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もうすぐ誕生日
日時: 2012/03/29 05:48
名前: tamb

 日曜の午後。碇くんはわたしの作ったパスタを食べている。
 もぐもぐと。
 諸々の事情で朝は遅かった。朝ご飯はほぼ朝昼兼用の感じで、でもそうすると午後のこんな
時間にお腹がすく。そんなわけで軽くパスタなど食べているわけだけれども、このペースだと
晩ご飯はかなり遅い時間になりそうな気配。
 太る。
 食後のデザートは我慢しよう。
 碇くんにも我慢してもらおう。
 そんなことを考えながらわたしもパスタを口にする。
 もぐもぐ。
 もうパスタのゆで加減は完璧だった。アンデルテっていうのが何なのかも知らなかったけれ
ど、用語と料理技術に関連はない。
 問題はソースの方で、あいかわらずガーリックは効き過ぎだった。でもガーリックを入れだ
すと手が止まらないのだ。気がつくと大量に入れてしまっている。ぱっぱっと。いっそガーリ
ックなんか入れない方向でと思ったけれど、気づいたらなぜか入っていた。ぱっぱっぱっぱ。
 これは恐らくDNAに刻み込まれているのだ。それなら仕方がない。わたしの髪が空色なのと
いっしょ。慣れてもらうしかない。慣れればきっと好きになる。ガーリック大好き。碇くん、
わたしの髪のこと素敵だって言ってくれるし。

「ねえ、碇くん」
「なに?」

 彼はパスタをもぐもぐと食べながら答える。
 もぐもぐもぐ。

「あたし、もうすぐ誕生日なの」
「そうだね」

 もぐもぐもぐもぐ。

「なんか欲しい」
「ちゅーでもしてあげようか」
「……それは誕生日じゃなくてもしてもらってる」
「誕生日スペシャルでとびきり濃厚なのを。内臓を吸い出すくらいの」

 くだらない。わたしは思わず笑ってしまった。
 碇くんも笑った。
 その笑い方が司令にそっくりで、わたしは吹き出しそうになるのを必死にこらえた。
 鼻からパスタが出てきたりしたら百年の恋もいっぺんに冷める。

「ねえねえ」
「はいはい」
「なにくれるの?」
「何だと思う?」
「わからないわ」
「そうだろうね」
「なに?」
「秘密」

 碇くんはそう言って笑った。司令のとは違う、いつもの碇くんらしい笑顔。

 胸がきゅんとなった。

 ちょっとずるいんじゃないかなぁ。
 笑顔だけでこんなにきゅんとさせるなんて。
 いつもの笑顔なのに。

 デザートでも食べてごまかそう。

「碇くん、デザート食べる?」
「太るよ?」

 ひどい。

メンテ

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今日は誕生日 ( No.1 )
日時: 2012/03/30 12:44
名前: tamb

 今日はわたしの誕生日ということで、碇くんがチョコレートケーキを作ってくれた。
 完璧という言葉はこのケーキのためにあるのではないかと思った。
 切なく甘くって、ほろ苦くって。

 そういうわけで、わたしはぱくぱくと食べた。碇くんも負けずに食べた。自分で作ったのに、
にこにこ笑いながらぱくぱくと。二人でぱくぱく。

 夕食はヘルシーに行こうということで、つい最近洞木さんに教わった野菜スープを作ってみ
た。おいしくて、何よりも簡単だというのがわたしの心をわしづかみにしたのだった。いつか
作ってやろうとずっと思っていて、今がその時だった。
 お鍋にお湯を沸かして、コンソメを入れて、冷蔵庫にある適当な野菜を入れて煮る。
 お好みに合わせて粗挽き胡椒を。
 それだけ。

「うん、おいしいね」

 碇くんがそう言ってくれた。
 失敗する要素はどこにもない。
 でも彼は続けてこう言った。

「ガーリックを入れても良かったかな」

 ……この果てしない敗北感はなんだろう。

メンテ
Re: もうすぐ誕生日 ( No.2 )
日時: 2012/03/30 22:58
名前: タン塩

誕生日を祝うという習慣はよく分からない、と言ったら碇くんが、誕生日を祝う
のは、その人がこの世に生まれてきたのを祝福するということなんだよ、と教え
てくれた。目からウロコ、とはこのことだろうか。この世界は私が思っていた以
上に奥深い。とりあえず、碇くんの誕生日に備えて手作りケーキの練習をしよう
と決意した。また洞木さんに頼る展開は避けたいのだけれど、家事万能の我が友
人は頼もしすぎる。最近は自前の糠床に挑戦しているらしい。レベルが高すぎて
とても追い付けそうにない。
とりあえず、お味噌汁を作る。味噌を溶いたら煮立ててはいけない。後で味噌を
足してはいけない。

「あ、おいしい」
「そう、よかった」
メンテ

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