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僕とアイツと、ご主人様。
日時: 2012/02/04 23:27
名前: くろねこ



“ガチャッ……”


「ただいまー。」


ご主人の声が、玄関から聞こえて僕は目を覚ました。
パタパタと近づいてくるスリッパの音。


「チビー。」


僕の名前が優しく呼ばれる。だから僕は、“おかえり”とご主人にすり寄る。


「ニャー…」

「遅くなってごめんね。お腹すいたでしょ。」


なでなで。白くてほっそりした、でも柔らかい手で頭を撫でられる。
でも、ご主人。僕は『お腹すいた』じゃなくて『おかえり』って言ったんだよ。


左肩にかけていた鞄をソファーに置いて、右手に持った白いビニール袋はそのままに、ご主人はキッチンへと向かった。
僕も、もちろんついていく。





「チビ、はい。どーぞ。」


コトン……

マットの上に置かれたごはん。あぁ、いいニオイ。
いただきます、と言って僕はごはんを食べる。


「今日はね、碇くんが来てくれるんだよ。」

「だから、お利口にしててね。」


もぐもぐと口を動かしながら、ご主人の声を耳に入れる。
どうやら今日はお客様が来るみたい。『碇くん』という人は、よくこの家に来る。僕は、実はあんまり好きじゃないんだ。これは、ご主人には内緒。
だって他の友達とは違う、なにやら特別な人らしい。僕には違いが分からないけど。

とりあえず、お利口にしておけ、ということだ。


「じゃあ、ちょっとシャワー……」


独り言のようにつぶやいて、ご主人は今度はお風呂場へと行ってしまった。
ぽつり、なんだか取り残された気持ち。僕は半分になったごはんを一瞥して、リビングへと向かうことにした。
窓から、ちょうど綺麗な夕日が見えて、僕はさよなら、と太陽さんにあいさつをした。





“ガチャッ……”


「お邪魔します。」


また、玄関から声。
トントンと、乾いた足音。僕に、近づいてくる。


「綾波ー?勝手に上がっちゃったよー?」


ご主人とは違う、力強くドアを開ける音に僕はたまらず飛び上がる。
もう少し、静かにしてよ。


「あ、こんばんは、チビ。」


ソファーで丸くなっていた僕に気づいた『碇くん』が、あいさつをしてきた。
チラッと睨んで、目を閉じた。
さっき驚かせた仕返しさ。


「あいかわらず、冷たいなー。」


ははは、と柔らかく笑う、『碇くん』。
横で、軽くソファーが沈む。僕に無断で座りやがったな、この。


「綾波はお風呂かな?」


そうだよ、ご主人は今シャワー中。
僕はシャワーが嫌いだけど、ご主人は好きみたい。人間って不思議。


「じゃあ、ちょっと待ってる間遊ぼうよ。」


見てみて、と。
目の前に出された、猫じゃらし。フリふり、僕を誘惑する。
やだよ、お前となんか遊びたくないもん。ご主人じゃなきゃやだ。


「ほれほれ……」


フリふり……揺れる猫じゃらし。
からだがムズムズしてきた。
我慢できずに、僕はそれに飛び掛かる。
ひょいっと、寸でのところでかわされる。ムカつく〜〜……


「あはは、可愛いなぁ……」


右手に猫じゃらしを持ったまま、『碇くん』が笑った。
そして、僕の喉を撫でた。
ご主人とは違った、大きくてゴツゴツした手。
あったかくて、気持ちいい。

こいつの事はあんまり好きじゃない。だって、こいつが来るとご主人が僕を見てくれないから。
でも僕は、こいつの手が大好き。もしかしてご主人も、こいつの手が気に入ったのかな。



「碇くん。」

「あ、綾波、お邪魔してるよ。」

「ごめんなさい、私シャワー浴びてて……」

「いいよいいよ、僕もちょっとコイツと遊んでてさ。」


僕のことをコイツと呼ぶな。偉そうなヤツだな……。


「あ、そうなの……。チビ、よかったわね。」


よくなんかないけど。ご主人が優しく撫でてくれたから、僕は“うん”と返事をした。





それから、ご主人と『碇くん』はご飯を食べて、リビングでくつろいでいた。
二人とも、お喋りとかテレビに夢中で、僕にかまってくれない。
仕方ないさ、だって僕、猫だから。たまには気を使ってあげないとね。

カーテンを頭で押し上げて、窓の外を見てみる。ベランダの柵の向こうに、街の光が鮮やかに見えた。
ちょっと上を見てみると、綺麗なお月さまが見えたから、僕は“こんばんは”と挨拶をする。
星が、キラキラしてて、綺麗だった。





「じ、じゃあ、もう寝ようか……」

「うん……」


なぜか、『碇くん』はこの家に泊まる。
ご主人は、男の人を泊めないのに。変なの。特別な人だからかな。

もう僕も眠くなってたから、ちょうど良かった。
寝室に向かう二人に、ついていく。なぜかいつも追い出されちゃうから、今日はこっそりと。


“パタン……”


ご主人の部屋。リビングより、ちょっと物が多い。
僕は床に置いてある本やクッションをよけながら歩く。


“チュ……”


不意に聞こえた、微かな音。
僕は目を上げる。
ご主人と『碇くん』が、鼻をくっつけていた。何やってんだろ。
そっと、『碇くん』の腕がご主人の腰にまわる。ぎょっとした。
おい、僕のご主人だぞ!


「あ……」


小さく漏れたご主人の声に反応するように、またヤツは腕に力を加えた。
ご主人は、それに応えるようにヤツの首に腕をまわした。
幸せそう、だと思った。
人間の気持ちなんて、よく分かんないんだけど。なんとなく、幸せなんだろうな、っと思った。


“ドサッ……”


不意にベッドに倒れこむ二人。僕は急な音にびっくり。なんだなんだ?


