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Calling My Name 100330
日時: 2010/03/30 00:45
名前: aba-m.a-kkv







私の夢は醒めない。

私は無色で、

私には形がないのだから。







Calling My Name aba-m.a-kkv 100330







私は、薄暗くて、でも赤く薄ぼんやりと明るい空とも海ともつかない中を漂っていた。

紅茶の中でくゆる茶葉のように、ふわふわ漂い、たゆたっている。


ああ、時たまに見る、いつもと変わらない夢だ。


そう思いながら、私は私の力でこの夢から醒めることができないのを知っている。

その術を私は知らず、持ってもいないから。

ただ緩やかな流れに呑まれるままに漂うだけ。

日の光も時計の目覚ましの音もこの夢を打ち砕けないことを、私は知っている。


私はやっとの思いで、重たい重たい瞼を開く。

何もない世界。

そこで私は私を見る。

その掌も、身体も、透通っていて色を持っていない。

何処かで色を落としてきてしまったかのように、私は無色だった。

でも、私は私を彩る色を持っていない、彩る術を持っていない。

私ははじめから無色なのだから。


私は水面に浮上していく。

けっして水上に上がりはしない。

それは夢の境界だから。

でも、私はその薄い薄い膜を壊す力を持っていない。

その水面の境界はまるでガラスのようで、その薄い薄い膜は私の夢と現とを隔てて鏡となる。

そのすれすれまで浮かんだ私は、その境界に私を映す。

全身を映す鏡、でもそれに私は映らない。

ただぼんやりとしたものが、曇りの日の夜の月のように朧な私の輪郭が映っているだけ。

でも、私は私の力で私の形を作ることができない。

私は私の形を想像できない。

その術を知らないから、私は私を知らないから。

私はこの夢の世界で私を形作れずにいる。


私は夢から醒めることもできず、彩ることもできず、形作ることもできずに、ただ漂っている。

私はまた沈んでいく、私はまた瞼を閉じる。


『……………』


何かが雫落ち、私は閉じかけた瞼を開いた。



『…………み』


何かが雫落ち、私の沈降が止まり、私の中に色が落ちる。


『………なみ』


声が落ちる、私はその声に浮上していく。


『あ……なみ』


私を、呼ぶ、声?


水面に触れるか触れないかというところまで浮き上がった私に、形が浮き上がっていく。


『……あやなみ』


水面にひびが入る、そして。


「……碇、くん!」


私は掌を伸ばす。

世界が割れる。



そして私は、色を取り戻し、形を取り戻し、夢から醒める。



気がつくと、それはソファーの上だった。

薄くやわらかいブランケットに包まれて、私は眠っていたのだ。

少し目を上げると、窓ガラスの向こうに夕日が見える。


「おはよう、綾波。

 もう夕方だよ、そろそろ起きないと」


私の眸が映す私の視界には、愛しい愛しい彼の姿が映る。

漆黒の瞳が私を優しく見つめてくれている。


「……おはよう、いかりくん」


そう呟きながら、私は彼に抱きついた。


「あ、綾波!?」


突然の私の抱擁に彼は驚いている、けれど、私には私を呼ぶ彼の声が聞こえるだけ。


「そう、それよ、その名前を、私を呼んで」


一瞬の間とまどっていた彼も、しがみつくように抱きつく私に手を回してくれる。


「どうしたの、綾波?」

「私は、私の夢を漂っているの。

 でも、貴方が呼んでくれなければ、私は私の夢から醒めることができない。

 貴方が呼んでくれなければ、私は私を彩れない。

 貴方が呼んでくれなければ、私は私を形作れない。

 だから……」


彼が私の抱擁を解き、頬に手を当て額を合わせる。

そして、すべてをわかってくれたそんな瞳で私をやさしく見つめ、そして。


「綾波」


私の名を呼んでくれる。


「綾波」


私の中に彩が広がる。


「綾波」


私の中に形が浮かんでいく。


「綾波」


「碇くん、そう、もっと、もっと、私を呼んで」




貴方が私を呼んでくれるから、無色な私は私を彩れる。

貴方が私を呼んでくれるから、形のない私は私を形作れる。

そう、貴方が私を呼んでくれるから、私は、私でいられるのよ。






レイへ、1年間ありがとう。

そして、これからの1年もよろしく。




メンテ

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Re: Calling My Name 100330 ( No.1 )
日時: 2010/03/31 21:55
名前:

