お昼寝 |
- 日時: 2010/04/02 21:53
- 名前: JUN
- 休日午後の呑気な昼下がり、レイとシンジは一つのタオルケットの中にいた。
アスカはいない。ヒカリのところにでも行っているのだろう。休日、というのはあくまで学校という限られた機関だけのものであって、NERVはそれに該当しない。従ってミサトもいない。 レイは隣の部屋に住んではいるが、合鍵を渡しているので明確な敷居は存在しない。 いつもの家事がひと段落した後、シンジが束の間の昼寝に甘んじていると、いつの間にかレイがその中にもぐりこんでいたのだ。 シンジは一瞬ぎくりと体を強張らせたが、すぐに優しく微笑みレイの柔らかな髪を撫でた。 しかしその動きに、レイがもぞもぞと体を動かす。 「あ、ごめん。起こしちゃったかな」 レイはかぶりをふり、 「・・・・・・・いい」 しかし少しご機嫌斜めなのは傍目から見ても明らかだ。寝起きが悪いのは最近の新鮮な発見の一つだ。 「もうちょっと、寝る?」 レイはこくんと頷き、シンジを見る。いつもなら羞恥に逸らしてしまうような、まっすぐな、見るものを虜にさせる視線。何かを訴えかけるようなその眼差しに、シンジは少し顔を紅くする。 「何?」 レイは嬉しそうに微笑み目を閉じる。 「キス、して」 顎を突き出すレイに、シンジは優しくレイの唇を奪う。 シンジが離れると、レイは恥らうように目を伏せ、慌ただしく瞬きをする。しぱしぱと揺れる長いまつげに、シンジはたまらなく愛しい気持ちになった。少し強引にレイの後ろ頭に腕を滑り込ませると、その小さな頭を肩に抱くようにして引き寄せた。 「可愛いよ、綾波」 耳に息を吹きかけるように囁くと、一瞬でレイの白磁のように滑らかな肌は耳まで紅く染まる。 「何を言うのよ・・・・・・・」 逃げられないようにレイの頭を少し強く抱いたシンジは、その紅く染まった耳たぶを甘く噛んだ。 「きゃっ」 思わぬ感触にレイの華奢な体がぴくんと跳ね、小さく悲鳴を漏らす。身をよじってシンジの腕から逃れたレイは、恨みがましくシンジを睨んだ。 「・・・・・・・えっち」 「ひどいな」 シンジとレイは同時にくすくすと笑う。ささやかでも確かな幸せを噛みしめるように、僅かな時間をそうして過ごす。 そんな穏やかな波が過ぎると、シンジはこつんとレイの額に自分の額を当てた。 「ね、綾波」 「何?」 「僕のこと、好き?」 レイは一瞬きょとんとしたが、すぐに悪戯っぽく微笑む。 「教えてあげない」 「なんで?」 「さっき私のこといじめたから」 勝った、とでも言いたげに目を細めるレイ。しかしレイの思惑とは裏腹にシンジは全く気にとめず、 「・・・・・・・さっきの、嫌だったんだ?」 「――え?」 「綾波は、さっき僕にあんなことされたの、嫌だったんだ。ごめんね、もうしない」 レイが何か言う前にぷいと顔を背け、背中を向ける。 「あ・・・・・・・」 レイの口から切ない声が漏れる。先程までの得意げな雰囲気はどこへやら、今にも泣きそうだ。 「ご、ごめんなさい碇くん。嫌じゃ、ない」 シンジは動かない。寝そべっていなければその顔が笑顔に満ちていたことが分かったかもしれないが、惜しいかなレイがそれを知る術はない。 「嫌じゃない。碇くんだから」 「・・・・・・」 「碇くん、こっち向いて」 「・・・・・・」 「碇くん、私、碇くんが好き」 「もう一回」 「碇くんが・・・・・・え?」 「もう、一回」 シンジがぷっと吹き出す。騙されたレイは憮然とした表情でシンジの背中をつねった。 「・・・・・・・いぢわる」 シンジがレイの方へと向き直り、そっと頬を撫でた。 「・・・・・・怖かった」 「ごめんね」 少し申し訳なさそうにシンジが言う。レイはその胸に頭を埋めた。 「罰として」 「え?」 「私が眠るまで、ここにいて」 耳が赤い。また悪戯心が鎌首をもたげてくる。 「だめだよ、綾波」 レイの体が震え、顔を上げる。その眸は潤み、今にも泣きそうだ。 「だめ、なの・・・・・・?」 シンジは少し意地悪そうに口元を歪め、レイの唇に人差し指を当てた。 「うん、だめ」 「そんな・・・・・・・」 涙が一滴、レイの頬をすうっと流れる。それを見て、一転してシンジが優しく微笑んだ。 「僕はね・・・・・・・」 震えるレイの頭をそっと抱き寄せて、シンジは囁く。 「綾波が起きるまで、こうしていたいんだ・・・・・・」 ちゅ、と音を立ててレイのまぶたにそっと口付けたシンジは、タオルケットで自分とレイを包み込み、胸の上にレイを乗せるような形で、レイを抱き締めた。 「ばか・・・・・・・」 涙声で微笑んだレイは甘えるようにシンジの喉に鼻先をこすりつけ、あまり頑丈でない胸板に頬を寄せ、目を閉じた。
薄い布に包まれた二人は、心地よい温もりの中、まどろみに溶けていった。
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