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Walking to you
日時: 2010/07/22 17:56
名前: tomo   <bellweatherjp@yahoo.co.jp>

 今日はとてもいい天気だと思う。

 そういえば,私が何かをしようと思ったときはいつもこんなふうに晴れていたような気がする。




 ――そういうの,晴れオンナっていうのよ――




 たぶん,アスカならそういうだろう。
 
 聞かなくてもアスカが何を言うのかわかるようになったのは,やっぱり付き合いの長さから,かしら。


 トントン


 新しく買ったスニーカーを履いた後,軽くかかとでリズムを刻んでみる。

 下ろしたばかりのスニーカーは,買った時のままきれいなコバルトブルーをしている。

 そのきれいさは,履いて汚してしまうのを少しためらうくらい。




 ――長時間歩くのなら,履きなれた靴の方がいいわよ――




 たぶん,赤木博士ならそういうだろう。

 そう思っている自分に気づいて少しびっくりする。

 でも悪い気はしない。赤木博士は大事な家族だから。

 むしろ,いい気分。


 カタン  
 

 靴入れの上に置かれた,猫のオブジェのついたキーホルダーを手にする。

 そして,私はざっと自分の体を見回してみる。


 白の下地に薄いブルーのドット柄が施されたドライフィットTシャツ。

 外側に赤のラインが入った黒色のハーフパンツ。

 腰にはハンドタオルとスポーツドリンクと携帯の入ったピンクのポシェット。

 
 大丈夫。準備は万端。




 「行ってきます」




 私は主のいなくなった部屋に一言そう声をかけ,ドアの外へと繰り出した。 
 







『 Walking  to  you 』









 「…………ちょっとあんた,なにいってんの?」




 最初にレイの話を聞いたときは,正直,なに考えてんのって思った。

 この,しっかりしているようでいて,どこか抜けているわが親友は,ときどき突飛なことを言い出すのだ。




 「わ〜素敵なアイディアね〜♪」
 



 あたしが二の句を告げないでいるうちに,もう一人の親友は全面的に賛同していた。

 ちょっとまて,ヒカリ。

 いつまでも中学生の乙女のままな思考回路で判断する前に,もう少し考えることがあるだろう。




 「……あの馬鹿にはいっとくわけ?」


 「いいえ。黙っておくつもり」


 「うん,そーよね。私もその方がいいと思うわ」




 いや,だからね,ヒカリさん。

 すぐに賛同するのはだめだって。

 この天然純愛少女には少し突っ込みが必要なのよ。
 
 あたしは,この場にヒカリを呼んだのは間違いだったかと少し後悔する。




 「それであいつがいなくて,会えなかったらどーすんのよ」 

 
 「大丈夫」




 いや,そこで力強くうなずいても意味わからないから。
 
 なにがどう大丈夫なのか論理的に説明してほしいものだ。




 「帰りはどうするの? 時間かかるから夜になるでしょう?」


 「なにいってるの,アスカ」




 返事は私の前ではなく,横から聞こえてきた。

 ……この場にあたしの味方はいないようだ。




 「帰りは二人なんだから,平気に決まってるじゃない」




 さも当然のように言い切るヒカリ。

 あんたが言い切ってどうするの。




 「どちらにしても,もう決めたから」




 そうやって言い切ったレイの顔は,なんというか,素敵な美しさに包まれていて,ちょっと眩しい気がした。

 やれやれ。言い出したら聞かないんだから,この子は。




 「……とにかく,携帯だけは忘れないこと。あと,こまめにあたしやリツコにメールするのよ」 


 「わかってる。ありがとう,アスカ」




 なにがありがたいのだかわからないけれど,ま,この子に振り回されるのは全然悪い気がしないのは事実だ。

 あたしにしては,ほんと,珍しいことだけど。




 「……なんか,アスカ,言ってることがおばさんくさいわよ?」



 
 その言葉をきいて,あたしは,この場にヒカリを呼んだのを本気で後悔し始めるのだった。








 「そこまでにしていいわよ。少し休んでちょうだい,シンジ君」




 リツコさんにいわれて,僕はコンソールに走らせていた手をとめる。

 そしておもむろに背伸びなんかをしてみる。

 振り返ると,リツコさんはコーヒーを入れていた。




 「ごめんなさいね。貴方も忙しいでしょうに,手伝わせてしまって」




 淹れたてのコーヒーを僕に手渡しながら,リツコさんはそう謝った。




 「べつに大丈夫ですよ。僕はもう前期試験も終わったし,正直,ひまでしたから」




 ブラックの濃いめのコーヒーに少々舌をやられながら,僕はそう答える。

  

