Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・一月 ( No.1 ) |
- 日時: 2011/01/16 20:05
- 名前: 何処
- 【少女愚考】
私は思う
何故人間は一年中発情期なのだろうか。
これでは諸々のトラブルが絶えないのも当たり前だし、雄の方は出費も嵩む。
ましてや雌…私もそうだが…においては更に大変だ。 独占欲と嫉妬心、羞恥心と見栄が渦巻く女心は意味不明に出費を強い時間を食い潰す。 はしたない女と見られたくない心理、彼に可愛い私を見て貰いたい心理が雌たる私を飾り立てさせる。 化粧、服装、アクセサリー、靴、ダイエットサプリ…
正直ゼミのコンパで「一番の彼氏へのプレゼントったらそら裸エプロン」と言って赤木助教授に殴られた葛城助教授の台詞が一番真実だとは思う。 大体好きな相手としたいのは雄も雌も大差無い。最も雄と違って雌は中々軽々しく物申せない内容だが…
「…イ…」
私の彼氏は巨乳好きだと確信している。好きだと顔に書いてあるもの。 彼が好きなアイドルは金髪碧眼のドイツ系クォーター。彼女のグラビアは女の私から見ても羨ま…いや、魅力的だ。 こっそり彼のコレクションを拝借して半ば嫉妬半分羨望しながら見たが…溜め息しか出ない。
基本的に体の構造から違うんじゃないだろうか?先ず足の長さが違う。スリーサイズに至っては…
「…レ…」
ま、まぁ胸に限って言えば私もそれなりには在る。公称サイズからすれば彼女も私も同じ位な筈だが…アンダーが細い分恐らくブラのカップは私より少し大き…ご免なさい。見栄張りました。
…日本人体型は不利よね… こほん!それはともかく。
何しろ身体的リスクが雌には高い。 それにメンタルが影響する女の感覚は中々説明しにくくて…
「…イってば…」
気持ちが乗らない時は鬱陶しいだけの行為を只嫌われまいとする為だけに行う時など我ながら演技上手いなぁと思う。 男と女のクロスロードは交差すらせず交錯しているだけなのではないだろうか。
「レイってば!」
思索…と言うより妄想に浸った私を同居人の声が現世に引き戻した。
「…あ!?ご、ご免なさい、又ちょっと考え事してて…で、何?」
「肉が足りない!」
食卓に私達は向かい合って座っている…お茶碗とお箸を持って。 どうやら私の作った食事内容にルームシェア相手のマナは声を上げた様だ。
…?…
「マナ…貴女の目の前にあるお皿に乗ってるのは何?」
「レイ特製豆腐ハンバーグよ。」
「…それ半分は挽き肉なんだけど…」
「違う!肉違う!私の求める純粋且つ単純且つ明快な動物性タンパク質と違う!」
…マナが食事に不満を言う時は、大抵彼女のガールフレンド絡みだ。 彼女の特殊な趣味は私には理解し難い点はあるが、私に彼氏が居ると知ってから言い寄られた事は無い。 何でも『お手付きはパス』だそうで…
…は、恥ずかしい…
「…今度は何?」
「李の阿呆が又付き合ってくれって迫って来た所目撃されたのよ…」
見た目とても愛らしい彼女は男女通じて非常にモテる。その特殊な性癖を知ってもアタックをかける男性は多いが…。
「李君もマメね…幼なじみなんでしょ?」
「そ。もーいい加減諦めてくれないかなぁー…あーもー!お陰であの娘はどうにも元気がなくて私もタバコは不味いし食欲は無いし…」
「…ご飯お代わりしないの?」
いつの間にか空になっている彼女のお茶碗を眺め私は聞いた。
「…はぁ、気分転換にナンパして可愛い女の子に声掛けても駄目だったし、そんな傷心のあたしに『お代わりしないの?』だなんて、レイは冷たいわぁ。これだから男がいる女はもう…」
「…そう言いながら空のお茶碗寄越すのね…」
…だからと言って寄越されたお茶碗にご飯を盛る私もどうかと思う…
「もう今日はそんな最悪な感じで仕方ないから家に帰ろうと歩いてると何故か足元に配置してあったのよ…」
「?何が?」
「バナナの皮…まんまと踏んでそれはもう見事にすっ転んでしまいましたわよ!衆人環視の中!」
「あらぁ…」
「腰は強かに打ち付けるわパンツは丸出しだわ恥ずかしいったらありゃしなかったわよ全く!」
