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サイト開設十周年カウントダウン企画・十月
日時: 2010/09/30 03:10
名前: tamb

月々のお題に沿って適当に書いて投下して頂こうという安易な企画です。作品に対するものは
もちろん、企画全体に対する質問や感想等もこのスレにどうぞ。詳細はこちらをご覧下さい。
http://ayasachi.sweet-tone.net/kikaku/10y_anv_cd/10y_anv_cd.htm

今月のお題は

・一番大切なこと
・わたしのお尻は喋らない
・Knockin' On Heaven's Door

です。
八月の企画、九月の企画、1111111ヒット記念企画も鋭意継続中です(これ、ずっと書くのだ
ろうか(^^;)。八月九月十月十一月十二月一月……)。

今月中には、インフォシークiswebライトのサービス終了に伴う雑談掲示板「新・「綾波レイ
の幸せ」掲示板 二人目」移転記念企画もありますので(あるのか?)そちらもよろしくお願
いします。

では、どうぞ。

以上、ほぼコピペ(爆)。
メンテ

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Re: サイト開設十周年カウントダ ( No.1 )
日時: 2010/10/01 07:05
名前: 何処

ネッ・ネッ・ネルフの大爆笑〜♪

今晩は、碇ユイです。
カラオケ…日本の誇る文化ですね、今日も宴会から流れた若い人達が又…
さて、喜悲交々な彼彼女等はどんな歌を唄うのでしょう…



【挽歌カラオケラプソディー】



『♪屁ばこきよったなキサン♪』

『おお!ウルフケンジとは…やるなマナ!』

『よしケイタ負けずに“日本カレー化計画”行きます!』


「…あの…皆さん…なんでマイク持って話してるんです?歌ってる霧島さんが…」

「マユミ…無理よ。皆もう出来上がってるから…」

「…それにしても…」

「仕方無いわ、ほら、さっきの一次会でレイとシンジ、婚約発表したじゃない。」

「…ええ、綾波さん、嬉しそうで…クールビューティーとか笑わぬ美女って言われてた綾波さんが笑うなんて初めて見た…」


『♪屁こき屁こき屁こき屁こきよったなキサン♪』

『さあてと…』『待て、俺の“ダラッシャア!男唄”が先だ!』


「…まあ、あの娘も色々あったから…で、今リモコンの奪い合いをしてる雄二匹は我が社のファーストレディをボンボンに奪われ、歌ってるマナはボンボンに告白寸前で…大失恋って事よ。」

「…あ、成る程…」


『♪貴様の屁は臭すぎるねん♪』

「…歌はいいねえ…」

『渚ぁ!何1人でつまみ食ってる!』『俺達の分残しとけよ!』


「…約一匹訳解らんお祭り好きも混じってるけどね…」

「でも…式波さん、あの…確か二人と幼なじみって…」

「そうよ、子供の頃からの。母が再婚する前で私未だ姓が惣流だったけどね。」

「…芸能人の娘も大変ね…でも…知ってたんでしょ?」

「…何を?」

「…二人、付き合ってる事…」

「全然。全く晴天の霹靂よ本当、水臭いったら無いわ。」


『では渚カヲル歌います。』

『『ヒューヒュー』』
『よっ二次会の貴公子!』
『♪虹を越えて今君は天国の門を叩く♪』


「…あたしも歌うかな…」

「めっずらしー、マユミったらどうしたの?」

「…何となく…」

「…よっし!アタシも歌うわ!デュエットよデュエット!」

「あ、あたしあんまり歌知らなくて…」

「ん〜〜…じゃ、これなんかどう?ロングセラーで割とメジャーだし歌いやすいし。」

「あ、知って…え、これですか?」

「他のにする?」

「え?んーーー…これにしましょうか。」

「OK、じゃ予約〃っと。」


『♪この涙は天国へ届く♪…ご静聴有難うございました。』

『おおー』『プロだプロ』
『バカヤロー惚れるぞ渚ー!』

『えーではわたくし式波アスカと山岸マナがデュエットで…』

『な、なにい!?式波が歌うだと!?』
『久し振りだね…』
『カラオケ全国一位の伝説が又か!?』
『反則それ反則!』

『パゲ&東で“にゃーにゃーにゃー”!』

『『おおー!』』
『あ、あたしも混ざるあたしも!』『あ、なら俺達もだ』『そうそう』
『やれやれ…仕方ないな、じゃ代わりにこの唐揚げは僕が食べへぶっ!?』

♪ちゃーっちゃっちゃー♪

『『『♪あ・いんまっからあいっつを、』』』
『『♪これかっらあいっつを♪』』

『『『『『♪殴っりにいっつったるぇ〜♪』』』』』




「…ブルッ!?」

「…どうしたの?」

「い、いや今ちょっと寒気が…」

「…はい。これなら寒くないでしょ?」

「あああ綾波!?せ、背中に抱きつかないで!!」

「ぇ?…駄目?」

「い、いやそのあの…だ、駄目じゃ無くってね、そ…そのむ…胸が…」

「…ぁ…」

「あのにゃあんたら…いちゃつくのはいいけど一応このマリ様がお目付け役に存在する事忘れてないかい?ん?」

「「あ」」

「何だその“あ”ってのは!!“あ”ってのは!?あ?」




『碇のぉ…ぶわっっきゃやりょぉ〜〜〜!』

『俺の綾波さんを返せー!』

『違う!違うぞムサシ!綾波さんは俺のもんだ!』


「…荒れてきましたね…」

「…マナだけ回収して帰りましょ。取り敢えず会計は済ましたし後は男共で勝手に吠えさせときゃいいわ。」

「ソース焼きそばはいいねぇ…日本の宝だよ。」


『『綾波さーーーん!カムバーーーックプリーーーズ!』』

『アタシの恋をきゃえしぇ〜〜〜!』




「へくしゅん!」

「碇君大丈夫?やっぱり風邪じゃない?」

「う、うん、大丈夫〃。ほら、きっと誰か噂したんだよ…」

「ほらあんたら!タクシー来たわよ!碇!番犬ワンコなんだからきっちりエスコートして送れよ!」

「「あ、はい」」

「…おまいら、途中寄り道するなよな。明日は首筋チェックされるぞ。」

「「…」」

「…赤くなるなよ二人して…」



…いいのか?碇…

…ふっ…問題無い…



劇中BGM【歓喜の歌】ベートーベン第九交響曲より。
歌・はちゅねミク
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メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十月 ( No.2 )
日時: 2010/10/02 08:02
名前: Seven Sisters

お題:わたしのお尻は喋らない








 冷え冷えとした、剥き出しのコンクリート。
 窓際に置かれたベッドと、その脇の小さな整理ダンス。
 一人で、長い時を過ごした空間。
 けれどその部屋との別れの時が、間近へと迫っていた。

 思えば、引越しをするというのは初めての経験だった。
 以前よりずいぶん物が増えたとはいえ、未だに質素な私の部屋。
 それなのにいざ整理を始めると、思ったよりもずっと時間がかかる。

 こんなことなら、全てを彼に任せてしまえばよかっただろうか?
 一瞬、そんな考えが脳裏をよぎる。
 けれど種々の手配で多忙な彼に、必要以上の負担はかけたくなかった。

 薬指で密やかに光るのは、プラチナのエンゲージリング。
 彼と初めて出会ってから、もうどれほどの月日が経つだろう。
 もうすぐ私の姓は碇に変わり、二人での新しい生活が始まる。
 そして私は、新居へと移る準備に追われているのだった。