好きな人の名前を呼ぶとか、逆に好きな人に名前を呼んでもらえるというシチュエーションは、ストライクゾーンなんです。
そして、シンジがレイを「綾波」って呼ぶのも実は凄く好きなんです。
なので、シンジが「綾波」と呼ぶ所を何度も読み返してしまいました(笑)

素敵な話をありがとうございます。
メンテ
Re: Calling My Name 100330 ( No.2 )
日時: 2010/04/01 01:28
名前: aba-m.a-kkv


今回、投下は比較的余裕をもってできましたが、コメントは例のごとく遅くなってしまいました。
なんとかしないと。
さて、ショートショートについて少しだけ。
中にはお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、
場面のイメージの元になっているのは、劇場版「Ghost in the Shell」の一場面から。
タイトルや内容のイメージは鬼束ちひろの「Call」や「流星群」からです。
そう思ってそれぞれ見返してみたり聞き直してみたりしたのですが、いまいち直接というわけではなさそう。
いつものようにいろいろごちゃ混ぜになって零れた物語のようです。笑

■楓さん
いつもながら読んでくださってありがとうございます。
シンジもレイも自分の形や存在といものを自ら希薄に感じているような部分があるように思います。
名前を呼ぶというのは、存在を固定化する手段、そうであるなら、想い合い、名前を呼び合うことで、二人は二人でいられる。
今回はレイの記念SSなのでレイメインですが、裏返せばシンジにとってもそうなんじゃないかなと思いながら書きました。
楓さんのストライクゾーンに入ったようで何よりです。
「綾波」を繰り返すところは、なんというか不自然な感じを持たせずにいけただろうかと悩んでいたのですが、安心しました。

メンテ
Re: Calling My Name 100330 ( No.3 )
日時: 2010/04/01 04:46
名前: tamb

 名前を知るということはその人を支配するということで、だから神の名前を口にしてはなら
ない、なんていう話がある。名前を呼び合うというのは、支配し支配されるということ。支配
しあうという快感。あなたは私のもので私はあなたのもの。名前を呼び合うたびにお互いが作
られ、それが変化し続ける。声音の違いで。ほんの僅かなイントネーションの違いで。それが
とても心地いい。

メンテ
Re: Calling My Name 100330 ( No.4 )
日時: 2010/04/02 21:50
名前: JUN

ども、JUNです。
「碇くん」「綾波」
この二人はこうでなくちゃな、と思います。
「れ、れ、レイ」「し、し、シンジ、くん」みたいなのもいいですが(笑)
名前ってのは記号じゃないわけです。名は体を現す、などといいますが、そこにはつけた人の意思があり、呼ぶ人の意思があり、呼ばれる人の意思がある。だから名前は、独りでは成立しない。呼んでくれる人がいてこそ。
そんなことを思い出させてくれる素晴らしい作品でした。
ありがとうございました。
メンテ
Re: Calling My Name 100330 ( No.5 )
日時: 2010/04/04 09:44
名前: calu

aba-m.a-kkvさん

名前を呼ばれる毎に、シンジ君の名前を呼び返したレイは、自らの心の淵に佇む「碇くん」
にもまた彩を落とし続けている。だから、二人は「碇くん」そして「綾波」でなければならないんですよね。

>「……おはよう、いかりくん」
自分を自分として目覚めさせてくれたシンジ君への愛おしさが溢れんばかりの
センテンスだと思います。レイちゃんの甘い声が聞こえてくるようです。嗚呼(^^;)。

有難うございました。次に拝読させていただく機会を楽しみにしております。
メンテ
Re: Calling My Name 100330 ( No.6 )
日時: 2010/04/12 01:33
名前: aba-m.a-kkv

■tambさん
読んでくださってありがとうございます。
名前を呼び合うたびにお互いが作られ、それが変化し続ける、というのは考えさせられます。
そういう意味で、今回どれだけ色が変えられたかわかりませんが、心地よいといってくださってうれしいです。

■JUNさん
感想ありがとうございます。
今回の二人は大学生くらいの年齢を意識して書いてみたんですが、二人はいつまでたっても「碇くん」と「綾波」だなあ、と私も思います。
例え「シンジ」と「レイ」と呼び合える段階を越えたとしても。

■caluさん
感想ありがとうございます。
彩を落とし続けている、その雰囲気を感じ取ってくださったようで嬉しいです。
あの部分をひらがなにしたのも正解だったようでよかったです。笑
また読んでくださればと思います。

メンテ

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