パンツ…嫌だ、あたしと彼の出逢い思い出しちゃう… 文字通り出逢い頭の衝突で彼にパンツ見られて… お、思い出す度に、は、恥ずかしい…
「レイってば!」
再び妄想に浸っていた私を彼女の声が現世に引き戻した。
「…あ!?ご、ご免なさい、又あたし…で、何?」
「はぁ、そんな哀しみに打ちひしがれた私を癒してくれる筈のレイは例によって例の如く色ボケ真っ最中だし」
「…何を言うのよ…」
「その赤い顔が色ボケだっちゅうのよ!おまけに私の絶望を癒す筈の食事が何で和風豆腐ハンバーグとおろし大根シラス合えと大根サラダに大根の味噌汁なのよお!何か!?大根の祟りか?それとも大根祭りか今日は!?」
「大根…安かったから…バイト代入るのは来週だし…」
「ううう…経済的状況には勝てぬ…みんな李と貧乏が悪い…ククク…」
…マジ泣きしながらシラスおろしをご飯に掛ける彼女…やれやれ…
「…仕方ないわね…魚肉ソーセージ炒めたのでいい?」
「良い良い良いっ!おー肉!おー肉!おー肉!」
「クスクス…」
私は買い置きの魚肉ソーセージを炒めるべく台所に向かう。背中から彼女の声が聞こえた。
「ねーレイ、あんた必ず魚肉ソーセージ用意してあるけど…ひょっとして彼氏の好物な訳?」
「いいえ…私が彼に最初に作った料理がお味噌汁と魚肉ソーセージ入り野菜炒めだったの。そうしたら二回に一回はリクエストに魚肉ソーセージ入り野菜炒めが…」
「…へーへー、聞いたあたしが馬鹿でしたわぁっと。何その甘甘っぷり。けっ!胸焼けするわこん畜生め!」
「…食べたくないの?」
「ごめんなさいレイ様あたしが悪く在りましただからお願いご飯だけわぁ…」
「「…プッ!クスクスクスクス…」」
私は笑いながら斜に切った魚肉ソーセージを胡麻油で炒め出した。
…碇君に又作ってあげよ… 良い炒め物の匂いと彼の笑顔の思い出が私を高揚させる。思わず鼻歌混じりで料理。
「はい、お待たせ」
「万歳!魚肉万歳!動物性タンパク質万歳!アミノ酸イノシン酸万歳!」
…ふふっ、作り甲斐があるわ… そして私達は笑顔で食事を再開した。
…明日彼にお弁当持って行ってあげよう。魚肉ソーセージ入り野菜炒め入りの。
【おわり】
「あれ?珍しい雑誌が…あ?アスカじゃんこのグラビア。」
「え?知ってるのマナ?」
「うん。幼なじみ。施設の頃からの。?レイ、顔色が変よ?赤くなったり青くなったり…」
…おーまいがっ…
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Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・一月 ( No.2 ) |
- 日時: 2011/01/24 01:20
- 名前: クロミツ
- 【草食系男子は如何にして肉食女子を育むべきや?】
「綾波、お弁当持ってきたよ」 「いらない」 「…そ、そんな剛速球で断らなくても…」 「いらないわ。だってそれ、お肉が入っているでしょ」 「いやそのぅ…そうだけど、中も見ないでなんでわかるの?」 「碇くんの考えることなんてお見通しよ。前も嫌がる私にムリヤリ食べさせようとしたくせに」 「ムリヤリじゃないよ。…でも、今度はロールキャベツにしたから、食べられると思うよ。 ひき肉を少なめにしたし、食感はほとんどキャベツから違和感ないって」 「しつこいわね。イヤなものは、イヤ。絶対食べないから」 「どうして、そんなに嫌がるのさ?」 「他のものは食べてあげてるでしょ。魚だって、少しは食べるようになったし」 「でも綾波は、食が細いというか、あんまり食べないし…その、たくさん食べられないのは しかたないけど、やっぱり肉が足りないと強い身体が作れないし、病弱になっちゃうよ」 「要するにタンパク質やビタミンBを定期的に摂取すればいいんでしょ。 そんなのサプリメントで補給したほうが、お肉を食べるよりずっと効率的だわ」 「サプリメントを飲むのと食事は違うよ。だいいち、そんなのおいしくないし」 「碇くん、さっき栄養のことで話してなかった?美味かどうかなんて、論点をずらさないで」 「う、そうかもしれないけど…」 「それに、お生憎さま。私にはサプリメントの方が、ずっと美味しいわ」 「ちょっと!その言葉は酷いよ、薬の方が美味しいだなんて…」 「でも事実だから」 「傷つくなぁ…。綾波に美味しいって云ってもらえるよう、頑張って作ったのに…」 「碇くん、サプリメント食べたこと無いの?だから美味しさが分からないのね」 「だって、あんなの味がしないじゃないか」 「食べたことがないのに決め付けるのは良くないわ。私の持っているこれ、試してみる?」 「……いいよ」 「じゃあ、食べさせてあげる」 「…え?」 「目を閉じて…」