「懐かしい」

 言葉と共に、思わず手にとって眺めてしまった。
 それは、傍目には何の変哲もないジーンズ。
 値段も、さほど高価な物ではなかったはずだ。
 けれど今でもよく覚えている。
 それは、彼に初めて買ってもらった洋服だった。

 どうして、私はこのささやかな贈り物のことを忘れていたのだろう。
 どうして、この宝物はタンスの奥底に長く眠っていたのだろう。

 生まれかけた小さな疑問の数々は、長く私の中にとどまることはなかった。

 それを初めて手にした時の幸福感。
 浮き立つような高揚感と、これ以上ないくらい満たされた心の器。
 そうした当時の感情が、私の中ですぐに蘇ってきたからだ。

「そう、そうだったわね……」

 嬉しくて、嬉しくて。
 本当に嬉しくて。
 普段の生活でそれを身につけるのは、どうしてももったいない。
 そんな気持ちが先に立ち、それが外の空気に触れることは多くなかったのだ。

 そこまで大事にするほどの物じゃないのに。
 そんなふうに言って、苦笑する彼。
 でも私は、これを身につけるのは特別な時だけと決めていた。

 碇くんは、今でも覚えているかしら。
 間もなく手伝いに訪れるはずの、彼の顔が浮かぶ。
 私の心を満たすのは、二人で共有した様々な思い出。
 そして懐かしさに流されるまま、私は着ていたジャンパースカートの下から、ジーンズに足を通していた。

(きつい……)

 思わず苦笑してしまった。
 足は何とか入るのだが、お尻の部分がどうしても入らない。
 身長は昔から変わっていないし、体重も……まだそれほどは変わっていないはず。
 ということは、私のお尻が大きくなったせい?
 少し困惑したけれど、それも仕方がないと気持ちを切り替えた。

 これをもらったのは、もう何年も前のこと。
 当時の自分の状況や、食生活。
 それを思うと隔世の感がある。

 初めて出会ってから、長い時が経って。
 幸せなことがたくさんあって。
 悲しいことも少しだけあって。
 そして二人、ずっと一緒に生きていこうと決めたのだ。

(いいえ、二人だけじゃないわね)

 そっと、自分のお腹をさする。

 少しずつ、丸みを帯びる私の体。
 一人の女から、一人の母親へ。
 私の体は、新しい家族を迎える準備を、少しずつ進めているのだろう。

「そうよね、私、お母さんになるのだもの」

 自然と私は、自分の体に語りかけていた。
 湧きあがるのは親愛の情。
 今までどうもありがとう。
 そして、これからもどうかよろしく。

 わたしのお尻は喋らない。
 けれどそこには、二人で紡いだ絆の証が、確かにあった。

メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十月 ( No.3 )
日時: 2010/10/03 21:45
名前: tamb

( No.1 )
■挽歌カラオケラプソディー/何処

 ほとんどシリーズ化しているがちょっと待て。これは何のお題だ?w


( No.2 )
■わたしのお尻は喋らない/Seven Sisters

 「わたしのお尻は喋らない」などという意味不明なお題でこれほどまでに美しい作品が
投下されようと考えたものがいるだろうか! 否! 断じて否である!

 クロミツさんの「One Step Higher」に続いて登場のSeven Sistersさんは、やはりあま
りに脅威であった。困るんだよ(笑)。
 願わくば長い長い物語のエピローグとして読みたかった。
 できちゃった婚かよという懸念はあるけど(笑)。

 しかしお尻っていうのはこんなに物を語るんだなー。

メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十月 ( No.4 )
日時: 2010/10/06 22:53
名前: JUN

一番大切なこと






 ――どう、しよう……

 レイは鏡を見つめながら、溜息を吐いた。あまりに見慣れすぎた、自分の姿。

 血のように紅い眸、普通はいない青い髪、異様に白い肌――

 それらを好奇の目で見られることは、特に何も思わなかった。慣れていたからだ。電車に乗れば聞
こえてくるひそひそ声、中学校に入ったばかりの頃は染毛を疑われたりもした。
 だが、それを不快に思ったことはない。生徒指導は多少煩わしかったけれど、NERVの名を敵に回
そうという物好きな手合いもそういないのだ。

 ――でも

「碇くんが……」
 自分とシンジは、最近恋人同士と言われるような間柄になった。嬉しかった。自分が想いを告げ、
シンジがきつく抱き締めてくれた時は、これ以上の幸せなどないと本気で思った。神様は本当にいる、
と――。シンジはあまり積極的でないせいか、普段は手をつなぐのがやっとだ。まだキスもしていな
い。だが、それでも別に構わなかった。急ぐことはない。あの時と違って時間は沢山ある。ゆっくり、
関係を深めていけばいい。
 今、レイの心を悩ませているのは、今まで何も考えることのなかったその容姿だった。シンジが自
分と一緒にいれば、シンジもその目線にさらされることになる。不快に思うかもしれない。それは嫌
だった。不用意に注目を集めるのは彼の良しとする所ではない。
 なら、髪を染めよう。カラーコンタクトをつけよう。白い肌だけはどうしようもならない。日焼け
しようにも、先天的なアルビノ体質のせいで、メラニン色素が存在しない。ついでに紅い目もそのせ
いだ。日焼けしたところで赤くなるのが関の山だろう。
 でも、それでシンジにかかる好奇の目線は幾分押さえられるはずだ。白い肌だけならさして珍しい
ものでもない。もしだめなら長袖を着込めばいいのだ。暑さなら耐えられる。伊達にラミエルに茹で
られていないのだから。
 そうと決まれば眼科とデパートだ。その程度の出費、痛くも痒くもない。一生遊んで暮らせるくら
いのお金が、今のレイにはあった。
「いってきます」
 誰も居ない部屋にそう声をかける。シンジに言われてついた習慣だ。「ちゃんと帰ってくる、ってい
う意思表示なんだよ」というのはシンジの弁だ。

 ――碇くん、待ってて……すぐに――

「あなたに相応しい人になる、から」




■△■△




「あれ、綾波?」
 夕食の買出し中、見慣れた青い髪を見つけたシンジは、嬉しそうに声を上げた。声をかけられたレ
イの肩が一瞬ぴくんと跳ねる。
「い、碇くん……」
「どうしたの、珍しいね。一人で買い物なんて」
「う、うん……」
 後ろ手を組んで語尾を濁らせるレイに、シンジは少しだけ訝しげな表情をした。
「綾波、どうしたの?」
「え、えっと……」
 嘘はつけない。無表情といわれる自分でも、シンジの前ではどこまでも正直になってしまう。
「それ、なに」
 後ろ手を覗き込まれそうになり、レイは狼狽した。慌てて隠そうとすればするほど、レイの表情は
強張ってゆく。
「こっ、これは――」
 ごとっ、と無情な音を立てレイの手からこぼれ落ちたその箱を見て、シンジは目を丸くした。
「綾波、それは……」
 美しい笑顔の女性と、その黒髪が印刷されたパッケージ。シンジも見かけることはあったが、当然
手にとって見るようなことはなかった。腰をかがめて拾い上げ、レイに言う。
「これ、買うの?」
「う、うん……」
 どもりつつ、レイは言った。黙っていたことへの微かな後ろめたさが、どうしても申し訳ないよう
な気持ちにさせてしまった。勝手にそんなことを決めたから怒られるかもしれないとも思った。
「そっか、はい」
 伏し目がちなレイにそれを渡し、シンジはすたすたと歩き出す。あまりに素っ気無く、レイが想像
していたどんなものとも違っていた。
 思わず後を追ってしまう。半ば無意識の行動だった。怒ってしまったのかと思うが、シンジの背か
ら感じる雰囲気は負のものではなかった。
「い、碇くん」
「ん?」
「その、ごめんなさい」
「――どうして謝るの?」
「あの、だまってて……」
「いいよ、事情があるんでしょ?」
 シンジはにこりと笑ってみせると、レイを連れ会計を済ませた。

