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三人目の心象
日時: 2019/02/03 21:51
名前: 史燕

サードチルドレン=碇シンジは、ファーストチルドレン=綾波レイを避けている。
少なくとも綾波レイの主観から言えば、碇シンジの最近の動向はそう見えた。

フィフスチルドレンが使徒として処理されて以降、それはいっそう顕著だった。
今やチルドレンと言っても健在なのはファーストとサードの二名のみ。
必然的にNERV本部としてもこの二人をセットで運用することを想定することになる。
したがって、シンクロテスト等の場では二人が顔をそろえることになるが、碇シンジは明らかに綾波レイとの接触を避けていた。
そもそも二人とも多弁な方ではないため、控室でも沈黙が場を支配するのは当然である。
しかしながら、最近では視線さえ合わせようとしないシンジの様子は、レイにとっては、どうにも――納得できなかった。

(二人目とは、こうじゃなかったのに)

単純な違和感である。
そもそも二人目から三人目に移行して以降、レイ自身がNERV本部に滞在する時間の方が圧倒的に増えたのは事実だ。
学校も閉鎖となり、どこかに遊びに行くというタイプでもない。
よって、レイがシンジと遭遇する機会そのものは減っている。
が、だからといって、視線さえ合わせられないというのはいかがなものか。
少なくともレイにしてみれば、自分が二人目と違う扱いを受けている理由がわからなかった。
元から感情表現が豊かではないため、そういった違和感を彼女が抱いているものはNERVでも皆無と言ってよかったが、それでも――。

(なに、この感じ……。気持ち悪い)

レイの内側に違和感ははっきりと存在していた。
もっとも、それ自体がどのような言葉で表現されるべき感情かまでは彼女は認識していなかったが……。

その日、チルドレン二人によるシンクロテストが行われていた。
現状で実働可能となる機体は初号機のみであるが、二人がきちんとシンクロができるかどうか定期的にチェックすることはNERVにとっては怠ることができない備えだった。

「シンクロテスト、今日もいい結果みたいですね」
「ええ、現状では二人しかいない戦闘に出せるチルドレンですもの。安定していてくれてありがたいわ」
「シンジ君もあんなことがあったのによく出てきてくれていると思います」

テスト結果を見るミサトの相手をしているのは、現在所在不明となっている赤木リツコの代わりにシンクロテスト等の主任を務めている伊吹マヤだ。

「でも、ちょっち心配なのよね」
「何か不審な点でもありましたか?」

ミサトの言葉に、マヤは思わず聞き返した。

「こんなことを言う資格はないのだけど、本当に大丈夫なはずないもの」

その言葉に、マヤは返す言葉が見つからなかった。


一方、チルドレンの控室では、実験が終わったパイロット二人が顔を合わせていた。

「………」
「………」

両者とも口を開くともなく、ただ待機しているという状態だったが。

「……最近は」

沈黙に耐えかねたのは、最近はあまりレイと接触しようとしていなかったシンジの方だった。

「……なに?」
「最近は、父さんはどうしてるのかな?」

シンジの口から出たのは、碇ゲンドウについての質問だった。
シンジとレイの共通する話題を必死に探したところ、それくらいしかなかったのだろう。
自分でも答えが返ってくると思っていないのか、シンジはレイの方向とは異なる虚空を見つめながら、質問をしたのだった。

「……碇司令のこと?」
「うん」
「………」

レイとしても碇ゲンドウについて何を話すべきか出てこなかった。
自分が三人目に移行して以降、あまり頻繁に会っているわけではない。
ゲンドウ自身が忙しいからか、それともレイに興味を失ったのかはわからない。
ただ、レイにとってそれは特に気にならないことだった。
約束の時になって自分が役目を果たす。
そこには必ずゲンドウが同席するのは自明のことだったからだ。

「別に、いいんだ。答えてくれなくても」
「………」
「ただ、最近父さんの顔を見ていないのと、自分でもわからないけど、もう昔ほど父さんに見てほしい、認めてほしいって思わなくなったんだ」
「………」
「不思議だよね。昔はいつも父さんと一緒にいる綾波を見て、『僕もいつかはそうなりたい』って思ったのに、今は全然思わないんだ」
「………」
「だから、綾波と顔を合わせて、そういえば父さんはどうしてるかなって思っただけなんだ」
「……わからないの」
「えっ」

