

 旧世紀っぽいデザインってのは難しい。読んでる時は考えなかったけど(先を読むのに
忙しい)、「クリムゾンキングの宮殿」なんてのはどうだろうか。

 で、シンジ君は何を考えてたの?
メンテ
Re: 癖になる ( No.4 )
日時: 2009/08/29 06:18
名前: タン塩

> で、シンジ君は何を考えてたの?
それを言わないのがののさんでは。

何が旧世紀っぽいかは、旧世紀人にはわかりません(笑)
ただ何となく『サージェント・ペパーズ』を思い出して、ストーンズということで
あの無理矢理サイケアルバム『サタニック・マジェスティ』にしたわけで。

で、「癖になる」って何?
メンテ
Re: 癖になる ( No.5 )
日時: 2009/09/09 23:15
名前: tamb

> で、「癖になる」って何?

それを言わないのがの(ry

お約束だと思われるので書いてみましたw
メンテ

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