■ △■△


「髪、染めるんだ」
 レイの荷物を――染毛剤だけだが――代わりに持ったまま、レイは言った。
「…………うん」
 あまりにシンジが普段どおりで、どうしても不安が拭えないレイは、曖昧な声を上げた。
 その実、安堵してもいた。こんなに反対しないということは、シンジもそれを望んでいたのだろう。
人前で妙な注目を浴びることもなくなるのだから。どこか複雑なものを抱えながら、レイは少しだけ
腑に落ちた。
「理由とか、訊いてもいい?」
 一瞬迷う。シンジのために、という言い方をすれば、どこか恩着せがましく感じさせてしまう。シ
ンジに変な負担をかけたくはない。あくまで自分が勝手にしたこと、という体裁にしたい。
「気分転換に、しようと思って」
「……そっか」
 カラーコンタクトはまた今度にしよう、とレイは思った。急に色々変えると怪しまれる。
「綾波、ちょっといいかな。寄っていく所があって」
「どこ?」
「そこ」
 そう言ってシンジは側にあった公園を指差した。あまり人のいない所で、シンジたちはよく学校帰
りに立ち寄ってはとりとめもない話をしていた。
 レイもその場所が大好きだった。シンジと二人きりで、シンジを独り占めできるその時間、その場
所が大好きだった。話が途切れたら、シンジの肩に頭を預けてうたた寝をし、お腹が空いてきた頃、
シンジに揺り起こされて目覚め、手を繋いで帰って夕食を共にする。少しだけ夜更かしをして、シン
ジに送られて家に帰る。その日の輝ける思い出を胸に抱いて眠る。夢には愛しいシンジの笑顔がある。
それが一番の幸せだった。

 いつものベンチに腰かける。シンジの口数は多くないが、それでもその話には確かな内容と、レイ
の知らない沢山のものがある。料理の作り方、日常のちょっとした雑学、そんなものを聞くのが好き
だった。今日はどんなことを話してくれるんだろうと、レイは高揚した気分で考えていた。
「綾波」
「なに?」
「気にしなくて、いいと思うよ」
「……何を?」
「これ」
 言うとすぐに、シンジはレイを抱き寄せた。思いもがけないことに、レイは焦る。
「えっ――」
「分からないと思った?」
「な、なんのこと――」
「髪の毛のことだよ」
 あくまで落ち着いた声で、シンジは言う。右手はレイを抱き寄せ、左手はその柔らかな髪を梳きな
がら。
「隠さないで、綾波。違ってたらごめんだけど、綾波、悩んでたんだよね?」
「…………」
「誰かに嫌なことでも言われたの?」
「そうじゃ、ない、けど……」
 ぐぐもった声で、レイは言った。
「じゃ、どうして?」
「碇くんが――」
「僕が、なに?」
「私と一緒に居ると、碇くんまで変な目で見られる。私は慣れてるから、大丈夫だけど」
「…………」
「碇くんに、迷惑かけたくない」
「……僕はさ、綾波と一緒に居て迷惑だと思ったことなんてないよ」
 優しく諭すように、しかしどこか寂しげに言うシンジ。出会った頃から変わらない匂いが、レイの
心の強張りをほぐした。
「もし綾波がその髪で辛いことがあるって言うなら、僕は止めないよ。好きにしたらいいと思う。僕
には綾波のそういうことは理解出来ない。けど、綾波が僕の迷惑を考えて髪を黒く染めるって言うな
ら――」
 そこで一瞬間をおいて
「そんなこと、気にしなくていいよ」
 優しく、どこまでも柔らかく、シンジはレイに言った。
「で、も――」
「綾波、何をそんなに、怖がってるの?」
 なおも言葉を紡ごうとしたレイを、シンジは不意に遮った。レイの声が詰まる。
「綾波、言ってみて。きっと――相談にくらい、乗れるから」
 抱き寄せる腕に、シンジは力を込めた。その腕に衝き動かされ、レイの奥底に眠る想いが、声を上
げる。


「碇くん、わたしは――」
「うん」
「碇くんに、嫌われたく、ない……」
「うん……」
 すう、と一筋、レイの頬を涙が濡らした。



 そう、怖いのだ。シンジに嫌われるのが。だから、シンジの求める自分でありたい。一点の濁りも、
綻びもない、完璧な自分でないといけない。でないと――

 碇くんが、いなくなる。

 それだけは耐えられない。自分にとって唯一にして無二の絆たる、碇シンジ。それはどんなものに
も代えられない。
 だからこそ、綻びを探してしまう。シンジがいなくなる可能性から必死で目をそらしながら、その
実その可能性を探さずにいられない。そんなパラドックス。
 自分の特異な容姿が、いずれシンジに不快な思いをさせてしまうかもしれない。もしそんなことに
なったら、シンジが自分から離れていくかもしれない。その恐怖は――ある意味死の恐怖よりも――
途方もないものだった。
 変わらないといけない。シンジを離さないために。女性からの人気は、自分もよく知っている。幾
度となく告白されているのも、知っている。その度に、怖かった。
 自分なんかよりずっとずっと魅力的な女性が、世の中には沢山いるのだ。シンジが告白されたと聞
くたび、レイは危機感に襲われた。
 料理を学び、お洒落にも気を遣い、服装の全ては、シンジの好みに合わせた。他の人間のがどう思
うかなど二の次だ。自分の全ては、シンジのためにあるのだから。自分の命絶えるその時までシンジ
が側に居てくれるのなら、どんな犠牲も、惜しくはない。偏愛と呼ばれようと、依存と呼ばれようと、
独占と呼ばれようと、それが自分の全てだった。心も身体も、シンジのためにあった。全てを捧げて
よかった。――側にシンジが、いてくれるなら。
 初めて出来たそれ以外の友人も、見るようになったドラマも、シンジがいなくなれば、それは等し
く無価値なのだった。

 シンジと乗る電車の中で、確かに聞こえる忍び声。

――すげえ色。
――染めてんのかな、あれ。
――気持ち悪い。

 今までは全く気にしなかった。興味のないことだったから。けれどその声は、きっとシンジにも聞
こえていた筈だ。
 必死に笑顔を見せて、気にしていないように振舞う。慣れない声を張り上げて。
 シンジは寂しげに笑っただけだった。その日は少しだけレイの部屋に長くいて、抱き締めてくれる
力はいつもより強かった。
 シンジが帰った後、普段より大きな恐怖を感じた。自分はいい、だがシンジが好奇の目線に晒され
るようなことがあってはならない。そんな事態に陥ったら――
 決断は早かった。黒い髪に染めればそんなことはなくなる。最初は見慣れないかもしれないが、き
っとそのうち慣れる。どこにでもいる女の子として、シンジとずっと一緒にいられるのだ。そう――

 ずっと、ずっと、ずっと、一緒に――――









 考える内に、涙が溢れてくる。止め処なく、限りなく。体が強張っていたことに、今になって気づ
いた。激しく嗚咽を漏らし、しゃくりあげ、レイは泣き続けた。
「いかりくん、いかりくん、いかりくん――」
 自分がいるこの場所など、自分が思っている以上に脆弱なものでしかないのだ。自分とシンジの心
がすれ違えばそれだけで、それは致命的な亀裂になりかねない。
 優しく背中をさすられ、その度に嗚咽が溢れ、髪の毛を撫でられ涙が零れる。その手の温かさが、
レイを惹きつけたものに他ならなかった。レイの不安を溶かし、優しく抱き締めてくれる。その温も
り。