シンジの独白に近い言葉にレイが返したのは意外な答えだった。

「……碇司令、最近は私も見ていないから」
「そう……なんだ」

二人の間に再び沈黙が下りる。
話の接ぎ穂が無くなってしまったのだ。


「……なぜ」

今度の沈黙を破ったのは、意外にもレイの方だった。

「なぜ、私を避けるの?」
「っ、避けてなんかいないよ」

例の問いかけに、シンジは脊髄反射のように否定の言葉を口にした。

「……嘘」
「嘘じゃないよ」

シンジとしては、いわれのない中傷を受けているような気がして、反論の言葉に熱が入る。

「……じゃあ、どうして今日は一度も私と目を合わせようとしないの?」
「それは……」
「……どうして?」

シンジが返答に窮していると、まるで助け舟を出すかのように館内放送が流れた。

『チルドレンの二人は発令所へ来てください。繰り返します……』

「あ、呼ばれてるみたいだ。行かなきゃ」

シンジはこれ幸いと、一目散に控室を後にした。

「………なぜなの」

一人、質問をかわされて困惑するレイを置き去りにして。


(……碇君、どうして私を避けるの?)

レイは自宅に戻り、今日の控室でのやりとりを反芻していた。
シンジにどうして自分を避けるのか尋ね、答えをはぐらかされてしまったのだ。

(あの日はたしか、碇君から訪ねてきてくれた)

レイは三人目の自分になったばかりの時の病院でのことを思い出す。
シンジはレイが生存していると知らせを受け、真っ先に駆けつけてくれたのだった。
あの時は、魂の移行に伴う記憶と現実の一致があいまいで、それで……。

「……最初に避けたのは、わたし?」

そう、わざわざ心配して見舞いに来たシンジを、拒絶したのだ。

思わずレイは右手で自分の顔を抑えながら低くうなった。
自分はなんて取り返しのつかないことをしてしまったのだろう、と。

「……いかりくんに、きらわれた」



『もう絶対にあんな無茶なことしないでよ』
『何が?』
『何がって、零号機で自爆して、僕を助けてくれたんじゃないか』
『……覚えて、ないの?』
『いえ、知らないの』
『私はたぶん三人目だから』
『三人目って、どういうこと?』
『………』

そう、最初にシンジを拒絶したのは、自分なのだ。

壁際のチェストの上にある、ひびの入った眼鏡を見る。
碇ゲンドウのものだ。
かつて、零号機の起動実験中に発生した事故のときに、ゲンドウがかけていたものを二人目が譲ってもらったものだった。

(……二人目は)

二人目はゲンドウとのつながりを大切にしていた。
このひび割れた眼鏡がその証拠だ。

(“絆”だと言った)

それは、かつてのシンジとの会話。
ヤシマ作戦の直前、二人目はシンジに対して、エヴァに乗る理由を「“絆”だから」と答えた。

レイは、眼鏡を手に取って眺めてみる。

(……何も感じない)

その眼鏡を手にしても、ただの眼鏡であるとしか感じられない。

(……私には、何もない)

かつて二人目が“絆”と呼んだそれが、今のレイには感じられなかった。

(……胸の中に何もない空虚な空間があるような気がする)

「……わたしっ、泣いてるの!?」

自らのほほを伝うそれが、涙と呼ばれるソレであるということに気づき、なぜ自分が涙を流しているのか、レイには理解できなかった。

『ココロがイタイの』
『いえ、淋しいの』

なぜか、記憶にないはずの二人目と使徒との会話がレイの脳裏をよぎった。

(……淋しい、これが、そうなの?)

レイには自身の抱く感情というものをまだ咀嚼できずにいた。



レイは涙を流したまま、ベッドの上にうずくまっていた。

「……寒い、ここは寒いの……なぜ…………」

気温は正常なはずの室内で、空調もつけていない夏日の第三新東京市で、自分を襲うこの寒さがいったい何に起因するものなのか。
綾波レイには理解できなかった。

ひとまず暖を取ろう。
そう思い、お湯を沸かそうとポットを電気コンロに乗せ温め始める。

コンロの横に「Earl Grey」と書かれた缶が置かれている。

「……紅茶?」

果たして自分は紅茶をたしなむような人間だったのかと記憶の奥底を探る。

『少し、苦かったね』

「あ……」

それは、碇シンジとの大切な大切な思い出。

(……あれは、私じゃないのに)