……ちゅ……
「…んっ」
……ちゅぷ…… ……ぴちょ……
「…はぁ」 「……ふぅ…」
「……ね、どうだった?」 「え?」 「わたしの味、どうだった?」 「……あ、あやなみの…あ、あじふらい……?」 「美味しくなかった?」 「ええっ!?いや、そ、そんなっ、そんなことないよっ!!」 「よかった…ごめんなさい、少し口紅がついちゃったかも」 「あぁ、だいじょうぶ、うん、ぜんっぜん、だいじょうぶだよっ」 「ね、こっちの方が余計な味が混ざらなくていいでしょ?100%、わたしの味だけ」 「は、はい、まことに結構といいますかなんというかまぁそのぅ……」 「じゃあ、今度は碇くんが食べさせて」 「えっ!……ぼ、ぼくがっ!!」 「いいでしょ、わたしも碇くんの料理、味わいたいの」 「料理…って、云っていいんだろうか…」 「イヤ?」 「ぜーんぜんおっけーです!」 「おねがい…」 「よぉし……じゃ、じゃあ、いくよ」
……ちゅ…… ……ちゅう…… ……ちゅうう……
「…んっ」
……くちゅ……
「……んんっ」
……ぴちゃ…… ……ぴちゃ……
「……んふっ」 「……あんっ」
……じゅる…… ……………… ……………
「……ぷはっ」 「………くふぅっ」
「……く、苦しかった……」 「…ケホッケホッ…」 「あ、あやなみっ大丈夫?」 「はぁ…ちょっと…はぁ…長すぎた……かも…」 「ゴ……ゴメン」 「碇くんが…むりやり押し込むから……少し、むせちゃった…」 「ごめんよ、思ったより難しいっていうか…綾波みたいにうまく舌が使えなくて…」 「ふふ…でも、窒息しちゃいそうなくらい…すごかった」 「…いやもう、あたまが真っ白になって、何がなんだか…」 「やっぱり、直接飲むのが美味しい。いかりくんの…」 「ぼぼぼぼぼくのっ、何っっ!?」 「どう、わたしが正しかったでしょ?」 「た、正しいというか…むしろいけないことの部類に属するのではないかと…」 「だめ?もうしちゃいけない?二度としない?」 「いや正しいっ!!間違いなく正義です!!」 「…よかった。この食事にも欠点があるの。サプリメントだけじゃ、なかなかお腹がふくれなくて」 「……え?」 「まだわたし、お腹がすいてるの」 「……えええええ!?」 「でもほら、薬はまだこんなにあるから心配いらないわ」 「は、はぁ…こりゃまたずいぶん買いだめを…」
「たくさん…食べさせて…」
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Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・一月 ( No.3 ) |
- 日時: 2011/01/25 05:48
- 名前: tamb
- ■少女愚考/何処
( No.1 )
盛り沢山だ(笑)。 確かに出費がかさむのは雄だけじゃないわな。
ちなみにボツになったお題を出す前に既にボツになってた案ってのがあって、それは「いき なり『やらない?』と言うと引っぱたかれるので『お茶でも飲みませんか』などと回りくどい ことを言わなければならない」というものなんですが、いかがなものでしょうか。いかがと言 われても困ると思いますが(笑)、というのも、
> 気持ちが乗らない時は鬱陶しいだけの行為を
このあたり、いかに気持ちを乗せるのかは雄の役目かなという感じもありまして、それが上 記の回りくどいセリフに繋がるのかなと思うと、ちょっと戦慄したんですよね。いやマジで。
で、李君て誰よ(笑)。
■草食系男子は如何にして肉食女子を育むべきや?/クロミツ ( No.2 )
サプリメント!