「綾波、大丈夫だよ。僕が綾波を嫌いになることなんて、絶対にないから」
「でも、でも、碇くんのことを好きな人は沢山いて、素敵な人も沢山いて、でも私には、何も、何も、
何も――」
「……綾波、顔を上げてくれる?」

 言われるがままに、レイは顔を上げた。目はもう幾分腫れていた。シンジの目線に射止められ、身
体が動かなくなる。
 シンジの手はレイの下あごに添えられ、自然に上を向かされる。何をされるか、レイも理解した。
 恋人になってからもシンジが照れてしようとしなかったこと。それを、たとえ人通りが少ない公園
だとしても、今ここで――屋外で――してくれる。レイにとって、それが嬉しくない筈がなかった。
「目を閉じて、綾波……」
「いかりくん……」

 溶け合わんばかりの幸福。しっとりと濡れたそれは、これ以上ないほどレイを満たした。自分の初
めてのキスは、シンジのものになったのだ。
 シンジのキスが初めてでないことを、自分は知っている。アスカに聞いたことだ。しかしそんなこ
とはどうでもいい。今シンジがキスしているのは、

 ――わたし……

シンジの掌がレイの腰を撫でる。身体が熱くなる。吐息が漏れ、頭がぼうっとして、何も考えられ
なくなる。
必死で勇気を振り絞り、シンジの手を取る。いやらしい、はしたない女だと思われるかもしれない。
それでも、それは自分の望むことだ。
シンジの手を自分の胸と重ねる。薄手のブラウスには、うっすらと汗が浮かんでいた。奇しくも、
シンジを想いながら選んだ水色の下着だった。そこに初めて触れられた時は、正直少し気持ち悪かっ
た。けれど、今のその感覚は、心地よさ以外の何物でもなかった。躊躇いはない。大好きなシンジな
ら、どんなことでも赦せたから。この後のアパートでその行為をしたいと、心の底から思ったから。
他の誰でもない――シンジだから。
 しかしシンジは、その手をゆっくり腰に戻した。耳元に唇を寄せ、
「ごめん、まだちょっと、勇気ない」
 シンジが離れる。幾分目が潤んでいるのは、きっと気のせいではない。自分もそうであるから。
「綾波」
 レイを胸に再び抱き寄せ、シンジは言った。
「ごめん、もうちょっとだけ、気持ちを固める時間が欲しいんだ。馬鹿みたいだけど、まだ、少し怖
いんだ」
「……大丈夫。私のほうこそ、急にごめんなさい」
「ううん。ごめんね。でもいつか、綾波と、その、したいと思うから…………」
「嬉しい……」
「ね、綾波」
「なに?」
「僕にとって一番大切なことはさ、他の女の子がどんなかとかじゃなくて、綾波が他の女の子をどう
思ってるかとかでもないんだ」
「じゃあ――」
「一番、大切なことは……」
 腕に力をこめ、レイの耳元でシンジは言った。
「こうして僕の腕の中にいてくれる綾波を、僕が世界一好きだ、ってことだよ」
「碇くん……」
「綾波が髪を染めたいって思うなら、僕は止めないよ。どんな髪をしてたって、綾波は綾波だ。それ
以外の何物でもないよ」
 にこりと笑って、シンジは抱き締めた腕をといた。
「碇くん?」
「帰ろう。遅くなったから」
 レイの手を取って、シンジは立ち上がる。
 歩き出したレイに、不安はなかった。シンジはちゃんと、自分を見てくれている。そう、私にとっ
て一番大切なことは――ありのままの、綾波レイでいること。

 夕暮れ時の公園にはたった一つ、不要になった箱だけが残った。

      


 
                ――FIN――

メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十月 ( No.5 )
日時: 2010/10/10 13:50
名前: calu


■Seven Sistersさん - わたしのお尻は喋らない -

よかったです。このお題でどのような物語が…などと思っていたのですが、Seven Sistersさんは
思い出のアイテム(ジーンズ)と触れ合わせる事によって、お尻に物を語らせてしまいました。
お見事です。
そして、穏やかでとても綺麗な作品を有難うございました。

ご多忙を極められていると思いますが、今後ともSeven Sistersさんの作品を読ませて頂ければと
思います。なにとぞ引き続きのご投下を(^^;)!

メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダ ( No.6 )
日時: 2010/10/10 20:40
名前: 何処

汝狭き門より入れ。

そは天国の門也。





【Knockin'On Heaven's Door】





プシッ!

「「かんぱーい!!」」

「アスカ、はい小鉢と蓮華。」
「ダ〜ンケ〜…あ、それもう良さそうね。」
「はふはふ…美味し…」
「…うん、昆布だしで正解だったわ。」
「フーフー…ねえ、おじやとうどん、締めはどっちにしようかしら…」
「アチアチ…早い、早いわよレイ、先ずは食べてから。」

安アパートの一室。
うら若き乙女二人は炬燵で鍋なぞをつついていたりする。
ファンヒーターの微かな唸りと鍋の煮える音、彼女達の嬌声に部屋は一段と明るい。

「…にしてもやっぱ日本はいいわ〜、夜中のコンビニにレイプの心配無しに買い物行けるし食べ物は美味しーし。ゴクリ」
「ゴクン、モハビでの三ヶ月ご苦労様。向こうはどうだった?」
「あの調子だと半年は向こうで留めさせたかったみたいね。やる事やって帰ろうとしたら引き止め工作が凄かったわ。」
「大変ね…」
「全くそれならそれらしい待遇しなさいっての!冷凍ピザとホットドッグとコーヒーとコーラで丸一ヶ月砂漠のど真ん中よ!ゴキュッ!」
「…胸焼けしそう…」
「…で、一段落して町に出てチャイナレストランに入ったら…」
「入ったら?」
「烏龍麺ての頼んだら出てきたわよ…何故かキツネうどんが。」
「ぶっ!?」

乙女達は楽し気に話し続ける。

「ゴキュ…あ、終わっちゃった。」
「ゴク…私も…どうする?もう一本空ける?」
「んーと…エビチュなら確かその袋に後二本…」
「ええと…あ、アスカこれ!?」
「んふー、レイも好きでしょー純米吟醸。ゼミのコンパで一升瓶抱えてたもんねー」
「あ、あれは教授が無理矢理…」
「あら?要らないの?」

「…頂くわ…」

お銚子にお猪口が鍋の脇に急遽並べられる。

「じゃ、改めて」
「乾杯。」

チン♪

「いいわね〜、鍋におこたに日本酒、素晴らしいわ…白菜追加っと。」
「最高…あ、ソーセージ入れる?なら私も竹輪入れよ。」
「むー…段々普通の鍋から闇鍋テイストなちゃんこ鍋に…」
「なら大根と蒟蒻入れて関東炊きに…」
「あ、キムチは止めて。あたし辛いの苦手。」
「美味しいのに…」
「けど口臭がね。にしてもシンジ、今度は松代だって?」
「教授のお供。アスカが折角アメリカから帰って来たのに全く碇君は…」
「ほほう、同棲相手が居なくて寂しいと。」
「アアアスカ!?なな何言ってるのよ!いいい碇君はたまに泊まりに来るだけで…」
「週に五日も泊まってたら普通同棲って言うのよ。」「四日よ!あ…」
「はいはいご馳走様。ま、薄情な男は放っといて女同士旧交を暖めましょ!」
「賛成!」