自分ではない、二人目とシンジとの思い出。
それを自分が共有してしまっていいのか、自分の物にしていいのか。

「……わからない」

それでも、今度は自分で紅茶を淹れてみたい。
見様見真似だが、シンジと同じ手順で、紅茶の茶葉をお湯で蒸らす。

自分の物では無い。それはわかっている。
それでも、紅茶を淹れている自分は、二人目と同様にシンジとの絆を手にしているような気がした。

紅茶を口にしながら、シンジとの記憶を思い起こす。

第三使徒の侵攻時、ストレッチャーから転げ落ちた自分を支えてくれたこと。
空から落ちてくる第十使徒を受け止め、みんなでラーメンを食べたこと。
ディラックの海に消えたシンジを、心の底から心配したこと。
第十四使徒との戦いで、もう帰ってこないと思ったシンジが再び戦場に戻ってきてくれたこと。
そして――。

『笑えばいいと思うよ』

第五使徒との戦いの後、エントリープラグのハッチをこじ開け、自分を助け出してくれたこと。

「……違う。これは全て、二人目が結んだ“絆”」

それはわかっていても、同時に、それも自分だと自分の中で叫ぶ声が聞こえる。

「……私には何もない」

そう言い聞かせながら、「本当に?」と自分自身に問いかけてしまう。

誰かと、碇シンジと繋がりたいと、思ってしまう。
自分はもう、無に還るだけだと思っていたのに。

「……これが、私の心」

何もない、そう思っていたのに。
実際は、こんなにも誰かを求めていた自分の心。
レイにとっては、無に還るという運命以外に、こんなにも自分が何かを求めているとは思いもよらなかった。

「……やっぱり、少し苦いわ。でも……」

初めて自分一人で淹れた紅茶は、温かかった。


翌日、再びレイは、シンジと共に実験のために控室にいた。
今日の実験は、初号機の起動実験を、碇シンジと綾波レイの両者でそれぞれ実施するというものだ。
実験自体は大きな問題もなく終わり、今は二人とも着替えて招集を待つばかりだった。

「………」
「………」

今日もまた、待機する二人の間を沈黙が支配する。

「「あの」」

沈黙を打開しようと声を発したのは、二人同時だった。

「……碇君からどうぞ」
「いや、綾波から話していいよ」

発言を譲り合うのも二人一緒だ。

「………」
「………」

そしてまた、両者の間を沈黙が支配する。

「……くっ、くくく」

思わずシンジが耐えられないといった風に吹き出した。

「……碇君」

レイがたしなめるように言った。

「ごめんごめん、二人とも同じだったからつい、ね」
「……そう」
「僕はあとでいいから、綾波から話してよ」
「…………そう」

シンジから促されて、レイは話し始めた。

「……碇君、ごめんなさい」
「昨日のことも、病院でのことも」
「……碇君は、せっかく心配してくれたのに」

レイの謝罪を受けて、慌てて口を開いたのがシンジだ。

「謝らないでよ。昨日の事とか……その、僕の方こそごめん」
「別に避けてたつもりはなかったけど、なんていうか、どう話したらいいのかわからなくて」
「綾波が、その……三人目になったっていうから」