> 「ぼぼぼぼぼくのっ、何っっ!?」
何!?
このネタでギリギリお下劣にならないのはさすが。シンジ君の「まことに結構」とか「間違 いなく正義です!!」とかのセリフが素晴らしい。 いろいろ思うことというか妄想は展開するけど、お下劣にならずに書くのは困難なので省略 させていただきます(^^;)。おもろかったっす。
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Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・一月 ( No.4 ) |
- 日時: 2011/02/11 17:57
- 名前: JUN
好きだと顔に書いてある/ Written By JUN
外には雪が降っていた。段々と薄暗くなっていく窓の景色は、なんとも心を綻ばせてくれる。窓が 曇っているのが、外と中との温度差を感じさせ、今の自分の幸福を実感できた。目の前に注がれたホ ットココアが眠気を誘発する。普通のココアではなく、ネットを介して注文した高級品なのだと、こ れを購入した人間はどこか誇らしげに語っていた。 文字通り遺物となっていたコタツは再び役目を得て、長い憂さを晴らすように煌々と利用者の足を 暖めていた。 その恩恵を享受する人間が二人。向かい合って脚を伸ばして座る彼らの表情は、決して笑顔な訳で はない。しかしそこから醸し出す温かい雰囲気は、無言の空間に似つかわしくない。それでいて、ど こまでも似つかわしかった。
「ね、綾波」 「なに……?」
穏やかな表情は、今となっては全ての戦いを終えたことを端的に表していた。常に氷のような鋭さ を放っていた彼女の眸も、今は柔らかく温かい光を湛えていた。 「今日は、泊まってく?」 「うん」 「じゃあ、布団しくよ」 シンジはもぞもぞと立ち上がって、自分の部屋に向かった。レイはさながら親についていくアヒル のように、その後をついてゆく。その初々しさたるや、クラスメートが見れば驚愕するだろう。 「結構頻繁に来てるから、そろそろお客さん用じゃなくて綾波専用の布団買わなきゃね」 「私は、別に……」 「だめだよ」 不意に遮ったシンジに、レイは首を傾げる。 「どうして?」 「綾波が寝た布団で他の誰かが寝るなんて、僕、耐えられないよ」 「……ばか」
シンジが動く前に、レイはシンジの胸にしがみついた。シンジは狼狽したが、それが紅くなった顔 を隠すためだということを悟った瞬間、シンジは悪戯っぽく微笑んで、 「明日にでも行こうか」 「…………うん」 弱々しい声。恥らうようなその態度に、シンジはたまらなく愛しい気分になった。前髪をかきあげ、 額に優しいキスをすると、レイは瞬時身を固くしていたが、その内シンジの頬に唇を寄せた。 「ミサトさんとかがいないと、楽でいいね」 本人がいれば著しく機嫌を損ねるに違いない台詞に、レイはくすくすと笑みをこぼした。実は結構 毒舌、そんなことも最近知った。想いを告げたその日から、シンジは自分の知らない様々な面を見せ てくれる。当然その中には多少黒い部分もあるものの、幻滅するようなことはなかった。幻滅させて くれなかった、と言う方が適当かもしれない。彼の優しさの前では、そして彼と乗り越えてきた日々 を思えば、好きになるなという方が、無理な注文に思えた。 告白しようと決めた日は、この上なく緊張した。あの緊張に比べれば、ヤシマ作戦の方がまだまし だと思うくらいに。
校舎の裏だった。今思えば大胆だったと思う。急に呼び出したレイに、シンジは少し不安げな表情 だった。ちょうどNERVがサードインパクトの事後処理でごたついていた時だったので、何かあった と思ったのかもしれない。 でも、それはかえってよかったのかもしれない。呼び出すときに不要なクラスメートの視線を浴び ずに済んだから。 「どうしたの?綾波」 ややもすると女性のそれと聞き違えてしまいそうなほど柔らかく、高めの声。本人はもう少し男ら しい声になりたいらしいが、それがシンジらしいとレイは思う。 「あの――」