二人の箸は快調に鍋の具を減らして行く。

「アスカはお箸使うの上手よね。私不器用だから未だ碇君に笑われるの。」
「あったり前よ!この天才に不可能は無いわ!…なんてね、実は冬月さんの特訓の賜物よ。」
「副司令の?」
「そ。現都知事にお茶とお花まで手解き受けたなんて私ぐらいかもね。ん?もう一杯如何?」
「頂くわ…渚君は帰って来ないの?」
「あー、今アフリカへ旅行中。あいつの昔の男がストーカーになって新しい彼女と揉めててね、ドロドロ三角関係が鬱陶しくて逃げたみたいよ。」

「…要約すると新しいスポンサーと昔のスポンサーが契約で揉めてる中、アフリカのレースに見切り参加って事ね…はいご返盃。」
「良く出来ました。直ぐバレるわね、おっとと…さあて粗方食べちゃったし、締めは…」
「そうね…じゃ、今回は…」

「「うどん!」」

「良かった〜、碇君とだと大抵おじやなのよね…」
「あ、成る程。」
「おじやも美味しいけど毎回はね〜」
「確かに。」

うどん玉を鍋に投入しながら金の髪を揺らし相槌を打つ。

「レイ、七味取って」
「はい。あ、薬味のネギもいる?」

締めのうどんに舌鼓を打ち、鍋を空にして彼女達は小休止の体勢を整える。

「…ご馳走様…」
「…お腹一杯…」

「…アスカ、明日は雪らしいわ。二十年ぶりですって。」
「うぇ〜、最悪…」
「そう言えば雪って私見た事無いわ…」
「あんまり有難い物じゃ無いわよ。寒いし冷たいし濡れるし滑るし…それにしてもおコタはいいわ〜…」

「“日本の文化の極みだね”なんて言わないでよね…」
「しまった読まれてたか。」

「さて、部屋の空気入れ替えましょ。一酸化炭素中毒は嫌だし。」
「寂しく女二人で天国の門ノックしたくは無いわよねー。」
「確かに。…きゃっ!?寒っ!」
「ブルッ…うえ〜、五年前まで今の時期も蝉鳴いてたのに変わり過ぎよ全く…」
「本当…あら?これって…」

開け放たれた窓の向こう、白い句読点が夜空を舞う。

「雪ね…初雪よ…」
「綺麗…」
「…本当…」

「…雪嫌いじゃなかった?」
「…ドイツの雪はね。いい思い出少ないし…でもこの雪は好き…何か優しくって…」

「…雪見酒しましょ?はい半纏。碇君のだから大きいかも。」
「…ありがと…」

…深…

「…静かね…」

「雪が音を吸収するのよ…」

「…」

「…」

「私…この世界に生きて良かった…」

「…今、この時…一番大切な事…」

「一期一会…本当にそうね…」

窓から目を逸らし、乙女達はお互いを見つめる。

「綾波レイ、貴女に会えて良かったわ。」
「どういたしまして、惣流・アスカ・ラングレーさん。」

「では改めて」「初雪を祝して」

「「乾杯」」

チン♪

ちらちらと降る雪が部屋明かりに銀の輝きを散らす。乙女達はうっとりとその景色を眺めやり、杯を舐める。


“Knock,Knock”


「ん?」
「誰かしらこんな時間に…はーい」

帰って来た声は…

「あ、開けて〜!手が塞がっててインターホン押せないんだ〜!」
「碇君!?」「シンジ!?」

ドタドタガチャガチャ!

「せ、狭い…レイさては太ったわね?そのヒップが物語っているわ!」
「私のお尻は喋らないわ。アスカこそ胸もお尻も成長して…少し頂戴。」
「バカ言ってないで早く開けなさいよレイ!」

ガチャン!バタン!

「碇君!」「シンジ!」
「ふひー、綾波ただいま〜。アスカいらっしゃ〜い。あ、これお土産。」
「お、重い…」
「碇君未だ松代じゃなかったの?」
「ネルフから緊急呼び出しでVTOLで帰って来た…新型又故障してさ。早く入れてくれない?寒くって…」
「あ、ごめんなさい!アスカ、私これ居間に持って行くわ!」
「この玄関に大人三人は狭いわよね〜。今換気で窓開けてたから寒いでしょ?」
「表の寒さからすれば天国だね。この玄関は僕には宛ら天国の門だよ。」

◇◇◇

「碇君ご飯は?」
「ネルフ食堂で食べて来た…懐かしのA定食。」
「あ、懐かしい!」
「…私が初めて食べたお肉、A定食のサラダのハムなのよね…」
「げ、向こうが透けて見えるアレ!?」
「そう。何だか今にして思えば損した気分…」
「あんた今でもお肉苦手でしょうが。しっかしシンジ何をこんなに買い込んで来たのよ?」
「“デザートは別腹”との以前のお二人様の御発言を考慮いたしました。糖分と乳脂肪の冷却固形化物質も入ってるよ…高カロリーの。」
「碇君…意地悪。」
「ふっ、甘いわねシンジ、女の子がアイスクリーム前に止まるとでも…あ、アイスヴァインよこれ!?」
「そう、セカンドインパクト後初めて出来た氷結ワイン、一寸奮発して買って来た。」
「アイスバイン?脛肉じゃなかった?」
「ノインノイン!アイスヴァインよアイスヴァイン!木に実らせたままで凍結させた葡萄で作ったワイン!希腐ワインより私好きなのよ!」
「…でもさ、大体こうやっていいお酒を用意すると…」
「…言わないで碇君…」
「大丈夫よ、それは無いわ。だって…」

“♪フンフンフン♪”

「え?嘘…」「あ、やっぱり…」「頭痛い…」

「雪見酒か…いいねぇ…」

「カヲル君…ATフィールドで浮遊して窓から来ないでよ…」
「…絶対来ると思った…」
「…又クラッシュリタイヤ?」
「いいや、クーデター騒ぎで中止になってね。ほら、向こう土産のブブセラとお面、それに…」

「いいから中入りなさいよ。真空でも平気なあんたと違って私達は繊細なんですからね!」
「もうご飯食べちゃったから渚君の分は無いわよ?」
「ん?鍋だったのかい?いいねぇ…」
「“日本の食文化の極みだよ”なんて言わないでよねカヲル君…」

「クッ!?まさかシンジ君から突っ込みが入るとは…」

「碇君…ナイス。」

「「「ブハッ!?!!」」」

「…?」

部屋は新たな客を迎え不夜城の趣だ。朝まで四人は笑い、話し、怒り、泣き、そして又笑うのだ。

降り続く微かな雪は僅かに積もる。だが朝日と共にその跡を残す事無く消えるだろう。しかし四人の心にこの雪は永く消える事は無い筈。

暦より一足早く今宵此処は聖夜。
地上に現出した小さな楽園を踊りながら音も無くノックする結晶だけがそれを知っていた。

fen

ED【Packeagd】歌・初音ミク
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メンテ
Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・十月 ( No.7 )
日時: 2010/10/20 00:01
名前: ななし


綾波が開いてくれた食事会は楽しかった。
父さんも綾波も口数が多い方じゃないから会話は盛り上がらなかったけど、でも凄く楽しかった。
3人でご飯を食べているとなんだか懐かしい気持ちになった。
こんな時がいつまでも続けばいいのに、そう心の片隅で思った。

「父さん、今日はありがとう」
「……うむ」
「あの、今日は嬉しかった。父さんと食事できて」
「そうか」
「次は……」

高望みしちゃいけないと思っていても僕は願わずにいられなかった。
それが次の孤独や苦しみ、恐怖を生み出すと知っていても。

「シンジ、もう私を見るのはやめろ」
「えっ?」
「人は皆、自分ひとりの力で生き自分ひとりの力で成長していくものだ。親を必要とするのは赤ン坊だけだ」

父さんは僕に背を向けて語りだした。

「そしておまえはもう赤ン坊ではないはずだ。自分の足で地に立って歩け。私自身もそうしして来た」
「でも、僕は……」
「私と分かり合おうなどと思うな。人は何故かお互いを理解しようと努力する。しかし覚えておけ。人と人とが完全に理解し合うことは決してできぬ」



