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Monkey Magic
日時: 2016/01/02 00:36
名前: のの

このショートショートは、楓さんが投下した絵を見て書いたものです。
そちらをご覧いただきながらお読み下さいませ。
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物語は、ついに2016年へ。

不安定ながらに、でも、二人らしく。

夢の続きを見るために。

それが夢でも、一睡の続きを。



Monkey Magic



「ふきん、もらうよ。ありがとう」
 レイはさっとテーブルに目を通してから、シンジに台拭きを渡した。
「ミサトさんは?」
「寝ているわ」
「徹夜からのワイン2本だもんね。アスカは、もう着いた頃かな」
 シンジが台所の窓を見ながら言うのを聞いて、レイは答える。
「ウラジオストク上空って、さっき連絡が。ファーストクラスを堪能中って」
「すごいなあ。僕、乗ったことないよ」
 正確には、乗らなかっただけだとレイは知っている。シンジは先日ドイツに行った際に、経費が出るからとファーストクラスを用意してくれるところを断ったことを。結果的にはセキュリティ上の観点からエコノミーではなく、ビジネスになったという顛末も聞いた。
 レイは冷蔵庫の脇にたてかけてあるクリーナーで簡単に床掃除をはじめた。大人数の宴会ともなると、相応にゴミが落ちるのだ、ということは自分の家で学んでいた。もっとも、その時は渚カヲルが特注のくす玉を用意したせいで、大量の紙吹雪が落ちることになったせいであって、かなり特殊な状況ではあった。
 床をさっと拭いて、風呂場に向かう。今日は泊まっていくことになっていたから、着替えも持ってきていた。制服ですごしていたことに大した意味はないが、どうせ明日からは冬休みで、クリーニングに出すと決めているからと気にしていなかった。学校帰りから準備にかかりきりだったシンジも制服のままなので、気分は悪くない。大体、学校から家に帰ってここに来るとなると、結構な遠回りになって面倒だ。そういう面倒は面倒くさいと思うのがどうやら自分の性格らしいと、最近レイは知りつつあった。
 風呂に入ることを伝えようと、脱ぎかけたボタンを付け直し、キッチンに戻った。水回りを片付け終えたシンジが、余興にと誰かが持ってきた猿の耳と尻尾を持って所在無さげにしているので、咄嗟に声をかけるのをためらってしまった。その気配に気づいたシンジが振り向いて、苦笑いと困り笑いの中間でうろつく笑みを浮かべる。いつもの、彼。
「コレ、どうしよう?」
「捨てないで。明日、アスカにつけてもらうから」
「街が吹っ飛ぶよ、それ」
 笑えない冗談として言ったのだろう、シンジが珍しくわざとらしいしかめっ面を作ってみせ、手を上げた。
「わたしじゃないからそれは大丈夫」
 レイは自分の笑えない冗談で切り返す。シンジの反応は事前の予想通り「さっきの笑顔に戻る」だった。
「一緒につけて、写真撮って、年賀状にするの」
「そうなんだ」
「碇くんは、年賀状、書かないの?」
「メッセージで済むし……そういうやりとりする相手、いないし」
 ソファに座ったシンジが猿の耳と尻尾をテーブルに置いて、あ、と振り返った。
「お風呂入るんでしょ?先どうぞ」
 さっきの笑顔から、ただの笑顔へ。レイにとっても、いつもの通りの。
 よく気がつくこの少年の、いつもの笑顔。
 レイは頭の中に猿とカレンダーと夜空と携帯電話と友人たちを平行に並べて、爆発させると、いたって当たり前といった具合に風呂場とは逆の、シンジの横に座って、猿の耳のカチューシャを頭につけて、尻尾をピンで留めた。もうひと組を掴んでシンジに渡す。
「え?」
「つけて」
「な、なんで」
「なんでも。だって、さっきのゲームでつけてなかったでしょう?」
「あれは、ジャンケンで勝ったからじゃないか」
「それはいいの。でも、見てみたいから」
 それじゃジャンケンの意味、最終的にないだろ、僕、こういうの苦手なのに、綾波っていつも結構強引だよね、とか、そういった愚痴をこぼしつつレイの言う通り装着したシンジの姿を見て、レイは頷いた。
「これでいいの」
「ちょっとそのままでいて」
 レイは携帯を取り出し、カメラを出した。
「ええ、やだよ――」
 言いかけて止まったのは、レイがシンジの脇に座って、携帯のカメラで自分たちを写そうとしたから。
「アスカに送るから、笑って」
「飛行機が吹っ飛んで、オゾンの穴を通り抜けるよ」
「サンダーバードね、夢があっていいわ。3、2、1」
 パチリ。
 そして確認。
 ――自分の真顔と、シンジのいつもの笑顔。
 ――違う、こうじゃない。
 あぐらをかくシンジの足を動かして、その中に収まってみせた。
「ちょちょちょ、ちょっと、綾波、ちょっと」
「はい笑って、321!」
 さっきよりも速いテンポ。
 そして確認。
 ――いつもと違う、照れ笑い。
――二人とも。
「これでいいわ」
「そうなの?」
「いいの」
 肩にもたれかかって言いきってみせる。シンジにはこれくらい言い切った方がいいと、最近わかってきた。
「そうかなあ」
 肩ごしに、撮った写真を見るシンジ。料理をずっとしていたから、少し脂っぽい匂い。でもそれも、すぐにシャンプーの匂いに変わる。その匂いを待つ。楽しみに。
「ええ、同じ笑顔ばかりだもの」
「ごめん」
「その言葉も」
 癖だよなあ、とぼやくシンジを脇目に携帯をしまって、レイは首を両腕に回した。
「この状態、この間見せてくれた映画みたい」
「え、どれだっけ?」
「空から女の子が降ってくるシーン」
「え、ああ、そうかも……」
「碇くん、お猿さんみたいに、顔赤い」
「綾波だって」
 言い返すシンジの手の温かさが背中に伝わる。
「シンジ君こそ」
「レイほどじゃないよ」
 いつもと違う、二人の照れ笑い。
 部屋に響くこともなく、その声は唇の中だけで溶け合って、消えていった。