シンジはああ言ったが、やはり自分に非があったのだとレイは思った。

「あと、リツコさんから教えてもらったんだ。綾波のこと。三人目っていう意味」

シンジのその言葉を聞いてレイには大きな衝撃が走った。
自分が人間ではない、それをシンジに知られてしまったからだ。
そんなこととは露知らず、シンジは話を続けた。

「それで、思ったんだ。やっぱり、綾波は綾波なんじゃないかって。二人目でも、三人目でも。同じ魂を持った僕たちと同じ人間なんじゃないかって」
「えっ!!」

今度は別の意味で例はシンジの言葉に衝撃を受ける。

「私が人間!? 碇君と同じ」

レイが驚いているのがわかったのかシンジは大きく頷いて見せた。

「うん、僕はそう思う。他の人はわからないけど、少なくとも僕は、綾波のことを人間だと思うんだ」
「二人目も三人目も、関係なく……」

シンジの言葉にレイは胸からこみ上げる思いを抑えることができなかった。

「ちょっ、ちょっとあやなみっ!?」

涙を流し始めるレイに、シンジはどうしていいのかわからずうろたえるばかりだった。

「……いかりくん、ありがとう」

今にレイには、そう答えるのが精いっぱいだった。


その瞬間、突如としてわだかまりの解けた二人の耳に届いたのは発令所への緊急招集だった。

「おかしい。実験についてじゃなくて緊急招集だなんて」
「……ええ、今はとにかく急ぎましょう」

発令所に向かった二人が目にしたのは、まるで使徒が出現したときのような喧騒に包まれる発令所と、眉間にしわを寄せたまま考え込む葛城ミサトの姿だった。

「アスカは弐号機で出して。通路には硬化ベークライトを注入。少しでも侵入経路を減らすのよ」

ミサトは、入ってきた二人に気づくと、すぐさま指示を出した。

「二人とも、悪いけどエヴァに乗ってちょうだい。レイは――」
「レイは私と共に来い」

レイの待機について指示をしようとしたミサトの声を遮ったのは、碇ゲンドウだった。

「司令っ! しかし、今ここでチルドレンを別の場所に向かわせるのは戦自のターゲットになる危険性も……」
「問題ない」

反論するミサトに対し、ゲンドウはいつもの調子で取り付く島もない。

「どちらにせよ、レイには乗る機体もないのだ。碇についていかせてやってくれ」

冬月がとりなすようにそう言った。

「上官命令だ」

それでもなお不服そうなミサトに対して、反論を封じる一言をゲンドウは口にした。

「わかり、ました」

ミサトは不承不承といった様子を隠そうともせず、ゲンドウの命令を受け入れる。

「ユイ君によろしくな」

冬月にそう言われて出ていくゲンドウの背を、命じられるままにレイは追った。
それが、自分の使命であり、あらかじめ予定されたことだからだ。

「あやなみっ」

後ろからシンジの呼び止める声がした。
それに対してレイは振り向いて一言――。

「いってくるわ、碇君」

そう言い残して、再び歩き始めた。

シンジには、それ以上何もできなかった。

ミサトの話によれば、現在はMAGIがハッキングを受けており、押されてはいるが何とか攻略されずに済みそうだということだった。
そして、日本政府がNERVの超法規的措置を打ち切り、戦略自衛隊がNERV本部の制圧のために乗り込んでくるのだという。

「そんな、今度は使徒じゃなく人間が相手なんですよ」
「戦わなきゃ、殺されるのよ。シンジ君も、あたしたちも」
「でも……」

シンジには、渚カヲルを扼殺した感触が、今も両手に残っていた。

「僕、できませんよ」
「そんなこと敵は聞いちゃくれないのよ」
「そんな……」
「ゼーレと碇司令はサードインパクトを起こそうとしてるわ」

その瞬間、発令所を強烈な光と衝撃が襲った。
ミサトとシンジも、あまりの衝撃にその場に倒れこむ。

「お願い、シンジ君。このままじゃ、誰も助からないの。あたしたちはもちろん、アスカもレイも」
「アスカも綾波も……」

少女たちと過ごした日々が走馬灯のようにシンジの脳裏を駆け巡った。

「……乗ります。僕を乗せてください」

こうしてシンジは初号機に乗り込み、戦略自衛隊の部隊を相手にすることになる。


初号機がジオフロントに降り立った時、そこはすでに戦場となっていた。
エヴァ弐号機が圧倒的な強さで戦略自衛隊の部隊を蹂躙していたのだ。

「アスカ」
「その声、バカシンジね。私とママにかかれば、アンタなんてお役御免なのよ」

アスカの宣言通り、主だった部隊はすでに見当たらなくなっていた。

「シンジ君、アスカ。エヴァシリーズが来るわ」

そう叫ぶミサトの声に合わせて上空をみると,九体のエヴァが円を描きながらその場に降り立とうとしていた。



綾波レイが碇ゲンドウに続き本部の地下へと向かうと、セントラルドグマで赤木リツコが静かにたたずんでいた。

「お待ちしておりましたわ」

リツコは拳銃を取り出すと銃口をゲンドウに向けた。

「あなたを殺して私も死にます」
「娘からの最後の頼みよ、一緒に死んでちょうだい」

そう言って、リツコはポケットの中の自爆スイッチを押した。

しかし、いつまでたっても起爆装置は作動しない。

「そんな、カスパーが裏切った!?」

驚愕するリツコに銃口を向けてゲンドウは引き金に指をかける。

「愛していた」

そう言って、ゲンドウは引き金を、引いた。


「アダムはすでに私と共にある」

そう言って、ゲンドウはレイに衣服を脱がせた。

「ユイと再び逢うにはこれしかない」
「アダムとリリスの禁じられた融合のみだ」

儀式の宣言をするかの如くゲンドウは左手を開くと、ゆっくりと、レイの胸元に左手を近づけた。
ゲンドウの左手はレイの中へと沈み込んでいく。
つながったままの左腕が胸元から下腹部へとゆっくりと動く、その瞬間。