「人とはそういう悲しい生き物だ」


それからの僕の記憶は断片的にしかない
父さんと別れ
道を歩き
ミサトさんのマンションにたどり着き
暗い部屋の中で
ベットに倒れ


涙を流した



◇ 男の戰い  ななし


私は人に興味ない。昔からそうだった。父にも母にも興味を覚えなかった。何が楽しくて、何が面白くて私は生きるのだろうか。生存カリキュラムの意味を理解できないまま生きてきた。
そんな私の前に現れたのがエヴァンゲリオン。この機体を見た時、私は思った。「この機体に乗る事こそが私の運命」そう、決め付けた。それからの私はエヴァに乗るために辛い事も苦しい事もやってきた。そうして少しずつ、少しずつ世界の流れと仕組み、大人の裏の事情とかを垣間見て理解して本当の生きる強さを学んだ。
そしてようやく辿りついた。この場所に。私は今、エヴァに乗っている。エヴァに比べれば人なんてちっぽけ過ぎる。あぁ、なんて、なんて


気持ちいいんだろう




目の前のモニターに映るグラフがもの凄い速さで様々な形に変化し、シンクロ値を表示していく。
その動きを目で追っていると日向君が声をかけてきた。

「ミサトさん、何だか疲れてません?」
「色々とね」

リツコが私の隣に立ち、顔を近づけ耳にそっとささやく。

(加持君?)
(ノー)

ささやきにはささやきで返答。リツコはあら、そうと残念そうな顔をした。私はグラフの変化が落ち着いたところでマヤちゃんに聞く。

「どう、新しいパイロットのシンクロは?」
「見てくださいよ」

マヤちゃんのモニターを覗き込むとグラフはあるラインを突破して更に伸びていき止まる。

「おぉ……」

大画面のモニターにも同じ映像が映し出され他のオペレーター達がどよめく。日向君や青葉君もこりゃたまげたという表情をしていた。

「やるじゃない。もっともこうじゃなきゃいけないけど」
「ユーロの使者、お手並み拝見ね」

シンクロ率48.5%
私はモニターから弐号機に向き直り複雑な顔で見上げた。
別画面に映るエントリープラグ内の彼女は目をつぶりながら微笑んでいた。







『真希波・マリ・イラストリアス』

ミサトの口から出た名前は予想外だった。

『代わりの弐号機パイロットよ』
「リアリィ?」

ガラスの向こうにいるミサトはどこか諦めたような表情で頷いた。

『ユーロ直々のご使命なの。初号機の左腕復元を最優先に修理してるけどまだ時間がかかるし、零号機は予備パーツがまだ来ないから修理中断。日本のエヴァが万全に使える状況ではないと申請したらようやく弐号機の封印解除が出たんだけどね……』

封印解除に1つの条件が出された。それはユーロが指定したパイロットを使えという事だった。
本当は私の弐号機に誰も乗ってほしくなった。弐号機は私のモノ。でも、

「……バカシンジやエコヒイキに乗られるより断然マシ」
『彼女とは知り合い?』

知らない、関係ないと言っても私の経歴と比べればおのずと分かる事。誤魔化しても後からバレる。嘘をつく事にメリットなし。私は正直に答えた。

「先輩よ、同じ訓練を受けた」

自分の台詞で過去を思い出し同時に屈辱と悔しさが胸に湧いた。
弐号機に乗りたくてやっとここまでたどり着いたのに、先輩は私の望んでいた場所をさらりと奪い取ってしまう。いつもそうだ、成績や能力から胸の大きさ、何もかも全て敵わない。

あの人には敵わない。
でも、だからこそ弐号機を安心して預けられる。
だって、先輩は誰よりも人を信じない孤高の人だから。
でも、悔しい。

こんなところで油売ってる暇はない。でも、ここから出られる術もないし、弐号機パイロットが存在する今、ネルフには私の居場所がない。今の状況に歯痒さを感じ、ベットのシーツを強く握り締めた。





EMERGENCY・EMERGENCY・EMERGENCY・EMERGENCY・EMERGENCY



「西区の住民避難、あと5分はかかります」
「目標は微速前進中。毎時2.5キロ」

発令所後方のドアが開くとミサトが駆け込んできた。

「遅いわよ」
「ごめん」

ミサトをたしなめ私は青葉君に確認を急ぐ。

「富士のレーダーサイドは?」
「探知してません、真上にいきなり現れました」

モニター画面いっぱいに映る球形。黒と白のゼブラ模様の球形は第三新東京市に突然現れビル郡の真上に浮かんでいる。市街の真ん中に浮かんでいる為、住民の避難が終えるまで戦時もこちらもうかつに使徒に手を出せない。

「パターンオレンジ、ATフィールド反応なし」
「反応なし?」
「まさか、新種の使徒?」
「MAGIは判断を保留してます」
「弐号機、パイロット共に準備ができました」
「了解。とりあえず待機で」
「住民の避難の99%が終了しました」
「!」

日向君が急に慌てた。私とミサトは彼を見る。

「どうしたの?」
「弐号機が単独で地上に!」
「なんですってぇ?!」

彼のモニターには弐号機が昇降機で射出されている映像が映っていた。

「無線は?」
「繋がりません!」
「これはユーロの指示?」
「分かりません!」

ミサトは日向君に再度指示して何とか弐号機と連絡を取ろうと試みる。
でも、無駄だろう。私は後ろを見上げた。そこにある席に人は座ってない。

「こんな時に碇司令はいないのね」

モニターに映っている使徒は静かに浮かんでいた。







「ケーブルを引き上げてみたら、先はなくなっていたそうよ」
「それじゃ」
「内部電源にたいした容量はないけど彼女が闇雲にエヴァを動かさず、生命維持モードに切り替えていれば16時間は生きていられるわ」







「…………」

浅い眠りから目を覚ました私は顔を上げスイッチを入れた。
金属板の景色がモニターに変わる。表示されたモニターはどこまでも白かった。

「やっぱり、白い」

レーダー電波やソナーは帰ってこない。空間が広すぎる。
スイッチを切り金属板へと戻す。プラグスーツの腕時計を見るとあの戦いから12時間経とうとしていた。

「私の命もあと4、5時間」

金属板に映った人影が一瞬彼に見えた。ドクンと胸の鼓動が早くなった。目を逸らし胸の動悸を抑え再び金属板を見る。そこに映っていたのは青い髪に赤い瞳、白いプラグスーツを着た私の姿。やっぱり気のせいだった、安心した。でも少し寂しくもなった。息を一つ吐くとタイミングよく照明が落ちた。
私は目を閉じた。そして、あの戦いを思い出す。


弐号機は単独で使徒殲滅のために地上に出撃。
何度も無線での連絡を試みたが無駄だった。
私と碇君に下された命令は零号機と初号機での援護。
プラグスーツを身にまとい零号機に乗り込む。その前に碇君が声をかけてきた。

