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スーパーソリッド 110330
日時: 2011/03/30 00:31
名前: aba-m.a-kkv





I want to lie down with you after killing the crow all over the world of billions.







スーパーソリッド   aba-m.a-kkv 110330  Pray4TOHOKU






まどろみは夢と現の境界。

それは、また一つの独立した状態であり、切り離された世界なのかもしれない。

そんな風に思うこと、願うことがある。

人がヒトの形を保ったまま、あの赤い海に限りなく近い姿をしているような気がするのだ。

形を持つものとしての境が曖昧な故に、まるで溶け合うような心地よさがある。

でも、形を持つものとしての境が消失したわけじゃない故に、ちゃんと存在している安心感と、ふれあうぬくもりを感じることが出来る。

まどろみは、ヒトの生き方の様々な形態の中にあって至上のものの一つだと思う。

でも、ひとりでまどろんでも、それでは足りない。

やはり私は、彼としっしょにまどろむのがいい。

でも、普段の彼は朝が早いし、寝起きもいい。

反対に私は朝がめっぽう弱い。

だから、私のまどろみの時の腕は空を切ることが多い。

もちろん私が朝起きてきた時に、彼はそこにいてくれるし、抱きしめてくれるし、口づけもしてくれる。

そして、朝の温かな朝食を用意してくれている。

でも、偶には、そう思ってしまうのを、私は我慢できなかった。



朝、まだ日が地平線から顔を出し始めて幾許もしない、東の一部が赤に染まるけれど、空の大半が青闇色に落ちる頃。

設定した目覚まし時計の時間よりも少しだけ早く彼が目を醒ました。

それから薄暗闇の中でも時計の設定をなれた手つきで切る。


なぜ、目覚ましの音と共に起きないのかと尋ねたことがある。

『いつも起きる時間って大体決まってるんだ。

 それより少し遅く目覚ましをかけるのは、万一寝過ごさないためと、君にはゆっくり寝ていてもらいたいから』

そう彼は答えてはにかんでいた。

それは頬を染めるくらい嬉しい心遣いだけれど、やっぱり時には我侭をしたい。


彼は背伸びをして、私を起こさないように静かにベッドを降りようとした。

けれど私は、私が眠りに落ちてしまう前に用意していたもので、彼が私から離れるのを阻んだ。


「あれ?」


彼が声を漏らす。

薄暗がりの中に、淡く赤く輝く壁があった。

ノックするように彼がそれを叩くけれど、それは薄いガラスのようでありながら、分厚い鋼板のようにびくともしない。

それは私の意思、私の我侭の強度そのものだった。

彼がため息をつく。

それから彼は、申し訳なさそうな表情と少し呆れた笑顔を浮かべて私を呼んだ。


「レイ、レイ、これ君の心でしょ?

 これじゃ起きれないよ」


私の傍に近寄り、耳元で囁くように言う。

私はその声に引かれて夢から浮上し、夢と現の境界で瞼を薄く開いた。

それから腕を伸ばして、彼をベッドの中に引きずり込む。


「れ、レイ、ダメだよ、また寝ちゃうじゃないか」


彼が微かな抵抗を試みる。

けれど、私の腕の中では無意味だということも知っている。


「だいじょうぶ、この赤の箱の中は時間の流れと隔絶されているから

 だから――」


私は彼を包み込んで、それからその耳元で一言囁いた。

それを聞いて、彼の身体から力が抜ける。


「そっか……

 うん、偶には、いいかもしれないね……」


彼は微笑んで私を包み返し、頭を撫でてくれる。

私はそれを心地よく感じながら瞼を閉じ、彼も目を瞑る。

私たちはまどろんだ。

夢と現の境界。

溶け合うようで、溶け合わない。

溶け合わないようで、まるで溶け合うかのような。

そんな心地良い時を、止まった時を、私たちはただよいたゆたう。





それからというもの、時偶に私は私の我侭に彼を巻き込む。

彼とのまどろみがとてもとても甘美だから。

だから、赤い心の箱で囲み、時を止め、彼を抱きしめて囁くのだ。



「三千世界の鴉を殺し、貴方と添い寝がしてみたい」と。







レイへ、1年間ありがとう。

そして、これからの1年もよろしく。





メンテ

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Re: スーパーソリッド 110330 ( No.1 )
日時: 2011/03/31 04:19
名前: tamb

 いつものというかaba-m.a-kkvさん節っぽい幻想的な出だしから、いきなり

> でも、普段の彼は朝が早いし、寝起きもいい。

 で「レイちゃん」的な可愛い感じになる。この落差がとてもいい。
 恐らくは「夢」と区分される世界の中で、レイがその我侭にシンジを巻き込む。この巻き込むというフレーズがまた素敵だし、「レイ」と呼んでしまうシンジもいい。
 で、きっと朝寝坊になって、ばたばたと支度をして出かけるんだと思う。シンジは苦笑いで、レイは微笑みで。その暖かさがとてもいい。

「三千世界の鴉を殺し、貴方と添い寝がしてみたい」

 知らんかったので調べてみた。高杉晋作。朝がこなければいいって感じですか。

 風(あるいは伊勢正三)の「そんな暮らしの中で」という歌を思い出した。最後のフレーズ、

寒さの中に
かくれているのは
暖かさなのだから
冬の朝
目覚めたときの
あと五分の幸せを
誰もが知ってる

 というのがとても日常の中の幸せで、この二人に捧げたい。我慢できないのでリンクも(笑)。

http://www.youtube.com/watch?v=qhFPuEhXAjQ
メンテ
Re: スーパーソリッド 110330 ( No.2 )
日時: 2011/04/04 01:11
名前: aba-m.a-kkv

tambさん、感想ありがとうございます。
それと、日常の幸せ、それにぴったり合うリンクもどうもです〜。

「三千世界の鴉を殺し」の都都逸は、このお話の雰囲気とは正反対な狂気狂喜の「ヘルシング」という漫画の台詞で始めて知ったのですが。笑
邪魔するものを全部排すから、行かないで、という感じなのでしょうか。
このお話、大丸さんの「時の密室」を無意識に意識しているような気がします。
『You'd be so nice to come home to』で書いたときのような赤い世界に彼を引き込んで、時間も世界も気にしないで、気の済むまで甘えているんだと思いますよ。爆

今回のタイトルも物理用語から引っ張ってきました。
このお話に何が合うかなあと考えて、調べて、あんまり理解しないまま、パッと決めてしまいました。
今回の「スーパーソリッド」は「超固体」という物質の相のことを言うそうです。(固体、液体、気体、みたいな)
「超固体」は、私が単純にこうなのかなと思っている意味では、固体でありながら流動する相(固体なのに粘性がゼロ)、なのかなと思っています。(詳しい方、間違ってたらすみません)
固体なのに粘性がゼロ→、溶け合わないけど溶け合っているよう。(こじつけですね、爆)
それで、夢と現実の境界線をまどろむことが出来る二人には合うタイトルかな、と。

メンテ

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