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猫の日
日時: 2013/02/22 16:22
名前: くろねこ

「碇くん……」

「何?」


いつもはソファーに座ってくつろいでいる彼女は、今日は窓辺で日向ぼっこをしている。温かい日が差し込む、午後2時。


「ここ、暖かいの」

「うん、気持ちよさそうだ」


フローリングにペタンと座った彼女が、小さく微笑む。碇くんも来て、というように、手招きをして。もちろん僕は断る理由なんてないから、彼女の隣に腰を下ろす。日向ぼっこをする、ペタンこ座りの彼女と、胡坐をかいた僕(僕はペタンこ座りはできない)は、周りから見たらまるで小さな子供のように見えるのではないだろうか。


「あっ……」


彼女の突然の声にびっくりしたが、その白い指先が、窓の外を指しているのに気づき、そちらに視線を向ける。


「猫……」

「本当だ。こんなところに来るなんて、珍しいね」


猫から彼女へ視線を戻す。真紅の瞳が、ひどく珍しそうに猫を見つめ、指で注意をひいている。いつもは僕よりずっと大人に感じるのに、こういうところは子供っぽくて可愛らしい。“ギャップ萌え”というのだろうか。だから僕は、彼女から目が離せない。


「綾波、猫好きなの?」

「わからない……でも、可愛いと思う」

「そっか……」


せわしなく指を動かし、その指を金色のビー玉が追う。時折、それを叩き落とそうと、猫の小さな手が窓を叩く。それを見て、彼女はクスクスと可笑しそうに笑った。


「私、猫好き」

「今、好きになったでしょ」

「ええ……ダメ?」

「ダメじゃないよ。何かを好きになることは、素敵なことだと思うし……」

「そう……よかった」


相変わらず指を動かしていた彼女だったが、猫は飽きてしまったらしく、大きな欠伸をして、丸くなってしまった。それを見た彼女は、スッと窓から手を放した。


「さっき碇くんは、好きになることは素敵なこと、と言ったわ」

「ん? うん、言ったね」

「私、碇くんのこと好きよ……」


素敵なこと? とでも言いたげな瞳。けれどいきなりこういうことを言うのは、反則ではないか。こういうことにめっぽう弱い僕はおかげでフリーズしてしまった。こんな時、カヲルくんだったら、女の子を喜ばせてあげる言葉を言ってあげられるのだろう。それなのに、マヌケな僕ときたら、頬に熱を溜めておたおたとすることしかできない。なんて男だ。


「……僕、」


不意に、ねぇ、と囁くように、彼女の白い手が僕の頬を撫でた。そこから伝わる優しさと、安心感。これで緊張してしまうことはなく、不思議と落ち着きを取り戻していく僕。綾波の魔法だ。


「好き。碇くんのことが」

「……僕も、好きだ。綾波のこと」


僕のこの言葉に、満足そうに彼女は微笑んだ。僕も、つられて目を細める。頬に置かれた手を、自分の掌で包む。


「いきなりそんなこと言うから、びっくりしちゃったよ」

「ごめんなさい……」

「いや、いいんだ、その、嬉しかったし。それに、たまにはちゃん口に出して言わないといけないっていうか、って何言ってんだろ……」

「私ね、ちゃんとあなたに、好きって言葉をまだ言っていなかったの……」

「そうだったっけ…?」

「ええ……忘れちゃった……?」

「いや……」


思い出す。1年前のこと。14年間生きてきて、これほど気恥ずかしく、勇気を振り絞ったことはないのではないか、と思ったほどだ。いや、エヴァでの出陣もなかなかなのだけれど。とにかく、僕の一世一代の告白。あの時の彼女の返事は、私も同じ、だった。忘れるはずがない。


「……確かに、今まで言ってない気がする」

「だから、言わなければ、と思っていたの……」

「そうなんだ……」


ええ、と言って、彼女は僕から視線を外し、また外にいる猫に目を向けた。僕も外を見る。正確には、窓に映った僕らの姿を見る。


「……好き」


ポツリと、彼女の澄んだ声が聞こえる。また頬が熱くなってくる。ちらりと、目だけ動かして彼女を見る。俯いていて、表情は分からない。僕はそっと白い腕を引き寄せて、指を絡める。猫のように小さい手だった。僕の手はこんなに大きくなっていたのか。これからは、僕がこの子を守るんだ。頭の片隅で、そんなことを思った。