    
 「そういってもらえるとうれしいけど……」




 言葉の後半を飲み込むように,リツコさんはコーヒーを口にした。

 僕の言ってることは本心だった。

 大学2年の夏。僕は,かつて毎日通っていたネルフ本部に来ていた。

 もともと前期試験の数が少なかったこともあり,7月早々に試験は終了し,僕は,一足早い夏休みに入る予定だった。

 そんなとき,リツコさんからMAGIのメンテナンスを手伝ってもらえないかという話が来た。

 ネルフ自体は解体されてしまっていたが,当時の技術の粋をあつめていたMAGIなどの技術システムは,ただ廃棄されるには惜しい品物だった。
 
 そういうわけで,リツコさんや一部の技術部の人は,こうやって定期的にMAGIのメンテナンスを行っていたのだ。

 僕は,その作業の手伝いを頼まれたわけになる。

 リツコさんからの頼みだったし,なにより,暇だったので,僕はその依頼を受けることにした。



  
 「でも,僕なんかで役に立つんですか?」


 「その点は平気。メンテナンスといっても,ほとんどMAGIが自分でやるから。ただそれを監視している人手が足りなくて」



 
 たしかに,僕がやっている仕事といえば,モニターをながめ,MAGIの自律チェックプログラムに異常がないかを調べているだけだった。 

 これなら僕にだってできるけど,面と向かってそう言われるのは,ちょっと嫌な感じだ。




 「……ごめんなさい。でも,助かっているのは事実だから」





 僕の不満が顔に出ていたのだろうか。リツコさんは,そう言って謝ってくれた。

 昔は全然気がつかなかったけど,リツコさんってやさしいよな。

 


 プルルルルル………




 僕がそう思っていると,突然電話のコールがこだまする。




 「……はい,赤木です――え?――そう,わかったわ」



  
 リツコさんは,相手と二言ぐらい会話すると,電話を切った。


 
 

 「シンジ君,貴方にお客さまよ」








 「ここまで歩いてきたの!?」




 心地よい疲労に包まれて,ベンチに体を預けている私の横で,碇くんのびっくりした声が聞こえる。




 「ええ」




 疲労感とそして,少しのいたずら心から,私はあえてそっけなく答える。




 「でも,ここまで10キロ以上あるじゃないか」


 「正確には12.4キロよ」




 覚えてきた数字を口にする。それも,いたずら心の表れ。




 「なんでそんなこと……?」


 「したかったから」


 「でも……」

 
 「会いに来ちゃ,ダメ?」


 「そういうわけじゃないよ。ただ……」


 「ただ……?」




 そこまでいって,私は碇くんの顔を正面から見据えた。



  
 「何かあったらって思うと……」




 碇くんの心配そうな顔。

 それをみて,私の望みの半分はかなえられた。

 なぜって,これは,彼に対するちょっとした罰なのだから。




 「……でも,ちゃんとついたから」


 「……そうだね……ケガはない?」


 「平気。ちょっと足が痛いけど」


 「そりゃ,そんなに歩けば当然だよ」


 

 碇くんは笑う。

 その笑顔が,私の疲れを吹き飛ばす。




 「何か飲み物でももってこようか?」


 「大丈夫。それより,聞いて」



 
 立ち上がって歩いていこうとする彼を制して,私は言う。




 「七夕ってね,一年に一度だけ,織姫と彦星が会える日なの」




 唐突に切り出した私の話題に,碇くんはちょっとついてこれないみたい。




 「だから,織姫はその日をずっと待ち焦がれていると思うの」 


 

 言って私はベンチから立ち上がる。

 既に立っていた彼の顔がとても近くに見える。



  
 「もし,織姫がたった一度のその日に彦星のせいで会えなかったら,彦星はどうすればいいと思う?」


 

 私の問いの意味にようやく気付いた碇くんは,最初は戸惑って,やがて,ちょっと真剣な顔つきになった。

 そう。考えて,碇くん。

 そして,できれば私のもう半分の望みもかなえてみせて。

 しばらくの沈黙。

 こういう沈黙は,少しはらはらする。

 やがて。

 一つの答えを導き出したのか,碇くんが私の瞳を真直ぐに見つめなおしてくる。




 「たぶん,こうすると思うよ」




 いうが早いが,私は碇くんに抱き寄せられてしまう。

 そして。

 私が自分の汗のにおいを気にする時間もないままに。

 私の唇は,何も言えなくなってしまった。
  
 
 

 「……どうかな?」




 少し恥ずかしい様子を見せながら,つぶやく彼。

 つられてはにかむ私。

 でも。

 私はとても満足だった。

 だって,私の望みは,全部かなえられたのだから。

 私の一番大事な彼によって。
   
メンテ

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Re: Walking to you ( No.1 )
日時: 2010/07/24 05:02
名前: tamb