「綾波は何の為に生きるの?」

その質問はこの前の使徒の戦いで待機してた時に会話した質問に似ていた。

「何の為?」
「いや、ごめん。なんでもない」

碇君は謝ると初号機の搭乗タラップへと向かっていった。その後姿は小さく見えた。
エントリープラグに乗り込み神経を接続する。
私のシンクロ率は18.4%だった。良とは言えなかったけど動かせない数値ではない。
でも、碇君はダメだった。
シンクロ率3.9%
理由は分からないけど、碇君はエヴァに対して心を閉ざしていた。
葛城さん達の色んな声が飛び交う中、碇君はその声に反応することなく震えながら「父さん……父さん……」と何度もあの人を呼んでいた。
モニターに弐号機がビル陰から使徒を伺ってる映像が映し出された。
その奥をゆっくりと動いている丸い球体。
映像を見た葛城さんは決断し命令を下す。

「初号機は待機!零号機は第15ビルの屋上でライフルで狙撃準備!」

地上に出た私は武器庫から二脚ライフルを手に取り第三新東京市内で一番高いビルの上に登るとライフルを設置し使徒と弐号機を観察した。
ゆっくり動く使徒、それを追う弐号機。
最初に攻撃を仕掛けたのは弐号機の方だった。
ビルから飛び出しライフルを3発撃った。狙いは正確だった。当たると思った瞬間、使徒は消えた。
直ぐに使徒の確認を急ぐ。でも、見つからない。
焦りが募る中、エントリープラグに司令室の警報が無線を通して聞こえた。

「重力異常!弐号機の真下です!」

弐号機の立っている地面を見る。そこはエヴァにしては不自然すぎる大きすぎる影が広がっていた。
弐号機は気づいていない。弐号機に司令部から無線が入ってないなら気づかなくて当たり前だと思う。
私は設置したライフルを取り外しビルを飛び降りた。
できる限り弐号機の元へ早く、それだけを考えた。
弐号機の近くに辿りつく、その前に私はライフルを構え弐号機の足元に2発打ち込んだ。

「ちょ、なにすんのよー!」

弐号機との無線が繋がった。今、弁解や言い訳してる暇はない。
走りを止めるとちょうど弐号機に寄り添う位置に付いた。私は弐号機の首を掴み、そのまま投げた。
その場から私も離れようとした時、遅かった。
右足を捕られた。ガクッと体制を崩すと左足も捕られる。
下を見ると影の中に零号機は沈んでいた。
残っていたライフルの弾を全て撃ち込む。弾は影の中に沈んだだけで手ごたえは得られなかった。
私が投げた弐号機を見る。
弐号機は高層ビルにしがみついていた。その高層ビルも私と同様沈み始めている。

「え、あ、ちょっと、どうしよう」

弐号機パイロットのあせりの声が聞こえた。
その声に答えれないまま、私は使徒の中へと沈んで行き、暗闇の世界へと落ちていった。



プラグスーツの腕時計を再び見る。あれからまだ20分しか経ってない。いや、もう20分も経ってしまった。私の命の時間は刻々と近づいている。再び目を閉じた。目を閉じて思い浮かんだのはあの時震えていた彼。

「碇君……」

誰に伝わりもしない、彼の名を口にした。







男子更衣室のドアを開けるとシンジ君はベンチに腰掛けていた。彼の姿はプラグスーツで、口をぽっかり開けたまま気力なく座っていた。
私は彼に近づき、声をかける。

「シンジ君」
「…………」

反応はなかった。

「お願いがあるの、シンジ君」
「…………」
「レイを救い出して欲しいの」

彼女の名前でシンジ君は身体は少し震えた。

「……無理です」
「貴方しかできないの」

か細い声での拒絶の言葉。そんなことはないと私は説得する。彼の目を覗き込む。まだ、瞳には光が宿っていない。
私の言葉を遮る為に彼はこの部屋から逃げようと立ち上がりドアへと向かった。私は彼の左手を掴みその行動を阻止する。彼の左手はとても冷たかった。

「離して下さい」
「ダメ」
「離して下さいっ!」
「これは命令よ」
「無理です!」
「本当は救いたいんでしょ!」

私の手を振り払うために全力で抵抗していた彼の動きが止まった。
知ってるわ。だって、私がこの部屋に入った時は反応しなかったのに、レイの名前を出しただけで心が動揺していたのだから。

「私もレイを助けたいの。私だけじゃない、みんなレイを助けたいの」

さっきの戦闘での彼のシンクロ率は5%を切っていた。何故、そこまでシンクロ率が下がったか原因は分からない。心の問題なのだと思うけど、彼の心を抉った原因は私には分からない。
そんな彼にエヴァに乗れてと言う事は地獄に等しいかもしれない。

「シンジ君も同じ気持ちなら、一緒に戦って欲しい」
「ミサトさん……」
「もし……もし私達の夢や願いを貴方に重ねてるだけだったら本当に申し訳ないと思ってるわ。でも、私にはそれを貴方に託す事しか未来を紡げない」

勝手な言い分だって分かってる、でも、私達には貴方が必要。世界を救うためには貴方の存在が必要なの。

「……どうやって助け出すんですか?」

私に左腕をつかまれたまま、背を向けたまま、うつむいたまま、彼は私達と共に戦ってくれる事を選択してくれた。

「それは――」

シンジ君を説得しておいて言うのもなんだけど、作戦はまだ決まっていなかった。いや、正確に言うと決まりかけている作戦に私は反対している。
今まで分かった情報はあの使徒の中は宇宙空間に繋がっている可能性があるとのことだった。その理論が正しいのなら、日本に現存する992個のN2爆弾を使徒に投下。その際に起きる莫大的な瞬間的エネルギー量を利用してエヴァ2体がATフィールドを展開し使徒を破壊、零号機を回収する――――強制サルベージの作戦が行われる予定だ。
この作戦は、パイロットの生死を問わない。機体回収のみが目的。
レイの生死よりエヴァを優先する、そんな事があってたまるもんですか。人の命を粗末に扱ってたまるもんですか。
でも他に作戦は浮かばない。シンジ君を見る。彼の目は真剣だった。瞳にようやく光が戻ってきた。おびえてはいけない、救いたいなら事実から目を逸らさない。逸らさず向き合った者だけが新しい道を見つけることができる。
私は決意して、現状の作戦を彼に伝えようとする。
 
「ひとつだけ方法はあるよ」

更衣室のドアが開き、ピンクのプラグスーツを着た少女が入ってきた。この子はさっき弐号機に乗っていた独断先行・作戦無視・とんでもない問題児、真希波・マリ・イラストリアス――――

「でも、君は真正面から立ち向かえるかな」

シンジ君の目の前に立った彼女は不敵な微笑で彼を挑発した。






私はもう戦う事をしなくてもいい
何もしなくていい、何も考えなくてもいい
ここが私の場所になる

でも、どうして?