「好き」


また彼女が呟く。僕は絡めた指に、軽く力を込める。外ではまた、猫が吞気に欠伸をしていた。柔らかい日差しが、僕らを包む。そのうち、白昼夢を見ているような感覚になってくる。穏やかな時間が、ゆったりと流れる。


「………」

僕も、伝えなければ。あんなに好きだと言ってくれた彼女。だったら僕も、ちゃんと言葉にするべきだ。肩に、頭を預ける彼女に呟くように話かける。


「綾波……」

「………」


反応はなかった。もう一度目を向けると、青い髪が垂れていて、顔は見えない。けれど、その呼吸音は、眠っている人のそれだった。いつの間にか彼女は、夢の世界へと旅に出ていたようだ。


「綾波」


そっと、その青い髪を指で梳く。そのまま、頭を撫でた。彼女はこれが好きなのだ。無意識にか、肩に額を摺り寄せてきた。猫にするように、そっと撫でる。


「綾波、愛してる……」


聞こえていないのをいいことに、僕は言葉を紡ぐ。いつかはちゃんと、面と向かって言えるようになりたい。だけど今は、これでいい。もっと大人になっていく僕を、ずっと傍で見ていて欲しい。その反対だってまた、同じ。


「愛してる」


小さく、けれどはっきりと言葉にした。愛してる、あいしてる。そうして僕は、彼女と同じように目を閉じた。私も、という声が、聞こえたような気がした。



■□■□■□■

2月22日猫の日!ということで、猫関連の話を書いてみました。が、猫全く関係ない!!

最初はギャグものを書こうと思ったのですが、気づけばこんな話に。

余談ですが、一度この文章ぶっとんで、コンチクショー!と叫びました。
メンテ

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Re: 猫の日 ( No.1 )
日時: 2013/02/22 23:01
名前: 何処

くろねこさんおかえりー

作品拝読しましたが二人か初々しくってとても良いです。

シンジ君がかわいい。
綾波がかわいい。
ヌコかわいい。

思わずこんなの貼ってみたり(笑)

《にゃんダフるデイズ》
http://www.youtube.com/watch?v=MUzsFlP_iqc&sns=em

で、こいつはおまけだ(笑)
http://www.youtube.com/watch?v=MsOSw9nkALQ&sns=em

メンテ
Re: 猫の日 ( No.2 )
日時: 2013/02/24 23:03
名前: くろねこ

<何処さん

おかえりありがとうです。
シンジとレイは初々しさが特権だと思ってます。(作品作りの面でもw

ミク曲、わりと聴きまくってたのですが、こんな可愛い曲あったのか!可愛すぎる。nya-nya-♪

で、「ひこにゃん音頭」というものの存在を初めて知りました(笑)

メンテ
Re: 猫の日 ( No.3 )
日時: 2013/03/04 01:05
名前: tamb

 「ペタンこ座り」に萌える(笑)。わたしの周辺では「女の子座り」と言ったりする。あれは
普通、女の子はできるけど男の子はできない。骨格の構造が違うのだろうか。ちなみに私もで
きない。不思議だ。しかし女の子なら全員が全員できるというものでもなかろう。たぶん。

 女の子が「好き」と言ったあと、そのまま眠ってしまうことがあるのだろうか。ないと見る。
だからこのレイはきっと寝たふり。
 シンジが目をつぶったと思われるタイミングでレイは目を開き、しばらくしてシンジが眠っ
たと判断したらほっぺにキス、という流れになるはずなんだが(なるか?)

 あったかくてくすぐったいお話しでした。

 最近ねこの話を読んだはずだ、と思ってたけど読んだような読んでないような。某さん、そ
の後どうですか?
メンテ
Re: 猫の日 ( No.4 )
日時: 2013/03/06 14:02
名前: くろねこ

<tambさん
「ペタンこ座り」はちょっと狙ってみましたw 萌える萌える。私の知ってる男の子の中で、できる人がいてびっくりしたのを覚えてます。
たぶん、骨格の問題ですね。女の子の方が開きやすいんじゃないかな…?

レイはたぶんドキドキしてて寝れないはず。夜になっても←

Qがなかなか切なかったんで、甘めの話が書きたくなる今日この頃です。


メンテ
Re: 猫の日 ( No.5 )
日時: 2013/03/11 05:01
名前: tamb

全く逆に、異様に綾波さんというのを想像してみた。
ぺたんこ座りではお尻が宙に浮き、立位体前屈でも地面は遙か彼方。
足も90度程度しか開かない。これはこれで萌える。

瞬時に妄想が炸裂するが一応自主規制(^^;)。
メンテ

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