 おおっ! tomoさん久し振り。

 背景が明確でない(今どこに住んでるかとか)のでなかなか困難なんだけれど、これはレイ
がシンジにキスしてもらうために12.4キロ歩き倒すという話なのであろうか。それはそれでな
かなか可愛い(笑)。
 妄想を展開すると、「帰りは二人なんだから,平気に決まってるじゃない」とはいえ、やは
り電車で一緒に帰ってくるのが普通だと思われる。となると、レイはウォーキングしてました
的なハーフパンツにTシャツで電車に乗るわけで、それはそれで恥ずかしいのではないだろう
か。そうでもないか。

> 「もし,織姫がたった一度のその日に彦星のせいで会えなかったら,彦星はどうすればいいと思う?」

 土下座して謝る(笑)。


 読点が「,」なのが論文調。それはそれで気にはならんけど、「,」に「.」を組み合わせ
るのは理系の論文だけ?
 脱力系の誤変換が散見されるので、それはちょっと注意かな。

メンテ
Re: Walking to you ( No.2 )
日時: 2010/07/24 23:55
名前: tomo

>tambさん

 お久しぶりです
 ずっと何の音沙汰もなくてごめんなさい。
 なんだかんだで仕事は忙しいですけど、最近はちょっと一息つけたので久しぶりに投稿してみました。
 実は、ここ最近、ずっとromってたり、某所ではちょこちょこ短編を発表していたりしてたんですが、あまりにも不義理だったんで、ここに書くのはちょっとためらってました(爆)

 コンセプトはただ一つ。
 愛する彼に会うために、ひたすら歩き続ける一途なレイちゃんです。

 そこに萌えてもらえれば、後は付け足しにすぎません(笑)


>背景が明確でない点について

 ここはちょっと悩んだところです。具体的に住んでる町を出して歩いた距離を推測させるか、単純に数字を出すか。
 町を出すのはいろいろと説明が長くなりそうだったのと、距離のほうがインパクトがありそうだったんで、後者をとりました。
 
 tambさんに指摘されて思ったけのですが、私の文章、説明不足なところが多いのかなぁ?
  

>誤字脱字
 こればかりは毎度のことで、ほんと、なおらないなぁと反省しきり。
 実は、仕事の文章でも誤字が多いので毎回誰かにチェックしてもらっていたりします。だめだめですね。
 一応、修正してみました。

>読点の問題。
 あーすいません、これ、職場のパソコンで書いたもので、仕事で作成する文章の仕様になってます。
 どういうわけか、仕事で作成する文書では、「,」と「。」を使うのです。
 ちなみに、文系の論文でも、「,」のときは、「.」が正式なはずです。
 私が知っているのは、法学の論文だけですけど。
 
メンテ
Re: Walking to you ( No.3 )
日時: 2010/07/27 04:37
名前: tamb

> あまりにも不義理だったんで、ここに書くのはちょっとためらってました(爆)

 というか、tomoさんも中断してる連載があったような(爆)。

> 私の文章、説明不足なところが多いのかなぁ?

 微妙なところです。この手の短編で説明が行き届いてるのも変な気がするというか、説明に
終始してしまう感じがするし。
 大学生と判明するまで半分以上かかってるのはなかなか絶妙かと思いますが、ひっかかった
のは12.4キロ。数値が具体的なんでどこか想定があるのかなと思うんですが、MAGIが旧NERV本
部にあるとすると、12.4というのは微妙な距離なんですよね。東に行って強羅のちょい先、南
に行くと芦ノ湖南端のちょい先。北と西には特にこれといったものがない。そもそも第3新東
京市に大学があるか?
 となるとMAGIは松代で大学は第2新東京市(松本)かなと思いますが、これだと30キロくら
いある。うーむ。ということになるわけです。

> 実は、仕事の文章でも誤字が多いので毎回誰かにチェックしてもらっていたりします。だめだめですね。

 これはだめだめかもしれん(爆)。でも今回の修正で、少なくとも覚えてる範囲での「これは」
という誤変換は落ちてるんで、ちゃんと読み直せば落ちるんじゃないしょうか。

メンテ
Re: Walking to you ( No.4 )
日時: 2010/08/02 11:10
名前: tomo  <bellweatherjp@yahoo.co.jp>

>中断している連載

 ええ,わかっています(爆)。
 わかっているので,今,全面的に改修中です。一応,5話までは作ったので送れないこともないですがまた中断しちゃうと怖いので(現に今,ちょっと中断中)全部できてから送ろうかとも思っているところです。
 今年のクリスマスには完結させたいなぁ。クリスマスのお話ですし(笑)

>説明不足 
 ああ,なるほど。そういうところですか。
 この数字,具体的な地理的関係を念頭に置いて出てきてないので(!),tambさんの疑問はもっともですね。
 数字は,インパクトと,あと,自分の経験からこれくらいが気持ちよく歩く限度かなっている憶測と,思いつきの羅列です。
 こういうところを詰める必要があるんですね。勉強になりました。

 ちなみに,説明不足という点でいうと,このお話の中で,リツコさんとレイは同居しています。そのことが分かるような一文もあるんですが,その点はわかりましたでしょうか?