「ん……」

「あやなみ……」


耳に届くご主人の声。そして今まで聞いたことのない、『碇くん』の低く、かすれた声。
おい、ご主人が苦しがってるんじゃないか!どいてやれよ、アホ!


僕は思いっきり『碇くん』を睨みつけた。
……と。
目があった。やばい、付いて来たの、ばれちゃった。


「…………」


びっくりしたような、ヤツの顔。ざまあ見ろ。
ふふん、と僕はひげを動かす。ヤツは動かない。
今度はご主人も僕に気づいたみたい。
“一緒に寝ようよ”と鳴いてみる。だって、いつもいっしょに寝てるから。
ご主人はいい匂いがして、大好き。
『碇くん』にはもったいない。


「あ……チビ……なんで……?」

「ついて来ちゃったのかな。」

「いつも、一緒に寝てるから……ぁっ……」

「今日は僕と、だから。」

「や……シンジ……」


僕を無視して、しかもご主人に咬みつきやがった。許さない。
僕はひたすら『碇くん』を睨む。
……『シンジ』っていうのが、本当の名前なんだろうか?よく分からない。


「…………。」

「…? どうしたの、シンジ……」

「なんか…見られてるみたいでさ……」

「…………。」


『碇くん』か『シンジ』知らないけど、“みたい”じゃない。僕は“見てる”んだ。
睨んでるんだよ、お前の事!

少し鬱陶しそうに僕を見る目。こんな目をされたのは初めてだった。ますますムカつく。


「ちょっと待ってて……」

「?」


のそのそと起き上がる『シンジ』に、僕も、そしてご主人も不思議に思った。


「ニャッ……」

「お前はこっちで寝なさい。」


不意に持ち上げられて、そのままリビングへ連れて行かれる。
おい、放せよ!
バタバタ暴れてみるけど、効果はなかった。


「今日はレイを僕にちょうだい。」


ドアを閉められる直前、聞こえた小さな声。

トントンと足音が遠ざかって。

バタンと、ご主人の部屋のドアが閉まる音がした。

呆気にとられる、僕。


――――――今日は、レイを僕にちょうだい。


さっきのヤツの言葉を思い返す。ぐるぐるグルグル頭を回って。
理解するのに、少し時間がかかった。
次にこみあげて来たのは、怒り。そして嫉妬というやつ。


あげないよ、僕のご主人様なのに!


こうしてまた、ヤツが嫌いな理由が一つ、増えた。




メンテ

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Re: 僕とアイツと、ご主人様。 ( No.1 )
日時: 2012/02/04 23:29
名前: くろねこ

なんか勢いで書いたもの。

一度書いてみたかった、「猫さん視点」!(笑)

2月なんだからバレンタインものにしろよ!って感じですが。。。


メンテ
Re: 僕とアイツと、ご主人様。 ( No.2 )
日時: 2012/02/06 23:07
名前: タン塩

かわいい(*^ω^*)やはりチビは黒猫でしょうか?
黒い子猫がフミフミ言ってる絵柄をイメージしました。
メンテ
Re: 僕とアイツと、ご主人様。 ( No.3 )
日時: 2012/02/08 22:31
名前: tamb

 前にも書いたような気がするけれど、もうどこに書いたかわからないので。
 かつてうちには、瞬間最大で猫が八匹いた。
 簡単に書くと、まずノラの仔猫が、誰かからもらってきたとかでなくなんとなくやってきて、
居着いた。雄。彼はやがて彼女を連れてきた。ボクの彼女です。よろしくね。にゃん。
 彼女もうちに住むことになり、やがて仔を産む。というようなプロセスで。
 さすがに八匹ともなると収拾がつかない。イメージとしてはまさに足の踏み場もないといっ
た感じだった。それぞれの名前を呼ぶと返事をしたりやって来たりするし、性格が違うのも面
白かったけど、餌代もバカにならないので次々と里子に出した。
 それからも寿命が来たり交通事故に遭ったりで、今は誰もいない。最後までいたのは「彼女」
だった。
 猫というのは自由気ままな甘えん坊で、いつもは勝手にその辺で寝っ転がったり冒険に出て
大怪我して帰ってきたり喧嘩して勝ったり負けたりしてるけど、こっちが本読んだり勉強した
りしてると甘えに来たりする。放置すると怒る。こっちの都合は、たぶん考えてない。だって
猫だから。パソコンの電源を得意げに長押ししたりとかする。

 男と女と猫という関係はなかなか難しい。女の子が猫と一緒に住んでいて、男の子が女の子
の部屋に行って猫と遊んでいると女の子が怒る。あたしとも遊んでよ。にゃん。
 女の子と遊ぶと猫が介入してくる。膝の上に乗る。爪を立てる。にゃお。
 みんなで遊べればいいのだけれど。

 チビにも彼女ができると、碇くんの気持ちがわかるようになるかもね。
メンテ
Re: 僕とアイツと、ご主人様。 ( No.4 )
日時: 2012/02/10 23:48
名前: くろねこ

<タン塩さん

ありがとうございます(*´ω`*)
あぁ、猫の色まで考えてませんでした(笑)無意識に黒猫で考えてた気も・・・。
この二人には素朴な三毛猫とか似合いそう。


<tambさん
猫が八匹もいたんですか!?凄いですね・・・!
私の家にも前野良猫たちが住み着いていて、六匹はいたんじゃないかな。
私は猫を飼っているので、tambさんに共感。自由気ままな生きもの。

今回の話では、とにかく嫉妬される碇くんが書きたくて(笑)チビに頑張ってもらいました。
チビくん、レイに負けない可愛い彼女探せよ。(ぉぃ

メンテ

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