グボッという音とともにゲンドウの左手がレイの中から弾きだされた。

「……私が知っている手は、この手じゃないもの」
「……私が覚えている手は、あなたの手じゃない」

レイはゲンドウを冷たく突き放すように言った。

「待ってくれ、レイ」

ゲンドウの叫び声がセントラルドグマに木霊する。

「だめ、碇君が呼んでる」

ゲンドウを拒絶したレイは、十字架に張り付けられた白い巨人=リリスのもとへ向かう。

「おかえりなさい」
「ただいま」


レイがゲンドウとセントラルドグマに向かったころ、シンジはアスカと共にエヴァシリーズを撃破していた。
数は圧倒的に不利だが、それをものともせずにすべてのエヴァシリーズを沈黙させたのだ。
その二人に対して、発令所から焦燥にかられた通信が入る。

「エヴァシリーズ再起動」

S2機関を搭載した量産機が、自己修復をして再び立ち上がったのだ。
内部電源に限界を迎えた初号機と弐号機はなすすべもなく倒される。

「動け、動け、動け」
「殺してやる、殺してやる、殺してやる」

二人の声にも、エヴァはもう答えてはくれない。
幸いにして神経接続はカットされているが、攻撃による衝撃までは防ぐことができない。

そして、初号機に向かって槍状のものが両手に突き刺さり、胸のコアの前にもまた月から飛来したロンギヌスの槍がその切っ先を突きつけていた。

エヴァシリーズによって拘引されていく初号機。
しばらく上昇したところで、セントラルドグマから真っ白な女性型の巨人が姿を現した。

「綾、波……」

シンジがそうつぶやいた時、彼の意識は暗転した。

そして、人々の欠けた心の補完が始まる。



シンジはたゆたう人々の意識の中で、自分の意識を漂わせていた。
そのシンジの前に綾波レイが現れて言う。
ここが碇シンジの望んだ世界なのだと。

「違うと思う。一度は望んだかもしれないけど、今は違う」

シンジはレイの目をまっすぐ見つめながら、言葉を続けた。

「ここには幸せなんてない」
「ここには誰もいないもの」
「悪いことも無ければ、いいことも無い」
「死んでいるのと同じだ」

そう言うシンジに、レイは改めて問いかける。

「……他人を今一度望めば、他人という恐怖が、また始まるのよ」

他人におびえながら暮らす日々を、また望むのかと。

「他人の手が僕を傷つけるかもしれない」
「僕の手が他人を傷つけてしまうかもしれない」
「でも僕は、それでも……」
「もう一度君と手をつなぎたいんだ」

そうしてレイと手をつないだシンジの前に一人の少年が姿を現した。

かつて自分が殺してしまった友人である渚カヲルだ。

「やあシンジ君。また会えたね」
「カヲル君……」

旧友との再会にシンジは喜びを露わにしている。

「現実の僕は死んでしまったけど、僕はいつでも君の中にいるよ」
「えっ、僕の中に?」
「ああ、君の中にいる僕は、希望なんだ」
「人がまた、分かり合えるかもしれないという」
「『好き』という言葉とともにね」

そこまで言うとカヲルはシンジとレイを見渡し、こう言った。

「君たちなら、もうわかっていることかもしれないけど」

シンジとレイの手は、カヲルの目の前でしっかりと繋がれていた。
それを確認して微笑むと、カヲルはその場から姿を消した。

かくて、人類補完計画は終了する。
ゼーレのものとも、碇ゲンドウのものとも違う、一人の少年と一人の少女が描いた脚本によって。

他人と傷つけあい、支えあい、時には喜び、時には悲しみ、それでも他人を求めていく。
相手を好きになれるかもしれない、相手に好きになってもらえるかもしれないという希望を胸に抱きながら。

「……ねえ、いかりくん」
「なに、あやなみ?」
「……また、触れてもいい?」
「…………もちろん」


メンテ

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Re: 三人目の心象 ( No.1 )
日時: 2019/02/03 21:56
名前: 史燕

お久しぶりです。
今回は旧版本編の時系列の間に入る話を書いてみました。若干原作との乖離もありますが……。
三人目について掘り下げてみたいという思いで書きました。(タイトルそのまんまですね)
ここまでお付き合いくださりありがとうございました。
メンテ
Re: 三人目の心象 ( No.2 )
日時: 2019/07/14 22:46
名前: HIROKI
参照: http://hiroki.dotera.net/suki/memorial/rei10000.html

3人目に2人目の想いが残ってて、そして、綾波は綾波であるというシンジの想いが生まれる。

いいですねぇ〜
あの時の補完は、こうだよね!と思います。

テレビ放送にはなかった最後のところも、やっぱ、こうでしょ。
なんたって、「君達には未来があるよ」ですからね!