>誤字の点
 精進します。
 ちょっと考えたのですが,私の場合,速読を覚えてから読み直しによる誤字脱字発見率が急降下した気がします。
 私の速読の方法は,文字にこだわらない読み方,になってしまっているようです。
 なにはともあれ,気をつけていきます。 
メンテ
Re: Walking to you ( No.5 )
日時: 2010/08/03 00:50
名前: のの

まずはtomoさん復活が嬉しい。
しかし古参だしキャリアも大分長いけど嬉々として新しいSSを読んでいる自分はなんなのかという気もしてくる。

>碇くんは笑う。

個人的感覚では『碇君が』ですが。
でもここで大事なのは、そのすぐ後で、外連味のない言葉できちんと、

>その笑顔が,私の疲れを吹き飛ばす。

と言えてるレイです。かわいいんだこれが!!(笑)
こういうところで、飾った言葉をたくさん使うとかえってぼんやりしちゃう可能性があるので、これでグーです、グー。親指2本でしたよー。
メンテ
Re: Walking to you ( No.6 )
日時: 2010/08/03 12:27
名前: tomo  <bellweatherjp@yahoo.co.jp>

>ののさん
 掲示板でもかきましたけど,お久しぶりです。
 復活を喜んでもらえて,ほんとうれしいです。
 自分なんかとっくに忘れ去られているかなぁ〜なんて思ってたもんで(爆)

 嬉々として新しいSSを読めるのは素敵なことだと思いますよ〜
 全然いいと思います。

>外連味のない言葉
 表現としては,ちょっとストレートすぎるかなという気もしますけど,レイならこういうんだろうと思いました。
 でも,私的には,全然萌えポイントとして意識してなかったので,ちょっと恐縮です(笑)。
 
メンテ
Re: Walking to you ( No.7 )
日時: 2010/08/03 16:02
名前: JUN

tomoさん、復活してくださって嬉しいです。

変に歩く過程を描写しないのが好きです。

>心地よい疲労

この一言で全てを表現出来ているのではないかな、と。苦には全くなっていない感じが。
12キロというと、歩けば2〜3時間平気でかかる距離ですが、そこは健気なレイちゃんぱわーなのでしょうw
関係ないのですが、今作を読んでふと、もうちょっと私のキスの描写をシンプルにしなきゃな、と思った次第です(爆)
メンテ
Re: Walking to you ( No.8 )
日時: 2010/08/05 12:17
名前: tomo  <bellweatherjp@yahoo.co.jp>

>JUNさん
 復活を喜んでくれる人がこんなにもいるとは感激です。
 ちょくちょく失踪したいぐらいです(爆)。
 本当にありがとうございます。

>歩く描写
 この描写はするつもりはなかったです。
 だって,歩いてるだけの描写って面白くないじゃないですか(笑)。
 この小説は一人称なので,歩いている時は必然的にレイの独白になるわけですけど,それで面白くさせられるほど,文才がないのです(爆)
 歩いてきたっていうのを最後まで隠したかったですしね(タイトルでモロバレですけど)。

>キスの描写
 さっき読んできました。
 詳しいレスは,あっちに書きますけど,JUNさんのもいいじゃないですか。
 思わず笑顔になれましたよ♪
 私は直接描写が嫌いなタイプなので,こういう表現ですけど,ゲロアマなら,あれくらいでOKだと思います
メンテ
Re: Walking to you ( No.9 )
日時: 2010/08/16 03:29
名前: tamb

> >碇くんは笑う。
> 個人的感覚では『碇君が』ですが。

 ここは「が」で正解です。


> 今作を読んでふと、もうちょっと私のキスの描写をシンプルにしなきゃな、と思った次第です

 これはやっぱりケースバイケースでしょう。これでもかとばかりに細かく描写した方がいい
場合も当然あるかと。ただ、

>  いうが早いが,私は碇くんに抱き寄せられてしまう。
>  そして。
>  私が自分の汗のにおいを気にする時間もないままに。
>  私の唇は,何も言えなくなってしまった。

 この四行はまさに賞賛に値するかと。
メンテ

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