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久々に、絵に文章をつけてみました。
そして甘い!だって絵が甘いんだもん!しょうがないんだもん!
でもま、最初から「サルレイ」とか、よくわからん状態にはできない理屈屋の文章ですね、相変わらず。

楓さん、勝手にすいません、無礼講ってことで許してください!(笑)

メンテ

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Re: Monkey Magic ( No.1 )
日時: 2016/01/02 22:47
名前: tamb

 異常に良い。
 例えば、

> 「わたしじゃないからそれは大丈夫」

> 「はい笑って、321!」

> 「これでいいわ」
> 「そうなの?」
> 「いいの」

 会話だけ抜いたけど、サードインパクトを乗り越えたあとの私にとっての理想的なレイの姿って、こんな感じなんですよね。
 これは三人称レイ視点だけど、一人称も含めてレイ視点の話が私はやっぱり好きなんだ、と再認識。

 そしてハイライトはやはりラストのこれでしょう。ラストにハイライトがずばりとくる、というストレートさはののさんらしくないかもしれない。でも最後の一行はフェードアウトのニュアンスもあって、それはそれですごいと思う。

> 「碇くん、お猿さんみたいに、顔赤い」
> 「綾波だって」
>  言い返すシンジの手の温かさが背中に伝わる。
> 「シンジ君こそ」
> 「レイほどじゃないよ」
>  いつもと違う、二人の照れ笑い。
>  部屋に響くこともなく、その声は唇の中だけで溶け合って、消えていった。

メンテ
Re: Monkey Magic ( No.2 )
日時: 2016/01/04 00:02
名前:

改めて、甘いお話をありがとうございます。

自分の絵がきっかけで、誰かに何かを書いてもらえたりするのは本当に嬉しいな、と年の初めから幸せな気持ちになりました。

シンジと綾波の会話がほのぼのと暖かくて、読んでいて私もほっこりとしました。
メンテ

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