ちなみに、久しぶりに、自作も読み返しました。なつかしすぎ(^^;

メンテ
Re: 三人目の心象 ( No.3 )
日時: 2019/07/15 20:42
名前: 史燕

○HIROKIさん
感想ありがとうございます。
すでに相当な数の作品が書かれている中で、あえて自分なりに書いてみたことだったので、内心ドキドキでした。
改変した部分も気に入っていただけたようでひとまずほっとしております。
三人目をどう位置づけるのか、100人がいれば100通りの回答がある問題ですが、私なりの回答はこのような形になりました。

今後もよろしくお願いします。
メンテ
Re: 三人目の心象 ( No.4 )
日時: 2019/07/17 05:35
名前: HIROKI
参照: http://hiroki.dotera.net/suki/memorial/rei10000.html

『3人目の綾波・・・・僕の知らない綾波・・・・』

『僕が好きだった綾波は・・・・僕を守るために・・・・』

『最後に涙を流しながら・・・・僕のために・・・・』

『綾波の与えてくれた生なのに・・・・』

『・・・・僕は・・・・』

『なぜ、あの時、一緒に連れていってくれなかったんだ・・・・綾波・・・・』

『なぜ、僕は、生き残ったんだろう・・・』

『・・・・ここにいるのは、3人目の綾波・・・・僕の知らない綾波・・・』

少女は、じっと、少年を見つめる。

少女の瞳からも涙がこぼれ落ちる。

涙滴が、床へ落ちる。

先ほどから床をみつめていた少年は、驚いた様子で頭を上げ、少女を見る。

「綾波・・・・」

少年の口から、少女の名前が洩れる。

少女は、自分が涙を流していることに、はじめて気づいたように、手でそれを確認する。

『涙・・・・はじめて流す涙・・・・でも、初めてじゃないような気がする』

『この人・・・碇君・・・2人目のわたしが命がけで守った人』

『わたしの記憶ではないのに・・・わからない・・・この感じ・・・』

不意に、少女の口から、少年の名が洩れる。

「・・・・碇君」

少年は、しずかに少女に語りかける。

「僕は、綾波のことが好きだった」

「それは、2人目のわたし・・・」

「・・・・・」

「だから・・・」

「綾波は綾波だよ・・・ありがとう、僕を守ってくれて」

「わたしには、わからないから・・・」

「・・・でも、ありがとう・・・綾波は、綾波なんだから」

少年は、ふっ切れたように、優しく微笑みながら、少女を見つめる。

少女は、自分の中に湧いてくる感情にとまどいながら、少年を見つめる。

「ごめんなさい・・・わたし・・・こんな時、どんな顔したらいいのか、わからないから・・・」

少年は、涙を一筋ながしながら、笑顔で、少女に答える。

「笑えばいいと思うよ」




----
あとがき

どうも、筆者のHIROKIです。

史燕さん、大変、ご無沙汰しています。お元気な様子ですね!
作品はもちろんですし、過去作を読み返すキッカケをくれて、ありがとう (^_^)/

過去作を抜粋して、少し修正して短くしてみました。
ここでオチつけて、まとめるが良かったかな、と今更ながらに思った次第です。

ひとの作品の感想など書くべきところで、こんな感じのレスは、
なんか、邪魔しちゃってて、申し訳ないのかなとも思わなくもないけど・・・・

まあ、それはそれというか・・・・ゴメンね m(_ _)m

それでは、

もし、あなたがこの話を気に入ってくれて、
そして、もしかして、他の作品も読んで下さるとして、

また、どこかで、お会いしましょう。
メンテ
Re: 三人目の心象 ( No.5 )
日時: 2019/07/17 20:28
名前: 史燕

○HIROKIさん
いつもお世話になります。
作品の投下ありがとうございます。
元のカヲル君やアスカとの絡みも好きですが、今回はすっきりして納まりがいい感じですね。
私の作品が素敵な作品を呼び出すきっかけになったなら望外です。

では、またいつかどこかでお会いしましょう。

メンテ

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