黒い雲が私の心を覆う


誰かの心が聞こえてきた
目を開けるとそこは走っている電車の中だった。窓から赤い夕日が綺麗に見えた。
目の前に一人の小さな少年が座っていた。少し大きめの縞々のTしゃつに短パン。脚を揃えて座っていた。

「お姉ちゃん、捨ててよ」

私の膝元にS−DATが置いてあった。知ってる。これは碇君のモノ。

「もう、それいらないんだ
父さんが僕を守ってくれないから
どんどん目の前が暗くなってきたよ
きっと僕は必要のない人間なんだ」

貴方がエヴァの心を閉ざしたのは碇司令に拒絶されたから?
必要のないなんてそんなことはない。
本当に必要のないのは――――

いつの間にか少年は少女に代わっていた。少女の姿は私にそっくりだった。

「誰?」
「綾波レイ」
「それは私」
「貴女は私よ。人は自分の中にもう一人の自分を持っているの」
「私は人じゃない」
「貴女は人よ」

「碇君がそう望むから、貴女は人でいられるの」






僕が第7ケイジに向かうとそこに父さんはいた。
父さんは切ない目で初号機を見ていた。僕がやってきた事に気づいていない。

「父さん」

僕が呼ぶと父さんはこっちを振り向いた。さっきまで初号機を見ていた目ではなく、憎しみが込められた目。そう感じた。
後ろに下がりたくなった。逃げ出したくなった。
恐怖で身体が強張った時、胸元にこつんと何かが当たる。
さっきミサトさんが僕にお守りよと言ってかけてくれた白い十字架のペンダントだった。

『父さんと向き合う怖い気持ちは知ってるから』

胸元のペンダントを握り締めながら父さんに近づく。



怖い 怖い 怖い 怖い 怖い 怖い 怖い 怖い 怖い 怖い 怖い 怖い 怖い 怖い 怖い



でも、何もしないなんてそんなのもっとイヤだ。助けられる人を助けないままにするなんてもっとイヤだ。
手を伸ばせば父さんに届く、その位置まで近づくと父さんの脚が一歩後ろに下がった。
僕は父さんが見つめていた初号機を見上げ、今までエヴァの中に感じていた思いを言葉にする。

「この中に母さんはいる」

父さんの動きは止まった。サングラス越しに視線を感じる。憎しみが込められた目、というより達観した目だった。

「僕一人じゃ何もできない。けど今、母さんの力を借りれば僕にできることがある。親の力がないと何もできない、赤ン坊。でもそれで救える人がいるなら僕は赤ン坊のままでいい」

あの日の父さんの言葉に返す答え。僕は答える事よりも悲しみに負けていた。でも、それじゃ何も変わらない。ようやく歩み寄った距離がまた離れていくだけ。

『ワンコ君。君は自分に向けられた言葉から逃げちゃダメなんだよ。辛い事から苦しい事から逃げても面白い事はないんだから』


「人と人は完全に理解できない。好きもあれば嫌いもある。自分の主張の為に醜い言葉や争いは生まれてきた。僕はそんな世界に絶望して生きてきた」

眼鏡の子は辛い事に対峙しろと言った。それがエヴァに乗って綾波を助ける近道だと言った。

『きっと、そうすれば道は見えるから』

「でも僕を理解しようとしてくれる人がいる。分かち合い手を取ろうという人がいた。一緒に戦ってくれる人がいる。だから、僕は分かり合おうとする努力はやめない」

緊張で何を言ってるのか僕自身分からなくなってきた。もう一度、胸元のペンダントを強く握りなおす。

諦めない

生きる為に
みんなと一緒に生きる為に
僕はもう逃げない

「父さんがいくら拒絶しても僕は父さんを見ることをやめない。僕は父さんとわかりあいたいから。それが無駄だと言われても、僕は諦めない」

周りの大人たちの言う事に振り回されず
甘えず、駄々をこねず、殻に閉じこもらず
自分の意思で決めた

「それが僕が選んだ進む道」

ミサトさんやアスカやリツコさん、父さん
そして、

「僕はエヴァンゲリオン初号機パイロットです。綾波を助ける為に……僕をエヴァに乗せてください」

綾波を助ける為に
みんなを守る為に
僕は戦う







水が濁ってきている
浄化能力が落ちてきたのだろう

生臭い血の匂いがする

「もう、終わりなのね」


全てを諦めようとした時、音が聞こえた
何を叩く音
最初は叩く速度はゆっくりだった
徐々に早く、力強くなっていく
私の中をこじ開けようとしている

やめて、ここは私の居場所

ここでしか私は存在できない

叩く音は鳴り止まない

Knockin‘ On Heaven’s Door…

助けて

Knockin‘ On Heaven’s Door…
Knockin‘ On Heaven’s Door…

助けて

Knockin‘ On Heaven’s Door…
Knockin‘ On Heaven’s Door…
Knockin‘ On Heaven’s Door…

助けて、碇君っ!


叫んだ時、扉は開かれた
扉の向こうに立つ人は助けを求めた人だった

「綾波っ!」

碇君は私を見つけてくれた。息を切らした碇君は私に微笑んで手を差し伸べてくれた

私はここが自分の居場所だと思っていた
でも、違った

Knockin‘ On Heaven’s Door!

私の本当の居場所は扉の向こう、碇君がいる世界

「碇君っ!」

私は私の意思で駆ける。
黒い雲から光が差しこんだ。見えなかった扉への道が照らされる。
私は無我夢中でその道を駆け抜け、碇君の手を掴んだ。







エヴァンゲリオン初号機は地上に射出されると静かに使徒に向かって歩き出した。
その姿に畏怖を感じた。
いつもと変わらない機体に何故俺の手は震えているのだろうか。
いや、違う。変わっている。昨日まで初号機の左腕は失ったままだった。それが今、復元され両目が光り輝いている。
そうか、そういうことか。

「まさか、自らの意思で覚醒するとは」

先ほどの戦いでシンクロできず動かせなかったシンジ君。短時間で何が彼の心を動かした?何が彼を変えた?やはり、取り込まれたあの子の為なのだろうか?
影の淵に立った初号機。立っているだけで何も動かない。
どうなると固唾を飲み見守っていたら先に動いたのは使徒の方だった。
球体を分解させ大きな風呂敷となった使徒はそのまま初号機を包み込み、元の球体へと戻った。
そう、飲み込まれたのだ。
飲み込まれて数分、使徒に変化は現れなかった。
俺はポケットのイヤホンを耳につけ、周波数を合わせある場所へと繋ぐ。
音は聞こえなかった。慌てる事も喚く事もなく。
何故冷静でいられるんだ?またパイロットがエヴァごと取り込まれたのに。
葛城が泣いてる、シンジ君を返せと叫んでるかと思った。
でも、不気味なまでに無音だった。

パシィィィィィィ!!!

いきなり音が生まれた。ガラスが割れるような音。音がした方、使徒を見る。
使徒に亀裂が走っていた。次々と走っていく亀裂。
割れ目から咆哮が聞こえ、赤く染まる2つの手が現れた。それは初号機と零号機、それぞれの片手だった。
使徒が割れていく。いや、引きちぎられている。
初号機の左手が使徒の体を内側から引き裂いている。使徒の内臓らしき物体が地上へと流れた。
使徒の返り血を浴びた初号機と零号機の頭部が現れる。朝日の光に照らされたその姿は悪魔に見えた。
イヤホンから「なんてものをコピーしたのかしら……」とリッちゃんの声が聞こえた。
使徒の身体を二つに裂いた初号機は零号機を抱きしめながら地上へと降り立った。
俺には初号機の顔が笑ってるかのように見えた。

「ゼーレが黙ってはいませんな。これもシナリオの内ですか、碇司令」






初号機を援護する為にビルの屋上に登っていた。本当は援護なんてガラじゃないけど今回は仕方ない。お姫様を救う役はやっぱり王子様じゃないと。
その屋上から使徒と初号機の戦いを一部始終見ていた。戦いと言うには静か過ぎるものだったけど、ワンコ君は無事に無事に王子様になれた。

これから王子様は世界を救う為に魔王と戦わねばなりません。
しかし、王子様はその運命をまだ知らないのです。

ワンコ君とのファーストコンタクトを思い出す。明らかに私達とは違った匂いを纏っていた。

「やっぱり、面白いね。ワンコ君は」







「時計の針は戻す事はできない。だが、自ら進める事はできる」
「これでいいのか」

ゲンドウは冬月の質問に肯定も否定もしなかった。

「全てはここからだ」

その答えはこれから分かると、言った。





9月の続きをイメージして。
天国のキーワード以外は何とかお題通りだと思うんですが(自信はなし)



メンテ

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