想いを告げている間、シンジはじっと黙っていた。普段沈黙に気まずい表情を見せるのは彼のはず なのに、その時沈黙を辛く感じているのは間違いなく自分だった。 何か言って欲しい。肯定か、あるいはそうでなくとも、シンジの答えを聞かなくては、胸が張り裂 けてしまいそうだった。 断られる可能性は十分に理解していた筈だった。しかしいざその段になってみると、それはとても 耐えられそうになく、今すぐ逃げ出してしまいたかった。
これ以上の沈黙には耐えられない、そう思った時、シンジは重々しく口を開いた。 「ごめん、綾波……」 申し訳なさそうなその声を聞いた瞬間、息が止まった。喉の奥が焼け付くように痛くなり、涙が溢 れそうになるのをぐっとこらえる。優しい彼に、これ以上の負担をかけてはいけない、最近やっと覚 えた笑顔で、このまま踵を返して――そう思った時だった。
気付くと、私は碇くんの腕の中にいた。
「僕が先に、言ってあげなきゃだめだったのにね…………」
安堵と、そしてこの上ない嬉しさ。そして先ほどの発言が彼の悪戯心だったことを悟った私がやっ と口に出せた言葉は、たった一言だけだった。
「ばか……」
このことを最初に伝えたのはアスカだった。驚いてくれるだろうと胸躍らせていたのだが、いざ報 告すると案外素っ気無かった。不満に思って理由を尋ねると、 「アンタばかぁ?そんなのアンタ以外全員知ってたわよ。好きって顔に書いてあったわ。アンタも、シンジもね」 「碇くんも?」 「そーよ。あのバカ包丁は乱れるし、意識は携帯ばっかりに行ってるし、アタシが発破かけてもでも でもって動かないし、もう鬱陶しいったらなかったわよ」 少し言いすぎだ。そう思ったとき、アスカは不意に優しく笑った。 「おめでと、レイ。あのバカ優柔不断だけど、優しいのは確かよ。大事にしてもらいなさい。もし襲 いかかってくるようなことがあったら蹴り上げてやるといいわ」 「何を?」 「言わせないでよ」 アスカは言って、そのまま会話を中断してしまった。どうやら深追いしてはいけないらしい。それ 以来、レイは何かあるとアスカに相談するようになった。無二の親友である。
うとうとと舟を漕ぎ始めたレイを、シンジは布団に寝かせた。干したばかりなので、ふかふかと柔 らかい。眠りの渦に引き込まれんとするレイの眺めながら、シンジも自分の布団に入った。 アスカもミサトもいない時、二人はこうして同じ部屋で眠る。布団の裾からレイが手を伸ばすと、 シンジはそれをそっと握った。 「……あったかい」 「アスカに見つかったら踏み潰されちゃうよ、きっとね」 レイはぷっと吹き出した。笑顔がすぐに出てくるようになったのは、ひとえにシンジの功績と言え る。もっともその貴重な笑顔を鑑賞できるのは、シンジを初めとしたレイの身の回りにいるごくごく 僅かな人数ではあったが。 「でも、アスカだってきっと渚君に同じことしてもらってるわ」 「アスカが?イメージ湧かないな、それ」 「二人きりの時は、色々話すもの。渚君のこととか、洞木さんのこととか……」 レイの声が小さくなる。眠いのだろう。 「私から渚君のこと話すと、少しふて腐れるの。特にアスカが知らないようなこと話すと」 「……きっと、綾波はアスカが僕のこと話すとふて腐れるんだろうね」 「……少し」 「なんか嬉しいな、それって。嫉妬とかされると、この人は僕のこと好きなんだな、って思うよ」 「……碇くんは、渚君が私のこと喋ったらふて腐れてくれる?」 「まあ、喋らないと思うけどね。けどまあそうかな。あんまり僕の知らない綾波のこと喋られたら、 気分よくはないね」 「……嬉しい」 また笑う。本当によく笑うようになったと、シンジは思った。この笑顔を教えたのは自分だという 自負も多少はあったが、それでもきっと、自然に笑顔が出るようになったのはアスカやミサトや、大 勢によるところもあるのだろう。 この笑顔を自分は護る。そう決めた。その決意は揺るいだことはないし、これからもないだろう。 天井から垂れた紐を引くと、部屋の中が暗くなった。レイの手を握り直そうとすると、その手は不 意に強く引かる。手のそれとは違う温かい感触が手の甲を走る。すぐにそれが、レイの吐息だと気が ついた。 「今日は、こうしていて」 首筋の辺りにシンジの手をかき抱きながら、レイは呟くように言った。シンジは暗闇の中にっこり と微笑む。 「物足りないよ、こんなんじゃ」 シンジが虚を衝いてその細い身体を胸元に抱き寄せると、レイの身体はびくりとわなないた。 「あっ……」 「この方があったかいよ。違う?」 「違わない、けど……」 耳まで紅くなっていることが、暗闇でもはっきりと分かる。少し前までの凛とした彼女も好きだが、 今のレイが、シンジは好きだ。愛しいと思う。 「朝まで、このまま?」 「嫌?」 「ううん。嬉しい……」
きっと明日はアスカの罵倒で起こされるのだろう。ミサトにはからかわれ、言い訳をするシンジの 側で、レイはきっとほんのり頬を染めるのだ。そんな当たり前の、しかしありふれていない日々を、 自分は護りたい。 「おやすみ、綾波……」
辛いことばかりだった彼女を、精一杯幸せにするために――
Fin…
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Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・一月 ( No.5 ) |
- 日時: 2011/02/16 06:28
- 名前: tamb
- ■好きだと顔に書いてある/JUN
( No.4 )
実際にどうかというのはともかくとして、久し振りに問答無用なような気がする。このサイ ズで途中で視点や人称が変わるのはどうなのかとかそういう細かい部分はあるけど、こういう 読んでてほっとするような話はいいな。 しかしあれだ。この二人は布団を並べて寝るんだな。 そしてだ。わななく(笑)。どこでこんな言葉を覚えたのか問い詰めたい(笑)。
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Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・一月 ( No.6 ) |
- 日時: 2011/02/25 21:29
- 名前: JUN
- 縦の糸はあなた……
横の糸はわたし…… 織り成す布はいつか誰かを……
「暖め得るかも、しれない……」
私の口から無意識にこぼれたその言葉は、図らずも碇くんの耳に届いたらしい。座布団に腰かける 私の後ろから、晩ご飯を作る碇くんの声がかかった。
「何か言った?綾波」 「あ、ごめんなさい……うるさかった?」 「ん、そんなことないよ。でもそのDAT、だいぶ古くなったから買い換えた方がいいよ」 「いいの。これで」 「そう?」 買い換える必要などない。このDATは私と碇くんを結ぶ絆だから。LCLに浸かり、第十使徒に取 り込まれてもなお、このDATは再び音楽を奏でるようになった。赤木博士は少なからず驚いていた ように思う。 台所から流れてくる何ともいえない芳しい香りに、私のお腹がくう、と小さな音を立てた。碇くん の料理は、あの頃と変わらず、あの頃以上に美味しい。一緒に住むようになってから、交代でご飯は 作るようにしているが、やはり碇くんの方が見た目も味も遥かに上だった。 「はい、綾波」 「ありがとう。……いただきます」 今日のおかずは八宝菜にチンジャオロース、マーボー豆腐。中華なメニューに、胡麻油のいい香り が鼻腔をつついた。肉は今でもあまり好きではないけれど、碇くんが作ったものなら食べられる。我 ながら単純だと思うが、碇くんが作ったというだけで、何でも美味しい。 イアホンを外して、手を合わせる。その間に碇くんは烏龍茶を注いでいた。普段は麦茶だが、飲み 物までこだわるのが碇くん流なのだ。 「美味しい?」 「すごく」 「……よかった」
そんな簡潔な感想一つで、碇くんはとても暖かい笑顔をしてくれる。そんな顔を見ると、私も碇く んと一緒にいられる幸せを感じることが出来る。NERVから私たちにあてがわれたこの部屋は、私の 唯一にして最大の財産。部屋に価値はない。碇くんといるこの部屋こそに価値がある。 「さっき、何聞いてたの?」 「……これ」 「あ、僕も好きだよ。この曲。でも、結構古いよね?」 「ええ。でも好きなの」 「綾波らしいね」
幾分昔の曲だ。しかし一度聴いた時に、その歌詞に心を射抜かれた。碇くんという糸。そのかけが えの無さ。
碇くんは食器を持って、台所へ歩いていった。私はまたイアホンをはめる。あまり行儀のいい行為 ではないが、碇くんもよく似たことをしているので、お互い様だと思う。実際私は、多分碇くんも、 それをしていることを不快に思ったことは無い。
なぜ生きてゆくのかを迷った日の跡のささくれ…… 夢追いかけ走って転んだ日の跡のささくれ……
ささくれ立った私という糸。人でないという重い宿命を背負い、一度は世界と共に消えようとした。 価値は無いと思ったから。私という存在が、この世にある必要はないと。私という存在は疎まれこそ すれ、誰かに何かを与える存在にはなり得ない。それならば碇くんの望みを叶えて消えたい。心のど こかで、生きることを、人として生きることを望みながら。碇くんと一緒になりたいと望みながら。
こんな糸が何になるの…… 心許なくて震えてた風の中……
碇くんが紅茶を出してくれた。私はまたイアホンを外す。こんな何も無い時間が、私は何より好き だった。デートをしたり、ベッドで抱かれている瞬間も、それぞれ幸せを感じることが出来るが、そ れよりも碇くんの顔を真正面から好きなだけ眺めることが出来るこの時間の方が好きだった。その空 間は、私の心に刻まれた傷を確実に癒してくれた。 「僕も聴いていい?」 「ええ」 碇くんが立ち上がって私の隣に腰を下ろすと、碇くんの匂いがした。アスカに“匂いフェチ”と笑 われてしまっても、文句は言えない。碇くんの匂いが大好きだから。 一本のイアホンを二人で使う。いつもより密着して、頭を碇くんの肩に預ける。碇くんは手を添え て、そっと抱き寄せてくれる。人の温もりがどれだけ私にとって大切か、碇くんはよく知っているか ら。
縦の糸はあなた…… 横の糸はわたし…… 織り成す布はいつか誰かの傷を庇うかもしれない……
「私は……」 「ん?」 「私は碇くんの糸に、なれてる……?」 「…………」 碇くんは何も言わないまま、私の髪をかきあげて、耳の辺りに柔らかいキスをした。それが全てだ った。今さら言葉で安心を求めようとしてしまう自分の浅さを感じ、少し頬が熱くなる。 碇くんは私のことを好きと言ってくれた。周りの人に言うと意外がられるが、告白してくれたのは 彼だった。それならきっと、私は碇くんにとっての横の糸になれている。 互いに温めあって、互いの傷を庇いあう。私という単体では何の役にも立たない糸も、碇くんとい う糸に出会い、一枚の布になった。誰かを温めることも、誰かの傷を庇うことも出来る。それは紅い 海に消えようとしていた私では、決して出来なかったこと。今の私は、何にでもなれる。それは、私 という糸と、碇くんという糸が、交われたおかげ。碇くんに出逢えたおかげ。
肩に添えられた手は、いつまで経っても暖かかった。イアホンからは美しい、力のある声で、私の 一番好きな歌詞が流れていた。
縦の糸はあなた…… 横の糸はわたし…… 逢うべき糸に出逢えることを…… 人は「仕合わせ」と呼びます……
FIN
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